・ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
「くっっっっそ痛えですわ!!!」そんな断末魔が大人気ケーキショップの前、交通量の多い大通りに響き渡る。
私、夏海彗(ナツミスバル)は食べることが大好きなお嬢様ですわ……でしたわ、と言うのが正しいかしら。たった今、ブルドーザーにふっとばされて死にましたから。
「くっそぉ……限定ケーキを買うためにちょっと横断しただけなのに、なんであのクソブルドーザーはとまらないんですの? こんど見かけたら運転手を引きずり出してバチボコにぶちのめしてやりますわ!」ぷんぷんしながら私は川の真ん中を歩いていた。
銀髪のワイルドショートヘアーに小麦色の褐色肌。きりっとしたまんまるおめめに楕円形の眉。私は見た目もお嬢様ですわ。どやぁですわ。
「………ここは三途の川?」ときょろきょろ見回しながら私はつぶやく。
「そうだよ〜」と後ろから声をかけられて、振り向く。そこには、麗しい女性がいた。白いぴっちりした服を着て、身体のラインがはっきりとわかる。
左肩から胸の間に紐が通してあり、おっぱいが強調されているのがわかる。「おいしそう……」と私はそれをわしづかみにする。
「ひゃんっ! 何すんのさ」びっくりした彼女は胸を押さえて後ずさる。
「あ、いやもちもちしてうまそーと思いまして」
「僕のおっぱい食べるつもりだったの!? せめて吸うならわかるけど!」
「……ミルク、だせますの?」じゅるり、と私はよだれを垂らす。
「いやだそうと思えばだせるけど……じゃなくて! 今の状況わかってる?」
「もちろんですわ! 多分ひき殺されたんですわよね?」
「え、うん。理解すごいね……だからもう君は死んでる」
「だったら生き返ればいいだけですわ!」私は川の真ん中で周囲をきょろきょろと見回す。左手にはお花畑が見える。右手のほうは……もやがかかってよく見えない。
「おいで〜」とお花畑から手を降っている人がいる。あれは……おばあさまかしら、十年ほど前に亡くなったはずの。
「こっちですわね!」私は迷い無く、お花畑に背を向けて歩き始める。じゃぶじゃぶと。
「まってまってまって! ほんとに生き返りそう! だめだめ!」白い服の彼女は手を掴んで止める。
「なんですの? てか貴様はだれですの?」
「神様だよ〜。へティアって呼んでね」ぱちりとウィンクしながら彼女は言う。
「へティア……私はあの夏海家の第一令嬢、スバルですわ! あなたよりえらいですわ、多分!」私は胸を張って腕組みをする。夏海家はかつて世界を股にかけた伝説の財閥だ。
「ええ……? 人が神の前でふんぞりかえってる……逆にすご……」
「んでそのへティア神ちゃんは私に何か御用ですの?」
「ええ……初対面の神をちゃん付けで呼ぶの……? いやスバルちゃんを転生させよっかなーって」
「てんせい……? 生き返る……ってコト!?」
「かんたんに言うとそうだね」
「じゃあとっとと生き返らせろですわ、できたらケーキ屋の前で開店前の時間でよろしくですの」
「注文多いね……ごめん、僕はスバルちゃんがいた世界の神様じゃないんだ……だからそれは無理かなぁ」
「はぁ? それじゃ限定ケーキが食べられないですわ! なんとかしやがれですの!」私はおっぱいに掴みかかる。
「にゃあ!? ごめんなさいっ」へティアは悲鳴を上げながら涙目になる。
「代わりにミルクだせですの!」ぐにぐにと両手でおっぱいをもみしだく。
「やだ! 女神の乳飲もうとするなんて君がはじめてだよ! 代わりに転生する時にミルク、じゃないスキルあげるから!」
「スキル……? それは食べられるんですの?」
「食べ……? いや無理かなぁ」
「じゃあいらねーですわ。母乳、いや神乳をよこせですわ!」
「やーだー! ミルク飲まれたなんて他の神に知られたら、噂になって永久に語り継がれちゃうよ! 世界の民が『やーい、お前の創造神、おっぱいすわれてやーんの』って煽られちゃうから!」じたばたとへティアは暴れる。その拍子にバランスを崩し、私共々川の中に倒れ込んでしまう。
ばっしゃぁん! 水しぶきがあがり、二人ともびしょ濡れになってしまう。
「冷てえですわ……!」
「もー。スバルちゃんみたいなわけわかんない人、はじめてだよ。みんな喜んで転生するのに……」少し呆れたように
へティアは言う。白い服がすけて、肌の色があちこち浮き出ている。
「私は私ですわ。……そういや転生先の世界ってへティアちゃんが創った世界ですの?」
「そうだよ。管理は他の神に任せてるけどね。創造神権限で他の世界で亡くなった人連れてこれるんだよ〜」
「ふうん。その世界にはおいしいものたくさんあります?」
「スバルちゃん食べるの好きだもんね、前の世界よりたくさんあるよ〜」にこにこと笑みを浮かべながらへティアは答える。
「じゅるり……なら転生しますわ」
「いいね、転生一丁はいります! あ、スキルもいる?」
「スキルが何か知らないですけど、もらえるならもらっときますわ!」
「適当だなぁ。かんたんに言うと〜空飛べるようになったり、死んでも時を戻して生き返るようになったり、特殊な事ができるようになるかんじ?」
「なるほど。いくらでも食べれるとかはありますの?」
「え、あるけど、そんなんでいいの?」へティアは呆気にとられた表情をする。
「かまわねーですわ」
「ならおまけにいろいろな効果付けとくね。食べ放題だけじゃ物足りないし」
「なんでもいいですの! はやく転生させてくださいまし! 腹減ってきたんですから!」わたしはぷんぷんする。
「せっかちだなぁ、わかったよ」ふう、とため息をついてへティアは私の肩をつかむ。
ゆっくりと、顔を近づけてくる。
ちゅ。女神のくちびるが私のくちびるに触れると同時に、世界が暗転した。