「じゃあまず痛みに慣れるところから始めよっか」
『……へ?』
という俺の宣言で始まった訓練初日。
俺ァポケモンの育て方、訓練の仕方なんてテンで分からんけれど、『ヒト型』の生物の鍛え方なら覚えがある。
『いやあの、理屈は分かるのですが……その手に持った木の棒は一体……?』
「んあ? 木剣だよ。俺、一応剣を使うのが一番得意みたいだからさ」
『いえそういうことではなく! 使用用途について聞いているのですが!!』
「ほほぅ、自分の師匠に口答えってかァ?」
ニヤリと笑って剣を肩でポンポンすると面白いように顔を青ざめさせたエルレイド。……いやめちゃくちゃ青いな。すまねぇ、そんな暴君ムーヴするつもりは今のところないよ。
『思念は読めるので一応は分かるのですが、こう…圧が…』
「にゃはは、多少は威厳ってものを示さんとね! ……そうだよな、思念読めるんだよな。じゃあ木刀の使い道も分かるよな、お前」
『受け入れ難い現実ってあると思いませんか?』
凄い真顔で言葉をぶつけられるけど、そんな大したことをしようとは思ってないんだが。
「単に俺が木刀持ってお前を襲うから、お前はそれを避けるなり応戦するなりで対応しろってだけじゃん、何をそんな怖がってるの?」
『人間なのに素手で木々をなぎ倒せるのに、武器なんか持ったらそんなのボーマンダに流星群じゃないですか!』
「なんだその言い回し」
『強い者が強い武器を手に入れたら手が付けられない程強いって意味の慣用句です!!』
へぇー…その、ぼーまんだ? ってのに流星群ってのを使わせたらべらぼうに強いのか。覚えとこ。
「というか、だからだよ。言ったろ、痛みに慣れさせるって。戦うことは、痛いことだ。戦士にはその痛みを飲み込んで、立ち向かう覚悟と勇気と根性が必要なんだ。お前にはそのどれもが足りてないんだよヘタレなバカ弟子よ」
『…………』
「本当なら俺がやったようにその辺の野生ポケモンの群れに突っ込んで乱闘でもさせようと思ったが、お前がヘタに強いせいで相手にならない。じゃあお前とタメを張れる強さの主相手に戦えって言うのも今のお前じゃ論外。となればポケモン相手に戦えて、お前より強くて、トドメを刺さない俺が相手をするしかないじゃないか」
言葉にして口にすると、なんてトチ狂った内容なのか。しかしそれが最善、最良の選択なのだから突き進む他無い。
「それにお前にとっては運のいいことに、俺はエスパー入門を勉強している!」
『は、はぁ…?』
「まあこれだけでピンとは来ないよな。一応エスパー相手に心を読まれなくする精神防壁ぐらいは使えるって話よ。ほれ、今まさに俺の考えや感覚が読み取れなかっただろう?」
『……確かに!』
エラく驚いてる、俺も驚いてる。確かにエスパー入門書には【精神防壁はどれだけ力量差があっても、上手く機能すればどんな読心術にも対抗できる】と書いてあった。あったが、いざエスパーの極地に立ってるような奴相手にそれが成功したもんだから流石の俺でも驚くってものよ。
「これならお前も遠慮無く攻勢に出れるだろ? 迎撃反撃で相手を気にする必要無し! 流石にブラックホールとかぶつけられると死んじゃうけど、ただの斬撃程度で倒れるツルギさんじゃないし、安心してぶつかって来い!」
『本当何から何までありがとうございます、師匠……!』
「じゃあお前は先に集中の森で待ち構えてな。20分後に訓練開始だ」
さァて、腕がなるぞぅ!
