走れるだけでよかったのに   作:〆切の逃亡者

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第9話 最初の冠(前編)

中山レース場。

まだ春というにも関わらず、その熱気は灼熱と言っても差し支えないだろう。

 

『間も無く第11レース、G1皐月賞を開幕します……』

 

「ゴールドシップさーん!ゴールドシップさーん!」

 

アナウンスを受けてか、多くの人々がより良い位置を求めて観客席に向かう。その中でポツンと1人、流れに逆らうように歩くウマ娘がいた。

 

「まったく、あの人は……自分から誘っておいてどこかに行ってしまうなんて、もうレースは始まってしまいますわよ……!」

 

「ねえ、あれメジロマックイーンじゃない?」

 

「スピカのメンバーって今年クラシックには居ないんじゃなかったっけ?」

 

「アメリカンドッグ持ちながら突っ立ってどうしたんだろ……」

 

ヒソヒソ、というにはあまりにも大きく、数が多い声で周りの人々がそのウマ娘に、メジロマックイーンに視線を寄せる。

 

「ああ、変に注目を集めてる気もしますわ……どうして私がこんなことを……」

 

そうして彼女は悲しげに深い深いため息を吐いた。

 

事の発端はゴールドシップの一言。「ゴルシちゃんが皐月賞出るんだってよ!行こうぜ!」と止める間も無く無理矢理連れられてきた中山レース場。

トレーニングもお休みだし、観たかったレースでもあるからちょうどいいかと無理やり理由をつけて怒りを収めたのだが、そのゴールドシップは目を離した隙に姿をくらませた。こんな事になるならアメリカンドッグなんて買わなければよかったと後悔している。

 

そして彼女を探しに探して……今に至る。

 

メジロマックイーンは再度、大きなため息を吐いた。

 

「困りましたわ……チケットはゴールドシップさんしか持っていないのに……」

 

「お?マックちゃんじゃん。こんな所で何してんだ?」

 

「ええ、それがゴールドシップさんと離れてしまって……ってゴールドシップさん!?」

 

「おう、純度100%製造元も確かな安心安全のゴールドシップ様だぜ!」

 

ニコニコと悪びれた様子もないゴールドシップ。

その態度に流石のメジロマックイーンも堪忍袋の緒が切れた。

 

「あ、あなたって人は……!私がどれだけ探したと思っているんですの!?というか、今までどこほっつき歩いてたんですの!」

 

「へへっ、実はお宝の匂いがプンプンしてよ。ゴルシちゃんダウジングで一本釣りしてきたんだよ」

 

「訳が分かりませんが、この際もういいですわ!それより早く席に行かないと、始まりますわよ!」

 

時計を見ると既にパドックは終わりファンファーレがなり始めるような時間。

急がねばとゴールドシップの背中を押して観客席に行こうとするも、ゴールドシップは動かない。

 

「まあ待てってマックちゃん。実はとっておきの席があるんだよ」

 

「とっておき?」

 

「ジャジャーン!このオッチャンの席!」

 

ゴールドシップが担いでいたずた袋から出てきたのはスーツ姿の人物。

この光景にはゴールドシップの奇行に慣れたはずのメジロマックイーンですら言葉を失う。

 

「へへっ、実はこのオッチャンの席から観るのが良くてよー。せっかくだかr」

 

「無関係の人に何してくれてやがりますのー!?!?」

 

「ぐああああマスタードがああああ!!!」

 

何を言っているのか、どういう状況なのかを理解したメジロマックイーンは、とりあえずゴールドシップの顔をアメリカンドッグ用のマスタードで狙い打った。

地面にのたうち回るゴールドシップを前に、メジロマックイーンは言葉を続ける。

 

「あ、あなたって人は!ついにやりやがりましたわね!一般の方に手を出すのはホントッ!マジでダメですわよ!?」

 

「マ、マックちゃんタンマ!知り合い!知り合いだって!」

 

「あら?初対面よね?」

 

「なっ、裏切ったなセリヌンミティス!」

 

「有罪ですわーー!!」

 

「ぐああああケチャップがああああ!!!」

 

 

 

■■■

 

 

 

コースが一望できる屋内のテラス席。

いわゆる関係者席で、メジロマックイーンは顔を伏せていた。

 

「お見苦しいところをお見せしましたわ……」

 

顔を赤らめてうつむくメジロマックイーン。

 

あれからどうにかしてメジロマックイーンを落ち着かせ、連れてきた人が関係者だと説明をしたゴールドシップ。

説明が終わる頃にはメジロマックイーンは自分の早とちりだったことに気付き、これから始まるレースの熱をも霧散させるような陰鬱な雰囲気を醸し出している。

 

「まさか貴方がここにいるとは露ほども思わず……いえ、言い訳になりませんね」

 

「いやいや、気にしてないわよ。それにしても若いっていいわねー」

 

ゴールドシップに連れられてきた張本人。ミーティアは気にした様子もなく笑っていた。

実際、ずた袋に入れられた時は驚いたものの、怒ってなどいなかった。なんなら細心の注意を払い丁寧に運ばれていたので割と楽しんですらいた。

 

「おう、アタシはまだピチピチのプリプリだからな!というか、オッチャンもまだピチピチじゃね?」

 

「69のオッサンに何言ってんのよ」

 

(見えませんわ)

 

(30代の若さなんだよなあ……何食って生きてんだ?)

