走れるだけでよかったのに   作:〆切の逃亡者

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第8話 あーゆーれでぃ?

『皐月賞を制したのは———』

 

「……ふぅ」

 

テレビの電源を消し、少しほぐすように背伸びをする。

 

弥生賞から日が経ち、皐月賞まで数えるほどとなった。

トレーニングは今や毎日走るほどで、楽しくて楽しくて仕方がない。プールサイドは……しばらくはいいかな、うん。

今日は休養日ということで映像研究をしていたんだけど……

 

「まあ、追込で皐月賞を勝つ。なんて言ったら…ねえ?」

 

ミーティアさんが言外に言っているように、ほとんど参考にならない。

 

ゴールドシップさんはバ場状態が内側が大荒れで重かったという特殊な状況下。ロングスパート自体は真似できたとしても、内側から追い抜くというのはあまりにも非現実的だ。

ナリタタイシンさんは驚くほど鋭い末脚で、中山レース場という短い直線で直線一気を仕掛けていた。僕のスピードで再現は不可能だろう。

ミスターシービーさんは手本のようなロングスパートで抜け出していた。だけど、他のウマ娘と競り勝つほどの末脚も併せ持っていたため、早仕かけでリードを作って勝つ、という僕の方針には合いそうにない。

 

前日から研究はしてきたけれど……正直、お手上げだ。

弥生賞で見つけた課題、速度の不足を埋めるために映像を調べてみたけれど、どのウマ娘も再現不可能だったりそもそも強すぎたりして参考にならない。

 

「でも、皐月賞で後方から差し切ってるウマ娘って思ったより多いんですね」

 

「最終直線が短い、と言っても展開次第では最終直線に入る頃には前方に付けれるわ。疲れている先行や逃げと同じ位置からヨーイドン!ってしたらそりゃ勝てるわよ」

 

「まあ、それでも先行有利なのは変わらないけど」と続けたミーティアさん。

ならば先行で勝負した方がいいのでは?

実際そう思ったし、その相談をしてみたけれど、ミーティアさん曰く僕に勝機があるのは追込以外無いらしい。

中でも先行差しでの勝機は無い、そもそも才能がない。と忖度なしに滅多打ちにされた。

才能ないのは分かってるけれど、改めて言われると少しへこむなあ……

 

「それで、皐月賞の対策は思いついたかしら?」

 

「えっと、なにかアドバイスとかは……」

 

「私、作戦考えるの苦手なのよねえ……んー、1000Mから仕掛けたらどうかしら。ほら、リードも作れるし」

 

「スタミナ尽きますよ」

 

はぁ、とため息をつきながら机に顔を伏せる。

 

最近分かったけれど、ミーティアさんは結構雑なところがある。

思いつく作戦は細やかというより力任せなものが多い。以前、得意なのはトレーニングだと言っていたけれど、ここまで作戦指揮が雑だとは思わなかった。

……まあ、思い返せば『追込で走ればわかる!』とか『700Mから仕掛ければ勝てる!』とかそんな作戦とも言えないものばかりだった。

とても伝説のトレーナーと呼ばれた人とは思えない……

 

「……ミーティアさん、なんで昔勝ててたんですか?」

 

「え?えっと確か……必勝パターンと、必勝パターン対策の対策立てて後はウマ娘任せだったわね。まあ、私が走るわけじゃないし、細かい作戦伝えられても困るでしょ?」

 

「ちなみに、僕に必勝パターンって……」

 

ちらりと顔を上げ、ミーティアさん方を向く。

もしかして、僕にも必勝パターンが……!

 

「作れるけど、作るには……そうね、2年は足りないと思うわ」

 

「2年……」

 

「2年ね、短くて」

 

「皐月賞は……」

 

「間に合うわけないでしょ?」

 

僕は再び机に顔を伏せた。

 

 

 

■■■

 

 

 

顔を上げると、窓の外が茜色に染まっていた。

……いつの間にか寝ていたらしい。

 

「あら、おはよう」

 

後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこには大きめのダンボールを抱えたミーティアさんがいた。

 

「す、すみません。研究の途中だったのに……!」

 

「大丈夫よ、映像はほとんど見終わってたし。それに眠ってから1時間も経ってないしね」

 

そう言いながらミーティアさんは机の真ん中に荷物を置くと、肩を回しながら気だるげにため息を吐いた。

 

「あの、その荷物は?」

 

「ああ、これ?あなた宛の荷物よ」

 

「僕宛の……?」

 

お母さんとはお手紙くらいしかやりとりしていないし、僕がネットで買った物もないはず……なんだろう?

そんな事を考えていると、ミーティアさんは真面目な顔をして僕を見る。

 

「ゴールデンレイシオ。あなたには次の皐月賞に出るにあたって、まだ準備すべきことがあるわ」

 

「準備すべきこと……?」

 

「答えはこの中よ」

 

ミーティアさんがダンボールに手を置く。

いったい、この中に何が……

 

「……開けても、いいですか?」

 

「もちろん。これは他でもないあなたのものだもの」

 

おそるおそるゆっくりとダンボールに手をかける。

 

「これは……」

 

 

「G1レースの出走には欠かせないもの———勝負服よ」

 

 

勝負服。G1レースに出走するウマ娘のみが着ることが許される格式高い衣装。

この衣装を着るために、と励みにしているウマ娘も少なくない。

 

そんな勝負服だが、僕は完全に忘れていた。

……言い訳をすると、レースの展開やトレーニングで頭がいっぱいで勝負服のことはすっかり頭から抜けてたのだ。

でも発注もしてないのによく届いたなあ……G1に出るウマ娘はこうしてサプライズで届けられるのかな?

