────小さな頃から、俺は変な奴と思われていた。
ポケットモンスター……略してポケモンと総称される生物が、この世界にはいる。時として人間に牙を向き、時として人間と共生し、様々な形で人間とポケモンは関わりあっている。
昨今で言えば『ロトム』と呼ばれるポケモンが有名だろう。彼らは機械に取り憑いて悪さをするポケモンで有名なのだが、一部のロトムは彼らの餌となる電気、あるいは情報を提供してもらうことを条件として、携帯等に取り憑いて俺達の生活を支えてくれている。俺の生まれたガラル地方では特に、ロトムの居ない生活は考えられないだろう。
そんな中で俺は、あまりポケモンと関わりを持とうとはしなかった。此処が、変わり者と呼ばれる所以。
スマホロトムが主流になった現在に於いて、俺が使ってる携帯電話はヨロイケータイ(所謂時代遅れの意味、別にヨロイ島に住んでる人がみんな使ってるわけではない)、ロトムは憑いていないどころか未だにキー入力の古いヤツ。人間が持ち歩いていい6匹のポケモンどころか、手持ちにしているポケモンが1匹もいないために、未だ手にしたことの無いモンスターボール。積極的に関わったことがあるポケモンと言えば、ウチの母さんのスマホに憑いてるロトムと、母さんの手持ちのゴンベ、あとうちの庭に住み着いてるスボミー……あと、ウチのご近所さんで幼なじみのホップの手持ちポケモンであるウールーぐらい。テレビでは他のポケモンも見たことあるけれど、そもそもポケモンバトルに興味がないので、一般的に認知されてるポケモンでも知ってるかどうか怪しい。
……別に、意識してポケモンと関わらないようにしてるわけじゃない。彼らは俺ら人間の、良くも悪くも隣人だ。お世話になるし、迷惑もかけられる。ただ……なんと言っていいか……。『ポケモンバトル』で強さを競うことに、なんの興味も持てないから、というのが近い?
『ポケモンバトル』は、まあ読んで字のごとく。ポケモントレーナー達が、育てたポケモンを戦わせて競わせる、娯楽であり、スポーツであり、一種のコミュニケーションツールだ。各地方にプロリーグもあって、このガラル地方は特に大きな盛り上がりを見せている……らしい。テレビだとシーズン中は確かに盛り上がってるし、ホップも熱く語ってるし、母さんも稀にチケット買ってスタジアムに観戦しに行ってたりするからそうなのかも……。
いや別に、ポケモンバトルなんて非人道的だ! みたいな話をするわけじゃあないんだ。変なことしてるならともかく、こーゆーのも共生の一環だと思うし。
ただ……ポケモンを強くして戦わせて、楽しいの……? とは思ってる、ずっと。
俺は、自分を鍛えるのは好きだ。誰かと拳を、刃を交えるのは好きだ。
ガラルカラテでは黒帯も取ったし、その他格闘技と呼ばれる物は幾つか学び、習得した。体術だけじゃなく剣術も学んで、名前もよく分からないが、なんか強そうなポケモンとバトルして勝てるまでになった。なんならそれに飽き足らず、自分で自作の流派? みたいなのを作って独自の体術、剣術を編み出す始末だ。……自分で言っててなんだが、何だこの異端児。
ポケモンと俺が競うことは興味を持てるけど、ポケモン『で』競わせるのはなーんか納得がいかないという……よく分からない感じ。んで、『ポケモン』と『ポケモンバトル』は基本的に切っても切り離せない話題だから、必然ポケモンから距離を置くことになってる……ということかも。ヨロイケータイは好きで使ってるけど。
いやだって興味ねーじゃんよ……リザードンとジュラルドンのどっちが強いかとかって。まあそんなことポケモンバトルマニアの前では口が裂けても言えないけどさ……身近だとホップとか。
……まあそんな感じで、俺はこのポケモンと生きる世界においてすこぶる変な、ポケモンじゃなくて自分しか鍛えない人間、というわけである。
名前を『ツルギ』、ハロンタウンの『ハナウド・ツルギ』、最近ようやっと音超の極意と斬鉄を身につけた、まだまだ発展途上の求道者である。
……え、普通に人間やめてるだろって? 人間やりゃあなんでもできんだよ、格闘ポケモンにできるんだからやってやれないことはない。
「……さて、と」
そしてそんな俺は今、防水仕様のバッグにありったけの食糧とキャンプセットを詰めている。俗な言い方をすれば……武者修行の旅に出る、というヤツだ。
俺の住むハロンタウンは、放牧地帯で穏やかな、とてもいいところなんだけれど……穏やかさ故に相手になるヤツが少ないというか……ホップとやるポケモンバトルの模擬練習が1番俺の身になってる時点でお察しだと思う。
……俺は、強くなりたい。
今この世界で最強と囁かれるポケモンよりも、ガラルカラテの申し子:サイトウ先輩よりも、かつてガラルチャンピオンだったマスタードさんよりも、強くなりたい。というかマスタードさんってどこにいるんだろうね? 一応存命とは聞いてるんだけど。
というわけで、いつまでもぬるま湯に使ってると錆び付くので、学校卒業と共に旅に出ることにしたんだな、コレが!
