ショウちゃん闇堕ちルート   作:aruseus

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火吹き島、異邦人の対決

 

 

 

 

「フローゼル! アクアジェットからかみくだく!」

 

 テルが指示を出した瞬間、水を身にまとったフローゼルは目にもとまらぬ速さで敵―野生のドラピオンに痛撃を加える。そしてそのままの勢いでドラピオンに組み付き、その腕を嚙み砕いた。

 

 ドラピオンはフローゼルを振り払ったが、その動きは弱弱しい。ドラピオンの体力が限界に近いことを察したテルは、すかさずボールを投げた。

 

 ドラピオンはボールに吸い込まれ、地面に落ちる。固唾をのんでテルが見守っていると、ボールは大きく跳ね、再び落下して捕獲完了の花火を打ち上げた。

 

「やった! 俺の4匹目の相棒だ。カイ! 見てたよな!」

 

「うん。しかもオヤブンよ。そのドラピオン」

 

 テルは砂浜に落ちたボールを拾い上げ、嬉しそうにポーチにしまった。

 

 カイとテルは昨日コトブキムラを出て黒曜の原野、紅蓮の湿地を越え、群青の海岸へとやって来ていた。

 

 テルは黒曜の原野でブイゼルとムックルを相棒に加え、群青の海岸でカイの助けを借りながら戦ううちにモクローはフクスローに、ブイゼルはフローゼルに、ムックルはムクバードに進化していた。

 

(やっぱり、彼らはポケモンに関してはすさまじい才能を持ってるわね)

 

 カイの助けで群青の海岸にいるそこそこ強いポケモンと戦えたとはいえ、短期間で成長した。手持ちも難なく4匹に達しているし、一瞬で相手ポケモンの弱点を見抜き立ち回るのを見ていると、まるで常に戦いに身を置いてきた人間のように見える。

 

 彼は記憶を失っているそうだが、もしかすると優秀なポケモンつかいだったのかもしれない。

 

(ショウも……そうだったのかしら)

 

 テルの戦う姿を見ていると、自然とショウを思い出してしまう。彼女はバトルのコツを聞くたびに柔らかい笑顔を浮かべ、図鑑を見せながらやさしく教えてくれた。

 

 教えてくれることは必ずしもカイの役に立つものではなかったが、彼女の優しさは長としての責任に押しつぶされそうだったカイを励まし、救ってくれた。

 

 だからこそ、ショウがツバキを襲ったという話を聞いたときは、信じられなかった。いや、今も信じてはいない。何かの間違いだろうと思っている。そうだ、きっと彼女に会えたら、またあのときと同じように笑いかけてくれるはずだ。

 

 そんなことを考えながらテルを見ていると、彼は不思議そうにカイの顔を覗き込んだ。

 

「どうかした? 俺の顔に何かついてる?」

 

「いや……テルは強いなって。さっきのドラピオン、ここでは有名な暴れん坊だよ」

 

「やっぱりそうか。皆で頑張らなきゃ勝てなかったわけだ」

 

「でも、勝ったんでしょ。それなら海岸のポケモンじゃ歯ごたえがないわ。火吹き島に行くべきよ」

 

 煮えたぎるマグマがそこかしこから吹き出す火山島。暑さに弱いカイにとっては行きたくない場所であるが、テルを強くするなら、あの島のキングと手合わせさせるべきである。

 

「なるほど……で、どうやってあの島まで行くんだ?」

 

「イダイトウに乗っていくの」

 

 ススキに音色を合わせてもらった笛を吹くと、一匹のイダイトウが波打ち際に姿を現した。

 

「さあ、行きましょ。ウインディに会いに」

 

 

 

 

 

 

 火吹き島に上陸して、その暑さに驚いた。溶岩から大量の蒸気が吹きあがり、生息する炎ポケモンたちの熱もあいまって凄まじい高温となっていた。

 

「暑いいい……」

 

 ここへ連れてきた張本人であるカイは、汗をぬぐいながらのろのろと俺の後ろを歩いていた。相棒のグレイシアもカイと同じようによたよたとついてくる。

 

「だらしないなあ、ここに連れてきたくせに」

 

