呪術師 七海建人の怪奇録   作:アラタナナナシ

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御柱様①

 放課後の小学校。生徒達は噂話や怪談話に花を咲かせていた。

 

 恐怖を感じて、素直に怯える子。見栄を張って、平気なふりをする子。様々な反応をする中で、一人の少女だけは微笑をたたえていた。

 大人びた少女の微笑みは何に対してのものなのか。その表情からはうかがい知れないが、大人から見てもドキリとする微笑みである。

 ひとしきり話を終えた生徒たちは、最後のお楽しみと言わんばかりに、興味に満ちた視線を少女に向けた。

 

「なぁ、今日も怖い話をしてくれよ」

 

「怖い話ねぇ……。怖いっていうより、不思議で悲しいお話ならあるわよ」

 

「聞きたい聞きたい!」

 

「分かったわ。御柱様(おはしらさま)ってお話なんだけどね――」

 

 

 伊月との共同生活も三か月目に入った。

 

 その間、伊月の周りが不幸になったような事件や事故は、同級生の誘拐事件以降、何も起きてはいなかった。

 一番近くにいる七海にも不幸が降りかかってきたと思えることもなかった。

 ただし、本人が思っていないだけで、他人から見れば、呪術師の仕事は不幸の連発である。

 

 だが、それでも災禍転身の術式が発動したような痕跡もないことから、何も起きていないと言える。

 いつまでこの生活を続けるのか、五条も期限は決めていなかったが、そう悪い生活ではないと思っている。

 自分の帰りを待っている人がいるというのは、存外悪いものではない。

 

 夕刻を迎え、帰宅した七海はリビングのドアを開け電気を点けた。

 すると、乾いた破裂音が二発なった。

 

「ハッピーバースデー、七海さん!」

 

「お誕生日、おめでとうございます。七海さん」

 

 そこには伊月と猪野がクラッカーを手にして立っていた。

 何事かと思った七海は、やっと事態を理解した。今日は七海の誕生日である。

 

「驚きました。私の誕生日でしたね」

 

「ちょっとぉ。本気で驚いてますか? 伊月君の考案なんで、お礼は伊月君にしてくださいね」

 

 猪野がそういうと、伊月を七海の前に立つように促した。

 

「あの、いつもありがとうございます。お世話になっているので、何かお礼をしたくて」

 

 気恥ずかしそうに言う伊月が、テーブルに置いてある包装された袋を七海に手渡した。

 

「お誕生日プレゼントです。猪野さんと一緒に考えました」

 

「ありがとうございます。中身を見ても良いですか?」

 

 伊月が頷いたのを見て、七海は袋を丁寧に開けた。中にあったのは、ブランド物の眼鏡拭きであった。

 

「これは……。高かったのでは?」

 

「半分猪野さんが出してくれたので買えました」

 

「そうですか。ありがとうございます。猪野君もありがとう。大切にします」

 

 七海の言葉に猪野も照れくさそうな笑みを浮かべた。

 

「大事にしてくださいよ? で、今日の料理は伊月君と俺の特製カレーっす。ささ、七海さん、席に座ってください」

 

「七海さん、いっぱい食べてくださいね」

 

 七海の誕生日の夜が暮れていった。

 

 

 騒ぎ疲れた伊月は早い時間に布団に入り、寝息を立てていた。

 

 その様子をそっとドアから覗いた七海は、音を立てないように静かにドアを締めた。

 

「猪野君、今日はありがとうございました。色々気を使わせてしまいましたね」

 

「いやいや。伊月君がやりたいって言ったからっすね。いい子っすよ、本当に」

 

「そうですね。本当に優しい子です。さて、これから一杯飲もうと思いますが、どうですか?」

 

「うっす、いただきます」

 

 七海が冷蔵庫のドアを開けたとき、スマートフォンの着信音が鳴った。

 表示された伊地知の名前を見て、嫌な予感がした。

 

「七海です」

 

「伊地知です。七海さん、急ぎ対応していただきたい案件が出てきました。すぐに迎えに上がります」

 

「分かりました。ちなみに、どのような案件なのでしょうか?」

 

「……御柱様が見つかりました」

 

 伊地知の言葉に一瞬返答に戸惑った七海であったが、すぐに平静を取り戻した。

 

「今、猪野君といます。彼の力も借りましょう」

 

「それはありがたいです。術師の手が多いに越したことはありませんからね。それでは、ご準備をお願いいたします」

 

 通話を終えた七海は硬い表情で、猪野に言う。

 

「猪野君、御柱様が見つかったそうです」

 

「げっ? マジっすか……。じゃあ、今から?」

 

「ええ。今日は徹夜になるでしょうね」

 

「うへぇ~。ま、やるしかないっすね」

 

 気持ちを切り替えた猪野が真剣な眼差しを七海に向ける。

 御柱様の発見は呪術界では、厄介な話である。他の術師も動くことになるだろう。

 七海は緩めたネクタイを締め直すと、プレゼントでもらった眼鏡拭きで愛用の眼鏡を拭いた。

 

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