ショウちゃん闇堕ちルート   作:aruseus

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生ける神話

 

 

 

 医療隊の人に日記を書くと記憶が戻るかもしれないと言われたので、日々の記録をポケモン図鑑とは別に書き残すことにする。今日はムックルとコリンク、フワンテについて重点的に調査した。とぼけた顔をして、一番危なかったのはフワンテ。この前は催眠術で殺されかけたし、子供を連れ去ろうとしていたこともあったので、注意喚起の備考をつけておいた。

 

 それと、ラベン博士の奢ってくれたイモモチという料理が美味しかった。調査中にも食べたいと思ったけど、日持ちしないからいろいろと不便で、あきらめざるを得なかった。氷タイプのポケモンを捕獲したら冷凍して持ち運べないかな。

 

 

 今日は初めてキングを鎮めた。一瞬ヒヤリとする瞬間があったけど、フタチマルがギリギリで攻撃から守ってくれた。デンボク団長に報告したけど、まだ信用はされてないみたい。まあ、これからどんどん成果を上げれば一人前のギンガ団員として認めてくれるよね。

 

 

 群青の海岸に着いた。なんだかカイが落ち込んでたから、慰めておいた。全然頼りないけど、歳が同じくらいの友達みたいで話すのは楽しい。相棒はグレイシアって言ってたから、今度きのみジュースを持って行って一緒にシャーベットを作ってもらおうかな。

 

 

 ミミロルが進化してミミロップになった。これまで十分可愛いかったけど、なんかキレイっていうか、美人になった感じがする。腕がふわふわで、触ってたら癒される。そういえば、ウォロさんのトゲピーも進化したって言ってたけどどんなポケモンになったんだろ?

 

 

 ノボリさんと会った。彼はここにいる意味を自分で見つけたって言ってたけど、正直、私は自分がここにいる意味がよくわからない。キングやクイーンを鎮められるから、それで喜ばれるからやってるんだけど、それが私のいる意味だという確信はない。だから、自分のいる意味なんて考えなくてもいいように、自分がここに来る前どこにいたのか知りたくなる。

 

 少し寂しくなってきたから今日はもう書かない。

 

 

 クレベースを鎮めようとして、久々に死にかけた。本当に命をかけてまで鎮める必要があるのかなと思ったけど、断ったら築いた信頼が崩れるような気がして命令に従った。結局無事に終わったから、まあいいや。明日はちょっとお休みをもらってムラでゆっくり過ごそうかな。

 

 

 

 

 

 

 ショウの日記はそこで終わっていた。日記をさぼった形跡はないから、おそらくこの次の日にムラから追放されたのだろう。

 

 飛ばし飛ばしで読んでいたが、そこには俺が出会ったときのような冷酷な人格は見当たらない。むしろ、見知らぬ土地で懸命に生きようとする普通の女の子の日記にしか見えなかった。

 

 セキやカイとも仲が良かったらしく、日記の中でちょくちょく彼らのことを書いている。俺はショウがカイを殺そうとしたことを思い出し、暗い気持ちになった。

 

(よっぽど追い詰められたのか)

 

 復讐鬼と化すほどの絶望。ギンガ団への憎悪。日記の描写と現在のショウの姿の違いが、その深さを物語っている。彼女がもはやギンガ団やセキ、カイを信用しようとしない理由も、このときに裏切られたショックが大きすぎるのだろう。

 

「……」

 

 人を殺すのは何があろうと許せない。しかし、もしも彼女を救える可能性があるのなら、それに賭けてみたいと思った。

 

(その前にまずショウに勝てるくらい強くならなくちゃいけないんだろうけど)

 

 とにかく、俺のやるべきことは決まった。ヒスイ地方、ギンガ団の人間だけではなく、ショウも含め、皆を助けること。彼らの間にある溝はもう埋められないかもしれないが、それでも何とかしてやりたい。

 

 俺はそう思いながら、日記を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 赤い鎖を入手した次の日の昼頃には、俺たちはテンガン山頂にやって来ていた。先遣隊の報告によると裂け目の向こうにポケモンの影が見えるらしく、俺たちはシンオウ神殿の裂け目におそるおそる近づいた。