「普通ならこんなところ絶対に来ないわ! というか前来たときよりずっと暑くなってるの」

 

「こんなところ、ですか。言ってくれますね、カイ」

 

「……ガラナちゃん」

 

 声のした方を見ると、ゴーグルを首から下げた女性がいた。ガラナというらしい。隣には気の弱そうな色黒の男が立っていた。

 

「ちゃんづけしないでっていつも言ってますよね。そちらは?」

 

「俺はテル。ウインディに稽古をつけてもらうために来た」

 

 カイが里で起こったことを話すと、ガラナはなるほどとつぶやいた。

 

「しかし、今は問題がありまして。この気温の異様な高さの原因を調べるため、ススキ様とともに火口の祠を調べに行こうと思っているんです」

 

「……だったら、テル様とカイ様に同行していただくのはどうでしょうか。人数が多ければ調査もはかどるのでは」

 

「それもそうね」

 

 それを聞いたカイは、露骨に面倒臭そうな顔をした。さっさと用を済ませて火吹き島を出られないことがよっぽど嫌らしい。

 

「それ、私が行かないと駄目かなあ」

 

「はは、ご冗談を……」

 

 ススキは何かを言いかけ、はっと口をつぐんだ。坂道の下を見て、目を見張っている。

 

「どうかしたか?」

 

 ススキの視線の先を追うと、坂道を駆け上がってくるアヤシシの姿があった。その背に乗っているのは、白い頭巾をかぶった少女。服装を見るに、ギンガ団の一員なのだろう。

 

 しかしそれにしてはススキの表情は妙だった。まるでありえないものを見ているかのような驚き。半開きになった口から、言葉が漏れた。

 

「ショウ様……」

 

 彼女がショウなのか。俺と同じ境遇で、追放されて行方不明になった元ギンガ団員。カイとガラナもショウがここへやって来るのに気がついたらしく、会話を中断した。ショウは俺たちの数メートル手前でアヤシシから降りると、俺たちに射すくめるような視線を送った。

 

 最初に動いたのはカイだった。前に進み出ると、こう切り出した。

 

「ショウ。ツバキさんを襲ったってのは本当?」

 

「襲ったからなんだと言うんですか」

 

 カイは、ショウの言葉にショックを受けたようだった。

 

「どうして……あなたはそんなことする人じゃないでしょ?」

 

「どうして? それをカイ、あなたが言うんですか? 私がコトブキムラから追い出されたとき、シンジュ団は何をしてくれましたか?」

 

「……助けようとしてたの」

 

「私が会ったシンジュ団員はそんなこと言ってくれなかった」

 

「本当だよ! お願いだから目を覚ましてよ!」

 

 叫ぶカイを、ショウは冷めた目で見ていた。そしてため息をつくと、黙ってポケモンを繰り出してくる。現れたキュウコンは目の前のカイの方を向いた。

 

「ねえ、嘘だよね……嘘だって言って」

 

 カイは涙を流しながらショウに語りかける。しかし、どう見てもショウは話が通じるような状態ではなかった。どろりとした憤怒の気配は、ますます濃くなっていく。

 

「黙ってください。あなたには、いつも苛々させられて……ずっと前から嫌いでした。キュウコン、だいもんじで焼き尽くしなさい」

 

 へたりこんだカイに、キュウコンが炎を放った。

 

「危ない!」

 

 その瞬間、ススキがカイを突き飛ばした。「だいもんじ」の炎は先ほどまでカイのいた空間を焼き尽くし、エネルギーを散らす。あれが当たっていたら、間違いなく彼女は死んでいただろう。

 

 カイはススキに支えられていたが、目は焦点が合っておらず、茫然としていた。

 

「ショウが……私を殺そうとした? なんで? なんで?」

 

 駄目だ。カイはとてもではないが戦える状態ではない。俺が何とかしてショウを止めなくては。

 

「ススキさん。ここは俺が何とかする。あんたはカイを連れて逃げろ」

 

「わかりました。テル様も気を付けて」

 

「ああ」

 

 俺はうなずき、手持ちの4匹―フクスロー、フローゼル、ムクバード、ドラピオンを繰り出した。

 

