ショウちゃん闇堕ちルート 作:aruseus
私は、目の前にいるオマツをじっと見つめた。
「団からあぶれた者同士なかよくしよう、ですか……」
「そうだ。あんただって食事に困ってるだろう?」
「いえ。そこは大丈夫です」
「そうかい。でも、もしものときは助け合える。生きるうえでのリスクを減らせるってもんさ」
助け合い? 手持ちの強さを考えると、私が一方的に助けるだけではないか。それに仲間になったとしてもコトブキムラと真っ向からやりあうような度胸は持ち合わせていないだろう。
「断ります。私にはあなたたちの助けは要らない」
「……そうか。仲間にならないなら、あんたは獲物だね」
そう言うと、オマツたちはボールを投げてきた。出したポケモンはサイドン、ユキノオー、ドクロッグ。以前対峙したときと同じメンバーだった。
「こちらも行きますよ、ユキメノコ」
相手のポケモンはおおむね遅い。敏捷なユキメノコが適任だろう。
「ふぶき」
指示した瞬間、ユキメノコの身体から冷気が立ち上り、あらゆるものを凍らせそうな猛吹雪となって相手に襲い掛かった。ドクロッグとユキノオーは慌てて回避したが、サイドンはかわし切れずまともに攻撃を浴びる。
たちまちオマツのサイドンの身体は凍り付き、そのまま倒れる。しかし、ドクロッグとユキノオーは、前にいるユキメノコに殺到してきた。
「反撃だ! ドクロッグ、どくづき!」
「ユキノオー、ウッドハンマー!」
オウメの指示でドクロッグは毒に染まった拳を、オタケの指示でユキノオーは巨木のような質感へと変じた拳を繰り出してくる。大技の直後なのでさすがにどちらも回避させることはできない。それなら―
「ウッドハンマーを避けなさい!」
ユキメノコは私の意図を理解したらしく、ドクロッグの側に寄ってユキノオーの拳を回避する。しかし当然ながら、ドクロッグの毒手がユキメノコに叩き込まれた。
「やった!」
オウメはにっと笑いを浮かべた。が、ユキメノコには毒タイプの攻撃はたいして効かない。むしろ近づいてくれたことで、こちらの攻撃は当たりやすくなっていた。
「シャドーボール」
ゼロ距離から撃たれたシャドーボールが、ドクロッグの顔面で炸裂した。強烈な一撃を受け、ドクロッグは昏倒する。その瞬間、唇を噛むオウメを守るポケモンがいなくなった。
好機。私はオウメを指して叫んだ。
「シャドーボール!」
「なっ……!」
驚愕するオウメに、ユキメノコはシャドーボールを放つ。しかし、あと少しのところでオタケのユキノオーが身を挺してオウメをかばったため、命中はしなかった。
「今、あたしに撃っただろ」
「だから何です? あなたは人を食い物にしようというのに、殺される覚悟もないのですか?」
彼女たちには真っ向勝負で負ける気はしないが、いつ狙われるか分からない以上、厄介な存在には違いない。煙幕を張って逃げられる前に仕留められればと思ったが、そう甘くはなかったようだ。
「あんた、変わったね。悪い意味で。ギンガ団にいたころも気に食わなかったけど、今は狂ってる」
オウメは、気味の悪いものを見る目で私を見ていた。
「あはは、変わったんじゃなくて変えたんですよ。だって、こんな世界で、私がいい人でいる必要なんてないじゃないですか。ユキメノコ、シャドーボールです」
一発目を耐えたユキノオーも、流石に二度目は耐えられなかったらしく、シャドーボールの直撃を食らって膝をついた。私がオマツたちを見ると、すでに戦いを諦めたのか、全員がけむり玉を持っていた。
「少なくとも、私らは命までは盗らない。あんた、ロクな死に方しないよ」
オマツはそう言うと、けむり玉を床に叩きつけた。他の二人もそれに倣い、煙幕を張る。煙が晴れたときには、3人の姿は消え失せていた。
私はキッサキ神殿から戻り、群青の海岸のベースキャンプへ戻った。ほとんど休みなしで移動し、その間に行った連戦で、疲労は限界に達していた。傷の癒えていたダイケンキを見張りに出し、私は寝床で泥のように眠った。
起きたのは夕方だった。丸一日眠っていたらしい。水浴びや食事などを済ませてもまだウォロは姿を見せない。まだプレートの情報が集まってないのだろう。
(それなら、自由時間ですね)
