ラブライブ!短編集〜私たちとμ's〜   作:ちゃん丸

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作者:そらなり




偽り

 

 

 一体いつの頃からだろう。あの人の事を目で追うようになったのは……。いつもうらやましかった。だって私の大切な人と無邪気に、けれど真剣に話をしている姿を見てずっと憧れていた。

 

 だから私はなろうと思った。じゃあね、私。今日だけ、今日だけの間。私は私であることをやめる。

 

 

 

 

 

 学校終わりの放課後、私は穂乃果のいる教室に向かった。すると穂乃果が教室から出てくる。そこを私は見逃さなかった。

 

「ねぇ穂乃果。この後暇?」

 

 今、私の心臓が人生最大級に高鳴っているのがわかる。それもそのはず。だってこの誘いが断られた瞬間に長い間作戦に作戦を練っていたものがすべて崩れ落ちてしまうのだから。けど、落ち着かないといけない。だって私は……

 

「絵里ちゃん? どうしたの?」

 

 廊下の真ん中、後ろを向いていた穂乃果が振り返る。あぁ……その仕草も好きだ。なんて考えていたら自然と心音が落ち着いてきた。そう……今の私は絢瀬絵里なのだから。この程度で落ち着きを失うなんて絵里()はしないもの。

 

「ほら、今日は部活もないじゃない? だから遊びにいかない?」

 

「おぉ! いいね~! じゃあみんなを誘って遊ぼうよ!」

 

 違う。私の求めていた答えはそれじゃないの。

 

「…………2人きりで、2人きりで遊びましょう。ちょっと話したいこともあるし」

 

「え? うん。分かった! じゃあ遊びに行こうか! 絵里ちゃん!」

 

 一瞬首をかしげる穂乃果。だけどすぐに絵里()の申し出を受け入れてくれた。それがうれしくもあり、少し悲しくもあった。

 

 けれど……ようやく、ようやく穂乃果と一緒に遊びに行ける。誰かと一緒じゃない、2人きりで! しかもこの姿……"絵里()"の姿ならいつもみたいなことにはならない。

 

 この日のために、私はいつも穂乃果と話をしている絵里の事を見てきた。だから、絵里()絵里()として絢瀬絵里を演じていく。それが今の絵里()に許されていることだから。

 

「じゃあ絵里ちゃん。どこに行こうか」

 

「そうね……。少しおなかもすいたし、クレープ食べに行かない? 近くにおいしいお店を見つけたの」

 

「お、いいね~。絵里ちゃん、案内よろしく~」

 

 この日のためにいろいろとリサーチして来たのだ。穂乃果はそう思っていないことはわかってる。だけど、これは絵里()と穂乃果のデートなのだ。誘った私がエスコートするのは当たり前。

 

「はいはい。全く、穂乃果は世話が焼けるんだから」

 

 けれど絵里()はきっとこういうときにやれやれといった感じに答えるのだろう。必死に観察していたから大体の受け答えは絵里()のまま答えることができる。

 

「むぅ~、何さ! 絵里ちゃんが誘ったのに! 天然! おっちょこちょい! 元生徒会長!!」

 

「はいはい……って元生徒会長は悪口じゃないでしょ~」

 

「あはは! ばれちゃった! 逃げろー」

 

 あぁ、なんて楽しい時間なんだろうか。この時間が永遠に続けばいい。そんな風に思いながら私は穂乃果の背中を追いかけた。

 

「あ! ちょっと待ちなさい!」

 

 きっと、今の絵里()の顔はだらしないくらいの笑顔なんだろう。けど、そんなことは気にしない。今はただただこの時を楽しむしかできない。今の絵里()はシンデレラ。限られた時間の中でしか穂乃果の前に立っていることができないのだから。

 

 追いかけていると正門で待っている穂乃果見えた。幸い下駄箱をスルー出来たおかげで心配していたことはクリアできた。

 

「やっと追いついた。全く、逃げるときは速いんだから」

 

「えへへ。じゃあ絵里ちゃん、クレープ屋さんにレッツゴー!!」

 

「分かったわ。じゃあ行きましょう、穂乃果」

 

 

 

 

 

 それからの時間は夢のようだった。絵里()の姿とはいえ本音で穂乃果と話をして、ショッピングをして……。普段の私ならできないことがいくつもできた。

 