「行け! 皆!」

 

 それに気づいたショウは、カイとススキから俺へと視線を移した。

 

「ひょっとして、あなたがテルですか?」

 

「それがどうした」

 

 そう言うと、ショウはふっと笑った。

 

「なぜあなたは彼らに協力しているんですか? どうせ彼らは私たちのことなど信用しない。利用された挙句捨てられるのがオチ……いや、私という前例がいる以上、殺されるかもしれない」

 

「そうか? 俺はそんなことになるとは思わない。セキとカイは特にいい奴らだし」

 

「私も前はそう思ってたんです。悪いことは言いません、あなたも私と一緒に来るべきです」

 

「……俺が来ると言ったらどうするんだ?」

 

「一緒にプレートを集めましょう。私の望みはそれを揃えて、この不愉快な世界を丸ごと壊してしまうことです」

 

「正気じゃないな。それが本当にできるとしても、俺はやらないね。お前の恨みがどれくらい強いのかは知らないが、それが正しくないことだってことくらいはわかる。……フローゼル、みずのはどう!」

 

 不意をついてフローゼルが放った「みずのはどう」が、キュウコンに命中した。水タイプの技なら、炎タイプのキュウコンに大ダメージが入る。そう思ったが、キュウコンはまだ立っていた。ショウと俺のポケモンの間には、相当な実力差があるらしい。

 

「なるほど、それがあなたの答えですか。キュウコン、エナジーボール」

 

「まずい、かわせ!」

 

 間一髪でフローゼルは攻撃を避けた。今の技は、キュウコンの弱点―水タイプに対する攻撃手段だろう。彼女の心はすでに狂気に染まっているようだが、バトルの思考には一糸の乱れもない。

 

 ショウは俺の動きを予想し、攻撃をいなしつつフクスローには炎、フローゼルには草の技で着実に反撃してくる。もしも俺が4体同時に出していなければ即座に負けていただろう。

 

 何度かの際どい折衝を経て、ついにキュウコンを倒す絶好の機会が訪れた。だいもんじを放つためにキュウコンがフクスローの方を向いた瞬間、フローゼルが死角に入ったのである。

 

「今だフローゼル! アクアジェット!」

 

 フローゼルの一撃をまともに食らったキュウコンは吹き飛ばされ、そのままダウンした。ショウは倒れたキュウコンをボールに戻し、新しいボールを取り出した。

 

「お疲れ様です、キュウコン。では行きますよ、クレセリア!」

 

 ショウが繰り出した新手は、光り輝く三日月の化身のようなポケモンだった。テルのポケモン図鑑には載っておらず、情報は全くない。しかし、それが先ほど相手にしていたキュウコンよりもはるかに強力であることを、テルは直感していた。

 

「サイコキネシス」

 

 クレセリアが青白い光を帯びたかと思うと、フクスローとフローゼルが猛烈な勢いで岸壁に叩きつけられた。

 

「フクスロー! フローゼル!」

 

 2体ともノックアウトされていた。万全な状態なら耐えていたかもしれないが、キュウコンとの戦いですでに皆疲れ切っていた。テルは唇を噛み、ドラピオンに指示を出す。

 

「シザークロス!」

 

 ドラピオンの爪がクレセリアに食い込んだ。だが、致命傷と言えるほどのダメージからは遠い。追撃を加えようとしたそのとき、ショウが指示を出した。

 

「みかづきのいのり」

 

 すると、みるみるうちにクレセリアの傷が修復され、元に戻った。さらに辺りが白く輝く煙に包まれ、視界が悪くなる。

 

「ドラピオン、クレセリアを捕まえろ!」

 

 しかし、ドラピオンの伸ばした両腕は空を切った。やはり、この白煙の中では攻撃が当たらない―

 

「ムーンフォース」

 

 閃光。気がつくと、テルの目の前には力尽き地に沈んだドラピオンがいた。

 

(……駄目か)

 

 ムクバードはまだ戦えるが、クレセリアを倒すことはまずできないだろう。それにショウが出したのは2体だけで、残りは無傷で温存されている。勝ちの目はない。

 

