続くかどうかも知れない中で、よろしければお付き合いください。
織斑一夏は困っていた。
男なのにどうしてISを動かすことができるのか……はどうでもいい。
クラス対抗戦が近づいてきていることは……ちょっとどうでもいい。
幼馴染の篠ノ之箒と最近仲良くなったセシリア・オルコットが言い争いをしているのは……訓練に支障をきたしているからどうでもよくない。
そんな中で一番の問題は、上手く剣を振るえないことだ。
彼のISは第三世代という位置づけでありながら武装はブレード一本。姉である織斑千冬の武器であるそれに、一夏が誇らしく思うことはあっても疎ましく思うことはない。
ただ、それを振るうときに上手く振るえていないと違和感を感じるのだ。
かつて剣道をしていた経験がしっくりきていないことを伝えているのだ。
剣を振るっているけど上手く振るい切れていない。
ISという違う土俵に慣れていないだけ、と言い訳しようにも一向に感覚がかみ合わない。
例えば、このことを箒に伝えてみれば。
「ふん。女に現を抜かしているから剣が曇っているのだ。やはりその根性を私が……私が鍛え直してやらねばな。うん、そうだ。任せておけ。セシリアには剣の何たるかなど分からないからな。私に相談したことは間違えではないぞ。幼馴染なのだから幾らでも相談に乗ってやる」
根本的な解決を得られなかった。
セシリアに聞いてみれば。
「わたくしは剣道のことは分かりませんが、一夏さんはまだまだISについて知らなければならないことがたくさんありましてよ。授業だけでは理解し辛い部分に関してはこのセシリアにお任せください。ええ、手取り足取り教えて差し上げますわ」
同じく根本的な解決を得られなかった。
さて困ったぞ、と頭を悩ませてたまたま通りかかった千冬に聞いてみると。
「ふむ。教えてもよいがなんでも教師頼みにされては困る。そうだな……アイツに聞いてみろ。もしかしたらお前の疑問に終止符を打ってくれるかもしれんぞ」
教えてはくれなかったが、答えにたどり着くための道を示してくれた。
直接教えてくれてもいいのに。
千冬の教師としての立場が一人の生徒を贔屓してはならないのだろうと、一夏も理解していた。だけど千冬の姿に近づけるかもと一瞬だけでも期待した身としてみれば、感情の部分で納得できないところもあった。
千冬が推薦する『アイツ』は剣道部に所属しているらしい。更に言えば、同じ一組の生徒だという。
一夏には誰の事だかは分からなかった。自分の疑問を解消してくれるほどの剣の達人などいたかと。知っているのは箒だけだ。それも擬音ばかりで具体性のない指導でちょっぴり気持ちが折れそうになる。
善は急げ。一夏は今日の訓練を早々に切り上げて剣道部へ向かうことにした。箒とセシリアがアレコレと引き止めてきたが、千冬の言葉を何よりも優先するべきと説得して剣道部に急いだ。
「こう言っては何だが、この学園に千冬さん以上の剣の達人など知らんぞ」
確かにと箒の言う言葉を肯定するが、剣の達人とは一言も言っていなかった気がしてならない。
「一夏さんに必要なのはわたくしのようなエレガントな指導役でしてよ。白式の機動力を生かす動き方を学べるとは思えませんわ」
その指導が問題なんだけどなぁ、とは口が裂けても言えない一夏。一分野に置いて特に察しの悪いことで有名な彼も流石に気がつき沈黙を以て応えた。
剣道部に着けば、当然ながら部活動の真っ最中でありあちこちで竹刀を打ち鳴らす音が聞こえてくる。
学園唯一の男子生徒がやってきたことで少々騒ぎにはなったが、一夏は目的の人物を探すことにする。
目当ての人物はすぐに見つけることができた。千冬から事前に教えられた容姿はこの剣道部では異質に映り込むもので目立っていた。容姿もそうだが、防具も身に着けず制服姿で木刀を振るっているので目立ちまくっていた。
