ラブライブ!短編集〜私たちとμ's〜   作:ちゃん丸

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作者:つみびとのオズ




nihilless

 

 

 

 英雄に憧れた。絆を羨んだ。なにか特別が欲しかった。けれど私は何者にもなれなくて、虚無を具現するだけだった。

 

 スクールアイドルに、出逢うまでは。

 

 これは刹那の夢の話。忘れてしまう思い出か、そもそも最初からなかったことか。全ての始まりの瞬間を見たかった私の、夢想とも妄想ともつかないもの。ゼロと見分けがつかないかもしれない、刹那の話だけど。

 私にとっては。ゼロよりは、イチへと近い。

 

 

 前回の『ラブライブ!』

 

 高校二年になった私を待っていたのは廃校のお知らせ!?廃校を阻止するため、私高坂穂乃果はスクールアイドルになります!と思ったんだけど……問題は山積み。でも私、諦めたくない!必ずファーストライブを成功させてみせるもん!

 

「……ふぁ〜あ……」

 

 寝ぼけ眼を擦って、今日も一日が始まる。でも今日からの一日は一味違う。ライブをするって決めたんだから、スクールアイドルの練習をたくさんしなきゃいけないし……他にも……。いやいや!

 

「まずは学校に行かないと!」

 

 考えるより動かなきゃ。遅刻はまずい!そう思って手早く着替え、玄関を出る。もし有名になったら、出待ちがいたりするのかなあ……。そんなことを考えながら外に出たのは確かだったけど。

 

「……あの、ホノカさんですか?」

「へ?」

 

……本当に出待ちがいた。その女の子は音ノ木坂の制服だけど、見たことない顔だった。いくら生徒が少ないからって、全員の顔なんて知らないけど……。

 

「えっと、私」

「ああごめんなさい、私μ'sのファンで」

「みゅーず……?」

 

 石鹸?そんな疑問を口にする前に、慌てた口調で訂正が入る。

 

「ああいや、ホノカさんたちスクールアイドルのファンで……そうか、そうだよね、最初は名前だって」

 

 なんだか自己解決したみたい。それはそうと。

 

「ファン…?」

「はい。ファンですよ?」

 

 まさかまさか、昨日の今日で!?信じられないけど、実際目の前に居るし……。

 

「えっと……サイン?とかすればよいでしょうか……?」

「……お願いは、一つです」

 

 そう言って、目の前の女の子は長い髪をかきあげ薄く笑う。

 

「あなた達の、始まりが見たい。側に居させてくれればいいの」

 

 言葉の意味はいまいちピンと来なかったけど、なんとなく凄みがあった。

 

「まずは学校に着くまでに、ホノカさんがなんでスクールアイドルになろうと思ったのか。それを教えてほしいな」

「えーと、それは──」

 

 それがその子との出逢いだった。

 

 

「──ならホノカは、この学校が廃校になるって聞いて、スクールアイドルを目指したんだ」

「そうなんだけど、随分他人事だね……あなたも生徒だよね?」

「ごめんなさい、でもきっと出来るよ。出来ないはずがないもの」

 

 その口ぶりは、なんだか実感がこもった言い方だった。本気で褒められて悪い気はしない。

 

「それで、今のメンバーはホノカとウミとコトリ」

「そうだよ。……そうだ!よかったらあなたも」

「じゃあ、ここで。寄るところがあるの」

 

 そうか、もう学校に着いちゃった。校門の前で別れ、教室に向かう。……あれ?ここの生徒なんだし、学校が寄るところじゃないのかな……?

 そんな疑問を抱えた頃には、女の子はどこかに消えていた。

 

 

「それ、本当の話なのですか?」

「穂乃果ちゃんは嘘はつかないよ〜」

 

 放課後、二人に朝あったことを話してみる。なんだか微妙な反応だけど。

 

「でもね、二人のことも知ってる風だったし。ファンなのは本当だと思うんだけどなあ……」

「私たち、ファンが出来るようなことはまだ何もしてないですよ」

 

 うっ。そう言われるとその通り。ライブに向けて本当にたくさんやることがある。

 

「まずグループ名を決めないとね」

 

 そうことりちゃんが言っている通り、今はグループ名を考えている最中。……そういえば、あの時の女の子が何か言っていたような……思い出せない。その後私が出した案は壊滅的センスを理由に二人に却下されてしまい、考えあぐねて出した答えはグループ名募集のビラを貼ることだったのだが。

 

「……朝ぶりだね、ホノカ」

「えっと、こんにちは」

 