『………………あれ、これってもしかして私の読心術を封じられた形になるのでは?』
◇◇◇
「というわけで、ポケモンバトルについて教えてくださいクララさん!」
「いやその前にそのボロ雑巾はどうしたんだオイ」
「…? 力尽きたバカ弟子を見てボロ雑巾呼ばわりとか、酷くないですか?」
「酷いのはお前だよガキンチョ」
何やったらこうなるんだよオイ……なんて戦慄してらっしゃるけど、キツいことしなきゃ訓練にならないんだからこうなって当然では? 単なる筋力能力アップなら俺じゃなくてちゃんとしたスポーツ科学教えてるところでどうぞ。
「それに無意味に理不尽なことはしませんよ非ィ効率的です。死ぬ程疲れたでしょうが、今日の体験は非常に身になったはずです。ほら、満足そうな寝顔をしているでしょう?」
「確かに若干笑ってるようにも見えなくもないケドぉ……」
「追い詰められてからの動きからは躊躇いが無くなっていい感じでした。これを自分の意思でできるようになれば完璧です。暫くはこんな感じで生死の境目を彷徨ってもらいます」
「やっぱヒトじゃないんじゃ……慈悲が欠けらも無いぃ……」
本当に失礼だなぁと思いつつ、右手に掴んだ木刀を突きつけると一気に押し黙った。暴力の勝利だ(Part2)。
「てゆーかなんで私に聞くのよ。おじいちゃんに聞けば一発じゃない」
「はい、最初はマスタード師匠にご教授願おうと思ってたんですが、その師匠の方からクララさんに教えて貰えば、と言われましたので」
「ゲゲ……なんでウチに……」
「なんでも弟子の中だとセンスはピカイチなんですって」
「いやーさっすがおじいちゃん、分かってるゥ!」
高速で手のひらを返して喜んでるところに水を差すのもアレなので言わないが、修行を適当に熟してサボってるペナルティと師匠は言っていた。まあセンスがあること自体も言ってたことなので存分に喜んでもらっていいのだけど。
『努力することが身についてくれたら、きっと彼女は大成すると思うのよねん。そのきっかけにツルギちんがなってくれると、ワシちゃんとっても嬉しいね』
以前クララさんが話していたことを踏まえて師匠のセリフを思い返すと、なーんか挫折の臭いがするんだよなぁ。まあそんなこと俺が知ったこっちゃねぇが。まとめて立派な戦闘民族に仕立てるだけよ。
「……? 今なんか寒気が」
「気のせい気のせい」
「んー……まあいいや。じゃあアンタに倣って実地訓れ……先にエルレイドを救護室に連れていってあげなさい。あと次に私とポケモンバトルの練習する時はその子の体力を残しておくこと。いいわね」
「あいあいマム」
意外と面倒見が良さそうなのと、ポケモンに対して優しそうなのに驚いた、そんな対応だった。
◇◇◇
「座学はこれまで通り受けてもらうとして……アンタには基本的なポケモンバトルのやり方を覚えて貰うのが良さそうね」
場所を移してここは一礼野原。駅舎と海の両方の意味でヨロイ島の玄関と言っていい場所。まあ俺はここから入ってきた覚えはねーんだが。駅舎初めて見たぜ。
「やり方を覚えてもらうというと……やはりバトルですか! 得意ですよ!」
「意味合いが違ぇ!! ポケモンバトルだっつってんだろうが!」
そう言ってクララさんがモンスターボールを2つ投げた。一匹はピンク色で腕に貝かなんかを着けた何処かノロそうなポケモン。もう一匹は青い色をした虫ポケモンだ。
「ごめんねェスコルピちゃん、今日はあの暴力装置の言うこと聞いてくれるぅ?」
「キュキュピ!」
「つーワケで今日のところは私のスコルピちゃんをかしてあげるケド、さっきも言った通り次からはエルレイドを連れてくるコト。アンタがどうして宗旨替えしたかは知らないケドォ、どうせあの子のことなんでしょ? だったら尚更連れてこなきゃ意味無いわ」
「ういっす、あざっす。じゃあ今日だけはよろしく、その…スコルピ?」
「キュイキュイ、キュピ!」
針の付いた尻尾をふって愛想良く返事してくれるスコルピ。かぁいいなぁオイ。
「さてツルギ。アンタはポケモンバトルについて説明できる? 軽くで良いから」
「えーと、お互い最大6匹までのポケモンを率いてポケモン同士に戦闘させて、先に相手のポケモン全員を継戦不可、戦闘不能状態にした方が勝ちっていう競技、ですよね?」
「ちゃんと知ってて意外ー」
「他の門下生さん達が懇切丁寧に教えてくれたので」
細かいルールはあれど、基本的にはこうだった筈。
「じゃあポケモンバトルに勝つためには何が必要だと思う?」
「……如何にポケモン達が訓練できてるか、如何にポケモンもしくはトレーナーに戦術戦略があるか、トレーナーの戦況把握、トレーナーとポケモンとの意思疎通、ポケモンが如何に技を覚えてるか、かな」
「まあ愚問よねェ……と言いたいところだけど、最後だけ三角よ」
「なんでぇ、沢山技を覚えときゃ弱点だって突き放題じゃないですか!」
実際俺ならそうするし、そうした。色んな相手に対応するためにたくさんの技、技術を身に着けた自負がある!