 

少し照れたように苦笑いをするミーティア。その様子に思わずメジロマックイーンとゴールドシップが心の中でツッコんだ。

実際、ミーティアの相貌は女性のそれ。唯一男性的といえるのは薄らと見える喉仏くらいで、年齢に関しても凝視すると小ジワがある?といった程度しか判別できないほどだ。

あのゴールドシップをして、ゴールデンレイシオからミーティアのことを聞いてなければ70手前のオジサンとは見抜けなかった。

 

「それにしても、私たちも関係者席に伺ってもよろしいのでしょうか……?」

 

「いいのいいの。なんせ私がいいって言ってるし大丈夫でしょ」

 

「えぇ……」

 

「その考え方、アタシ好きだぜ!」

 

あまりにも傲慢不遜な態度のミーティア。

思えば、関係者席の入り口で職員に「私のツレだから」の一言で済まして入っていた所を見るに、URAや関係者はこの人の多少のお茶目を止める術は無いのだろう。

ゴールドシップと楽しげに話しているミーティアを横目に、メジロマックイーンは想像していた伝説のトレーナー像が崩れ去る幻聴が聴こえていた。

 

「そんで、もう1人のゴルシちゃんはどうよ?勝てそ?」

 

「一応、錆落としには間に合ったわよ。勝率は……良くて5割かしらね」

 

「まさか……まさか、メカゴルシ計画がここまで進んでるとは……!」

 

「錆落とし、ですの?トレーニングではなく?」

 

メジロマックイーンの疑問に、軽く頷くミーティア。

 

「ゴールデンレイシオはとんでもない運動音痴なのよ」

 

「え?」

 

唐突に話が飛び、理解が追いつかないメジロマックイーンを放って、思い出を語るようにミーティアが言葉を続ける。

 

「初めて見た時驚いたわ……フラフラの重心、おぼつかない足元、だらしない姿勢、リズムもへったくれもない走り……逆にどうしたらあんな走り方できるの?っていうくらいには酷かったわ」

 

「そ、それは、なんというか……」

 

 

「何よりも驚いたのは、そんな走りで中央に入れていること」

 

 

メジロマックイーンの苦笑いが思わず固まる。

 

「ゴールデンレイシオは入学の身体能力テストじゃ筋力測定と心肺機能測定で2位と大差の1位、歴代だとTOP100に入ってるわ。レースの成績は悪かったそうだけど、ポテンシャル採用って言えばいいのかしらね?それが大きな加点となって入学できたそうよ」

 

「まあ、入学当時の記録だから、1年経った今はどうなってるか分からないけどね」とミーティアが付け加える。しかし、それでも身体能力だけで中央入りを果たした。この事実に変わりはない。

 

「そんなウマ娘が、身体機能を問題なく使えるように整えた姿がアレよ」

 

ミーティアの指を差した先には、青毛のロングヘアのウマ娘、ゴールデンレイシオがいた。

ただゲートへと向かうその姿。だが、その歩き姿が異様に美しい。

ピンと伸ばされた背筋、一切のブレがない重心、軽やかに弾む足元。その一挙手一投足に至るまで計算し尽くされたかのような完璧な歩行。

 

「これは……!」

 

その姿に、メジロマックイーンはただ息を呑む事しかできなかった。

 

「ええ……弥生賞の時と別人じゃね?なんかやった?」

 

「基礎を無意識レベルでできるように叩き込んだだけよ」

 

1ヶ月でするやつじゃねーよ、といった呆れた顔でミーティアを見つめるゴールドシップ。

 

この1ヶ月、ミーティアはゴールデンレイシオに徹底して基礎を叩き込んだ。

ミーティアは持論として、『技術とは息をするようにできて初めて技術足り得る』という考えを持っている。

トレーナー歴30年、後進育成15年。併せて45年の歳月をかけて編み出したミーティアの教え。その教えを短い期間の上基礎だけとはいえ十全に受け継いだウマ娘がここに一人。

 

「あとの結末は神のみぞ知る……いや、数分後には分かることね」

 

 

 

■■■

 

 

 

弥生賞の時の数倍もの人々に囲まれて、僕はターフに立っていた。

 

G1皐月賞。

クラシック三冠最初の冠。

 

皐月賞は優先出走権の獲得者と賞金上位者しか出走できない。

名家、名門も含むおよそ数千人のウマ娘の中から選ばれた一握り。

 

そんな皐月賞に僕が出られること自体が奇跡だ。

 

そもそも、ミーティアさんと出会わなければ。

お母さんに背中を押されなければ。

ゴールドシップさんと話さなければ、ここには立っていない。

 

僕はたくさんの人に支えられて、ここに立てている。

 

 

———勝とう。みんなのためにも、恩に報いるためにも。

 

 

1枠2番のゲートで心を鎮めながら待つ。

他のウマ娘も同じく、スタートダッシュの姿勢で静かに待つ。

 

『誰もが憧れる三冠の夢、クラシックロードの最初の戦いが幕を開けます』

 

僕の作戦は、まずはスタートダッシュからはじまる。

ここが肝心、失敗はできない。

息をゆっくりと吸い、ランプとタイミングを合わせる。

 

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました……スタートしました!っと出遅れ発生!』

 

 

作戦通り!上手くいった!

 

 

『2番ゴールデンレイシオ、わずかに出遅れました!』




1週間ぶりだなあ!予告通りなあ!!

後書きのネタが思いつかない!また来週!

ps.日間ランキング覗いたらなんか見覚えがある作品が11位に……え?なんで???(困惑)ありがとうございます!
psのps.嬉しさを表す踊りをしてたら手首強打しました。
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