 その女の子は、朝寝ぼけて見ていた夢ではないらしい。そのことははっきりとわかった。

 

「はじめましてですね、ウミ、コトリ」

「こんにちは。何故私たちの名前を知っているのですか?」

「私があなた達のファンだから。それじゃ理由にならないかな」

「まだなんの活動もしていない私たちに、ファン……?」

「……ファンだよ。それくらいしか言えない、かな」

 

 海未ちゃんとことりちゃんも困惑しているけど、この人が私たちのファンだってことは本当のような気がする。そしてそれは多分二人もわかっていて、だから対応に悩んでいる。……なら。

 

「それならさ、あなたも私たちと一緒に」

「一緒……スクールアイドルに?」

「そう!もちろん練習は大変だし、私たちもまだまだだけど」

 

 少し思案する様子を見せて、謎の女の子は答える。

 

「なら、少しだけ。私が夢をみてもいいのなら」

「やったー!海未ちゃん、ことりちゃん、四人目だよ!」

「はあ……」

「よろしくね〜」

「……よろしく」

 

 そうやって挨拶して、瞬きを何度かしているうちに。

 やっぱり女の子の姿は、どこかへと消えていた。

 

 

 きっと、彼女達は特異な存在ではない。μ'sという存在の持つ光は、地を覆う虚無すら振り払ったのに。その始まりはあまりにもちっぽけで、健気で。ならば何故彼女たちは羽ばたけたのか。もう少し見たい、見てみたいと思った。……少し、近づきすぎてしまったけど。

 

 

「……はあ、はあ……」

「もう少しやろう!あとちょっと!」

 

 グループ名もμ'sに決まり、歌うべき曲も真姫ちゃんに作ってもらって。今やっているのは一ヶ月後のファーストライブに向けての体力作り。弓道部の海未ちゃんはともかく、私とことりちゃんは体力だって大きな課題だ。そしてその点では、一人超人的な身体能力のメンバーも居る。

 たん、たーん。結局スクールアイドルの一員にはなったけど、その子はレッスン時間になるとふらっと私たちの前に現れて、息も切らさず完遂して帰っていくような感じだった。それ自体は凄すぎて全く問題がないんだけど、他のところに問題がある。つまり、まだあまり仲良くなれていない。

 

「というわけで、μ's親睦会を開きます!」

「親睦会……ですか」

「まあでも私たちは今更だし、あの子が来てくれるか、だよね」

 

 それはその通りかつ問題点で、未だに名前もメールアドレスも何もかも聞けていない。この学校を探し回っても、こちらから見つけられたことが一度もない。

 

「だからこう……レッスン終わりに誘おう」

「練習以外のことをする時間はそんなにあるのですか?」

「仲良くするのはグループのためでもあるし」

 

 うーん。特に海未ちゃんは人見知り気味だから、仲良くなれたらいいんだけどな……。

 

 

「……親睦会?」

「そう!あなたともっと仲良くなりたいの!」

 

 レッスン終わりに捕まえて、早速聞いてみる。反応は微妙だけど。

 

「私なんかと、仲良くしても」

「なんかってことないよ!運動神経抜群だし、なにより立派なμ'sの一員だよ?そりゃ仲良くしたいよ」

「……それなら」

 

 必死に訴えた甲斐があったのか、一つの返答があった。

 

「一対一ならいいよ。仲良くじゃなくて、質問なら」

 

 

「えーと、じゃあ質問。名前教えて!」

「……それは、答えられない」

 

 場所を私の家に移して、二人きりのお話が始まった。二人きりがいいって、この子も海未ちゃんと同じで人見知りか、自分に自信がないのかも。たまにネガティブなことを言うし。でも、誰でも変われると思うから。

 

「好きなものとか、ないの?」

「……ない。私は普通の女の子だから。取るに足りない、普通の」

「それなら、私も普通だよ」

「……そう、かな」

 

 考えてみれば、スクールアイドルになったからって直ぐに何かが変わったりはしていない。少しランキングに載って、それが上がって、グループ名と曲が決まって……あ、それと。

 

「でも私、スクールアイドルになってよかったよ」

「……何か、変わった?私はそれが知りたい。μ'sが誰かを変えたように、μ'sも変わっていくものがあったなら、それが」

「だって、あなたと仲良くなれた。それだけで充分──」

「……それじゃ、ダメなの」

 

 そこから、声のトーンがはっきりと変わる。変わってしまった。

 

