翠煌の釼打ち   作:しにかけ/あかいひと

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流石に評価されると書かなきゃって思っちゃう(煽てに弱い)

プロットだけはあるので適当に。アイデア欲しけりゃ何時でも投げる。


翡翠の原石

 拳を打つ。空気の壁にぶつかり、越える感触。

 蹴りを放つ。空気を裂き、カマイタチが遠くの木を薙ぎ倒す。

 脚に力を入れて駆け出し、大地を、水面を、空中を踏み締める。

 全ての動作、澱みなく。エスパー入門で身に着けた力でずっと筋肉のマッサージをしていたおかげで衰えも想定の範囲内。これはもう大丈夫と言っていい!

 

「よォし! 俺様、完・全・復・活!!」

「ダメだよーツルギちん」

 

 復活の感動そのままに駆け出そうとしたら、背後から肩を掴まれた。……この俺が掴まれるまで気配に気が付かなかっただとぅ? くっ、ご年配とはいえ技と功夫の衰え無し。流石ですマスタード師匠。

 

「リハビリ無しにここまで動けるのはスゴいけど、お医者さんに10日間は安静にって言われてたでしょ?」

 

 まだ5日しか経ってないよ? と目だけが笑ってない笑顔で睨まれると、俺じゃなくても萎縮するだろう。うん、本当にごめんなさい。

 

「無理、無茶、無謀は若者の特権。しかしそのために色んなものを蔑ろにするのはいけないね。特にツルギちんはどこか生き急いでる気がするよん」

「おっしゃる通りで……」

 

 生き急いでる……かはともかく、常に『強くなろう強くなろう!』という欲望に頭を支配されてる気はする。一度落ち着いて、自分を客観視する必要があるか…。

 

「ん! とはいえ折角動けるようになったのにじっとしてるのはつまらないよね〜」

 

 だから、と言ってマスタード師匠は何かに向けて合図をした。……いや、合図と同時に歩いてくるコイツの気配は。

 

「────」

 

 あの日と同じ、涼やかな鳴き声をした剣を携えたような緑と白のヘタレポケモン。種族名をエルレイド…だったか。

 

「……ていうかお前まだ居たんか。野生に帰らなくてもいいのか?」

「──、───」

「どうやらこの子、ツルギちんに話があったみたいなのよねん」

 

 そいつはどういうことなんだろう。もう一度尋常な立会を……という感じでは無さそうだ。今そういう感じの闘気をコイツからは感じられない。しかし、話すだけのタイミングなら腐るほどあったようにも思うのだが……俺とサシでしか話せないということなのか?

 

「リハビリとして身体を動かす必要はあるけど、今のツルギちんを1人で歩かせるのはちょっと……いやかなり心配だから、彼を一緒に連れていくのはどうかな?」

「いやでもコイツ、そこまで強くないですよ」

「!?」

 

 正気かコイツ!? みたいにギョッと驚かれるが待って欲しい、現に俺より弱いじゃん。

 

「うふふ、ツルギちんはちょっと強さの基準がシビアね。少し面倒を見ただけだけど、この子の才能は大したものよん? ただ自信が無いのか、それとも何かを恐れてるのか、技を出すのを少し躊躇っちゃうみたいなのよね」

「ふむ……」

 

 俺にポケモンの善し悪しは分からないが、かつてポケモンリーグのチャンピオンだったこともあるマスタード師匠の見立てなら、それは間違い無いのだろう。事実先日での戦闘でコイツは、両の手にそれぞれ備えた刃を俺に押し当てる時に何かを躊躇ったように手を引いていた。ふむ、現状では戦いに向いてない気もする……が、ここでピンと来た。もしかして、と思って師匠の目を見ると、まるで悪戯っ子のように笑った。何にピンと来たかは上手く言葉にはできないけど、なんかそういうことなんだって察した。

 

「ちょうどポケモントレーナーとしての修行も始めたところだし、ここは一つエルレイドと一緒にリハビリしてみてよん」

「むぅ、確かに俺に手持ちのポケモンはいませんから、渡りに船ではあるのですが……」

 

 お前はそれでいいのか? と視線を投げて寄越すと、力強く頷いた。ポケモンが人の言葉をある程度理解できるのは知ってたけど、言葉も出さない視線だけのやり取りでよくここまで察するよな。ちょっと驚き。

 

「まあ、そういうことなら。よろしく、エルレイド」

『はい、よろしくお願い致します。ツルギさん』

「うむ、礼儀正しくてよろしい! …………え?」

 

 しゃ、喋ったァ!?

