私は普通が好きだ
だって、普通であれば誰かに批判されることもなく、無意味な価値観を押し付けられることもない。
普通、つまり一般とは異なるからこそ、人はそれを嫌悪し、弾圧しようとする。
だから、私は特別じゃなく、ありふれた娘でいたい。
普通なんて定義はとても漠然としているが、それでも私は普通が好きなのだ。
だけど、そんな私に神様という存在は優しくはなかった。
そのことに気が付いたのはいつ頃だろうか? 物心ついた時からそうであったので、もはやそれを思い出すことに意味はないだろう。
里にとって、私という一人の女の子が酷く歪な存在として扱われているなんて、……もう当たり前のことなんだから。
「フン……また来たのか。とっとと買うもんかって出てってくれ。お前にいられちゃ他のお客さんが寄らんくって困るわ」
だから、八百屋のジジイのこんな態度にも何も思わない。
見慣れた鋭い眼光で睨みつけてくる爺を一瞥だけして、私は今日特売の野菜を袋に詰め込む。
目当ての食材を詰め込んだ袋を私は爺に差出す。
「チッ……七十二両だ」
いちいち、舌打ちすんなってば……コホン、落ち着くんだ私……普通の娘になるんでしょ! 飽きずに毎度毎度三秒に一回舌打ちをしてくるうざい爺に言われた分のお金を渡し、私は早々に居心地の悪い場所から出ていく。
まぁ、八百屋どころか里自体が私にとって無理だから意味ないんだけどね。
八百屋から出ると周りの里の人間が私の存在に気がつく。
そして、さきほどと同じ目で見られる。
軽蔑し、下目に見る私を侮辱した眼。
……うっざいなぁ。
前言撤回、何も思わないなんてことはない。
やっぱり、私は木ノ葉隠れの里なんて大っ嫌いだ。
大陸に存在する多くの忍の里の中でも国土も大きく強大な力を持つ忍 五大国の一つ「木ノ葉隠れの里」。
私が生まれ育ち、今も住んでいる場所。
私はこの里が大っ嫌い。
この里に住んでいる人もみんな等しく大っ嫌いだ。
正直、滅んでも何も思わないまである。
だって、仕方がないよね。
こんなか弱い女の子をみんなして蔑ろにするような意地悪い人しかいないんだから。
私の周りで私をネタにひそひそ話をする奴を睨みつけながら、帰路を歩く。
ド正面から言えない卑劣な婆どもが、死んでしまえ。
陰鬱な気分で歩いていると、私はそんな低俗な奴らなんてどうでもよくなるほどラッキーな運命に出くわす。
一つ、申し訳ないが、又しても前言撤回させてもらう。
里の皆死んでしまえと言ったが、たった一人だけ素晴らしい人がいたのを私としたことが忘れてしまっていたのだ。
二つ、私は今から世間一般的な普通の恋する乙女になる。
三つ、今からその人に突撃しまーす!
「イルカ先生───!!」
「おお、ナルコじゃうぼぁ!?」
私、うずまきナルコは前方の曲がり角から現れた一人の男性に抱きついた。
その人は、突然の衝撃によろめいたが、一応は中忍の枠組みに入っている忍の一人、踏みとどまってくれる。
鼻に横一文字の傷跡が目立つ、その人はイルカ先生。
私が通っている学校の担任の先生であり、唯一この里で私が信頼している人である。
顔を見上げれば、イルカ先生は困ったような顔をして、腰に抱きついている私を見下ろしていた。
「はぁ―、ナルコ。……急に抱きつくのは心臓に悪いからやめてくれと毎回言っているだろ」
「スーハ―、……無理です。そこにイルカ先生が居るならば私は抱きつかずにはいられません」
「オレの匂いを嗅ぐのもやめろ!?」
「別に臭くないですよ? 寧ろいい匂い」
「そういう問題じゃない!」
そう言ってイルカ先生は無理矢理私を引きはがそうとしてくる。
やめて、やめて!! 引きはがそうとしないで! イルカ成分がまだまだ全然足りないの!! 後二十回ぐらい吸わないと気が済まないの!
