ショウちゃん闇堕ちルート 作:aruseus
「テル様のポケモンはもう戦えないでしょう。私がお相手します」
私とレントラーの前に立ったのは、テル―ではなく、ノボリだった。
「テル様は団長を安全な場所に避難させてください」
「……分かった。気をつけろよ」
テルはデンボクを背負い、訓練所の方へと去っていった。立ちふさがったノボリは、目深にかぶった帽子の向こうから、鋭くこちらを見すえている。
(……彼とのバトルは集中しなければならないかもしれませんね)
テルと同じく外来人であるためか、ノボリのバトルセンスはずば抜けている。それに、ポケモンたちの強さも私の手持ちに近いはずである。
だからといってバトルに集中すれば、今度は自分自身への攻撃に気づけなくなる可能性がある。私は少し思案し、クレセリアを出した。
「護衛を頼みます。クレセリア」
クレセリアはうなずき、周囲を警戒し始める。背後の憂いを除き、私はノボリに向き直った。
「ダイノーズ、出発進行!」
ノボリが最初に出してきたポケモンは、ダイノーズだった。ダイノーズは鈍重だがかなり頑丈だ。間違いなくレントラーが先攻できるが、ダイノーズを一撃で倒すことはできず、地面技によるカウンターを受けて倒される可能性が高い。
「レントラー、戻って! ミミロップ!」
即座にポケモンを入れ替えると、ノボリは目を細めた。
「……しっかり読まれていますね。ラスターカノン!」
「ドレインパンチ!」
相手との距離をつめる寸前、ダイノーズの放った「ラスターカノン」がミミロップに直撃する。しかしミミロップはひるまずダイノーズの懐に入り、エメラルドのようにきらめく拳を叩きこんだ。
凄まじい衝撃が走った。ダイノーズはその重量のおかげで吹き飛ばされはしなかったが相当のダメージをうけたらしく、ぐらぐらと体をよろめかせている。
ダイノーズのもつ2タイプの弱点を同時に突いたので倒れてもおかしくはないのだが、まだ立っているとは意外だった。とはいえ―
「……でんこうせっか!」
間髪いれずにミミロップの放った電光石火の一撃で、ダイノーズはとどめを刺された。力尽きボールに戻っていくダイノーズを見ながら、ノボリは感心したようにつぶやく。
「こちらの「だいちのちから」を読んでミミロップに交代、ドレインパンチでダメージを回復しつつ、でんこうせっかで安全にとどめを刺す……すばらしい。流れるような手順です」
「それはどうも。しかしあなたは大切な1体をもう失ったんですよ。そんなことを言う余裕はあるのですか?」
「たった1体。終点はまだまだ先です。カイリキー、出発進行!」
ノボリの二番手、カイリキーが四本の腕を油断なく構えながら現れた。格闘技の打ち合いならあちらに分があるが、ミミロップには格闘タイプを倒すための技を覚えさせている。
「じゃれつく!」
私の指示で駆けだしたミミロップを見て、ノボリは不敵に笑った。
何かまずい、と思ったそのとき、カイリキーは素早く身を沈め、攻撃を回避する。寸前で攻撃を躱されたミミロップの身体は宙を泳ぎ、カイリキーに無防備な腹部を晒した。
「インファイト」
カイリキーの4つの拳がしっかりと胴を捉え、凄まじい連打が叩き込まれる。ミミロップは悲鳴をあげながら私の足元にまで吹き飛ばされ、ぱたりと倒れた。
「……お疲れ様です。ミミロップ」
一瞬で勝敗を五分に戻され、私は歯噛みした。次は誰にすべきか?カイリキーの攻撃を縛るならユキメノコだが、弱点を突けるのはクレセリアを除けばキュウコンだけだ。受けに回るべきか、攻めに出るべきか。
「バトルは楽しいでしょう?」
ノボリは、突然そんな言葉を投げかけてきた。
「……別に。今は邪魔者を排除したいだけ」
「だったら、なぜ今笑っていたんですか?」
私は、自分の唇の端が上がっていることに気がついた。そして復讐のことを忘れ、ただ純粋にバトルを楽しみはじめたことも。そんな自分に猛烈に腹が立った。
私はノボリの問いには答えず、キュウコンを繰り出した。しかし無視されてなお、ノボリは私のキュウコンを眺め、さらに言葉を重ねた。
「ポケモンたちもかなり鍛えこまれていますね。それにさきほどのミミロップ。あれはよほど人に懐いていないと進化できないポケモンです」
「何が言いたいのですか」
「あなたのような腕のいい人間が咎人とされているのが残念でして。あなたがいれば、ヒスイ地方のバトルのレベルはより上がることでしょう。今からでも遅くはない。罪を償い、私たちとともにバトルを楽しむというのはどうでしょう?」
ノボリはきっと本心からそう言っているのだろう。しかし、すでにこの襲撃によって何人かが死んだはずだ。建物もかなり破壊されている。村人が私を許すはずはない。どちらかが倒れるまで戦いつづけるしかないのだ。
「その話、もう少し前に聞きたかったですね。私はもう、止まれないし止まる気もない」