 

 

◇◇◇

 

 

『……と言うわけで、ここ暫くの間はヒトの言葉を勉強をしていました。その成果が、コレというワケです』

「ははァ……頭も良いし器用な芸当すんなお前」

 

 師匠に見送られ、ヨロイ島散策に繰り出した俺たち。威圧で実質ゴールドスプレー散布状態を作りながら適当に森の中を行き、その道中で喋った……と言うよりはヒトの言語で思念をぶつけられた理由について説明を貰った。詳しく教えられても自他ともに認める脳筋の俺にはよく分からんので、とりあえず思ってることを読み取ってぶつける意思疎通してたのを、教わったことにより言葉で思念をぶつけられるようになったってことらしい。5日間で不自由無く言葉を操れるようになったんだろ? やべぇなコイツ。

 

『いえ、私より知能が優れたポケモンはいくらでもいますよ。私が他より優れている点があるとすれば、少し念力が強いというところでしょうか』

「なんだその……えー、エスパーパワー的なヤツか」

『はい』

 

 そう言ってコイツは俺から少し離れて、力を込めながら胸の前で手を構える。すると何やら構えた手と手の間に黒……よりも黒い小さな点が現われた。いや、点としか表現できないのだが、どの角度から見ても点だ。なんだコレ?

 

『ブラックホールですね』

「今すぐ消せ馬鹿野郎!!?」

 

 言いつけを守って暴れなかった俺を褒めて欲しい、切に。命の危機云々の前に目の前に物騒な兵器をしれっとお出しされてコイツを討滅しなければ、とすら思ったぞ。

 幸いコイツはその黒い点……ブラックホールをあっさり消したが……いやまあ、戦った時に使ってなかったからそれなりに良識はあるのだろう。あービビった。

 

「と、とりあえず分かった、エスパーパワーが強いのは。なるほどマスタード師匠が才能あるって太鼓判押したのも頷ける。だがその……なんだ、その手に備えた刃は飾りか?」

『単純に私が異端なだけですね。本来我々の種族は、念力に優れた進化をする個体と、格闘に特化した身体に進化する個体に分かれます。私は後者なのですが……』

「なるなるマルっと理解。つまりもう片方と同じくらいのエスパーパワーを備えてるってワケか。最高じゃんか羨ましい」

 

 実際凄い羨ましい、才能に恵まれてるよね。俺は人間だから、それだけでハンデを背負ってるようなモンだ。

 そんなことを思ってると、目の前のコイツはどこか困ったように口の端を下げた。コイツにとってはあまり喜ばしいことでは無いらしい。

 

『……はい。というのも、我々の種族は、この胸の突起から相手の思念を読むことができます。身体の機能ではありますが念の力に左右されるのです』

 

 ふむ、この胸に突き刺さったような赤いヤツがそれなのか。……待って、念の力で左右されるって言った?

 

『ええ。私は少し念力が強い。そのせいで同族以上に相手の思念を受け取ってしまいます。感情、痛みを特に』

「…………成程読めたぞ。お前、相手の感じる感情と痛みのせいで上手く攻撃ができないんだな?」

『流石のご慧眼です、ツルギさん』

 

 ソイツはなんと難儀なことだろうか。コイツを見る目も変わってくる。マトモに戦えなきゃ、食うにも困るだろう。

 

『いえ、そこは別に。無心になればどうとでも』

 

 格下相手ならそれで事足りますからね、とサラッと言いのけて俺の同情を返して欲しいと思った。まあこっちが勝手にしてるだけなんだが。

 

「となると……そうか、自分の念力を使わないと勝てない相手になると一気に戦えなくなるわけか。俺みたいな。俺みたいな!!」

『強調しなくとも、あなたが尋常ではない程強いのは理解してますよ』

 

 多分この島で1番強いんじゃないですかね……と乾いた笑いが思念に乗ってきて、クスッと笑ってしまう。ポケモンなのに随分人間くさい情動だ。

 

