走れるだけでよかったのに 作:〆切の逃亡者
レース当日。
僕は中山レース場の控室で、頭を抱えていた。
『勝つためのピース』、ミーティアさんにそう言われたものを一向に気づけそうになく、悩んでいる。勝つためのピースが気付けない、と言う事は勝てない事になるのかな……ならば、勝つためにはいち早く気付く必要がある……といったような思考をしてしまっている。答えのない問題を解かされている気分になってくる。つまり、僕の状況を解説するとドツボに嵌るといった表現が適切だろう。
現に今、僕の調子は不調気味…まあ、それは今に始まった事ではないし、先週当たりは絶不調だったので調子は良くなっている。
そしてもう一つ、考えても分からないものがある。
ミーティアさんのオーダー、『追込で走れ』ということだ。ミーティアさんは僕を勝たせるつもりだ、ということは僕の見る目が確かならそのつもりだと思う。それだけに、不可解な点が目につく。
まず、なぜ僕に走り慣れない追込を練習もなく本番でいきなりさせるのか。先人曰く、「勝負とは始まる前に決している」と言う。それはつまり、即席の武器で勝負する事の愚かさを示している。
次に、なぜ『逃げ』ではなく『追込』なのか。正直言って難易度で言えば逃げの方が余程簡単だ。逃げにも種類があるけど、例外を除いて逃げは『タイムアタック』だ。いち早くゴール版を駆け抜ける、それが逃げの本質。
今回のレースは8人で行われる未勝利戦。
これまでレースを見るに、逃げ1人、先行4人、差し2人。逃げが1人だけのため、遅めのレース展開だと予想される。
……遅めのレース展開ならば、前に着く方が良いと思う。先行で内に居れば……いや、こうした分析や思考は今までもやってきた。そうして負け続けてきた。僕は僕が思っている以上に僕のことを理解してないんだろう。
どう転んでも最後のレース。
僕だけでは勝つことはできなかったと思う。
だから、信じてみよう。
■■■
『さあ、本日の中山レース場第3レース、ジュニア級未勝利戦。どのウマ娘が勝利となるか』
『1番人気は———』
今日は12月24日、クリスマスイブ。にも関わらず、多くの人がこの中山レース場に押しかけていた。
理由は察せられる。この後にあるG1レース、ホープフルステークス。ジュニア級唯一の中距離G1レースで、来年のクラシックを賑わせる新星を見ようと押しかけたんだろう。
同日開催の同じレース場だけあって、ホープフルステークスが行われる前のレースも観ておこうとする人は少なくない。
見られることも、人の多さも多少は慣れたけれど、ここまでの多くの観客は初めてで、歓声の大きさに少しビックリした。
でも、それはもう関係ない。
『ゲートイン完了、出走の準備が整いました……』
僕は走るだけだ。
『スタートしました!』
ガコン!という大きな音をたててゲートが開き、一斉にウマ娘が駆け出す。
今回の僕は追込……僕の他に追込の子がいないので、必然的に最後尾の位置へ入る。
良バ場の2000M右回り。
何度も走った距離でも、この景色は初めてだ。
『ゴールデンレイシオ、集団から大きく離されて最後尾です。これは作戦でしょうか?』
先頭が速い……!
いや、僕が遅いんだ。
最後尾に位置付ける、という意識が加速の選択肢を取らせてくれない。掛かる訳にもいかない、追込の作戦を崩す訳にもいかない。どうすれば……!
「最後尾にいる4番の子、ゴールデンレイシオなんだが、いつもは先行、差しのスタンダードな戦法を取るウマ娘なんだ。確かに7戦7敗、入着1回の戦績で、お世辞でも上手くいっているとは言い難い。だけど、戦法を変えると言っても、いきなり追込の戦法を取ることには違和感を覚える……」
「どうした急に」
「追込は一朝一夕でできるものじゃあないし、ここは先行有利の中山レース場。普通、追込を試すなら府中などの最終直線が長いコースを選ぶはず。作戦にしろ、追込を走り慣れていないことは分かりきっている。果たして無事に走り切れるのか……」
『さあ、早くも先頭は第3コーナーに突入しました!縦長の展開となりましたが、後ろのウマ娘は追いつけるのか!』
僕に足りないもの……勝つためのピース……ここまで来て一向に分からない。勝つためには何が必要なんだろう……
こうしている内にじわしわと差を開かされてしまい、残り4ハロンを示すハロン棒を通過するころにはかなりの差をつけられている。
ここからは緩やかな下り坂と最終直線にある高低差約2.5Mの登り坂。単騎逃げのせいでスローペースに持ち込まれているとすると、僕の足では差し切るのは難しい。
内は……ダメだ。荒れているのもあるし、密集しすぎている。なら勝機は……外!
最内から外に出る。
瞬間、突風。
集団が風邪避けになっていたのか、急に襲ってきた突風に少しよろけてしまった。
まずい……!ここでの失速は致命的だ!