「私は、私の役割は。あなた達スクールアイドルとは、対極にあるから。『誰でも何かになれる』というのがあなた達なら、『何者にもなれない誰か』それが私」

「……どういうこと」

「私は見たかっただけ。なることはできない。なっちゃいけない。μ'sのメンバーは、あの九人だけだったのに」

 

 言いたいことの半分も理解できていないけど、それは違うはず。それだけは伝えなくてはならない。

 

「あなたもμ'sの一員だよ」

「……違うの」

「違わない。だって今日来てくれたのは、μ'sの親睦会だもん。……あなたは、それに来てくれた。ねえ、お願い。一緒にやろう。私たちと一緒に」

「ホノカ……」

「ファーストライブ、絶対成功させようよ」

 

 そこまで言って、必死に言葉を繋いで。彼女の答えを待つ。

 

「……ひひひ、やっぱり敵わないかあ」

「うん、言い合いっこは私の勝ち」

「ごめん……実はちょっと試したんだよね。『昔のμ'sに、昔の私は壊せるか』……半分くらいは本音だから、私も真に迫っていたと思うけど」

「それは、どういう……」

「人って、憧れたものになれるとは限らないの。私はそうだった。どうにもならなくて、それでももがいて、やっぱりどうにもならなかった。……でも教わったんだ。スクールアイドルにはそれすら覆す力があるんだって。一歩を踏み出せば、可能性は開ける……君たちに、正確には君たちに憧れた存在に教わったよ」

「あなたは、一体……」

 

 さっきとは打って変わって落ち着いた口調。実感の篭り方だけは変わらない。

 

「μ'sのファンだよ。そう言ったでしょ?……だから、ファンの私はやっぱり一緒に歌えない。ただちょっと、始まりが見てみたかっただけ……新参者のファンとして」

「μ'sの、始まり……これから先、どうなるのかな」

 

 もし彼女が何か知っているのなら。ファーストライブへの不安は確かにあるし、その先なんて見当もつかない。

 

「うーん……これはホノカによく似た人が言っていたのだけど。最初は憧れで、だんだん自分たちの目指すものの凄さがわかって。出来ることが少しずつ増えていって。時には泣くこともあるけど、最後には皆が笑顔になれる。……スクールアイドルになって、本当によかったって」

「……私も、その人みたいになれるかな」

「……ホノカ達が繋げる伝説は、どこまでも続いていくよ」

 

 その言葉はやっぱり実感がこもっていて、私は信じざるを得なかった。

 

「……さて、本当はファーストライブまで見てたかったけど。始まりの始まり、最初の最初。まだ何もかもが無かった時。……それ自体は、充分見せてもらったかな。レッスン体験までさせてもらったし」

 

 そう言うと、彼女の身体が薄くなっていく。白く光って、砂のように溶けてゆく。

 

「さっきも言ったけど、私はμ'sの新参者のファンだから。けどあなた達自身だけじゃなく、あなた達が撒いた種も、いずれ多くの人を救うの。それは知ってる。……私も、救われた。だから」

 

 最後に彼女の口元は、「ありがとう」の形に動いて。

 

 全ては、闇に落ちる。

 

 

「……う〜ん……」

 

 目を覚ますと、柔らかい布団の中だった。それ自体は当たり前のはずなんだけど、一体昨日はいつ寝たんだっけ。それ以外の記憶もあやふやだけど、よっぽど疲れてたのかな……。いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。

 

「今日も練習、練習!」

 

 遅刻したら海未ちゃんに怒られちゃう。ことりちゃんはなんやかんやでしっかり来るだろうし……あと……。

 そこで引っかかった何かを思い出すことは、終ぞなかったけど。

 その日からの一歩は、昨日よりも力強い気がした。

 

 

 定められた才能や役割は存在する。だから英雄だけが英雄になれるのであり、虚無は虚無から進めない。それを証明するのがきっと私に課せられた役割だった。けれどスクールアイドルは、普通の女の子の持つ可能性を私に示してくれた。世界さえ変えられると、教えてくれた。

 結局は今回もμ'sの皆とちゃんと仲良くすることはできず、いつかまた逢えると信じた大切な友達への土産話には足りなさそうだけれど。彼女たちから彼女たちへ、そしてその先へ繋がる始まりを見た。繋がる輝きはずっと広がって、誰かの始まりの鼓動は誰かの最初のステップのきっかけになる。

 そしてその先に居る私もいつか、誰かの虚無を埋めたいと。そう、願うのだ。

 

 

 






出典:『ラブライブ!ソラノトビラ』

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