ショウちゃん闇堕ちルート 作:aruseus
夕日が沈んでいくにつれてあたりが騒がしくなっていった。通りの雰囲気もがらりと変わり、カイリキーの力によって迅速に組み上げられた櫓から提灯があちらこちらへと延び、ぼんやりと明かりを発している。
俺はあちこちを見て回っているうちに、ギンガ団の本部近くの通りにやって来た。すると、ちょうど本部の扉から出てきたラベン博士とばったり出会った。
「やあ、テル君。浴衣に着替えてきたんですね」
「うん。ラベン博士はいつも通りって感じだけど」
「僕は普段着の方が落ち着きますから。……ああそうだ、頼まれてたポケモンの回復、やっておきましたよ。まだ完全に調子を取り戻してはいませんが、お祭りを楽しむ元気くらいはあるはずです」
俺は、ラベン博士から4つのモンスターボールを受け取った。
「ありがとう。がんばったこいつらがお祭りに参加できないってのはあんまりだもんな」
その通りだ、とでもいうようにボールがかたかたと動く。それを見たラベン博士はふっと笑った。
「君が、いや、君たちがポケモンを捕まえるのがうまい理由がわかる気がしますね。ポケモンを恐れず、優しい心を持っているからこそポケモンとうまく接することができる……」
「そうかもね。ま、これから皆ポケモンを怖がらないようになれば、俺みたいなのが普通になるような気はするけど」
俺はそう言いながら、夜空を見上げた。ひょっとすると、俺が以前別の場所にいたとすれば、それはそんな世界だったのではないか。そう思いながら。
「ん?」
そのとき、視界の隅で何かが動いたような気がした。そちらを見ると、何かが滑空するようにこちらへ向かって来るのが分かる。
「あれは……ウォーグルか?」
デンボク団長の持ってたあいつかな、と思ったが、そちらはディアルガとの戦いで傷ついており、ああやって高いところを飛ぶことはできないはず。別の個体だ。
さらに、ウォーグルの下に人間がいることに気がついた。誰だろう? 祭りのためにコンゴウ団かシンジュ団の人間が呼んだのだろうか?
その人間は何かを投げながら、向こうへ行ってしまう。俺が頭をひねっていると、その答えが上空から俺の目の前に落ちてきた。
「モンスターボール⁉」
落ちてきたボールからルクシオが現れた。ルクシオは俺に気がつくと獰猛なうなり声をあげ、睨みつけてくる。
こいつは敵だ。俺がボールを構えたとき、背後で腹に響くような破砕音が聞こえた。そちらを見ると、半壊した木造の建物の中で、ゴローンが起き上がろうとしていた。同時に訓練所の方から火の手が上がり、悲鳴やどよめく声が聞こえてくる。
「……一体、何が起きてるんだ」
ウォーグルで空を滑空しながら、私は眼下にあるコトブキムラにモンスターボールを落とし続けていた。
私の手持ちがいくら強いと言っても、たった6体でムラ全体を相手どるのは得策ではない。かといって放牧場にいるポケモンは手持ち制限の関係でしっかり命令を聞いてくれない可能性が高く、柵を壊して放置するにしても積極的に人間を襲わないポケモンは多い。しかも放牧場の近くに私が行くと攻撃に気づかれる可能性もあり、不安要素が大きかった。
そこで、プレート集めのついでに捕獲してきたゴローンやルクシオ、パラセクトなどの獰猛なポケモンを空からムラのあちこちにばらまくことにしたのである。
私の手持ちではないので勝手に暴れまわるだけの存在だが、ムラの人間を混乱させるのには十分だし、別の地点を同時に攻撃できる。
用意していたボールがすべて無くなるころには、ムラのあちこちで火の手が上がり始めていた。下からは助けを求める声や怒号が聞こえ、右往左往する人々の気配が伝わってきた。
上出来だ。私はウォーグルをギンガ団本部の屋上へと近づけた。ここは団長の部屋とつながっているので、誰かに姿を見られず建物に侵入できるのである。
しかし、屋上に近づくと、すでに人がいることに気がついた。デンボク本人だった。
高鳴る胸を押さえながら、私はゆっくりと屋上に着地した。デンボクも私の存在に気づいたらしく、こちらを見る。その顔は炎に照らされているにもかかわらず、血の気が引いているように見えた。
「……ショウ、これはお前の仕業か」
「はい。いい眺めでしょう」
そう答えると、デンボクはゆっくりと口を開いた。
「なぜこんなことをする? 私を恨むならわかる。殺されても文句を言えないことをした。……だが、ムラには何の罪もない子ども、老人もいる。お前のやろうとしていることはただの虐殺だ」
「知りませんよ。もう、そういうことはどうでもよくて……皆、私と同じように絶望を味わって死ねばいいんだって思ったんです」