 最後にふと立ち寄った公園。穂乃果はそこから見える景色が気に入ったようだった。

 

「あ! きれいな夕日~! 見てよ絵里ちゃん!」

 

「そうね。確かにきれいね」

 

 ここしかないと思った。打ち明けるなら……私の気持ちを。

 

「ね、ねぇ穂乃果。ちょっと、話があ、る……」

 

 シンデレラの魔法はいつも大事な時に解ける。それはこの瞬間とて同じことだった。私の計画が音を立てて崩れていく。お金をかけて変装をして、変声機を揃えて、海未やことりが予定のあるこの日を選んだっていうのに絵里()の目の前には今居てはいけない人物がいた。

 

「穂乃果~! 何してるの~!!」

 

 金髪をポニーテールで結んだ。同じμ'sとして一緒に活動している今私がまさに変装している対象の人物。そう。絢瀬絵里が絵里()達の前に現れたのだった。

 

「え!? 絵里ちゃん!? 絵里ちゃんが二人いるってどういうこと!?」

 

 突然2人の絵里()が現れたことで穂乃果は混乱している様子。……今なら。

 

「え!? 私? ねぇ穂乃果。そこに居る私に変なことはされなかった?」

 

 あぁ、怒りがこっちまで伝わってくる。きっと駄目ね。これ以上は何をやっても。けど、たった一つ。私がやらないといけないことがある。

 

 それはここから逃げること。せめて、私が私であることは穂乃果と絵里にはバレたくない。だから絵里の横を全力で駆け抜けた。

 

 良かった……何とか私の正体はバレずにこの場をやり過ごせそうだ。

 

「ちょっと待って!」

 

 あぁ、忘れていた……。穂乃果は逃げるときだけ速いんじゃない。追いかけるときも速いんだった。ただただ走っているだけの私では穂乃果に回り込まれてしまう。前には穂乃果、後ろには絵里。息の合ったコンビネーション。今はこのすべてが憎たらしくて仕方がない。

 

 お願い……お願いだから私の前でそういうのを見せないでよ。自分が、自分がみじめに感じちゃうじゃない……。

 

「ねぇ、絵里ちゃんの偽物さん。あなたはいったい誰? 私と遊んで何がしたかったの?」

 

 まだ、まだ私の正体には気づいていない。なら押し通すことだってできる。変声機で声が変わっている今、変装さえ取られなければ絵里()が私であることなんて誰にも分らない。

 

「……まだ私の事がわかっていないみたいね。でも、教えると思う? ここまで自分を隠して遊んできたのに馬鹿正直に教えると思っているのかしら?」

 

「わ、私と同じ声……」

 

 絵里は絵里()と声が一緒なことに驚いている様子。これなら絵里から余計なアドバイスは入らない。穂乃果を追い越して、この場を後にする。さして難しいことではない。私だったらできる……。

 

 はずだった。

 

「思ってるよ。だって、私と一緒に遊んだ時のあなたが心の底から騙そうとしていたなんて思えない。思いたくないの!!」

 

 思ってもいない回答に思わず私の歩みが止まる。あと少し、あと少しで穂乃果を追い越せたのに私が正直に自分の正体を離すなんて言い出した。あぁ、そうだった。今、目の前にいる高坂穂乃果なんだ。

 

「…………本当に強情というかなんというか。まぁ、そういうところが……」

 

 もう、ダメだ。穂乃果の前でここまでバレているなら逃げて隠し通せるとは思えない。だったらここで正体をバラシて終わりにしよう。この気持ちとも、お別れかしら。

 

「分かったわ。じゃあしっかりと見ていて」

 

 そう告げると私はブラウスのボタンに指をかける。一番上のボタンをはずし、リボンを取った。これで穂乃果になら私が付けているものがわかるだろう。

 

「え? それは……チョーカー?」

 

「そう。これはママにお願いして手に入れてもらったチョーカー型の変声機。これで絵里の声をまねて変装してたのよ」

 

 今日までに至った経緯。一番クリアしなければならなかった声の問題はこの変声機のおかげ。私は自分の正体を明かす準備をする。

 

「幸い、私と絵里の身長はほとんど同じ。だからメイクとウィッグで大抵のことは何とかなったわ」

 

 絵里のシンボルといっても過言ではない金髪のポニーテールをウィッグを外す。そうすれば穂乃果は一目で私の事がわかるだろう。なぜなら好物のトマトのように赤い髪を穂乃果は日常的によく見ているのだから。