 

「あっ……何か、聞こえる」

 

 そのとき、カイがそう言って目を閉じた。

 

「赤いクサリ……よく来タナ、わレを捕マエろ!……だって、シンオウ様の声が、心に直接響いてるみたい」

 

「どういうことだよ、そりゃ……」

 

 セキがそう言いかけたとき、にわかに激しい揺れが始まった。デンボクは、倒れないように踏ん張りながら戸惑うような声をあげた。

 

「なんだこれは!」

 

「きっと、シンオウ様がやって来るんだわ」

 

 カイのその言葉を待っていたかのように、俺たちの目の前に、光の破片をまきちらす奇妙な黒い渦が現れた。吹きつける突風に俺が目をそらした瞬間、そのポケモンは、力強く神殿の床を踏みしめた。

 

「これが……シンオウ様」

 

 肩には光り輝く真珠が埋め込まれており、異国の鎧をまとっているように見える。兜のような頭部の隙間には、見る者を畏怖させるような、鋭い眼がのぞいていた。そのポケモンは俺たちを見て、無限の空間で反響しているような、この世のものとは思えない叫び声をあげた。

 

 そのとき、俺の持っていた赤い鎖が浮かび上がり、その神々しいポケモンを囲んだ。赤い鎖はそれが放つエネルギーに耐えられなかったのか粉々になってしまったが、先ほどまで周囲に放たれていたエネルギーは消え失せていた。赤い鎖には、このポケモンの力を制御する力があるのだろうか。

 

「……シンオウ様、いや、パルキア様は何か、話しかけてくる……」

 

「なんて言ってるんだ?」

 

「乱レた時空、関係……荒ブるイッピキ、ヤッテ来ル、と……」

 

 もう一匹⁉ パルキアと同等の存在がもう一匹来るというのか。

 

「そのために、パルキア様はやって来たって……」

 

「だが、赤い鎖は砕けた……赤い鎖が無ければ、わしらにも押さえはきかんのやないか」

 

 焦るデンボクに、カイは困惑するような表情を浮かべてこう続けた。

 

「いや……残ってる鎖を使えって」

 

「かけらは残ってるけどよ、鎖としては使えないと思うぜ」

 

「でもパルキア様は……!」

 

 カイが反駁しようとしたその時、また振動が走った。神殿のあちこちにひびが入るのを見て、俺たちは慌てて後ろへ下がった。轟音とともに天井が崩落し、槍のような柱がそこに残された。煙がおさまった時、槍の柱の並ぶ向こうには、パルキアと同質の雰囲気を漂わせる神の彫刻のようなポケモンがいた。

 

「あれが、もう一匹……ディアルガ。時間をつかさどる者、だって」

 

 ディアルガが吼えると、ビリビリと衝撃が伝わってくる。圧倒的な力を感じ、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 

(……あれはどうにかなる部類のものなのか?)

 

 明らかに、荒ぶるディアルガのパワーはパルキアを凌駕している。パルキアが力を貸してくれるとはいえ、俺たち全員でかかっても勝てるようには思えない。

 

「鎖が来るまで戦え、と……」

 

 カイが言い終わらないうちに、パルキアは動き出す。次の瞬間、その口から凄まじい熱量の破壊光線が放たれた。が、エネルギーが爆縮したかのようなディアルガの咆哮と激突し、対消滅する。

 

「……俺たちも、やらないといけないか」

 

 パルキアは、なぜかは分からないが鎖が必ず現れるということを確信しているようだった。それなら、おれたちのやらなくてはならないのは一つだけ。鎖が来るまで、暴走するディアルガを食い止めることだ。

 

「行け! ジュナイパー!」

 

 頼もしい雄叫びとともに、ジュナイパーがボールから飛び出した。赤い鎖を手に入れる過程―ほこらでの試練やテンガン山登りのおかげで、フクスローは最終進化を遂げていた。

 

 まだ会って日は短いが、どう戦うかについては、お互いに知悉している。

 

