シロナは考えていた。
チャンピオンを退いた今、どうするのかを
――シンオウ地方
ポケモン研究家の一人であるナナカマド博士が住む地方であり。 ついこの前、
新たなチャンピオンが生まれた場所である。
新チャンピオンはまだ10代の少年であったとか、伝説に登場するポケモンを鎮めたことがあるなど彼の話題が尽きることはまだしばらくはないだろうが、今は置いておこう。
場所はカンナギタウン。
テンガン山と呼ばれる空を貫く巨峰の麓にある小さな町。
町の中心には遺跡があり、入り口の左右には二体のポケモンが刻まれている。
その町に、籠をつかんだ大きな翼をもつポケモンムクホークがゆっくりと降り立った。
ズシン、とう音を立て着陸した後籠の扉が開き、中から出てきたのは一人の美しい女性であった。
「リーグ会場からここまでありがとうございました」
膝まで伸びる金色の髪、ファーのついた黒いコートを着たその人物はうんと背筋を伸ばしなが籠の主人に声をかけた。
「いやいや、良いってことよチャンピオン……って、あ」
そういって主人はやってしまったという顔をする。
その光景をおかしいと思ったのか、女性は笑いながらこう返すのだった。
「ふふ、もう私はチャンピオンじゃないですよ?」
その笑みには何の陰りもなく、一仕事終えたといったような顔だった。
「すまんな。 まだ慣れなくてな……それで? これからどうするんだ
「そうですねぇ……」
女性は、否、元シンオウ地方ポケモンリーグチャンピオン。
シロナは、籠の中から自身の荷物と
「しばらくは世界を回ってみようと思います。でもまずは……」
――部屋の掃除からですね。
シロナは、片づけられない女だった。
「これで良しっと」
掃除道具を手持ちであるポケモンガブリアスに持たせて家に帰ったシロナは、3時間の格闘に末に自身の部屋を片付けることに成功していた。
作業着に着替え髪を縛り、両手に箒とゴミ袋と先ほどまでの姿とは打って変わってガテン系といっ多様な雰囲気になっている。
長老であり彼女の祖母である人物は年齢もあってかあまり動けずあまり掃除ができないことと、様々な場所で手に入れてきた古代の遺物や関係する資料群でいっぱいになっていたその部屋はきれいに掃除された。
「ちょっと帰ってないだけで毎回ここまでなるとはねぇ……」
彼女にとっての
リーグでのチャンピオンとしての仕事をはじめ、趣味であり域外でもある各地方における歴史や伝説の調査、手持ちの世話はトレーニングなどなど。
それらがちょっとで済むあたり、シロナはチャンピオンたり得るバイタリティと素質を持っていたということだろう。
そんな彼女の元に、祖母がお茶を入れて持ってきた。
「ありがとう、おばあちゃん」
祖母から湯呑を受け取り一息をつき、さてこれからどうしようかと考える。
日はまだ空の真上に陣取っており、時間はまだあることを知らせている。
休養を取るのもいいだろうか? 最近は手持ちとのゆっくりとした時間はとれていなかった。
「よし」
そうと決まれば話速い、祖母が入れてくれたお風呂に入り。 体についた埃を落として手持ちのポケモンが入ったモンスターボールを手に取ろうとした時だった。
祖母が、シロナに声をかけたのだ。
何かあったのだろうか? そう思いながら振り向くと祖母が赤い光沢が鈍く光る手のひらサイズの直方体を持っていた。
話を聞くに、空が赤くなりテンガン山に異変が起こった際の振動で遺跡の壁が少し崩れ、壁の中からこの箱が出てきだという。
「見たことがない……金属? いえ、加工した鉱石かしら?」
祖母から直方体を受けとりじっくり触る。
普通の素材ではないそれはすぐに分かった。 だがシロナにはどこか覚えがあるような気がした。
記憶をたどれば、自身を倒した少年の顔と。その手にもつ
「あのプレートもこんな感じの鉱石だったような……ん?」
シロナが直方体に目を凝らすと、うっすらと線のようなものが見えた。
もしやと思い引っ張ってみると、少しの抵抗を感じながらもそれはふたを開けた。
「これは……」
中に入っていたものは、
それだけならば何ら問題はない、シロナも回ったことのある遺跡で見たことがあるからだ。
だがこれはそうではない。
明らかに遺跡から出てくるような代物ではない、それはどう見ても
そこで、シロナの頭にはあるポケモンの名が浮かぶ。
「ディアルガに何か関係が?」
ディアルガ。 その神の名は、最近聞いて新しい。
その
このポケモンが生まれたからこそ、今現在時間が流れているのだと
ならば、なぜディアルガはこの端末を過去に送ったのだろうか、理由は?、誰に?、疑問は尽きない。
「おもしろいじゃない」
シロナはそうつぶやいた。
にんまりとおもちゃを与えられた子供のように、鉱物を見せつけられたポケモンのように。
昔からの原動力である
手はゆっくりとその端末に伸びていく、何かあった時に用心させるポケモンも出さず、いつの間にかいなくなっていた祖母の行方を気にせずに。
最初の感想はひんやりと冷たいということだった。
だがその感想はすぐに忘れ去られた。 なぜか? それが起動したからだ。
「わ!?」
驚いてシロナはそれを落とすも、慌てて拾い上げた。
表面に傷はついてはいない、意外に頑丈なようだった。
「電源が入るとはね……形状といい何かポケモンの加護のようなものがあるのか……っとこれは?」
操作していくと出てきたのはヒスイと表示されるマップ、そして
「ヒスイ……かつてのシンオウ地方の呼び名ね。 こっちの写真は?」
写真に写るのは一人の少年と数々の人々。
「
そして
「
そのすべてに聞き覚えはない、写真を見ていけば見たことあるポケモンや少し違うポケモン、そしてどこかで見たことのあるような人々。
一日では見切れないであろう量がそこに記録されていた。
「ふぅ……ちょっと休憩」
夢中で眺めていたシロナは画面から目を離す、眉間をほぐし目の疲れを癒しながらふと外を見た。
「え、もう夜!?」
外は真っ暗、太陽の代わりに月が昇り、虫ポケモンたちの声が聞こえ始めていた。
「ふふふ、年甲斐もなくはしゃいじゃったみたいね」
笑いながら端末に目を落とし、再び上げた顔にはさらに沸き上がった好奇心と決意の目。
「うん、決めた」
彼女は一人のポケモントレーナー。
「これからどうしようかと思ってたけどちょうどいいわ」
考古学者であり
「この写真に写ってる場所探して全部回ってしまいましょう!」
見果てぬ伝説を追いかける者である。
決意を新たに、カンナギの夜は過ぎてゆく。
――空に裂け目は、