 薄れていく煙の中から、ショウとクレセリアが姿を現した。

 

「さて、テル。あなたを殺すのは心苦しいので、もう一度聞きます。私とともに来てはくれませんか」

 

「……俺がいなくなったら、俺を信頼してくれたやつらに迷惑をかけることになる」

 

「そんなこと気にしないでいいんですよ。ほら、あなたを置いて皆逃げちゃったじゃないですか。あなたはそんな連中に気遣う必要なんてないんです」

 

 そのとき、ショウの背後から何かが襲いかかった。完全に虚をついた一撃に見えたが、ギリギリのところでクレセリアが割り込み、それを受け止める。

 

「ウインディ……」

 

 それは、堂々とした体躯と黄金の毛並みをもつ群青の海岸のキング、ウインディだった。

 

「あたくしは逃げたわけではありません。ウインディを呼んでいたのです」

 

「ガラナ……!」

 

 ショウが姿を現したガラナに目を向けた瞬間、俺は駆けた。何かされるかと思ったが、ショウは急襲してきたウインディの対処に忙しいらしく、無反応だった。

 

 ガラナの傍に来て、俺は踏みとどまろうとする彼女の腕を引っ張った。

 

「逃げよう。今の俺たちじゃ絶対勝てない」

 

「しかし、ウインディは戦っています。キャプテンであるあたくしが離れては……」

 

 ガラナがそう言ったとき、一匹のガーディがやって来て彼女の袖を引っ張った。まるで、逃げて、と言っているように。

 

「逃がしません。レントラー! 追いなさい!」

 

 ショウはこちらの動きに気づいたらしく新しいボールを投げてきた。レントラーは鋭い目つきでこちらを一瞥すると獰猛に吼えた。それを見たガラナは少し瞠目し、うなずく。

 

「……仕方ないですね。ウインディ! 武運を祈ります!」

 

 ウインディはそれに応えるようにひときわ大きい遠吠えをあげる。俺たちは、島の海岸に向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ウインディ、あなたはよく戦いました」

 

 ショウの足元には、うつ伏せで倒れているウインディがいた。無数の傷跡はウインディの激闘を物語っている。彼女の前には盾としてウインディの攻撃を耐え続けたクレセリア、矛として攻撃を続けたダイケンキの姿があった。

 

「では、とどめを刺しますかね。ダイケンキ、ハイドロ……」

 

 ポンプ、と言いかけ、ショウはダイケンキの様子がおかしいことに気がついた。じっと瀕死のウインディを見つめ、攻撃のそぶりを見せないでいる。

 

「……そうですね。ここまで追い込めば別にポケモンを殺す必要はないですし、あなたがやりたくないならやめておきます」

 

 ともかく、これで火吹き島を自由に調べることができる。レントラーが戻ってきたらさっそくプレート探しを始めよう。

 

 そう思ったとき、涙を流すカイと、懸命に戦うテルの姿をふと思い出した。

 

「プレートを集めればいいんです。そう、余計なことを考えなくてもいい」

 

 ショウは自らに言い聞かせるようにつぶやき、胸につっかえていた小さな何かを飲み下した。

 

 

 

 




ショウ手持ち(4/6)+1(戻りの洞窟で留守番)

キュウコン Lv68 だいもんじ エナジーボール じんつうりき シャドーボール
クレセリア Lv71 サイコキネシス ムーンフォース みかづきのいのり サイコカッター
ダイケンキ Lv73 ひけん・ちえなみ ハイドロポンプ メガホーン つるぎのまい
レントラー Lv74 でんじは ワイルドボルト こおりのキバ ほのおのキバ

テル手持ち(4/4)

フクスロー Lv31 エアスラッシュ マジカルリーフ はねやすめ つばめがえし
フローゼル Lv30 アクアジェット みずのはどう かみくだく ダブルアタック
ムクバード Lv30 でんこうせっか エアスラッシュ すてみタックル はねやすめ
ドラピオン Lv45 かみくだく ねむる シザークロス つるぎのまい

文中では明記していませんが一つの技で同時に相手を倒したり連続で技を使っている場合は早業を使っています。
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