「『さんぼんのや』だ!」

 

 ジュナイパーはディアルガの脳天に踵落としを決めるが早いか、素早く飛びすさって三筋の矢を浴びせる。奇襲を受けたディアルガは俺たちの方を見やり、すさまじい咆哮を放った。

 

 その瞬間、世界が無音に包まれ、セピア色の情景が脳裏に浮かんだ。

 

 俺が崩れたシンオウ神殿にいるのに変わりない。しかし目の前には、ディアルガではなくシマボシ隊長に似た無表情な男が立っていた。そして俺の傍らにショウが立っていて、責めるような口調で男と話している。

 

 なんだこれは、と思ったそのとき、突風が幻をかき消した。どうやらディアルガの攻撃だったらしく、ジュナイパーが大ダメージを負っていた。

 

「ジュナイパー! いったん戻れ!」

 

 俺は慌ててムクホークに入れ替えた。今の攻撃はいったい何だったのか。俺がそう思っていると、セキが相棒のリーフィアとともに俺の横に立った。ディアルガを見るその表情からはあまり感情が読み取れなかったが、底知れない神への畏怖を孕んでいるように見えた。

 

「これ、すげえな。ディアルガ様の声を聞いたら、昔の出来事が見えた」

 

「昔の出来事?」

 

「ああ。リーフィアと会ったときのことだ。お前も見えたんじゃないか? 時間を司る神サマだから、こういうことができるのかもしれねえ」

 

 ディアルガのこの技―時の咆哮とでも言おうか―が自分の過去を見せる副作用をもつとするならば、今の幻覚はきっと、俺の失われた記憶なのだろう。

 

 俺は記憶の謎が気にかかったが、ディアルガがパルキアを押しのけこちらを睨みつけてきたので、後回しにすることにした。

 

「ムクホーク、インファイト!」

 

「リーフィア、ものまね!」

 

 ムクホークの「インファイト」を真似たリーフィアがディアルガに攻撃を仕掛ける。しかし二匹の打撃を食らってもディアルガが倒れる気配は微塵もない。

 

「上からや! 気をつけろ!」

 

 デンボクの言葉を聞いて上を見ると、無数の流星が神殿に降り注いできた。俺に直撃しそうだった隕石をピクシーの『ムーンフォース』で破壊すると、デンボクはディアルガを睨んだ。

 

「さっきは嫌なこと思い出させよって……全力でディアルガを止めるんや!」

 

 戦局は、パルキアと俺たちが力を合わせ、ようやく五分といったところだった。しかし桁違いのパワーを持つディアルガの攻撃を受けるたび、一体、また一体とポケモンが戦闘不能になっていく。

 

 戦いが始まってしばらくして、俺は倒れたドラピオンをボールに戻し、最初に深手を負ったジュナイパーを繰り出した。すでに他の手持ちは満身創痍だった。皆戦えるポケモンはほぼ残っておらず、1分もしないうちに戦いの帰趨が決まるのは明らかだった。

 

「おいおい、カイ、パルキア様に聞いてくれよ。いつ鎖は来るんだって」

 

「今ニ来ルって……」

 

「来てねえじゃねえか!」

 

「来ましたよ!」

 

 そのとき、後ろから声がした。振り返るとそこにはウォロがいた。

 

「残念です、用が長引いたせいでこんなにもワクワクする戦いに遅れてしまいました」

 

「ワクワクか、世界滅亡の危機だと思うんだが……まあいい、あんたも戦ってくれないか」

 

「いいですけど、鎖は要らないんですか?」

 

 ウォロはそう言うと、懐から赤い鎖を取り出した。ウォロがもう一本の鎖を持っているのを見て、俺は驚愕した。

 

「え? 赤い鎖? なんであんたが?」

 

「ちょっと前に古い遺跡に行ったときに見つけましてね。保管してたのを持って来たんです。以前似たようなことがあったときに作られたものじゃないでしょうか」

 

「なんでもいい、テル、そいつを早くディアルガに投げろ!」

 