「それに、こんな公共の場で抱きつくのはやめろ!! 生徒に手を出している教師と勘違いされたらどうするんだ!?」
「大丈夫、間違われても私は問題ないですよ! 寧ろお嫁さんとしてもらってください!!」
「くっ、いい加減にしろっ!!」
「いったぁ──いぃ!?」
しつこくしがみ付いているとイルカ先生に拳骨を落とされた。
痛い、すっごく痛い。涙が出てきた。たんこぶが出来たらどうするんだ? いや、できてる。女の子の頭だぞ? 傷者だぞ? 責任を取ってくれるのだろうか? いや、取らせよう。無理矢理でも押し売ろう。これでハッピーエンドだ。
「……どんなにお前が頑張っても嫁にはもらわんからな」
「むぅ、幾らイルカ先生でも女の子の心情を読み取るのはデリカシーないですよ。ナルコ的にマイナスです。でも、好き。結婚してください」
「はぁ、明日はアカデミーの卒業試験だというのにお前は相変わらずだなぁ……」
イルカ先生に私の求婚を華麗にスルーされる。
ふーんだ、そんな対応には慣れてるからいいもんね。
私は諦めが悪いんですから。
そして、イルカ先生に言われて今ようやく思い出した。
そういえば、明日はアカデミーの卒業試験であった。
どうでもよすぎて、すっかり忘れてしまっていた。
素っ頓狂な私の表情から読み取ったのか、イルカ先生は呆れたように苦笑する。
「さてはお前忘れてたな。まぁ、ナルコは優秀だから何の心配もないだろうしな」
「ふふん、でしょでしょ? だからおよ……」
「じゃあ、明日は期待しているからな! 暗くなってきたし気を付けて帰れよ!!」
「むぅ──!!」
そう言ってイルカ先生は踵を返して帰ろうとする。
あまりにも釣れないので、さすがの私も悔しさを覚える。
それに、このままお別れなんて寂しすぎるし、嫌である。
だから、私はイルカ先生の袖を掴んで離さない。
イルカ先生が嫌そうに顔を歪ませたが、構うもんか。
どうせ、家に帰っても誰もいないのだ。私がこんな我がままを通すのもこの人だけなんだから。
そうして、私がイルカ先生の袖を掴んで離さないでいると呆れたのか折れたのかはわからないけども。
「……はぁ、ナルコ」
「なんですか」
「……ま……なんだ……今からラーメン食いに行くから、一緒に来るか?」
左頬をポリポリ掻きながら恥ずかしそうに嬉しいお誘いをしてくれた。それに対する私の答えなんて決まっていて……。
「はい! 行きます行きます!! 絶対に行きます!」
自分でいうのもなんだが、私が普通であれば道行く人を虜にするほど屈託ない笑顔であった。
◇◆
時刻は少し経ち。日没後。
私はイルカ先生と一緒に『一楽』に来ていた。
ここはイルカ先生の行きつけのラーメン屋であり、店主のテウチさんも凄くいい人なので私も一人で頻繫に来たりする。
だから、イルカ先生ほどではないが、里の人で珍しくテウチさんも私の中で嫌いな人ではない、寧ろ毎回サービスしてくれるので好きである。
このお店で私は味噌ラーメンを一番よく頼むが、今日は豚骨ラーメンの気分だったので、ただいま私は豚骨ラーメンを貪っている。
油ギトギトだし、匂いきついけど、そのくらいで私の魅力は損なわれないので気にせず食べ続ける。
そうして、至福の時を過ごしているとイルカ先生が口を開いた。
「ナルコ」
「フーフー、ズズ──、はい?」
「無用な心配だろうが、明日の試験はいけそうか?」
「モグモグ……本当に誰に言ってるんですか。私、アカデミー首席ですよ? そういう心配はドベの子にしてあげてください。あ、でも、未来のお嫁さんを心配してくれるのはナルコ的にポイント高いですよ!」