ちなみにホップは4月からポケモントレーナーになってジムチャレンジなる催しに参加するつもりなのだとか。一応学校卒業してからじゃないと(もしくは同等の教育を修めてないと)トレーナーになれないから、この2月から4月までの間で、相棒のウールーと訓練しながら待つんだってさ。授業がないから登校する必要もないしね。
……俺、ホップがよく言ってたから覚えてるんだけど、ジムチャレンジなるものは確か参加するのに推薦状が必要なんじゃなかったかな? ホップの知り合いに書いてくれそうな人いたっけか……? 確かお兄さんが、ガラルリーグチャンピオンのダンデさんらしいし、そこからもらう算段つけてるのかな。まあ気にしてもだけど。ただ訓練に付き合ってもらう流れでホップの、あとホップのウールーの訓練にも付き合ってた俺としては、アイツも自分の夢を叶えてくれたらなー、なんて思う。
ただ、『ツルギも一緒にジムチャレンジに参加しようぜ!』ってめっちゃ誘ってくるのはいただけない……あまり強く言ったことは無いけど、ポケモンバトルに興味ないから……。
さてと、回想に耽っているうちに準備ができてしまった。服装も万全、動きやすいジャージで上下を揃えて、スポーツマンの休日! って感じ! ……俺はまだガキだからちょっと違うか。
「それじゃあ母さん、行ってくるぜ!」
「全くこの子は……無事だと思うから半分諦めてるけど、危なくなったらちゃんと逃げ帰ってくるのよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! あのぱるすわん? っていうのに追っかけられても逃げれると思うし、なんなら返り討ちにできるから!」
「するんじゃないわよ! 全くもう……」
いやぁ、こんな息子で本当にごめんねマミィ! でも俺強くなりたいし!
「それで、どこ行くかだけは言ってちょうだい。まあワイルドエリアだとは思うけれど……」
「アレ、言ってなかった? ヨロイ島行くって」
「えっ?」
「久々に水面走るから準備運動だけはせんとなー……じゃ、いってきまーす!」
「ちょっと待ちなさい、ヨロイ島!? ヨロイ島!?」
呼び止める母さんを無視してぴゅーっと飛び出し、目指せ陽気なヨロイ島! 新天地が、俺を待っている!
◇◇◇
「し、死ぬかと思った……!」
見事に出鼻をくじかれつつも、現在俺は何とかヨロイ島の大地に足を踏み入れることに成功したぜこんちくしょう! 既にジャージはボロボロ、持ってきた荷物の大半が散逸したという有様だが! 一応2ヶ月分の食糧と結構お高いキャンプセットだったんだぞ……!
「それもこれも……あの水ポケモンのせいだ……!」
血の滴る腕を、無意味に地面へと叩き付けることで鬱憤を晴らそうとする……しかし、寧ろ血が抜けて余計に鬱憤が溜まるという悪循環。そろそろ立ち上がらないと、と思い砂浜を立ち上がる頃には、俺のいた場所が、血を吸って赤黒く染まっていた。
……まあ、多少甘く見ていたことは認める。それでも俺は水の上でも強かったし、あのヒレの目立つ水ポケモンもぶっ飛ばしてやった。流石俺。だけどまさか触るだけで服が、皮膚が、カバンが裂けるとか知らなかった……流石の俺も、血を失えば力は抜ける、人間だし……。
「えー、ボロ切れに可能な限り包んだが……」
風呂敷のように使ったジャージの残骸の結び目を解く。……ボブの缶詰が5個と、念の為に持ってきた救急箱しかない。むしろあの乱戦の中一瞬でコレだけ詰めれたら御の字だろう。俺の命は若干危ないけどな……どーすんべ?
