青色の眼をした双子   作:Belenus

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消える軌跡、手にしたかった過去



左目から見る景色

『「(けい)。帰ろうか俺たちの家に」

 

 かろうじて原型を留めている上半身を持ち抱える。惜しいが下半身も抱えられるほど俺の体は大きくなかったし、何よりも下半身は損傷が激しく持とうとすれば崩れそうだった。

 

「色々あったよな」

 

 ゆっくりと夜の街を歩き出す。幸いなことに、家に帰る道までは街頭と人通りが少ないため、騒ぎになる心配はないだろう。歩く度に半分欠損した頭部からボタボタと脳みその欠片が落ちる。

 

「大体は俺が酷いことしてばっかだったけど」

 

 静かな夜道に足音と鈴虫の声が響く。転々と続く街灯の光と先の見えない闇に覆われた一本道が、こちらを死に誘う地獄へと続く道に見えた。

 

「慧が行くのは天国だろうな」

 

 普段は滅多に開かない瞼の奥に隠されていた眼が、暗闇の中で文字通り光を帯びている。幾何学模様が浮かんだそれは俺のよりも濃い青色をしていた。

 

「眼は死んでないんだな」

 

 既に生気が抜けている体とは真逆に、眼だけが異様に生き生きとしていた。こちらを見る瞳が俺を責めたてているように見えた。最強と名乗りながら最後の最後まで何も出来なかった俺を。

 

「それは違うな。慧なら自分よりも俺の事を気にかけるはずだ」

 

 傲慢だ。先刻まで僻んで遠ざけていたくせに、今の俺に語る資格なんてない。

 

「痛くなかったか?辛くなかったか?」

 

 即死だったため、苦しんではいないのが小さな救いだろう。足音と鈴虫の声の他にズリズリと腸を引きづる音が追加される。

 

「ここが人通り少なくてよかった。最後の時まで悲鳴で彩られていたらあれだろ」

 

 顔にかかっている髪の毛をよけてやる。柔らかくサラサラとした髪の毛は撫でていればいい触り心地だっただろう。今更、気づいたこの事実は今まで如何に知ろうとしてこなかったかを如実に表していた。

 

「死んでから気づくなんて滑稽だよな」

 

 元々、軽かった体重は中身と下半身が減ったことで最早抱いている感覚すらなかった。その事実がまるで手から慧という存在がこぼれ落ちていき、消えてしまうように感じて抱く力を強める。

 

「俺が涙すら流さないの、酷いと思うか?」

 

 普通なら、家族が死んだことに対して何かしらの感情が働き涙でも流すものなのだろう。だが、何も感じなかった。今、仄暗い道へ歩を進めているのは最後の時を誰かに邪魔されたくないそれだけの理由だった。

 

「生きている時よりも、死んでる時の方が話しかけている気がするな」

 

 泣く訳でもなく、絶望する訳でもなくただ無表情に対話する様子は、傍から見たら異様な光景だろう。

 

「このまま放浪するのもいいかもな。不死の術式を持つ奴がいるくらいだ、死者を蘇生させる術式を持つ奴が居たっておかしくない」

 

 現実的に蘇生の術式持ちは探せばいなくも無いのだろう。だが果たして、ここまで損壊して原型を留めていない物を蘇生させられる奴がいるのだろうか。

 

「俺、今何を思った?」

 

 物。

 

 物。

 

 物だと。

 

 俺の中では既に慧が死んだことに対して折り合いをつけているんだ。だから、死体でもなく慧でもなく物だと判断した。旅をして復活させる気なんて、はなからないんだ。

 

「こんなこと知ったら、流石に嫌われるか」

 

 死んでからさほど時間が経っていないというのに、もう顔もよく思い出せない。あまりにも早い。ただ耳を打つあのこちらを気遣う優しい声だけが残っている。

 

「いつかお前の存在も忘れそうだ」

 

 俺にとって慧という存在は、すぐ忘れられるほどに小さく忘れたくないと思うほどに大きかった。

 

「だから、せめて今だけは俺の全てをお前に注ぐから」

 

 次第に家が近づいているのが分かる。こんなに遅くまで抜け出したことは無かったため、家の中は騒然としているだろう。これからもっと騒ぐ事になるのだが。

 

「着いたよ。じゃあな、お別れだ」

 

 これから、慧に会うことは二度とないだろう。話したい事、言いたい事は全部話したつもりだ。だからここでお別れだ。

 