「あ、親父さん。替え玉一玉ください」
「アイヨ!!」
うぐっ……いつも通り、華麗にスルーされてしまった。イルカ先生から話を振ったくせに酷い扱いである。
でも、……そんな所も好き。だから、愛のこもった熱い視線をイルカ先生に向けるが、そんな私を先生は冷めた目で見つめ返してくる。
そして、箸をおくと、頬杖をし溜息を吐いた。
「ため息吐かないでください」
「ため息を吐きたくもなるわ……。生徒から迫られるのは、教師からしてみれば一種のホラー体験なんだぞ?」
「こんな可愛い子から迫られてるんですから、素直に喜べばいいじゃないですか」
「……」
「なんですか。その顔。……不細工だと言いたいんですか、流石に怒りますよ」
「いや、確かにナルコは可愛い顔してるよなって思ってな」
「……へっ!? きゅ、急にどうしたってばね!?」
はっ! 急なイルカ先生の攻めに脳の処理が追いつかず、嫌いな口癖が出てしまったってばね!! ……落ち着け、落ち着け私。……ううぅ、イルカ先生、そんなニヨニヨした顔で見ないでってばね。
きっと、今の私の顔は羞恥心で茹でたこのように真っ赤になっているってばね……。
「ナルコ? まさか可愛いと言われたことに照れてるのか?」
「は、はぁ!? そ、そんなわけないってばね! ……はっ!」
「ブフッ──!」
ああああああ──!! も、もうやめてってばね! 幾らイルカ先生でもそのにやけ面はムカつくってばね!!
しかし、私がそうは思っても、イルカ先生は追撃を止めることはない。狙い時を逃さず、進撃を続けてくる。
「まぁ、俺はその口癖もか、かわいいとお、思うぞ、ププ」
「だあぁぁ──! も、もう帰るってばね!」
そして、私の羞恥心のキャパの限界が訪れた。これ以上は耐えられないってばね!
そのため、私は帰るために財布からお金を取り出そうとしたが、それはイルカ先生に止められた。
どうやら、奢ってくれるとのことだ。なら、それは甘えさせてもらうとしよう。
奢ってくれるのは嬉しいし、さらに好きになってしまいそうになる……けれども、その顔はやめてほしいってばね! 手が出そうになるってばね!
「ラーメンごちそうさまでした‼ おやすみなさい!!」
「おお、気にするな。気を付けて帰るんだぞ――いや、帰るってばね? ブフッ」
「う、うるさいってばね!? ううぅ……一楽のおじさんごちそうさまでした」
「おう、あ、あれ、ナルコちゃん今日は替え玉しないのか……。サービスで無駄に用意しちまったぜ」
「テウチさん。代金も払いますので俺が食べますよ」
なにか申し訳ない話が背中から聞こえた気がするが、イルカ先生がきっとフォローしてくれているので一楽から出る。
陽が沈み既に数刻経っているだけあり、人の気配はなく、寝静まった夜の里に私は出た。
街灯が点々としている灯のある道を歩きながら、冷たい夜風がくすぐるように私の頬を吹き抜けていく。
……寒い、早く帰ろう。
そして、お風呂に入ったらすぐに寝よう。
明日は一応卒業試験なのだ。私はイルカ先生の自慢の生徒として立派に卒業しなきゃいけないのだから。
あまり乗り気にはならないが私は少しは自身のやる気を鼓舞させながら帰宅した。
◇◆◇◆
そして、翌日を迎えた。
アカデミーの卒業試験の日である。
「合格だ」
だけど、私、天才ナルコちゃんには関係がない。
誰にも文句を言わせない、一発合格である。
見てください、イルカ先生。あなたのナルコは誰よりも完璧に試験を終わらせましたよ。あれー? 手を振り返してくれない、おかしいなぁ……。
ちなみに試験内容は『分身の術』であった。