とりあえず、救急箱の中身もいざと言う時の為のもの。俺は島の中へと進んでくことにした……ついた傷も、葉っぱで包みゃなんとかなるさ、使う植物間違えない限り。
「…………つまり、今回の課題はサバイバル!」
取り組んだことがない課題で、若干テンションが上がっちまったのはご愛嬌ということで一つ。
◇◇◇
────漂流17日目、何となくこの島の全体像が分かってきたような分からないような、という所まで来た。一応怪我人だからそこまで動けないからある程度、だね。
一応、建屋はあるらしい……というか、五階建て位のでっかい木造の塔が2本建ってる。この建築方式は、若干ジョウト地方にあったそれを思い出すな……。それはともかく、誰か人はいないのかとノックしても反応がなかったので、割とピンチな俺は、それはもう冷や汗掻きまくりクリスティだったわけだ。クリスティって誰だよ。
しかし、この島のポケモンのなんと好戦的なこと……。アフロを頭にくっつけた様なのと、角が立派な牛っぽいポケモンは俺を見るや否や突進してくるし(綺麗に巴投げ決めてやった)、小さな小狐みたいなポケモンは幻影を見せてくるし(昔通信教育で学んだサイキック入門が無ければ即死だった……)、全身金属のお前それどういう構造してるん? みたいな鳥ポケモンは空から急襲してくるし(真空波を当てて何とか体勢を持ち直した)、少しおデブなリスっぽいポケモンは俺が必死に集めた食糧を食い荒らしていくし(倒してもそこに食べ残しが落ちてるだけだった)、入り江や砂浜に行けばかにポケモンやヒトデポケモンが俺を襲ってくるし(罠作りの応用でくさむすびができなければ割とやばかったかもしれん)、洞窟の中ではドラゴンタイプポケモンが闊歩してて見掛けると拳振り上げてくるし(切り付けても多少傷がつくぐらいだったので手加減しなくていいのは楽だった)、鎧を身にまとった様な虫ポケモンは俺に一撃喰らわせるや否や逃げてくし(唯一仕留めきれなかったポケモンだ)、もうなんなのこの島、ちゃんと準備しておけばとてもいい環境なのに。おのれあの水ポケモン、許すまじ。
とはいえこんな俺を見かねて助けてくれるポケモンもいてくれたのが幸いか……とくにあのピンク色のタマゴを腹に抱えたポケモンの技のお陰で、致命傷が癒えたのは大きい。ありがとうと頭を下げ、ボブの缶詰を1個開けて渡したのは後悔したが、嬉しそうな顔をされたので大満足。なんちゃらは食わねど高楊枝ってそういう……? 違うか!
「あーもうどうすっかねぇ……」
くっそ辛いマトマの実を焼いたのにかじり付きながら、この後どうするのかを考えてみる。味覚は暫く死ぬが、それでも食べれるだけマシだし、今にも飛びそうな意識を留めるのにとても便利だった。
俺も究極馬鹿ではないので、やばい時には連絡して助けを待つ位はする……するんだけど、俺のヨロイケータイは水没して死んだ、もう居ない……あ、これ結構ピンチなのでは?
ボブの缶詰はちょうど昨日食い切ってしまったし、ルーがないので木の実があってもカレーは作れないし、そもそもライスないし、これもうどうしたらいいか分からんね。
「ポケモンを食べるのも手といえば手だけど、あいつら瀕死になると煙に巻くように姿消すからなぁ……」
一応コイキングは捌けるが、あいつら身が薄いからな……困った困った。
「まあ考えても仕方がないね……流石に眠くなってきたなぁ……」
ふぁあ……と欠伸を噛み殺し、痛覚を超える眠気に身を任せ、横になろうとする。落ち葉で作った即席ベッドは、意外と快適だ。……いまさら湿気とか気にしないしね。
満身創痍、それでも俺は生きて、この経験を糧にしている。その事実だけで、今ここにいるのは無意味ではない。そう確信した。
◇◇◇
……真夜中、何かの足音で目が覚めた。起き上がるのはしんどいが、コレが敵性ポケモンだったらまずいので、いつでも飛びかかれるように体勢だけは整える。
しかし、襲ってくる様子はない。それなのに、その場から退く気配もない。どうやら、俺が起きてるのを分かった上で、俺のことを待っているようだった。
(根比べに持ち込むべきか……? いやいや、今超絶ピンチだし、寧ろ対応出来るように対峙すべきなのでは?)