「……そうですか。まあ、ここまで来て言葉をかわそうとする方が野暮ですね。失礼しました。バトルで語りましょうか」
そう言うと、ノボリはカイリキーを手元に戻し、三番手―グライオンを繰り出した。
俺が訓練所にたどり着いたとき、まだ戦闘は続いていた。ショウは戦力の集まっているここを重点的に攻撃したらしい。俺が通りで戦ったよりも強いポケモンが多かった。
しかしペリーラの率いる警備隊やムベ、セキやカイといった実力者の活躍で形勢は逆転しているため、しばらくすればここのポケモンたちを押さえられるだろう。
訓練所に入ってきた俺に、最初に気づいたのはシマボシ隊長だった。戦いの経過を見守っていたシマボシ隊長は、俺と、俺が背負っているデンボクを見て、顔をこわばらせた。
「命令する。何が起きたのか、説明せよ」
「……ショウが来た。たぶん、団長はショウとバトルして負けた。それで丸腰になったところで殺されかけたんだ。今は、ノボリが通りで戦ってる」
そのとき、セキ、カイ、ムベの3人が戦闘の起こっている訓練所の裏手からやって来た。
「そろそろこっちは片付きそうだから、ペリーラさんたちに任せたんだ。もう私たちのポケモン、くたくたでさ」
「っておい、デンボクの旦那がのびてるけど、それ大丈夫か?」
「ああ。怪我はしてるけどたぶん死にはしないと思う」
俺がここに来るまでの経緯を伝えると、セキは瞠目した。
「なるほど。状況は分かった。ムラの奴らは皆避難したのか?」
「無論。先ほど始まりの浜へテレポートして確認したが、死者は0名だった。逃げ遅れもない。医療隊も医療器具ごとテレポートさせたので、団長はそちらで治療する」
「……あんたすげえな。じゃ、目下の問題は、ショウをどう止めるかってことだ」
セキの言葉に、カイは顔を青ざめさせた。火吹き島のときのことを思い出しているのだろう。
「私は……いい。きっと何もできないし、行かない」
「……まあ、ショウと仲良くしてたカイが殺されそうになるんなら、俺も話しあうなんてできないだろうな。バトルしようにも、リーフィアは疲れ切っててね」
「じゃあ、通りに行けるのは俺だけか」
「ワシも行こう」
そう言ったのはムベだった。忍び装束に身を包んだ彼は老いているにも関わらず、その身体のうちに暗い闘志をたたえているように見えた。
「ムラは焼かせん、とデンボクが目覚めておればそう言う。それに、こういうことは手慣れた忍びに任せるのが一番よ」
―汚い仕事はな。
かすかに、聞き取れるかどうかというほど小さな声で、ムベがそうつぶやいた―気がした。
私はノボリと激しい戦いを繰り広げ、その中で一つの感情が高まっていくのを感じた。
それは、彼への賞賛。私のポケモンを見た瞬間に弱点を突けるポケモンを選び出してくる。不利な状態なら勝ち筋は何か、交代すべきかを判断し、一点に賭ける。有利な時は、慌てずにその差の拡大を試みる。そこには恐れや戸惑いのような感情は一切ない。ただひたすら勝利を求める姿勢のみがあった。
私はそんなノボリの気迫に当てられたのか、負けじと相手の手を読んでいるうちに、バトルに没入していた。邪魔者を排除したいからではなく、勝ちたいから戦っていた。
フェイント、交代読み、状態異常……お互いに秘術を尽くした応酬がなされ、戦いは危うい均衡を保ちながら続いた。しかし、私はその中で一つだけミスをした。グライオンを一撃で倒すために必要なユキメノコを、読み間違いでジバコイルに倒されてしまったのである。
レントラーもこおりのキバを覚えているが先手をとれるか怪しく、相性の関係上グライオンには出しづらい。仮にダイケンキが居れば水技でグライオンを倒すこともできたかもしれないが、あの子は優しすぎる。コトブキムラを襲うと知れば戦いを嫌がる可能性が高かったので、手持ちから外し、戻りの洞窟で待機させていたのである。
ユキメノコのダウンによって一撃で倒しきれなくなったグライオンが徐々にこちらの重荷になり、やがてその不利は、目に見える形で現れた。
「ジバコイル! ラスターカノン!」
鋼色に輝く光線を食らい、私の5匹目―ヌメルゴンがついに倒れた。こうして戦えるポケモンは私を守っているクレセリアのみとなった。 自分を守るポケモンを残しておきたかったので、本当はクレセリアを除いた5匹だけでノボリを倒すつもりだったが甘かったようだ。
(……まあいいか)
途中から、分かり始めた。ノボリは人を直接狙わない。たとえ相手がどんな悪人であろうと、ポケモンバトルを挑まれたなら決して自分で定めたルールからは逸脱しない―つまり、ノボリは絶対に私への攻撃はしないだろうという確信があった。
「行ってください、クレセリア」
うなずいたクレセリアは私の傍を離れ、ジバコイルと向き合った。ノボリはクレセリアを前にして、ただ一つの勝ち筋を見つめるように、鋭い視線を送ってくる。
「これでお互い。最後の一匹ですか……いい勝負にしましょう。ジバコイル、でんじは!」
「クレセリア、サイコキネシス!