「ゆっくり休め。向こうでじっくり俺を見るといい。もう邪険に扱わないから」

 

 そっと優しく頭をなでる。その顔が目を細めて笑う事は二度となかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、屋敷では大騒ぎ·····なんてことは無かった。異様な程に順調に慧の葬式などは終わった。まるで元々こうなることを知っていて準備していたかのように。脳裏によぎるあの言葉。

 

『神々の眼との抱き合わせだったら良かった』

 

 だが、眼の移植など現状では不可能なはずだ。五条家や他の呪術師の中に、治療に使える術式を持つ奴など聞いたことがないし、反転術式も使える奴で五条家に協力する者などいない。手術をするにも眼球は神経の塊である為、それ自体を交換することは出来ないはずだ。

 

「一体何を考えてんだ?」

 

 ただ屋敷内では最近、異様な程に視線を感じない。今まで何かと刺すような視線を向け、敵対してきた奴らもなりを潜めている。一体何が起こっているのか、全く判別がつかなかった。

 

「悟様お話があります。御部屋に入ってもよろしいでしょうか」

 

 律儀に襖の前で正座して許可を取ってくるあたり、俺のことを忘れていた訳では無いのだろう。慧が死んでからは、口うるさかった屋敷の奴らも俺に対して話しかけることが極端に減っていたため、久しぶりの会話だ。

 

「いいぞ」

「では、失礼致します」

 

 そう言うと一人ではなかったのか、ぞろぞろと俺の部屋の中に入ってくる。何奴も此奴も満面の笑みを浮かべて。こいつらに好かれるようなことをした覚えは無いが、殺意を感じる訳でもないため真意が読めない。

 

「何?俺を殺しにでも来たわけ?」

「いえいえ、まさか。本日は悟様にお渡ししたいものが御座いまして」

 

 どうやら目の前にいる男が、この話の主導者らしい。短く整えられた黒髪に額の中心を左から右へ走る大きな傷、腰にたずさえた刀は呪具だった。見覚えがあると思ったら、俺と慧の師範をしていた奴だ。

 

「こちらを」

「ん?」

 

 懐から小さな木箱取り差し出される。元々期待してなかったが食べ物の類いでは無い。それに強い呪力が宿っている。なんの代物かは分からないが明らかに怪しい。

 

「これ呪力がこもってるけど何なの?」

「開けて下されば分かります」

 

 五条家にとって俺は、なくてはならない存在だ。だから、暗殺という線はないと考えていいだろう。大方、珍しい呪具かなんかだろう。呪具には大して興味は無いのだが、今更ご機嫌取りか?とりあえず開けてみるか

 木箱を開け白い布をめくると『それ』と目が合った。

 

「は?」

 

 目の前に転がっているのは明らかに、慧が持っていた神々の眼その物だった。見間違えるはずがない。あの時、確かに欠損した方と逆側にはまっていたはずだ。つまり

 

「·····抜き取ったのか。慧から」

「左様■ご■ま■す(左様にございます)」

「■れ■■に■■■■め(これも偏に悟様(五条家)のため)」

 

 俺にはこいつらの使う言葉が人の言葉に聞こえなかった。いやに冷静で、状況を整理しなければという考えだけが頭をよぎった。

 

「反転術式使えるやつでも捕まえてきたのか」

「■■■(いえ、この眼には自己修復機能がついているのです。そのため移植しても使えるのです)」

 

 俺だけでなく慧にも懸賞金がかかっていたのは、そういう事だったのか。当時、俺よりも多かった懸賞金に腹を立てていたのだが、この眼を手に入れるためならば納得だ。

 

「■■■■(今までは五条家以外に渡ることを避けて、修復不可能になるまで壊してきましたが、悟様に是非あの出来損ないの眼を)」

「俺に移植しろって言ってんの?」

「■(是非!)」

 

 用意周到なこの様子。異様な事後処理の速さ。答えはもうでているようなもんだった。

 

「ひとつ聞かせろ」

「■(お望みとあらば何でも)」

 

 こいつらが

 

 

 こいつらが

 

「慧を殺したのお前らか」

「■■(当然でございます)」

 

 殺した

 

「■■(悟様も随分とお嫌いだった様子。ちょうど良かったではありませんか)」

「■■■■■■■(元々あの出来損ないには分不相応だったのだ)」

「■■■■(まさに宝の持ち腐れというやつですな!)」

「「「ハハハハハハハハハハ」」」

 