仕方ないと重い体を起こし、気配の主を見る。
「…………」
翡翠の刃が、そこに佇んでいた。
い、いや……それだけだと語弊がある、そこに居たのは恐らくポケモンだ。洗練された白い騎士のような佇まい……赤く鋭い双眸はこちらを突き刺すように捉え、腕に備わった二対の刃を構えている。
俺はその綺麗な佇まいに、思わず目が焼けるような光を幻視し、見蕩れてしまった。そのことが、なんだか気不味くなって、変な言葉が口をついて出た。
「あー……なんだ。決闘でもしようってのか」
「……──」
通じるかどうかも分からないような状況で、冗談めかして放った言葉。しかし、それに対して同意するように、刃をうち鳴らすような涼やかな鳴き声を返された。そうか……そうか……うーん。
「いやさ、俺としてもそういうのは大好物なわけ。だけど今は無理だ。お腹は空いてる、満身創痍、まともな立ち会いは望めないって言うか、マジ死にそうなわけよ。分かる?」
「──」
分かる、という風に頷いてはいるが……構えは解かれる様子はない。
「──、───」
「すまん、何言ってんのか分からん……けど、今を逃すつもりはない……そういうことでいいのか?」
「…………」
翡翠の剣を携えたポケモンは、真剣な眼差しをより鋭くして頷いた。……頷いちゃったか……あー……これ死ぬ? 俺死んじゃう? まあ逃げる選択肢がそもそもない時点で、俺もどっかネジ飛んでる気がしてきたけど。
「……場所だけ移そう。広い方がやりやすいだろうさ」
「…………」
とりあえず、ダディ……マミィ……ツルギの命は今日で最後かもです。
◇◇◇
「いやよっわ!? お前よっわ!?」
「……!? ……!!?」
若干運命感じちゃった俺に謝って欲しい、切に!
まさか相手の一撃耐えたあとにぶちかましたサマーソルト斬りで一撃とは思わなかった……腕が実戦に耐えられない有様だから脚技にしたけど、それでワンパンってなんやねんお前!? 応急処置で塞がりかけた傷開いた意味よ!?
「というかお前踏み込みいい感じだったのにその刃俺に当てたタイミングで力抜いただろオイ、舐めてんのか、俺のこと舐めてんのか、並のポケモンより強ぇんだぞ俺はよ、オイ聞いてんのか」
「──……ッ!」
あ、やっべコイツ涙目になってらァ。いやでも俺悪くないと思う、多分。
「……あ、やば、意識飛びそう」
「!?」
今興奮したせいで血がプシュッと出て、ただでさえちぎれ飛びそうな意識がさらに飛びそうになる。
「とりあえずすまん、勝ち逃げだわ。俺は死ぬ! あばよヘタレポケモン、この反省を活かして強くなれ!」
「──!? ──!?」
あっはっはと笑い、俺大往生。道半ばだったけれども、名も知らぬ戦士に道を示せたのは大きかったかもね!
…………ああ、本当に、死にそう。
◇◇◇
「……ええ、何コレ浮浪者? というか仲良く手持ちと行き倒れェ? 見なかったことにしてぇけど……流石に道場の前で倒れてんの見てなかったは嘘がキツいし……ああもう! ヤドランちゃん、お願い~!」
「やぁん!」
◇◇◇
ここに記されるレポートは、俺が最強の頂きに登りつめる物語……ではなく。最強になりたいと叫んだ『アイツ』を、その頂きに手を掛けさせる物語。
俺の、自慢の馬鹿弟子の話だ。
『翠煌の釼打ち』
いやほんと誰か書いてくれないかな…