私は道中で集めていたたまいしやぼんぐりでモンスターボールをいくつか作ることにした。手持ちをこれ以上増やすつもりはないが、コトブキムラの襲撃に使うため、数をある程度用意する必要がある。
私はボールを作りながら、コトブキムラをどう襲撃するか計画を立て始めた。門に火を放ってもいい。野生ポケモンをエサで村に誘導するのもありだ。デンボクはどうしてやろうか。そうだ、ポケモンの入ったボールを口に含ませてスイッチを押すのもありかもしれない。
テルとカイ、セキ……彼らも心の底では私を危険分子として消したがっているだろう。容赦はしない。だが、ラベン博士とシマボシ隊長はどうだろうか。二人を思い出したとき、私は少し迷った。
ラベン博士にはこの世界へ来たときに助けてくれた恩がある。シマボシ隊長が最後にかけてくれた言葉には温かさがあった。
(いや、迷うところはないですね。どうせ皆最後には……)
そんなことを考えていると、ウォロがやってきた。
「ショウさん、戻っていたのですね」
「ええ、どうぞ、こうてつプレートとまっさらプレートです」
「ありがとうございます。そのボールは?」
「これから必要になると思ったので今のうちに作っておこうかと」
「手持ちをまだ増やすつもりですか?」
「いえ。でも、ポケモンを入れるならボールが一番ですから」
ウォロは首をかしげ、さらに質問を重ねようとした。しかし、私が「他のプレートの在処は?」と訊くと、やれやれとばかりに肩をすくめ、話を切り替えた。
「コトブキムラの、デンボク団長が所有しています」
それを聞いて、自然と笑みがこぼれた。コトブキムラ。私にとってなんと因果な場所だろうか。しかもデンボクが所有しているという事実に、なにやら運命めいたものを感じた。
「あそこを襲うつもりですか?」
「もちろん。何か問題が?」
「ありますね。実はデンボク団長は今、テルさんたちとともにテンガン山にいます。ムラを襲ってもしかたない」
「じゃあ私がテンガン山に行きましょう」
「それはジブンが困るのです。ショウさんが負けたらプレート回収が大変になるし、勝ったら勝ったで異変が解決できず、ジブンがアルセウスに会う前に世界が滅亡してしまう。そうなるくらいなら、この場であなたと戦いますよ」
ウォロは鋭い眼でこちらを見つめていた。一瞬、彼と戦ってテンガン山へ行き、テルたちと一戦交えようかとも思ったが、彼の手持ちの強さを考えると現実的ではない。私はため息をついた。
「じゃあ、私に何をしろと?」
それを聞いたウォロは、たちまちあのうさん臭い笑みを顔に張り付けた。
「ズバリ、『赤い鎖』をあなたに作ってほしいのです!」
コギトが教えてくれた異変の解決法、すなわち赤い鎖を作ることを教えてもらってから、俺たちは急いで三つの湖を巡った。シンジ湖でエムリットの感情の試練、リッシ湖でアグノムの意志の試練を受け、そしてエイチ湖で、最も難しいユクシーによる知恵の試練に挑戦した。
ほこらを守る強力なポケモンはセキやカイ、ウォロの助けによって何とかなったものの、この世界へ来てから日の浅い俺にとって、この世界の知識を問う試練は鬼門だったのである。
しかし幸いなことに、ショウが残したポケモン図鑑に問題の答え―ミツハニー、ズバット、アンノーン、レアコイル、サマヨールについての記述があり、そこを読んだことがあったため、何とか答えることができた。
それから俺は霧の遺跡へ行き、試練を乗り越えた証である精霊たちの身体の一部を合わせ、赤い鎖を入手することに成功した。
「これが赤い鎖ですか」
ウォロは俺のもつ「赤い鎖」をためつすがめつしていた。商人らしく値踏みでもしているのだろうか。俺がそう考えていると、セキがじれったそうに口を開いた。
「とにかく、目的のものを手に入れたんだ。デンボクの旦那のとこに行こう。まだ時間はあるが、何が起こるか分からないからな」
「確かにいつ裂け目が不安定になるかわかりませんし、そうした方がいいでしょう。ジブンはちょっと用ができたのでコトブキムラへは行けませんが、頑張ってください」
ウォロはそう言って俺に赤い鎖を返す。
「この空を何とかする以上に大切な用ってなんだ?」
「取引上のパートナーに会いに行こうかと。まあ、どう解決するかは見てみたいと思っているので、すぐ戻って来ますよ。……次はテンガン山の頂上で会いましょう」
