ショウちゃん闇堕ちルート   作:aruseus

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テルとショウ

 

 

 

 ここ数日、ツバキは、迎月の戦場にやってきたポケモン―クレセリアに悩まされていた。マルマインは隠れてしまうし、ツバキもクレセリアの発するオーラで近づけない。たまたまやって来たウォロという男がクレセリア退治を引き受けてくれたが、しばらく戦って匙を投げた。

 

「どうするかなあ……アニキに頼むしかないか?」

 

 とはいえ、マルマインの世話は基本的にキャプテンの役目。自分で何とかできないだろうか?

 

 ツバキが岩に背をもたれて考えていたそのとき、どこからか羽ばたく音が聞こえてきた。顔を上げて薄暗い空を見ると、巨大なウォーグルが飛んでいるのが見えた。

 

 ウォーグルはこちらへ急降下すると、地面からすれすれのところで滑空してくる。そして風を巻き起こしながらツバキの目の前で再び空へと舞い上がった。吹きすさぶ風が収まってツバキが再び前を見たとき、そこには一人の少女が立っていた。

 

「あなたは……ショウ?」

 

 ツバキの目の前にいたのは、「元」ギンガ団の隊員、ショウ。前にツバキと真剣勝負を繰り広げ、マルマインを鎮めた者である。しかし、記憶の中にある彼女とは違い、目には冷ややかな光をたたえていた。ツバキは戸惑いながら、彼女に話しかけた。

 

「もうギンガ団でなくなったあなたが、なぜこのツバキのもとに来たんだい? 申し訳ないが……」

 

 ショウは何も答えず、モンスターボールを投げてきた。ショウとツバキの間にたちまち九つの尾をもつ狐―キュウコンが現れ、こぉん、と鳴いた。

 

 ショウはツバキを指し、一言だけつぶやく。

 

「だいもんじ」

 

 ツバキはとっさに自分の手持ち―スカタンク、ズバット、スコルピを呼び出す。3匹がツバキの前に立ちはだかった直後、キュウコンが燃え盛る火焔を放ってきた。

 

 熱風。すさまじい高熱と炎の眩さに、ツバキは思わず目を閉じる。熱が和らいでからおそるおそる目を開けると、キュウコンのだいもんじをまともに食らったスカタンクは倒れていた。

 

「な、なぜこのツバキを襲うんだ!」

 

「別に貴方が目的ではありません。ここを通るうえで邪魔だったので、ついでに死んでいただこうかと」

 

「何を言ってるかさっぱりわからない……スコルピ、ベノムショック! ズバット、かぜおこし!」

 

 毒液と突風が混ざり合い、毒霧となってキュウコンを包む。弱いポケモンであれば一瞬で卒倒する攻撃だが、その中にあってキュウコンは平然としていた。その体躯の大きさからして、オヤブンと呼ばれる能力の高い個体なのだろう。ショウは動じず、淡々と指示を続ける。

 

「キュウコン、じんつうりき」

 

 キュウコンの眼が妖しく輝いた。スコルピとズバットは見えない腕に掴まれたかのように動きを止め、苦しみ始める。やがて2匹は呪縛を解かれ、力なく地面に落ちた。

 

 ショウは2匹が戦えなくなったのを確認すると、手持ちをすべて失ったツバキに目をやった。

 

「うわあああ!」

 

 その瞬間、ツバキは踵を返して走った。あれは本気だ。どうしてここへ来たのかはわからないが、ただ一つ理解できたのは、逃げなかったら確実に殺されるということだった。

 

 無我夢中で駆けた。背後からいくつもエナジーボールが飛んできて、頬や脚をかすめていく。あのキュウコンの攻撃範囲から早く逃げ出さなくては―そう思ったとき、足が宙を踏んだ。

 

 目の前が崖だということに気づいていなかった。ツバキはそのまま真っ逆さまに落下した。

 

 

 

 

 

 

 ショウによる襲撃の報を聞いてから、俺は微妙な位置に立たされていた。幸い、デンボク団長はやはり俺を処刑するとは言いださず、ただセキとカイに一言、

 

「さあ行け。私は五日待つが、もし彼が危険だと考えたなら二人の一存で切り捨てていい」

 

 と言い、机に座っただけだった。

 

 セキとカイに連れられてギンガ団を出ると、カイは顔を真っ赤にして怒り始めた。

 

「何あれ。最初に私たちの言葉を聞かずにショウをどっかにやったのはあの人じゃない。今度も同じ失敗をさせるわけ?」

 

「ま、そういう立場にあるんだからしょうがないさ」

 

「それにショウがポケモンで人を襲うなんて……そんなのありえない」

 

「どうだろうな。追い詰められたらピチューでもニャルマーを噛むからな」

 

 セキとカイがどんな態度を取ってくるだろうかと内心緊張していたので、俺はほっとした。少なくとも彼らからは俺への敵意のようなものは感じられない。

 

「そういえば、異変を解決するために俺が必要って言ってたけど、そもそも異変ってなんだ?」

 