「奴か? 想像していたのと違うじゃないか」
「……あの人は確か同じ一組の方ですわ」
「いたのか?」
「いますわよ。それに有名な方でもありますわ」
「…有名なのか? 私は知らないぞ」
俺も知らない。そこまで有名な人なのかと思ったが、どんなに考えても記憶のどこにも引っ掛からない。
分からないことは仕方がない。とにかく一夏は声をかけることにした。今は自分の中にある疑問をなんとかしなければならないのだから。
「ええと、ちょっといいかな」
実は名前は聞いてない。だからひとまず声をかけるしかなかった。千冬は容姿で判断できると考えたらしい。
褐色の肌。
パイナップルを思わせるような髪型は赤い。
瞳も赤く、眼鏡をかけているがその色も赤。
制服はIS学園指定の白色なのだが、改造されているのか所々に赤色が散りばめられている。
結論、赤色の主張が激しい。
一度見たら暫く忘れられなさそうな赤色信仰の少女を、それでも一夏は知らなかった。
「おお、有名人の織斑一夏少年くんじゃあないか。はじめましてこんにちはー」
赤色少女はニコリと笑う。
背後から嫌な空気が流れた気がしたが、一夏は気のせいと判断して、はじめましてと返して早速本題を切り出すことにした。
「千冬姉……じゃなかった。織斑先生から君を紹介されたんだけど」
「んふふ。紹介とはまた、これお見合い的な奴ですよね。不束者ですがお願いいたしますって奴ですね。日本のドラマで見ました。早速ラブコールですね」
「なんだと一夏。キサマは私というものがありながら」
「一夏さん。どういうことですの。確かにこの方は有名な方ですが、有名であればよいというものではありませんわ」
「いや、違うぞ。お見合いなわけないだろ」
「おお、振られてしまったぞ。さすがラストサムライ。身持ちが硬い。だらしなくない姿は好感持てます」
「ああ、ええとありがとう?」
「どういたしましてです。それで冗談さておきマジで何用ですか。記憶違いじゃあなければ織斑先生から紹介されるような立場の人間じゃないはずなんですけど」
首を傾げる赤色少女に、一夏はどう説明すればいいか悩んだ。剣を振るった時の違和感を上手く伝える術がない。まさか箒のようなドカーンとかぎゅーんなんて説明をするわけにはいかないし、セシリアみたいな理論的に説明する頭なんて持っていない。
一夏がうんうんと唸っていると、赤色少女が何かを察したのか手を叩いた。
「貴方の考えていることを当ててあげましょう。なぁに心配召されるな。武道を通じて読む力を磨き上げた私には全て透けて見えます」
むむむ、と目を閉じた少女。
「ずばり、今日の夕飯に何を食べるかですね。この時間ともなるとご飯のことを考え始めると思います。たまには違うものが食べたくなって意見を聞きに来てくれたのですよね」
「何を言っているのだコイツは」
「噂通りのお方ですわ」
呆れてしまう箒とセシリア。
もう、帰りたくなった一夏は気持ちを奮い立たせて何とか事情を説明する。所々と二人の横槍が入ったけど、何とか説明責任を果たした。
意外にも赤色少女は茶々を入れることなく最後まで黙って聞いてくれていた。一夏の好感度がちょっと上がった。
「ISで剣を振るった時に感じる違和感。それは生身で竹刀を振るう時には感じていないのでしょうか」
そして、きちんと返してくれる。変な方向に逸れていない。一夏はちょっと期待を高めた。
別に箒やセシリアが悪いとは言わない。ただ、二人の指導は彼に合っていないのだ。彼に合わせた指導になっていない為に、自分の目線でだけの指導になりがちなのだ。
「竹刀の時は何もないんだ。ISの時に感じてさ」
「おお、じゃあ簡単な答えです。ラストサムライの納得いく答えを導き出したと自負しております」
木刀を仕舞い、赤色少女は剣道部を後にした。
「答えは!?」
一夏への答えはお預けだった。