そう言ってウォロは去っていった。
「せっかちなヤローだな」
「あなたには言われたくないんじゃないの」
カイが苦笑してからそうつぶやいた。
「そうか赤い鎖……ふうむ」
コトブキムラへ戻り、俺たちはデンボクに解決法とそれに必要な赤い鎖を入手したことを伝えた。デンボクは、はじめ半信半疑というような顔だったが、赤い鎖が未知の素材で作られていることやコンゴウ、シンジュ団の長が超自然的に作られたものだと認めていることもあり、一旦俺を信用することにしたらしい。
「……もし、これでこの騒ぎが解決したら、謝罪せねばなるまい」
「わかってくれれば、俺は別にいいんですけどね」
そう言うと、カイが目を伏せた。そう、問題はショウだ。おそらく、今のタガが外れた彼女に何を言おうと効果はないだろう。
「デンボクの旦那。テルの前任についてはどうするつもりだ? あいつはきっと話を聞かないぜ」
セキは軽く聞く風を装ってはいるが、眼が鋭く光っていた。
「説得するしかあるまい。だが、それでも無差別に人を攻撃するなら、殺……」
「誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ」
ぼそりとカイがつぶやいた。俺とセキは、目を丸くしてカイを見る。
「……ごめん、なんでもない」
カイはそう言って、口をつぐんだ。気まずい空気が流れたが、俺は咳ばらいをして話を続けることにした。
「まあ、話が通じないってわけじゃないと思う。俺にはすぐ攻撃してこなかったし、あいつの目的は今のところ、プレートを集めることらしいから」
俺が火吹き島での顛末と彼女がプレートを集める目的の推察について説明すると、デンボクは気難しそうな顔をさらに険しくした。
「世界を滅ぼすため、神の力に触れるきっかけを探しているというわけか。下手をすると、時空の裂け目より危険な事案だな」
「でも、こちらにプレートが一枚あれば問題はない。あんた、持ってるんだろ? セキから聞いた」
俺がそう言うと、デンボクはうなずく。引きだしから取り出したのは、まな板のようなのっぺりとした物体だった。
「これがここで拾ったものだ。しかし、本当にこれがプレートなのか?」
「たぶん。実は、俺は湖にいるポケモンたちから似たようなものを貰った」
俺は懐から「りゅうのプレート」を取り出した。ユクシーの試練をクリアしたときに足元に落ちていたものである。デンボクのものと形はほとんど一緒で、色だけが微妙に違う。ウォロに鑑定してもらおうと思って忘れていたが、これらがショウの集めているプレートだということはこれでほぼ確定した。
「……とりあえず、俺たちにできることはこのプレートの存在を秘密にしておくことだ。あんたもこのことはこれから口外しないでくれ」
「わかった。他に知ってるのはムベくらいだが、あやつはもうこんな板切れのことなぞ覚えてないだろう。そこは安心していい」
ということは、コトブキムラにプレートがあることを知っているのは俺、セキ、カイ、ウォロ、デンボク、ムベだけということになる。情報が洩れる心配はないだろう。
俺がうなずくと、デンボクはこう続けた。
「とにかく、調査ご苦労。テンガン山へは明日出発する。それとテル、お前には空きの宿舎を提供しよう」
「いいんですか?」
「……信用の証だ」
デンボクはそう言うと、なぜかため息をついて後ろを向いた。その背中には、後悔の感情がにじみ出ているような気がした。
いったん集落に戻るというセキとカイと別れ、俺は与えられた宿舎へ移動した。中はなかなか広く、鏡まで置いてある。ただ、前の住人がいたのか、手ぬぐいや替えの草履などの誰かの私物がそのままになっていた。
草履の大きさや箪笥に仕舞われていた隊服を見るに、どうやらこの部屋を使用していたのは女性だったようだ。そのとき、俺はショウの着ていた隊服を思い出し、まさか、と思った。そしてそれは、囲炉裏の傍においてあった帳面を見つけ、確信に変わった。
その帳面の表紙には、俺の持っているポケモン図鑑と同じ筆跡で、「日記」と書かれていたのである。
ユキメノコ
Lv73 ふぶき シャドーボール まきびし 10万ボルト
ユキメノコは電磁波と怪しい光を高速で撒けるので大好きでしたね。アルセウスは電磁波没収されてて悲しかった……