福島県某所。時刻は夜中の一時を回っていた。
伊地知の運転する車は、発見された御柱様を保管している場所へと向かっている。
後部座席には七海と猪野が並んで座っており、二人とも硬い表情のまま車窓を流れる景色を見ていた。
遠くに『
深夜の街を奔る車は少ない。そんな中、また別の所でも『帳』が降りているのが見えた。
「緊張するなぁ。御柱様が出たのって、久しぶりじゃないっすか?」
猪野が張られている『帳』を眺めながら言う。
「そうですね。私も一度しか経験がありません。ですが、気後れするものでもありません。いつも通り、気を抜かずにやりましょう」
「はい!」
七海たちを乗せた車は、街の警察署に到着した。
警察署には七海たちと同じ黒塗りのセダンが数台止まっており、その周りには呪術高専の関係者がいるのが見えた。
車を止めると、七海と猪野は車のトランクから、大きな袋を取り出した。それは人一人入る大きさのもので、中に何か入っており重さも大人程のものだった。
「こちらへ」
高専の関係者が警察署内に七海たちを誘導する。
七海たちが持ってきた袋を担架に乗せると、警察署の奥へ消えていった。
数分後、高専の関係者数名がそれぞれ担架を運んできた。担架には、先ほど七海たちが運んできた大きな袋が乗っていた。
「各班の車に乗せますので、積み込みが終わった班から先導のパトカーと一緒に出発してください。」
関係者の一人が言うと、七海たちの車のトランクにも袋が積み込まれた。
七海と猪野はすぐに車に乗り込むと、伊地知は待ってましたと言わんばかりにアクセルを踏み込んだ。
パトカーに先導されながら走る車。七海と猪野は周囲を警戒しながら、言葉を交わす。
「まずは第一ステージクリアっすかね?」
「いえ、どうやらお出ましのようです」
七海はルームミラーを見たまま言った。猪野が振り返ると、そこには車の後を追いかけてくる四足歩行の呪霊の姿があった。
「早速かよ! 七海さん、俺がやります」
「お願いします」
すると、猪野はニット帽を下げて、マスクのように被った。
目出し帽の姿になった猪野は、車の窓を下げると、身を乗り出して呪霊に向け手を突き出した。
「
猪野の突き出した手の前に、大きなドリルのようなものが現れた。
それは放たれると、猛スピードで呪霊へと突き進んだ。
呪霊はその速さに対応できず、ドリルに貫かれてはじけ飛んだ。
「うっし!」
ガッツポーズを見せた猪野が、あっ、と声を上げた。
それは、更に後方から迫ってくる呪霊たちを見たからであった。
「猪野君、お願いします」
「ちくしょー。こんなに来るのかよ。一番、獬豸!」
再び放たれたドリルが呪霊たちを貫いていく。
この攻防は夜の街を抜けるまで続いた。
◇
パトカーと七海たちの乗る車は、県境の山道を走っていた。
呪霊の襲撃は鳴りを潜めており、車通りの少ない道を警戒に飛ばしていた。
このまま何事もなければ良いが。七海は周囲を警戒しながら思った。
そのとき、突然、パトカーが急ブレーキを踏んだ。響くブレーキ音。
伊地知も慌ててブレーキを踏み込むと、パトカーに衝突する寸前で何とか止まった。
何事かと車から降りる警官たち。七海と猪野も車を降りようとしたとき、警官たちが宙を舞った。
パトカーの影から姿を見せたのは、二メートル近くある大男であった。両手にガントレットをはめており、その堅牢さが見て取れた。
ただの人間ではない。呪詛師だ。
「伊地知君、私たちが対処します。待機しておいてください」
「はい、ご武運を」
車を降りた七海と猪野を見た大男が、不敵に笑う。
二対一の状況で笑っている。その答えを見抜いた七海は振り返った。
その刹那、七海の眼前に迫る鋭い爪が見えた。
「くっ!?」
ギリギリ避けた七海は飛び退くと、攻撃を仕掛けてきた者に相対する。
その者は背が高く、長い髪をだらりと垂らした優男風の風貌であった。
黒のロングコートを着た男の手は、爪が異様に長く伸びていた。
「おおっと。これはこれは。一級術師の七海建人か。この車が当たりかもな」
男は余裕を感じさせる口ぶりで言う。
「自己紹介しとくか。
男が九門と名乗ると、七海の眉がピクリと動いた。
「猪野君、そちらの大男はお任せします。こいつは私が」
鉈を取り出して、荒神に向けた。
「始末します」
呪術師と呪詛師の戦いが始まった。