早く立て直さないと、第4コーナーの半ばだぞ!
差は……7バ身くらいか?残りの距離は500Mくらい……いけるか?いや、いくしかない!!
足に力を込める、体を前に傾ける。
スパートの体制。転びそうなほどの前傾姿勢で、恐怖心を押し殺して無理矢理足を前に出す。
緩やかながらも下り坂、その恩恵を受けて加速する。
だけど、僕に釣られて他の子もスパートを始めた。コーナーでスピードを出すと必然的に外に膨らみやすくなる。すると当然、外にいる僕はその影響を受けてしまう。
くっ、失敗したかな。このロスで他の子との差は広がってしまう。
ダメだ、追いつけない……!
いや、何を勝手に諦めてるんだ。まだゴールしてない、レース中だ!諦めなければ道は……!
『第4コーナーを抜けて最終直線!中山の直線は短いぞ!!っとゴールデンレイシオ!大外にゴールデンレイシオ!最後尾から先頭集団に駆けつけた!!』
「なっ!?」
「うっそ!?」
俯いていた顔を急いで上げると、そこには大きく目を見開いた先行と逃げの子の顔が2バ身ほど前にあった。先ほどまで先頭にいた子たちだ。
あれっ!?どうして!?
『ゴールデンレイシオ猛追!坂などお構いなしに加速する!!残り100M、ゴールインレイシオは並ぶか!?』
「っぁあああああ!!!」
「勝つのは……アタシだあああ!!!」
驚いたのも束の間、前を向き直るとさらに加速を始めた。
登り坂でなんて速度……!
くっ、僕に加速はもう……!
『———いや、並ばない、交わした!!驚異的な末脚っ!!』
あれえっ!!??
『そのままゴールイン!!なんとビックリどんでん返し!!勝ったのはゴールデンレイシオォ!!』
あれええええええ!!!???
■■■
ふわふわとした気持ちでいると、いつの間にかレースやウイニングライブは終わっていて、僕はいつの間にか控室に座っていた。
かっ……た?夢じゃない?
頬を引っ張る。痛い。夢じゃない……?
ラジオ体操でもすれば目が覚めるかな……?
「おめでとう、ゴールデンレイシオ……何してるの?」
「ミーティア、さん…?ええと、夢から覚めようかと……」
ラジオ体操第2に移行しようとすると、いつの間にか初めて見る表情のミーティアさんがいた。
「あー、えっと……それはそうと、おめでとう。文句なしの1着よ」
「あ…ありがとう、ございます……?」
「なんで疑問系なのよ」
全く、と苦笑いをしながら祝福してくれるミーティアさん。
立ってるままも変だと思い、椅子に座る。
あれ?そういえばなんでここにミーティアさんが?選手控室って関係者以外立ち入り禁止じゃなかったっけ?
……まあ、トレーナーバッチは持ってるんだし、広い意味では関係者…になる、のかな?
「この調子じゃ電話もしてないわね……ほら、お母さんにレースの報告、するんでしょう?」
「え…あ、はい」
ぽい、と手渡された携帯電話。
それを促されるがままに電話をかける。
「あ、もしも『おめでとうレイシオ!!』しぃ……」
電話がつながった瞬間、大音量の声が僕の耳を貫く。頭がキーンとする……
『レイシオ、レース観てたわ!!凄いじゃない!』
僕の返答を待たない矢継ぎ早な言葉がお母さんから出る。
興奮しているようで、僕が初めて歩いた時以上にはしゃいでいるかもしれない……
『おめでとう!!』
興奮気味のお母さんの言葉が、僕の心に染み渡る。
そうか、僕………
「うん…勝ったよ……」
この時、初めて『勝利』の味を噛み締めた。
勝利の余韻という、未知のものに意識が揺蕩う。
身体は疲弊しているのに、どこかスッキリとした満足感のようなものが支配する。
これで、悔いは……
『次は重賞ね!』
えっ。
『いや、目指せG1よね!応援してるわ!!』
えっ。
『あっ!いま料理中だったわ!またかけ直すわね!!』
ブツッ!ツー、ツー…
……全く、自由奔放なお母さんだと思う。
僕は走れるだけでよかったのに……
でも、まあ———
「……喜んでくれるなら、走ろうかな」
ゴールデンレイシオ
8戦1勝 1-0-0-7
主な勝利 ジュニア級未勝利戦
有言実行したので優勝です。ヨシ!
という訳で初レース。うーん、難しい!バトル描写並みに難しい……
あとさ、気づいたんだけどオリキャラしか出てねぇんだよね……いや、これはウマ娘プリティダービーの二次創作作品です。オリキャラしか出てなくても二次創作です。いや出るから、めっちゃ出るから、お気に入り登録解除は待ってプリーズ!!
あ、次回は多分遅れます。くっ、リアルめ…どこまでも私を邪魔するというのか……!