言葉をつむぎながら、爆発しそうになる感情を押さえた。今すぐにこの男を殺したい。だが、すぐに殺すとプレートがどこに保管されているかが分からなくなる。その情報を引き出さなくてはならない。
そう思っていると、デンボクは私をじっと見つめ、口を開いた。
「プレートを集めているそうだな」
「それがどうかしましたか?」
デンボクは意を決したように懐からプレートを取り出して床に置くと、膝をつき土下座をした。
「……すまなかった。お前を追い出した私の判断が間違っていた。これまでのことを詫びる。コトブキムラには自由に出入りしていい。プレートも渡す。私の命を奪っても構わない。だから頼む。ムラへの攻撃をやめてくれ」
戦いになると予想していたので、あっけにとられた。そして―
「はは、あははは、あはははは!」
私は笑い転げた。この男は私の話を聞いていたのだろうか? 許す許さないの話ではない。もうこのムラを壊すことは決めているのだ。それに、もし攻撃をやめてこの条件を呑んだら、今度は私を全力で抹殺しようとするに違いない。信用なんてできるか。
「はは……まあ、プレートはありがたく貰っておくとしましょう。でも、これでは足りない」
私がレントラーを出すと、デンボクは観念したようにうつむく。
「覚悟はしている」
「そうですか。レントラー、でんじは」
レントラーの放出した電磁波がデンボクの身体にまとわりついた。手足に力が入らなくなったらしく、デンボクはごとりと音を立てて床に突っ伏した。
「な、なにを……」
「決まっているでしょう。あなたをただ殺すのでは足りない。ムラの滅びる様子を目に焼き付けさせてからです」
「約束が……違う」
「約束? それこそあなたに言われたくない言葉です。おとなしく這いつくばって、ムラが燃えていくのを見ながら死んでください」
それを聞いたデンボクはよろめきながら立ち上がり、震える手で腰のモンスターボールを掴んだ。
「ならば……黙っては行かせん」
デンボクはそう言うと、ピクシーを繰り出した。私はピクシーの様子を見て、なぜ先ほどポケモンを出さなかったのか理解した。デンボクの手持ちは、すでにかなりのダメージを負っているのだ。おそらくディアルガとの戦いで受けた傷が回復しきっていないのだ。
「そんな状態のポケモンで私を止められるとでも? 舐められたものですね」
私はヌメルゴンを繰り出した。
「ピクシー、ムーンフォース!」
「ヌメルゴン、たてこもる!」
黒煙が辺りに満ち、ヌメルゴンの守りの力が上がる。煙で狙いが定まらなかったらしく、ムーンフォースはヌメルゴンには当たらず、後ろの壁に炸裂する。
「アイアンヘッド」
距離を詰めたヌメルゴンの強烈な頭突きが直撃し、ピクシーは倒れた。
「さあ、まずは一体」
私がそう言うと、デンボクはこちらを睨みつけながら、次のボールを手に取った。
牧場にいるポケモンを見るのが昔から好きだった。このポケモンたちはどこから連れてこられたのかと思い、大人に聞くとギンガ団員がムラの外で捕まえてきたのだと聞かされた。
それ以来、シシオは、ギンガ団員となって相棒のポケモンとともに自由にムラの外を駆け回ることを夢見るようになった。大人たちの連れているポケモンたちと触れ合い、ポケモンの優しさを知った。
しかし、目の前にいるポケモン―オニゴーリが自分に向ける視線は、友好的でも親愛的でもなく、まぎれもない敵意しかなかった。突然空から降ってきたそのポケモンはシシオの存在に気づくと、身の毛もよだつような雄叫びをあげたのである。
「だっ、誰か……」
明確な害意をもったオニゴーリを見て、シシオは助けを求め走り出した。怖い。怖い。怖い。シシオがよく知っているビッパやムックルとは全然違った。後ろを見ると、オニゴーリは周囲の地面を凍らせながら、音もなくシシオを追って来ていた。
シシオは悲鳴を飲み込み、ようやく通りにたどり着く。しかし、そこで見たのは、人がポケモンによって一方的に襲われる場面だった。
本能の赴くまま扉を蹴破り、壁を砕き、家を破壊するサイドン。周囲に火炎を撒くブーバー。半壊した建物の隅に老人たちを追い詰めているストライク。うずくまる女性に群がるゴルバットたち。
絶句するシシオの前に、巨大なイワークが現れた。値踏みするようにこちらを見て、うなり声をあげる。逃げようにも、後ろにはオニゴーリがいる。絶望的な状況にいることを悟ったちょうどそのとき、イワークが尻尾をもちあげ、シシオめがけて振り下ろしてきた。
シシオは尻もちをつき、思わず目をつぶった。
「ジュナイパー、リーフブレード!」
頭上で何かが衝突したような音が聞こえ、ぱらぱらと石の破片が顔にかかった。見上げると、自分より5、6歳ほど年上の少年がいた。彼の手持ちらしいジュナイパーのくりだしたリーフブレードが、振り下ろされようとしているイワークの尻尾に食い込んでいた。