 人の言葉に聞こえないはずなのに、笑い声だけが鮮明に耳朶を打った。こいつらからしたら、俺も喜ぶと思ったのだろう。

 お前の嫌いな奴を殺してやったぞ!その上欲しがってた目ん玉まで取ってきてやったんだ!そう唾を撒き散らしながら喚いている姿が目に浮かぶ。

 

「そうか·····お前らが」

「■■■(発案者はこの私■■■■■です)」

 

 そう言って名乗ってきたのは師範だったやつだ。褒美を貰えると思って目を輝かせている。

 

「■■■■■(ずるいですぞ!これは皆の功績という事にしたでは無いか)」

「■■■■■■■■(いやはや、つい)」

 

 和気藹々としている奴らには俺の顔は映っていないのだろう。

 

「■■■■(いや失敬。出来損ないもいなくなり悟様も名実ともに最強になられると思うと)」

「■■■■■■■(これで五条家も安泰だな!)」

 

 醜く笑うその顔は間違いなく俺が慧に向けていた顔だった。

 

「■■■■■(ささ、どうぞお納めください。手術のご用意も出来ていますので。何時になさいますか?)」

「手術はいらない」

「■■■(はい?)」

 

 幾何学模様の浮かぶ神々の眼を右手で持ち、左眼を抉り出す。ぶちぶちと眼球の奥の神経がちぎれる音がする。

 

「■■■■■(何をなさっているんですか!)」

「■■■■(おい!このガキを止めろ!)」

 

 痛い、痛い、痛い。今まで感じたことの無い痛みが脳を焼き焦がす。でも、この痛みが慧への贖罪だ。

 

「■■■■■■(近づけねぇ!)」

「■■■(このガキ無下限呪術使ってやがる!)」

 

 ブチッと最後の神経がちぎれた。右手に持っていた眼を左目にはめ込む。すると先程ちぎれた神経と眼が繋がる感覚がする。瞬間膨大な情報が俺の脳を巡った。

 

「·····うっ」

 

 床に倒れ込み吐瀉物を撒き散らす。この世のあらゆるものが見えて、情報が完結しない。

 

「■■■■(このガキが死んだらどうするよ)」

「■■■(だ、大丈夫だよな!だってあのガキだぜ!)」

 

 慧、慧、慧はどうやっていたんだ。慧が瞼を閉じていたのを思い出し瞼を閉じて眼の機能を一つづつ切っていく。数百個もある電源を切っていくような作業を続けていると次第に楽になってきた。

 

「はあ、はあ。今なら目を開けても平気か?」

 

 ゆっくりと瞼を持ち上げ目を開けた先にあったのは、今まで見てきた世界とはまるで違った神の目線だった。

 

「あいつも、この世界を見てきたのか」

 

 神の眼とはよく言ったものだ。他生物が見える紫外線赤外線がなんてもんじゃない、全てが見え全てを知ることが許される。全知への通行券。それが神々の眼だ。

 

「今なら何でも出来そうだ。こういう事なんて言うんだっけ?なあ」

「■■■■(天上天下唯我独尊、でしょうか)」

「そう!天上天下唯我独尊」

 

 以前、試しでやって出来なかった術式反転も今ならできる。最強とはこういう事を言うのだろう。この眼を持ったなら無下限呪術なんて使えなくても、誰でも最強になる事ができるはずだ。なのに俺の為なんてくだらない理由で無能を演じ続けた慧はイカれていたのだろう。

 

『僕ね、将来はお兄ちゃんの左腕になりたい!』

『そこは右腕じゃないのか?』

『ううん。だって左腕って利き手に比べて弱いじゃん。だからお兄ちゃんの弱い所を守れる人になりたいの!』

 

 おぶられながら嬉しそうに語る慧の声が、まだ耳元で聴こえる。この眼があれば俺より強くなれるはずなのに、前を走るでもなく横に並び立とうとしてくれた。

 

「左腕には出来なかったけど、左目にはしてやったから」

 

 慧が望んだ形ではなくとも、これからはずっと一緒だ。

 

「最後くらい兄らしいこと、してやればよかったな」

「■■■(悟様?)」

 

 今からすることを慧は望んでいないと思う。だから、これからする事は俺の為だ。行動に言葉を当てはめるなら1番近いやつがある。

 

「復讐」

「■(は?)」

「始めようか。俺達(・・)の人生を」

 

 

 

 

 

 