この術は実態の無い自分自身の分身を作り出す術である。
つまり、チャクラというエネルギーを消費することで、残像を容易に作り出すことができる術である。
「それにしてもまさか十人に分身するとはな……。文句なしの合格だよ、ナルコ」
「本当はもっと分身できますけどね。まぁ、そんなに沢山してもしょうがないですから」
もっと本当のことを言ってしまえば、分身の術なんて初歩的な術よりも
それは目立ち過ぎるから私は使わない。
飽くまで私は普通の女の子を目指しているのだから。それに、試験内容は一応「分身の術」だしね。
そんなことを思いつつ、私はイルカ先生にハグしようと近づくが、おでこを抑えられてしまってそれ以上前には進めなかった。
むぅ、イルカ先生のいけず……。
不服の意を目で伝えようとしたが、隣のミズ何とかという忍と喋り始めてしまったため、私の訴えは意味を為さない。
ぐぐぐぐ、おのれぇ……。
「では、ミズキ先生も合格ということで問題ないですね」
「はい、イルカ先生。ナルコちゃんの分身の精度の高さは下忍のレベルを優に超えてます。僕も文句はありません」
「じゃあ、ナルコってこらっ!? 俺の手を舐めようとするんじゃないっ!」
「だって、構ってくれないんだもん」
「だって、じゃない!!」
怒鳴られてしまった。
至近距離で怒られてしまったので耳がキーンとする。
隣のミズ何とかも耳を抑えながら笑っていた。おいこら、見せもんじゃないからな、笑ってるんじゃないぞ。
ちょっとムカついたので、ミズ何とかに私がガン飛ばしていると、何を勘違いしたのか微笑み返されてしまった。
うわぁ……きっも、絶対自分がイケてると思ってるタイプだ。
ミズ何とかを私が軽蔑しつつも、イルカ先生の掌の感触を楽しんでいると無理矢理離されてしまう。
あっ、そんなぁ……喪失感すごい。そして、その代わりにある物が手渡された。
それは、木ノ葉の忍としての証明……額当てである。
「やっぱこんなのいらないです。イルカ先生をください」
「ふざけんな!」
また怒鳴られてしまった。
◇◆◇◆◇◆
お天道様がお空の真ん中に居座る──お昼頃。
私は卒業試験が終わるのをアカデミーの外にある木影の中のブランコに座りながら、待っていた。
当然ながら、私の周りに人はいない。
否、卒業試験の日なので、人は大勢アカデミー前に集まっていた。
だが、私がいる一本の木を中心にドーナツ型にポツリと隙間が空いているのだ。
「あの子も受かったの……! 信じられない、アカデミーは何を考えてるの⁉︎」
「あんなのが忍になるなんて、ふざけてるわ」
「うちの子は落ちたのに……、どうして、あんな化け物がっ……!」
そして、侮辱と差別の冷徹な目で想い想いに好き勝手に私を誹謗中傷する。
ほんとうにしょうもない。私は群がる保護者たちを睥睨する。
すると、ばつの悪くなった連中は逃げだすように私から目を晒すと、クモの子を散らすように帰っていった。
ふん、そうなるくらいなら最初から私にちょっかいかけようとするなってばね……おっと、いけない。苛立って口癖がつい出てしまった。
私が普通の女の子になるためにも直さないといけないのだ。こんな個性的で恥ずかしい口癖は。
「それにしても、イルカ先生遅いなぁ」
愚痴を言葉にしながら、アカデミーの出入り口から目を離さない。
そう、私はイルカ先生が出てくるのを待っているのだ。新婚の健気な若妻のように。無論、約束はしていないけどね。
そうして、頬杖をつきながら待っていると望んでもいない相手がアカデミーから出てきた。しかも、こちらに歩み寄ってきたのだ。
「やぁ、ナルコちゃん。さっきはお疲れ様」