ほぼ同時に技が当たった。ジバコイルは念動力によって地面に叩きつけられ、電磁波を浴びせられたクレセリアの動きが鈍る。
おそらくノボリは、麻痺でクレセリアの行動を制限し、その間に攻撃を重ねて耐久力で勝っているクレセリアを倒すつもりなのだろう。実際、クレセリアがジバコイルを倒すのには時間がかかるし、それが現実的だ。
しかしいったん三日月の祈りを使ってしまえば体力だけでなく状態異常も治癒する。ノボリは、9割9分こちらが勝つような、分の悪いギャンブルをするしかないのである。
しかし次の瞬間、予想外の出来事が起こった。
「クレセリア! みかづきの……」
祈り、と最後まで発音することはできなかった。焼けつくような痛みが左肩から胸を貫いたからである。
「え……?」
左肩が、ばっさりと斬られていた。かなり深い傷らしく、生暖かい血が止めどなく溢れてくる。私がゆっくりと振り向くと、そこにはエルレイドとムベ、そしてテルがいた。
そこでようやく理解した。私は背後から「サイコカッター」をまともに受けたのだ。クレセリアがバトルに出て私が無防備になったその隙をついて。
俺たちが通りに着いたとき、ノボリとショウの戦いは続いていた。二人とも目の前の勝負に全ての神経を集中しているらしく、俺とムベがやって来たことにすら気づいていないようだった。
さて、これからショウをどう止めるか。その方法を考え始めたとき、ムベはエルレイドを黙って繰り出した。
何をするんだ、と訊く間もなかった。
「サイコカッター」
エルレイドが放った念の刃は、やすやすとショウの身体を切り裂いた。呆然とする俺の視界の中でショウは振り向き、目を見開いたまま倒れた。
「あんた……俺は止めるって言ったんだ。なんで……」
「これがワシの止め方だ。それに、ワシもお前も、あやつと正面から戦って勝てるとは思えん。勝てぬ相手と戦うのは愚かな忍びのすることよ」
「……」
「お前やノボリが住んでいた地方ならきっとそれでいいのだろう。だが、ワシらにそんな余裕はない。卑怯だと罵られても、絶対にこのムラを守らなくてはならないのだ」
そのとき、笛の音が聞こえた。音のした方を見ると、ショウが地面に身体を横たえながら、弱弱しく笛を吹いていた。
「まだ息があるか。エルレイド。頸を狙え」
「やめろ! 彼女はもう戦えない。殺す必要はないはずだ」
「どうせ処刑されるに決まっとるわ! 一思いに殺してやれ」
俺がムベの胸倉をつかもうとしたそのとき、俺たちの頭上を何か大きいものが通り過ぎていった。見上げると、ウォーグルがこちらへ滑空してくるところだった。
ショウはよろめきながら立ち上がると、右手を上げ、地上すれすれを滑空するウォーグルにつかまった。どうやら、今の笛の音はウォーグルを呼びだすものだったらしい。
俺は、東の空へ去っていくウォーグルを見て、俺はとっさにムクホークを出した。
「ムクホーク。あのウォーグルを追ってくれ」
そういえばこの前ヌメルゴンのデータ書くの忘れてたな……
ヌメルゴン Lv72 じならし りゅうせいぐん たてこもる アイアンヘッド