 夕日で赤く染った空に鳥の鳴く声が響く。そこへ呻き声という不協和音が追加され、辺りに悪趣味な音色が広がる。

 

「はあ〜、座り心地悪いなこの椅子」

 

 椅子と言うには不格好。継ぎ接ぎだらけの作品を見れば人が座るように出来てないことが一目でわかる。この椅子を正気で見られればだが。

 椅子にある4つの足は人の腕で、胴体で出来ている座板に繋がるよう縫い合わされていた。背もたれの部分は何人のを使ったのかいくつもの脊椎が繋がるようにして、くっついている。

 

「それなりに頑張ったんだけどな〜」

 

 あれから、試行錯誤してはや8時間。何が俺をそこまで駆り立てたのかは分からないが、やりたくなったのだからしょうがない。

 

「まだ素材は残ってるし、もうちょとやってみるか?」

 

 俺の声を聞いてか、辺りの呻き声に悲鳴が混じり始める。最初は殺すだけのつもりだった。だが、やっているうちに楽しくなり、段々とエスカレートして今に至る。

 

「俺って意外とろくでなしなのか?」

 

 殺していくうちに、しがらみや憎悪が消えていくのだ。悲鳴が、恐怖が、叫び声が俺の中の心を軽くしてくれる。

 

「こんなんでもストレス溜まってたんだな」

「■■■(どうしてだ!協力してやっただろ!)」

「勝手に勘違いして勝手に動いただけでしょ」

 

 首謀者の男。こいつだけは最後までとっておくと決めていた。何となく、こいつを殺したら今後やることが無くなるような気がしたからだ。

 

「俺達の人生の門出に殺さなきゃだよな。景気よく」

「■■(俺達のって何言ってんだ!頭おかしくなったんじゃないか!?)」

 

 言われてみればそうだ。いつから歯車は狂ったのだろう。慧が殺されてから、もしかしたら産まれた瞬間からこうなるように決まっていたのかもしれない。

 

「とりあえず。立場を分からせるか」

「■■(ち、近づくな!やめろ!)」

 

 指の爪を一つづつゆっくり丁寧に剥がしていく。こいつは刀が取り柄だった。だから手は最後にじっくり切り落とす。

 

「■■■■■(わ、悪かった。ごめんなさい。許してください)」

「何言ってんだ?人間の言葉で喋れよ」

 

 そうだ!小指から順に切り落としていっていつまで刀が握られるか試してみよう。

 

「縄切ってあげるから刀取れよ」

 

 前言道理に縄を切って刀を渡すと満面の笑みを浮かべて斬りかかってきた。

 

「■■■■(クソガキが!)」

 

 長時間縛られていたせいか足がついていかず、こちらに向かう途中で無様に転んだ。

 

「ぷっ、あは」

「■■■■(クソガキが!)」

「いや、これは俺のせいじゃないでしょ。縛ったのは俺だから俺のせいか?」

 

 刀を握る手は痛みで震えており、足の動きと相まってさながら刀に振り回される幼児のようだ。

 

「ほらほら。頑張れ頑張れ」

「■■■(舐め腐りやがって!)」

 

 出鱈目に振るう刀を左右に避ける。変則的なため平時よりも避けにくくなってるのが、笑いのツボを刺激する。せっかく大トリなのだから楽しまなくては。

 

「今から説明するからよく聞けよ」

「■■(説明?)」

「順にお前の指を切り落としていく。そしていつまで刀を保持できるか試そうってゲーム」

「■■■■(何をイカれたことを)」

 

 門出は愉快に。慧が愉快かどうかは分からないが、そこは置いておこう。何者にも縛られずに俺達の人生を始めると決めたのだから、自由に行こう。

 

「この刀がちょうどいいかな」

「■■■(隙あり!)」

「無限張ってるから。無駄だよ、おじさん」

「■■■(どれだけ侮辱すれば気が済むんだ!)」

「憤死するまで」

 

 適当に見繕った、ノコギリみたいに刃がボロい刀で試しに足を薄く切ってみる。すると相当痛かったのか、膝を抱えてのたうち回り辺りに血が飛ぶ。

 

「おっ、なかなかいいじゃん」

「■■(殺す!ぜっだい゛殺す!)」

「じゃあ、今から始めまーす。ちなみに俺の予想は9本かな。予想を上回ったら殺さないであげる」

 