「……どうも」
さわやかスマイル(笑)で近づいてきたのは先ほどのミズなんとか。
私はミズなんとかになんて興味のないため、適当に返事だけしておくが、向こうはそうでもない様子である。
「はは……もしかして僕って嫌われちゃってるのかな?」
「……別に嫌いじゃないです」
好きでもないけど。
「ほんとに? じゃあ、よかったぁ」
……。
「そういえば、ナルコちゃんはイルカ先生のことが好きなの……」
「そうですが? それがどうかしましたか?」
その顔はなんだってばね……。当然のことを即答しただけではないか。
「や、やっぱり、そ、そうなんだ……じゃあ、君には少し残酷なことかもしれないな……」
「……」
「実はね、僕も信じたくはないんだが……。イルカ先生が他里の者と共謀してある物を盗み出そうとしているなんて噂が……」
「へー、それで?」
「……驚かないのかい?」
「いえ、そんな根も葉もない噂教えられても信じられないですし……。そもそもアカデミーの卒業試験が終わったばかりの下忍にそんな話されたところで、どうしようもできませんから」
「たしかにそうかもしれない……。でも、もしも噂が本当だったら、イルカ先生を止められるのは君だけなんだよ、ナルコちゃん!」
でまかせの言葉を並べつつミズなんとかは私の両肩に手を置いてきた。
「……触らないでもらってもいいですか?」
それは流石に耐えるつもりはなかった。
腕を動かし、私はミズなんとかの両手を肩から払う。
すると、中途半端な忍びでしかないミズなんとかは顔を歪ませた、が、なんとか堪えたのだろう。最初と変わらないスマイルを顔に貼り付け、
「……気安かったね、ごめんね。でも、本当にナルコちゃんの助力が必要なんだよ」
食い下がることがなかった。
「」
……しつこい。
これはもう
我慢の限界であった。
正直、イルカ先生を悪役に仕立て上げようとしている時点で、喰い殺してやろうかと本気で思案したほどだ。
たしかに、私は……普通な女の子でありたい。
だけど……好きな人を悪用するような輩を許せる
だから、私は……
彼らからの答えは──
「……いいですよ。手伝いますから、何処に行けばいいですか?」
◇◆
夕刻。
里の外の森林を飛び移り進むミズキの背中を追い、既に数刻は経っていた。
どれほど木ノ葉の里から離れたのだろう? と少しばかり帰りのことを考えるのが億劫であった。
そして、紅い陽が森の背に沈み、闇が濃くなったとき。
「ナルコちゃん、ここだ!」
ようやくミズキは森の中を飛び回るのをやめ、着地した。
それに私は何も言わずに従う。
「それにしても、ハァハァ……ナルコちゃん凄いね……本当に休憩もなしで着いて来れるなんて……。さすがはアカデミー主席のくノ一だ」
「どうも」
「……でも、疑うことを知らないのは……まだまだガキだな」
着地するや否や、ミズキはあからさまに豹変した。
案の定、ここが他里の者との合流地点だったようだ。
ミズキの背後から、ぞろぞろと雲隠れの額をつけた忍が数人現れる。
まぁ……そうだろうね……こっちの方面突き進んだら雷の国しかないしね。そうだと思うよ。
「おい、ミズキ。このガキが本当にうずまき一族で間違いねえのか? 赤毛じゃねえじゃねえかよ?」
「問題ねえよ。金髪碧眼だが、間違いなくうずまき一族の女だ。裏はとってある」
「うはっー、ガキのくせにいい身体してるじゃねえかー! こりゃあ、もうちょい育った時が楽しみだな!」
「おい、バカ。大事な商品なんだから手ェ出すんじゃねェぞ!」
見事な下衆だね……。
うん、こんな奴らなら……
…… 消えても誰も苦しまないよね?