「あなたが落ちてきた時空の裂け目よ。それと、あの空の色。普通じゃないでしょ」

 

「もともとじゃなかったのか……じゃあなんで俺が?」

 

「ショウと同じ、裂け目から落ちてきた人だから。あなたたちは、ポケモンを鎮めたり使役する、普通の人にはない才能をもってる。だから、何かできるはずだと信じてる。私はまだわからないけどね」

 

 自分でも本当にあるかわからない力を当てにされているのは不安だが、期待されている以上は応えなくてはならないだろう。そうしなければ命すら危うい。

 

 俺がごくりと唾を飲み込んだそのとき、ギンガ団本部からラベン博士とシマボシ隊長が現れた。ラベン博士は俺の姿をみとめると、駆け寄ってきた。

 

「ああよかった、まだいた。君に相棒のポケモンを用意してあげようと思って慌てて僕の研究室から持って来たんです」

 

「相棒? 俺はギンガ団に入ってないけどいいのか?」

 

「確かにそうですが、君の活動はコトブキムラ、いやヒスイに住む皆のためになるはずです。であれば、ギンガ団も協力を惜しむべきではない。ですよね? シマボシ隊長」

 

 シマボシがうなずくのを確認すると、ラベン博士はうきうきとした様子でポケットからモンスターボールを2つ取り出し放り投げると、2体のポケモンが現れた。

 

「モクローとヒノアラシです。もう一匹は僕が研究する予定なので、一匹しか差し上げられませんが……どちらがいいですか?」

 

 本当にタダでもらっていいらしい。俺はラベン博士の好意に甘え、2匹から相棒を選ばせてもらうことにした。どちらを選ぶべきか迷ったが、モクローを相棒にすることにした。理由らしい理由は特にない。鳥が好きだからである。

 

「ありがとう。俺、大事に育てるよ」

 

「応援してますよ。あ、そうそう、これも……」

 

 ラベン博士はそう言うと、俺に厚い帳面を渡した。ページを繰ってみると、そこにはポケモンについての情報が女の子の字でびっしりと記されていた。しかし、途中からは何も書かれておらず、真っ白である。

 

「これはポケモン図鑑。ヒスイに住むポケモン調査の成果です。シマボシさんによる考察を加えた複写が本部にありますが、無くさないよう気をつけてくださいね」

 

「えーと、これはどう使えば?」

 

「君が時空の裂け目を何とかしなくてはならないことは知っていますが、暇なときでいいのでポケモン調査を進めて図鑑を書いてほしいのです。今は君を正式な調査隊員にできないのは申し訳ないですが、やはり我々には君たちの力が必要です」

 

「わかった。……やってみるよ」

 

「ありがとう。あと、シマボシさんからも何か言いたいことがあるらしいですよ」

 

 ラベン博士はそう言って、シマボシ隊長の方を見た。険のある表情をしており、寄らば斬る、というような雰囲気の女性である。俺が少し身構えると、シマボシ隊長は動きやすそうな服を差し出した。

 

「さすがにその珍妙な格好のままだと変な目で見られるだろう。隊服はやれんが、あとでこの着物に着替えろ」

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

 その迫力に自然と敬語になった。

 

「そして命令す……いや、君はギンガ団ではないから命令はできないか。単なる個人的な頼みとして聞いてくれ。もし外でショウに会ったらこれを渡してほしい」

 

 シマボシ隊長から受け取ったのは一枚の手紙だった。

 

「これも調査と同じように、できるときにやればいい。やってくれるか?」

 

「……はい」

 

 俺がうなずくと、シマボシ隊長は「よし」と言って踵を返し、本部へ戻っていった。

 

「せっかちな人ですね……とはいえ、僕も裂け目を何とかする方法を探らなければならないので戻らなければなりません。見送りが最後までできないのは残念ですが、グッドニュースを待ってますよ!」

 

 ラベン博士はそう言い残して去っていった。

 

「さて、ここからの方針について話し合おうか」

 

 振り返ると、セキは腕を組んで俺とカイを見回した。

 

「今回の事件は規模からいって間違いなくシンオウ様が関わってると思う。なら、その解決法も神話や言い伝えにあるはずだ。お前ら、神話の知識に詳しそうなやつ、誰か知ってるか?」

 

「俺はこの村に来たばかりだからなあ」

 

「まあテルはそうだろうな。カイは?」

 

「私もそんなには……あっ、イチョウ商会のウォロって人が詳しいかも。あちこちの遺跡を巡ってるみたいだし何か知ってるんじゃない?」

 

「じゃあそいつを今から俺が探そう。ただ、そいつが見つかるまで時間がかかると思うから、その間にテルは相棒を強くするなり、増やすなりしとけ。俺とカイがいつでもお前を守れるってわけじゃねえからな」

 

 確かにその通りだ。この事件を解決するために危険な地域に踏み込む必要もあるだろうし、強くなっておかなければならない。

 