 1本また1本と削ぎ落としていく。できるだけ痛むように綺麗に切り落とさないように、そこだけが注意点だ。今までで1番痛そうに悲鳴をあげる姿を見ると、心が洗われるようだ。

 

「あははは。ほらほらー笑って笑って」

 

 俺の言葉にも反応できないほどに、なってくると楽しさも薄れてくる。なかなか刀を落とさないまま9本目を切り落とした。

 

「おー。すごいじゃん」

 

 手のひらを上手く使い何とか落とさないよう頑張っていた。ぷるぷると震えて必死に生きようとする様は感動すら覚える。なんてね。

 

「■(こ、これで俺の命だけは)」

 

 安堵したように頬を緩ませる姿を見ていると、意地悪がしたくなってくる。生き残ったところでどうせ、この先まともに刀を振れないのだからここで殺してやるのが義理ってもんだろう。そうだ!そうだ!。

 

「駄目だやっぱ」

「■■■■(は?)」

「お前を殺さないであげると約束したな、あれは嘘だ」

「■(や、やだ)」

 

 頭を左右に振りながら、おもらしをする姿は本当に幼児その物だった。渾身のネタが通じないのは寂しいものがあるな。だが、ムカつくやつのこんな姿を見れればそんなことも忘れられる。

 

「有名なセリフじゃん知らないの?」

 

 その声に答える人間は既にいなかった。目の前には荒い切り口の首なし死体が転がっていた。

 終わった。全部、何もかもを自分の手で終わらせた。これから何をするかなど何一つ考えていなかった。ただ、このまま死ぬ事だけは絶対にしないと決めていた。

 

「お前の分まで生きるから」

 

 日はとっくに暮れ、もう夜の闇が辺りに広がっていた。翌日には呪詛師扱いで追われる身の俺達。せっかくだからこれを機に旅行にでも行こうか。

 

「俺の左目を通して色んな場所見せてやるから」

 

 ザッザザッ

 視界が揺らぐ。

 

「·····っ、能力の使いすぎか?今日中には遠くに身をひそめなきゃ·····いけないのに」

 

 落ちそうになる意識を何とか繋ぎ止めようとするが、抗えずに視界が暗闇に落ちていく。唐突に限界が近づき思考すらまともに出来ない。

 

「け·····い」

 

 意識が落ち体が水の中に沈む感覚がした。』

 

 

 とくん

 

 

 とくん

 

 

 とくん

 

「──────────」

 

 声がする。ひどく懐かしい気がするのに最近聞いたようなそんな声が俺の横から。

 

「──────────」

 

 鮮明には聞こえずどこか朧気な声。聞かなければいけない大事で大切なそんな誰かの声。水の中にいるように全部の感覚が朧気で雲をつかむようだ。

 

「うぁ、ぁ、ぁぅ」

 

 ようやく聞こえた呻き声とも泣き声ともとれるその声は、失ったはずの慧の声だった。なにが起こっているのかこの際どうでもいい。ただ、慧が泣いているならば俺がするべきことは1つしかない。

 

「ぁ、ぁ、ぁ、ぃぅ」

 

 大丈夫と言ったはずの声は、慧と似たような呻き声に変換され意味が伝わったのかは分からない。だが、同時に伸ばした手をきゅと握り込んだ瞬間、先程の事が嘘のように泣き止んだ。

 

「見てこの子。すっかりお兄ちゃんね」

「そ、そうだな。能力が暴走していた時はどうしようかと悩んだが。お兄ちゃんのおかげでピタリと止まったな」

 

 なんだか聞き逃してはならない事が、聞こえた気がするがもうこちとら眠気が限界だ。一晩中、五条家の奴らをいたぶり続けてろくに睡眠をとっていない。

 目を覚ましたらどうせ呪詛師として追われる身なのだ。今は偽物でもいいから慧の隣で。

 

「ぉ、ゃ、ぅ、ぃ」




巡り廻る、有り得たかもしれない未来。







五条悟が神々の眼を十全に扱えたのは基礎スペックが高いからです。もし、慧が神々の眼を十全に扱えても術式が無いため五条悟より弱くなります。術式とはそれほど大きいものだと解釈しています。
主人公は神々の眼に慣れるまで、数十日かかってます。それなのに五条悟は数分で制御しました。化け物ですね。
ちなみに本編の前後に入るクサイ言葉は、気に入っているのでやめる気はないです。若気の至りだと思って許してください。年を取ったら、布団の上で苦しむから帳消しという事で。
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