突然の闖入者にひるんだイワークの隙を逃さず、ジュナイパーは跳躍し、イワークの頭の上に着地する。
「とどめのリーフブレードだ!」
リーフブレードの直撃を受け、イワークはノックアウトされた。少年はオニゴーリの存在にも気づいたらしく、ジュナイパーを素早く呼び戻す。
オニゴーリは向かって来るジュナイパーを敵だと認識したらしく、凍てつくような冷気を吐き出す。ジュナイパーは身体を沈めてそれを避け、「インファイト」を叩きこんだ。オニゴーリは弱弱しい声をあげ、その場に倒れた。
「おいお前、大丈夫か」
少年―テルはそう言い、シシオの方を振り向いた。シシオがうなずくと、テルはニッと笑って肩をぽんぽんと叩いた。
「よし、歩けるな? お前は始まりの浜へ避難しろ。俺は他のやつを助けなくちゃいけない」
早口で最低限のことを伝えると、テルは通りの向こうへと走っていった。その後ろ姿は、シシオのなりたいギンガ団員そのものだった。
ポケモンの襲撃が始まってから、俺は周りで人を襲っているポケモンを倒して回った。俺の相棒たちはまだ先の戦いの傷が癒えていなかったが、何とか連戦を耐えてくれた。
「ありがとう、少し休んでいてくれ」
俺は最後のバトルを終え、フローゼルをボールに戻した。手持ちの皆にはかなり無理をさせてしまったが、彼らのおかげで村人の多くを逃がすことができた。俺が一息ついていると、後ろから誰かがやって来た。
「テル様、お疲れ様です。こちらもかなり片付きました」
「そりゃよかった。あんたがいなかったら、向こうの通りもやらなくちゃ行けないところだった」
話しかけてきたのはノボリだった。彼は黒曜の原野につながる通りでポケモンたちと戦っていたらしい。いつも着ている車掌服がかなり汚れていた。
「村人の避難もほとんど終わりました。シマボシ様のケーシィがテレポートでどんどん送ったので」
「さすが隊長。で、今どこにいるんだ?」
「訓練所の方へ行って避難の遅れた者を探すそうです」
「でも、ポケモンは俺たちが倒しちゃったじゃないか?」
「訓練所の方にはまだいるそうです。今来ているコンゴウ団、シンジュ団の方々や警備隊の人たちが戦っていますね。しかし、シマボシさんは別の何かを警戒してるんじゃないでしょうか」
「別の何か?」
「そうです。それに、このポケモンたちはモンスターボールから出てきた……つまり、誰か悪意のある人間が裏にいるということ」
そのとき、俺は遅まきながら気づいた。空から凶暴なポケモンを振りまくことができ、かつムラを攻撃する動機のある人物は、ショウしかいない。彼女がやって来たのだ。プレートの存在は秘匿していたが、復讐のためにここへ来るということは十分ありうる。
(でも、ショウ本人はいったいどこにいるんだ?)
おそらく空からボールをばらまいていたのは彼女だろう。しかしそれからどこへ行ったのか。通りで戦っていた俺やノボリに気づかれなかったということは……
「ギンガ団本部か」
訓練所の方に行った可能性もなくはないが、最も恨みを買っているであろうデンボクを襲うため、ギンガ団本部へ向かうのではないか。
俺がギンガ団本部の方を振り返ったちょうどそのとき、屋上から誰かとウォーグルが落ちてきた。その人物はウォーグルの上に重なるようにして地面に叩きつけられ、転がった。
「ぐっ……むう」
デンボクだった。落下の瞬間にウォーグルが下敷きになったおかげで死にはしなかったが、かなりの重傷を負っていた。俺たちはデンボクの傍に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「ショウが……来るぞ」
絞りだすようにデンボクは言った。やはりか、と俺はつばを飲み込んだ。
「言葉での説得は……もう無理だ……戦うしかない。ノボリ殿、テル。コトブキムラを頼む」
それが限界だったらしく、言い終えたデンボクは意識を失った。
「久しぶりですね。テル、ノボリさん」
ギンガ団本部の扉が、ゆっくりと開いた。中から現れた人物―ショウは俺たちを見つめながら、ゆっくりと階段を降りてくる。
「一つだけ聞きましょう。まだ、私の邪魔をするつもりですか?」
「あんたがムラを壊したり、人を殺すつもりならな」
「同じく。地獄行の路線を走る車両には、ブレーキをかけなければ」
ショウの気配が粘りつくような殺意を孕んだものへと変わり、レントラーを繰り出してきた。レントラーはショウに呼応するように、低いうなり声を上げる。
「では容赦はしません。戦いましょう、お互いの命を賭して」
ギンガ団本部の団長の部屋から屋上に行けるのを初めて知ったときは驚きましたね。景色が良くてよく行きたくなる。