『……本当ならばあの時、あなたを助けるだけのつもりだったのですよ。傷付いて倒れている人間がいるから助けてあげて欲しい、と頼まれまして』

「ウソだろオイ。お前あの時、絶対逃がさねぇみたいな感じで……」

『ええ、ええ。思念を辿り、辿り着くその前までは、本当にそれだけのつもりだったのです。ですがあなたの側まできて、うっかり思念と……あなたのこれまでの軌跡を読み取ってしまい、欲が出てしまいました。…………どうして、こんなに強く在れるのだろう、と。言葉を得た今なら、それを表現できます。これは【憧憬】というモノでしょう』

「すまん、俺がわからん」

『【憧れ】って認識で大丈夫です』

 

 成程成程……それで、あのカウンターワンパンに至る、と。

 

『少しでもその片鱗に触れたかった。先程話したように私は弱い。だから私は私の殻を破るために、あなたの戦い方に何かを見つけたかったのです。話をしたかった1つはそれです。本当に申し訳ありませんでした』

 

 そう言って、エルレイドは頭を下げた。……確かに文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、それ自体はあの時にスッキリさせてるし、気持ちは分からないでもないから、怒り自体は無かった。

 

「いいよ別に、怒ってない。許しが必要なら今許す。結局お前はその誰かと約束した通り俺を助けてくれたのだから、寧ろ礼を言うガワだぜコッチは。ありがとうエルレイド、お陰で無事にピンピンだぜ」

 

 そう言って一発空気を打つ。パァン! と乾いた音が響き、俺の体調を示してくれる。

 

『……すみません、ありがとうございます』

 

 その言葉を受け取った俺は、そっと視線をヤツから逸らす。余程ソイツがトゲのように、心に刺さっていたらしい。俯いて、それから暫く顔が上がらなかった、見られたくないものはあるだろう。人間にも、ポケモンにも。

 

 

◇◇◇

 

 

「それで、一つってこたぁ後何個か話があるってことだよな? 今気分がいいから、なんでもじゃんじゃん話しなよ」

 

 エルレイドが落ち着き、顔を上げたところで話を振る。正直流れは見えていた。マスタード師匠が俺にエルレイドを付けたのもそういうことなのだろう。なので、俺はどんな話……いや頼みをされても二つ返事で受けることにしていた。……していたのだが、どうやら少し、俺が思っていたのとは違う流れになりそうだった。

 

『ありがとうございます。……実は、私にはどうしても倒したいポケモンがいるのです』

「……へ?」

 

 思っていた流れと違うな、と思って変な声がでた。そんな俺を他所に、エルレイドは続ける。

 

『ツルギさんも察しているかもしれませんが、ここに生息しているポケモンは強いです。多分、ツルギさんが元いた土地のポケモンよりも強いのでは無いでしょうか?』

「あ、ああ……まあ確かにそうだな。ガラル本島のポケモンよりも強い感じはあるな。環境が過酷だから、それに適応したんだろうなってのは想像できる」

『その中にも、ヌシと言うべきポケモンが何体か存在します。群れの長であったり、たった一体で生態系の上位に食い込むようなモノであったり。一応、私もそういうポケモンであるらしいのですが』

 

 まあ、だろうなと思った。弱いとは言ったが、それは俺より弱いだけの話。先程見せられたブラックホールのこともあって、コイツの身体能力自体は図抜けているだろう。

 

『私はひょんなことからとあるヌシと戦うことになりました。私がヤツの気に触ることをしたのか、それともヤツがそういう気性だったのか、今となっては分かりません』

 

 エルレイドは、悔しそうに目元を潤ませ続ける。

 

『戦い始めはそれでも拮抗していました。しかしヤツはとんでもなく強かった。何より心が強かった。私からの攻撃で蓄積する痛みをまるで感じないが如く、果敢に私の首を狙い続けていました。その気迫と、ヤツから流れ込んでくる痛みに心が折れた私は、逃げ出してしまいました。その時、私の胸に流れ込んできたヤツの感情は……深い悲しみと絶望、そして孤独でした』

「ふむ」

「……思うところはあります。私としては辻斬にあったようなものですから。ですが私もこんなナリですから、勝負というモノに何かを感じはします。ヤツも同様だったのでしょう。だと言うのに私は、私が弱いせいで、ヤツの何かを傷つけてしまいました。それが私にとって、酷く心残りなのです』

 

 そう言って、ヤツは願いを口にした。

 

『私が倒したいのは、草原に住むヌシ。ストライクという虫ポケモンです。恥を忍んでお願いします、どうか私を、せめて勝負のヤツとの土俵に立てる程度に鍛えて貰えないでしょうか?』

 

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