 

「勝負服って何もしなくても送られるんですね」

 

「そんなわけないじゃない」

 

ミーティアさんは呆れ気味に僕の呟きを一刀両断した。

じゃあこの勝負服はいったい……?

 

「本当はデザイナーと打ち合わせとかあるんだけど……木崎から引き継ぎの中にこんなアンケートが出てきてね」

 

ミーティアさんはどこからともなく一枚の紙を取り出し、読み上げ始めた。

 

 

Q.勝負服にこだわりはありますか?

A.走りやすい服装がいいです。装飾少なめで。

 

Q.レースや走ることに対して思ってることはありますか?

A.気持ちよく走りたいです。

 

Q.好きなものはありますか?

A.走ること。

 

 

…………

 

それ以降も似たような回答ばかりが続くアンケートは読み上げられる。

アンケートを読み終わったミーティアさんはどこか疲れた様子でため息を吐いた。

 

「……あなた、本当に花の女学生?」

 

「でも、走れればよくないですか?」

 

思わず反射的に答えてしまったが、実際そう思う。

勝負服は割と何でもいいのだ。

特に変な格好でなくて、走りにくくなければなんでも良い。その点、ジャージはとてもポイントが高い。走りやすいし。

 

そんな事を考えていると、ミーティアさんは呆れたような声で言う。

 

「……とりあえず衣装に不備があったら問題だから、それに着替えて確認しないさい」

 

「あ、はい」

 

頭を抑えながら部屋から出ていくミーティアさん。

その様子に、僕は首を傾げることしかできなかった。 

 

 

■■■

 

 

 

「ええと、どうですか?」

 

くるりと一周して衣装を見せる。

 

白いブラウスに深い紫を基調としたフリルの少ない前より後ろが長い不思議なドレス。膝まであるロングブーツ、胸元には大きな紫色の宝石が付けられたスカーフを巻いている。そして全体的に這うようにして金色の蔓のような刺繍が施されている。

僕にあまり服装の知識はないけれど、これはいわゆる『ゴシックロリータ』のような見た目をした勝負服だ。

……うん。割と動きやすいし、鬱陶しさもない。流石はレースのための勝負服、プロの仕事ってすごいなあ。

 

このかなり完成度の高い勝負服に、ミーティアさんもどこか満足気に頷いている。

 

「さすが一流ね。あの情報量皆無のアンケートからここまで仕上げてくるなんて」

 

「ありがとうございます……?」

 

あれ?褒められてる?

 

「安心しなさい、びっくりするほど似合ってるわよ」

 

「そう、ですか……むむ…」

 

嬉しいような……なんだか痒むずいような……?

 

「今日はそれ着て軽く走ったらトレーニング終わりね」

 

そう首を捻っていると、ミーティアさんが時計を見ながらそう言った。

やった!今日はまだ走れる!

 

「とりあえずコース10周くらいしますか?」

 

「流す感じで2周ね」

 

「……5周」

 

「半周でもいいのよ」

 

むう!

 

 

 

■■■

 

 

 

「……ハァー……チッ、不確定要素が多すぎる」

 

エアシャカールは背もたれに倒れ込みながらもゴールデンレイシオのデータを睨みつける。

 

エアシャカールにとってゴールデンレイシオは、弥生賞で最も3着以内に入られたくなかったウマ娘だ。

 

その理由はいくつもある。

 

伝説のトレーナー、ミーティア。

初勝利から僅か半年で重賞入着に入り込む素質。

ロングスパートを実行するスタミナ。

 

そしてなにより———

 

「成長曲線が読めねェ……」

 

エアシャカールはゴールデンレイシオが恐ろしい存在として映っていた。

 

本当に成長したのか、それとも技術的に躍進したのかの比率が読めない。

ミーティアが施しているトレーニング内容すら不明なため、どんな成長をしているのかを読むことすら難しい。

もし今のペースで成長すると……ゴールデンレイシオは世界にすら届きうる可能性を秘めている。

 

だがしかし、これはクラシックの話ではない。

恐ろしい存在に変わりはないが、怪物ではない。

伝説のトレーナーが付いてはいるが、絶対ではない。

勝率は十分、基礎能力では負けてない。

 

ならば、導き出される解は必然。

 

「勝つのはオレだ」




またせたな!(約1ヶ月ぶり)

いや、聞いてくださいよマジで。
大変だったんですよ?
少し病気で伏せてまして……あ、入院はしてないですよ。軽い病気でね?五月病って言うんですけど。
ちなみにいまは梅雨によるスリップダメージがやべぇですわ。低気圧お滅びになって?
次回は来週!たぶん!私の中では来週!私の1日は24時間じゃないかもしれないです!



おまけ

ミーティアと相性のいいウマ娘!
1位 サイレンススズカ
やること決まってて能力値高いウマ娘が1番合うぜ!
2位 シンボリルドルフ
自分で作戦指揮できるウマ娘と合うぜ!
3位 ゴールドシップ
きゃっきゃ言いながらエグい作戦を高度なスキルで実現してくるぜ!
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