「そういうわけだ、ナルコ。ま、恨むんなら、好きな男をダシに出されたぐらいで、ほいほいと着いてきた自分を……」
「ねぇ……これで全員……?」
「あ……?」
この呆けよう、ミズキの取引相手は全員出揃っているようだ。
うん、早く帰れそう。このカスと同レベルの有象無象しかいないし。
あ、そもそも私が手を出さなくてもいっか。
私は軽くパンと手拍子を叩いた。
そうすれば──
「あ、首謀者は残しておいて」
「何をいっ……!?」
ミズキの喉仏には刃が添えられ、そして、
「なっ、なんで暗部がここに……お、おい! 雲のやっぁ……!?」
彼が頼りにしていた取引先の連中はすでに数人の暗部の手によって葬られていた。
さすが、
そこらの忍じゃ、数秒ももたないか。
「お、おい、どどどういうことだよ!? な、ナルコ!? おい!?」
「やっぱ気づいてなかったんですか……。ずっーと、私たちを囲うように彼らはいましたよ?」
「い……いつから……」
「
「ば、ばっ……」
絶句する気持ちはわからなくもない。
だって、私だって気が休まらないからね。
常に6〜8の暗部に護衛されているなんて。
でも、あんたに同情なんてしない。だって……
「た、助けてくれ……」
「
ミズキを拘束していた暗部は私の命令通り、解放する。
そして、彼以外の姿を表していた暗部たちも瞬身の術で私とミズキの視界の範囲から消え去った。
まぁ、見えないだけですぐそこにいるんだけどね。
ミズキは暗部たちから解放されたと勘違いしたのか、子鹿のように震えた身体で私に縋り付こうとしてきた。が、下衆に触らせるほど私は寛大ではない。
それに、私の中の
「あ、ありが……」
「……
特殊なハンドサインと共に私が発声すると同居人が擬似的に姿を表す。
それは、木ノ葉隠れの里の忍……うんん、木ノ葉の里に住んでいた者たちに深く刻み込まれた恐怖そのもの。
九つの尾の狐……九尾がミズキの眼前で唸りをあげる。
「や、やめ……」
「お残しはダメだからね、クーちゃん」
「やめ、やめてくれ! た、助けて……!?」
クーちゃんから逃れようとトロ過ぎる瞬身の術をミズキは見せるが……。
『GAAAAAAAAA!!』
「あ、ああああっっ!? や、やめ、ーーーーーーーーーー!!」
飛んだ先でそのままクーちゃんに噛み殺された。
聞くに堪えない濁声に気分を悪くさせられるが、返り血が私に飛ばないように配慮してくれているのは、さすがはクーちゃんであった。
唯一の私の家族。ありがとう、大好き、愛してる。
と、胸の奥で呟くと、クーちゃんと私は運命共同体なので、クーちゃんが少しばかり照れ臭くなっているのがわかる。
なので、意地悪い顔でにやーっと見ると、彼は顔を背けてしまう。
そして、何も言わないまま私の中に帰ってしまった。
む、つまんない。構ってよ、と抗議しても無視である。
……これは後でお仕置きだな。尻尾の先の毛を毟ってあげよ。
やめろ
さー? それはこの後のクーちゃんの誠意次第かなぁ……? って、いつまでもここで彼と体内会話をしている場合ではなかった。
既に周りは真っ暗で、木ノ葉の里からは結構離れた地点である。
急いで帰らなければ、イルカ先生との偶然遭遇した振りでご飯一緒にする、という私にとっての最重要任務が失敗に終わってしまうのだ。
そうと決まれば、後始末は「根」の連中に任せる。
「サイ? ここの後始末お願いねー」
私の名前はうずまきナルコ。
九尾の人柱力で、「根」の創設者の義理の娘であるが、普通の女の子。
違うってばね、これからは普通のくノ一を目指す忍。
それが私。