「理想はそう。でもそれで技それぞれの練度がお粗末になったら意味無いしィ、選択肢が多いだけトレーナーもポケモンも迷うものよ。アンタがどれだけ優秀かは知ったこっちゃ無いケド、その優秀さを他人に押し付けるのは違うってのは分かるでしょ?」
「ンまぁ優秀かはともかく、それは分かる……」
自分にできることが他人にも絶対できる、というのは違うし、種族も違うポケモン相手ならさらにそうだ。種類によって覚えられるこの量も上下しそうだし……。
「技は幾らでも覚えていいけど、試合に合わせて調整するならだいたい4つに絞るのがセオリーって言われてるわ。ヒトによっては技1個だけを職人みたいに仕上げたり、多くの技で調整してきたりするけど、基本は4つ。私とポケモン達も4つで訓練してる」
「ふむふむメモメモ……」
「技も種類によって習得できるできないがあるから、その辺も含めてコミュニケーションは必須よォ」
なるほどなるほど……俺も後でエルレイドに何ができるか聞いとこ。…………アイツ比較的なんでもできそうだよな。
「ちなみにこっちのヤドランちゃんは『熱湯』『シェルアームズ』『気合玉』『サイコキネシス』の4つを重点的に調整してるわ」
「なんか聞いただけだと凄い強そうな技ですね」
「ふふーん、そうよ結構難しい技ばかりなのォ! 技自体は技マシン、技レコードで覚えさせられることができるケド、それを使いこなせるかどうかはベ・ツ!」
なのでちったァ私を敬えよガキンチョ……という声なき声が聞こえてくる……。いや、凄いなぁとは思うし尊敬もしてるよ、まじで。せっかくだから素直に尊敬してますよビーム照射。
「じーっ」
「うっ……そんなキレイな目で見つめられるとツラい……。いやその、スゴいのは確かだけどォ、この子は私の相棒だからその分一緒にいる時間も長くてェ……」
「やぁん!」
のっそり、隣のヤドラン? が胸を張ってるのを見てホンワカした。強いかどうかは分からないけど、トレーナーとして良いヒトなのは間違いないのだと確信した。
「で、お貸しいただいたこっちのスコルピちゃんは?」
「その子はまだ技の訓練が終わってなくてェ、今のところ『かみつく』『どくどくのきば』が問題なく使えるッてトコロ。あんまり強く育ったポケモンだと、他人の言うことを聞いてくれないからァ」
「まあでしょうね」
「キュイ! キュピピ!」
自分はまだまだこれからだぞ! と気合いを入れてるのかピョンピョン飛び跳ねるスコルピちゃん。うんうん、やる気があるのはいいことだ。若干トレーナーの方がやる気が無さげというか挫折した感が漂ってくるのが悲しいところだが。まあ道場に入門してる時点で完全に諦めたわけじゃあ無さそうだし大丈夫だよね!
「じゃあそれぞれが使える技を把握したところでェ、早速模擬戦開始よォ。こういうのは習うより慣れろだし!」
「ういっす! よろしくお願いします!」
さあ、俺がどれだけポケモンバトルをやれるのか、いざ!!
◇◇◇
「あー……その、ちょっと才能無くない?」
「…………」
「意思の疎通ができてないっていうか、指示がなんというか自分基準っていうか……」
「…………」
「矯正できなくはないケドぉ…………その、元気だして?」
俺は……弱い……っ!!