「でも、弱いポケモンのいる地域で修業を始めても強くはならないわ。ある程度手ごわいポケモンのいるとこを目指さなくちゃ。群青の海岸とか」

 

「それ、だいぶ危ないんじゃ」

 

「大丈夫! 危なくなったら私とグレイシアが助けるから」

 

 いつの間にかカイの足元にはその相棒であるグレイシアがいた。見た目は可愛らしいが長のポケモンということは、一瞬で人間を凍り漬けにするくらいには強いのだろう。

 

「じゃ、決まりだな。お前がどれだけ強くなれるか楽しみにしてるぜ」

 

 こうして俺はセキと別れ、その日の夜、カイとともにコトブキムラを出発した。

 

 

 

 

 

 

 テンガン山から戻りの洞窟ベースキャンプに帰ってきてから少し仮眠をとった。起きたとき、あたりはすっかり夜のとばりが降りていたため、私は炎を起こして暖を取りながら夕食をとることにした。

 

 メニューはウォロが用意していた食料の中で最も足の早そうなイモモチ。それに黒曜の原野で採取したキラキラ蜜をかけて齧ると、濃厚な甘味が口に広がった。

 

 やはり一仕事した後の食事は格別だ。ツバキを逃がしたのは不満だったが、こわもてプレートの回収は完了した。そのうえ、かなりてこずったがクレセリアを捕まえることができたのだ。

 

 もちろん、これを手持ちに入れると7体以上を連れ歩くことになるので手持ちから1体だけ外してここに置いておく必要がある。

 

 というのもポケモンに指示を出すためにはポケモンとの心のつながりのようなものが必要であり、それを分散させられる上限が私の場合は6体だからである。7体以上だとポケモンとの繋がりが薄れ、言うことを聞かなくなる。

 

「どうしますかね……」

 

 私が考え込んでいると、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。コンゴウ団かギンガ団の追手かとボールを構えたが、闇の中から現れたのはウォロだった。

 

「もう帰ってたんですね。さすがです。プレートは?」

 

「もちろん回収しましたよ。どうぞ」

 

 私がプレートを手渡すと、ウォロは嬉しそうにそれを鞄に入れた。

 

「どうも。そうそう、プレートの在処ですが、2ヵ所だけわかりました。火吹き島の洞窟とキッサキ神殿の開かずの間。キッサキの方はジブンも行ったことがありますが、開け方がわかりませんでした」

 

 となると、明日はこの本拠地に近く、簡単にプレート回収ができそうな火吹き島に行くべきだろう。ウォーグルならこの戻りの洞窟から火吹き島まで一直線に飛んでいけるが、今回は目指す場所とキャンプが近い。本拠地の位置を知られるのはまずいので、目立たないようイダイトウを使って島へ向かった方がいい。

 

 計画を考えていると、ウォロは何か重要なことを思い出したかのように手を打った。

 

「そうだ。面白いことを聞いたんでした。時空の裂け目から始まりの浜にまた人間が落ちてきたそうです」

 

「2人目?」

 

「はい。今度はテルという名前の男の子です。記憶を無くしていて、ポケモンを扱う才があるとか」

 

 さらに彼が落ちてきたときの話を聞くと、その状況は私のときと酷似していた。ノボリとは違い、明らかに代役として呼ばれている。

 

「私に与えられていた使命はやはり時空の裂け目を繕うことだったのかもしれませんね。私がそれをするつもりはないから、2人目を呼んだのかも」

 

 私の言葉に、ウォロはため息をついた。

 

「では、アルセウスはあくまで代理人にこの問題を解決させるつもりということですか。アルセウスが出て来ないなら、やはりプレートを集めておかなければ」

 

「そうですね。ところで、彼はどうなったんですか?」

 

「まだジブンがコトブキムラにいたときは決まってませんでしたが、風の噂ではあなたの後任になるようです。裂け目をふさぐ方法をさぐるという使命を負って」

 

 ふざけるな、と思った。ならなぜ私を追いだした。どうせテルが裂け目を閉じても、また何か不可解なことがあれば彼のせいにして追い出すのだろう。彼らの態度はよくわかった。プレートがそろったら、コトブキムラへ行って焼き討ちをかけなくてはならない。炎と煙でいぶり出して、ポケモンに襲われる恐怖を骨の髄まで理解させてから殺してやる。

 

「ま、ジブンはもう裂け目を維持してもいいことはないことが分かったので協力してやりますが。それにしてもショウさん、怖い顔してますね。それ、人に向けていい眼じゃないですよ」

 

「……以後気をつけます」

 

 私はそう言って、再びイモモチを齧る。燃える焚火の色が私の目に映り、明々と輝いていた。

 

 

 




手持ち上限の話はアルセウスの世界観的に推測したものです。手持ち数が命に関わるはずの野盗が1人1~2体しか連れてないのを見るに、デンボクの5体とかムベ、ペリーラの4体所有は結構すごいことなんでしょうね。時空の裂け目組(主人公、ノボリ)やウォロが規格外なだけで。
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