 

 今穂乃果と絵里の目の前にいる私はいつもの私。

 

「ま、真姫ちゃん!? どうして……」

 

 そういつも素直になれない私が嫌いな私。西木野真姫がいた。きっと、穂乃果には私が絵里に変装してまで遊ぼうとしたのかわからない。あ~……これも話さないといけないようね。

 

「単純に私は絵里がうらやましかったのよ」

 

「うらやましい?」

 

 絵里。そうね、あなたもわかるはずないものね。あんなに反発していたのに、どうしてそこまで仲良くなれるの? 

私は似た境遇だったはずの絵里と穂乃果の関係を見ているといつも心が曇っていた。

 

「えぇ。いつも穂乃果と楽しそうにワイワイやってて頼られている。それは私にはできないことだった」

 

 言ってて思う。これは八つ当たり。できないことにイライラしている私ができる人たちに当たってるだけ。けど、今はそれが止められない。

 

「そんなことないよ! 穂乃果は真姫ちゃんとも同じくらい楽しんでるし頼り切ってるよ!」

 

 穂乃果はそう思っているのかもしれない。けど、私の中に住み着いた悶々とした黒い感情はその程度の言葉で洗い流されるようなものではない。

 

「私は、私は素直な気持ちで穂乃果と話せたことなんてない!! いつも恥ずかしくて本音を隠して、いつもそっけない態度ばかり……」

 

 いつも思っていることとは反対の事を言う私。反応を見るとみんなは慣れてきているから大丈夫なんだと思っていた。けれど、私にとっては違う。この数か月で積もり積もった感情が湯水のようにあふれ出していく。

 

 そんな私の言葉に絵里が口を開いた。

 

「あら? 私だって穂乃果に秘密があるわよ? 包み隠さずに話をする友達ってなかなかいないんじゃない? きっと希もにこもまだ言えないことの1つや2つあるわよ」

 

「そうだよ! 私だってみんなに言えないことあるもん! 文化祭の時だって私はみんなに内緒で風邪をひいてたわけだし……」

 

 そんな……信じられない。だってみんなあんなに正直に話して笑って……それでも隠しているものがある?

 

「そんなものよ。それにずっと素直になれなかったわけじゃないでしょ?」

 

「え?」

 

「私たちとのやり取りが全部ウソだったって言ってるようなものよ? 今の発言。そんなことないでしょ? 多少の隠し事くらい気にしなくていいわ」

 

 絵里の言葉が私のあふれ出る感情を囲い込んでいく。

 

「本当……?」

 

 本当に全部本音でなくていいんだろうか。確かにμ'sとして活動して来た中で全部が全部偽りというわけではない。だから今までのままでいい……?

 

 そうか。そうだったのね。必要なのは本音で話すことじゃないお互いを理解することが重要っていうことね。

 

「うん! あ、そういえば話があるって言ってたけどどういう話なの? ここまで本音で聴かせてもらったから聴こうか?」

 

 え……? あ! そういえばそういう名目で穂乃果の事を呼び出していたんだった! けどここにはまだ絵里がいる……。ここまで私の話を聞いてくれた絵里には申し訳ないけど、この話はどうしても2人の時でないといけない。

 

「え、あ……じゃあ二人で話したい……かな」

 

「え? ま、まぁ私の話は終わったからもう行くわね。じゃ、また明日」

 

 きっと私がやろうとしていることに気が付いたようで絵里はそそくさと私たちのいる公園を後にする。ありがとう、絵里。私はここから一歩踏み出すよ。

 

「うん! また明日ね~!! じゃ、行こうか」

 

 穂乃果に呼ばれるがまま公園のベンチに腰掛ける。顔が熱い、誘った時以上に胸が高鳴る。恥ずかしくて穂乃果の方が向けずに私は足をもじもじさせていた。

 

「う、うん……」

 

「で、話って?」

 

「は、話っていうのは……」

 

 そこからどれくらいの時間が流れただろうか。30秒? 1分? 私にとっては途方もないほど長い気がしたけど、意を決して穂乃果をまっすぐ見て気持ちを伝えることにした。

 

「私! 穂乃果の事が好きなの!! だから付き合ってください!」

 

 

 

 

 

「え……ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

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