 セキの言葉にはっとして、俺は鎖を受け取ってディアルガに向かって投げた。たちまち鎖がディアルガを縛り砕け散ったが、ディアルガから発散されていたプレッシャーやエネルギーは穏やかなものになっていた。

 

 同時にディアルガが俺たちに向けていた敵意も嘘のように消え去り、自然と戦いは終わった。二柱のポケモンは俺たちに何か告げるように一声鳴くと、裂け目の向こうへと戻っていった。

 

 神々が去ると、時空の裂け目はその役目を果たしたとでもいうように消えてしまう。すると空の色が透き通るような青へと戻っていった。

 

「……すまなかった。テル、セキ、カイ」

 

 デンボクは俺たちを見回して、そうつぶやいた。

 

「間違っていたのはこちらだった。私の身勝手な一存を詫びたい。そして、よく皆を救ってくれた」

 

「俺は、別にいいよ」

 

 その言葉を向けられる人物はここにはいない。皆それを知っているからこそ、異変の解決を手放しで喜ぶことはできなかった。……ただ一人を除いて。

 

「……いやー、すごいものを見せてもらいました!」

 

 ウォロはそう言うと、満面の笑みを浮かべた。

 

「欲を言えば、最初からあの場に居合わせたかったのですが……あんな神々しいポケモンは見たことがない。遺跡好きにとっては垂涎ものの体験ですよ」

 

「あんたはいつも通りって感じだな。しかし助かったぜ。今回はテルとあんたが赤い鎖を持ってきてくれたおかげで解決できたわけだし」

 

 その辺りから場の雰囲気が少し明るくなった。さらに一連の事件が解決したことを祝ってコトブキムラで祭りをやるという話になり、ギンガ団、コンゴウ団、シンジュ団がこれまでのわだかまりを捨て、集まることになった。

 

 セキとカイはコンゴウ団とシンジュ団にその旨を伝えに行くということでいったん別れ、ウォロも野暮用を片付ける必要があるらしく、別の場所へ行くことにしたらしい。

 

「夕方から祭りやるらしいから、それまでに来いよ」

 

「ええ。ジブンも楽しみにしていますから」

 

 ウォロはそう言うと、ざくざくと土を踏みしめ山を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

「……これが、テンガン山の頂上での顛末です」

 

 私はウォロの話を聞いて、ため息をついた。ウォロに頼まれて赤い鎖を作ったのだが、これがまさか世界を救う鍵になっているとは思いもしなかった。

 

「ウォロさん、あなたは『アルセウスに会うために』必要だと言ってませんでしたか?」

 

 私はそう聞かされ、湖での試練を受け鎖を作ったのである。しかしフタを開けてみれば、私の作った鎖で世界が救われてしまっていた。私が何もしなければテルたちは山頂で全滅し、時空の裂け目が広がって終わりだったはずである。

 

「当たり前ですよ。だって世界が消えたらアルセウスに会うこともできないじゃないですか」

 

 さも当然のようにウォロが言うのを見て、私は二度目のため息をついた。

 

「あまりふざけてると怒りますよ」

 

「はは、すみません。これからこういうことはしないので安心してください。……ああそれと、耳寄りな情報がありますよ。今日、コトブキムラでお祭りをやるそうです」

 

「お祭り?」

 

「ええ、この事件の解決を祝って。きっと、警備もゆるんでいるでしょうね」

 

 私はそれを聞き、どす黒い感情が自分の心に立ち込めるのを感じた。きっと、彼らは日常へ戻れることを喜んでいるのだろう。

 

「そんなこと、させませんよ」

 

 乾いた笑みが自然と溢れた。元の日常になんて戻してやるものか。その身に恐怖を刻んでやる。建物をすべて焼き尽くしてやる。私を追い出したことを後悔させてやる。

 

 私はウォーグルを呼んだ。

 

「コトブキムラへ行きます」

 

 

 

 

 

 

 




準伝までならトレーナーが持っててもいいけど、伝説ポケモンはあんまり人間に所有されてほしくないと思う派。ちょっとストーリーと違うけどゆるして……
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