呪術師 七海建人の怪奇録   作:アラタナナナシ

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御柱様③

 七海は一気に距離を詰めて鉈を振るった。

 

 その一撃を九門はなんなくかわす。七海は更に一歩踏み込んで、左ストレートを繰り出した。

 九門の顔面を捉えたかに思えたが、その攻撃も空を切った。余裕を見せるかのように、九門は口角を僅かに上げた。

 

「ひゅー、早いねぇ。怖い怖い」

 

 芝居がかった口調で言うと、目を鋭く細めた。

 鋭く伸びた爪を高々と掲げて、九門が七海に攻めかかる。

 その速さは七海の動きに勝るとも劣らない。

 

 九門 衛司は一級呪詛師で、呪術界では割と名前が通っている。

 その術式は『獣血呪法(じゅうけつじゅほう)』と呼ばれる、獣の血を飲むことで、その動物の力を発現させるというものだ。

 今は何の獣の血を飲んだのかは分からないが、鋭い爪から繰り出される一撃は熊のような迫力を感じる。

 

 九門の一撃が地面のアスファルトをえぐり取った。

 これだけの力。呪力で防御したとしても、ただでは済まないだろう。

 九門の繰り出す攻撃を凌いだ七海は、反撃に転じた。

 

 鉈による斬撃を主体に攻める七海。その刃を避ける九門。

 一進一退の攻防が続く。

 

「やるねぇ。ここまで強いと、俺も本気出さないとヤバいかもね」

 

「余裕ぶっていると、足元をすくわれますよ?」

 

「だよねぇ。じゃあ、早めにケリをつけるか」

 

 九門は言うと、懐からスキットルを取り出した。おそらく獣の血を入れているのだろう。

 これ以上強化される訳にはいかない。七海は九門の動きを制するため、駆け出した。

 

「無粋だねぇ、七海君」

 

 飛び退きながら言うと、スキットルの蓋を指で開けた。

 飲ませてはならない。七海は更に踏み込み、攻撃をする。

 繰り出した攻撃の一つが、スキットルを切り裂いた。

 

 よし、これで。そう思った七海は自分が罠にかかったことを悟った。

 九門は笑みを浮かべる。不用意に踏み込みすぎた。スキットルはわざと切らせたのだ。

 鋭い爪が七海の脇腹を切り裂いた。

 

「くっ!?」

 

「ははっ! 警戒しすぎだよ!」

 

 七海の脇腹から血がにじみ出した。出血量は多くはないが、確実に動きが鈍ってしまう。

 時間がない。これ以上、長引かせてはこちらが不利だ。

 七海はネクタイを緩めると、深く呼吸をした。

 

「ここからは時間外労働です。早めに切り上げさせていただきますよ」

 

 縛りを解放した七海から呪力があふれ出す。

 八時間。七海が定めた時間を超えて仕事が続くと、普段制限していた分の呪力が上乗せされる。

 力がみなぎる七海の迫力に、九門の余裕の表情が消える。

 

 緊張の糸が張り詰めると、七海と九門は同時に動いた。

 七海は左手で九門の右腕の一撃を防ぐ。呪力の増した七海の腕を切断することはできなかった。

 左手を犠牲に生み出した隙を突く。

 

 七海の鉈が九門の胸を深々と切り裂いた。

 九門の胸から鮮血が舞う。

 

「ぐあっ!?」

 

「くぅ……」

 

 左手から血を垂れ流す七海も苦痛を訴える表情を見せた。

 互いにもう一撃を先に与えたものが勝つ状況。手負いの二人は一歩も退くことなく、勝つための一撃を繰り出そうとした。

 そのとき、伊地知の声が響いた。

 

「御柱様の輸送が完了しました!」

 

 その言葉に、七海と九門の間に満ちていた気が萎んでいく。

 

「こっちがブラフだったのかい。一級呪術師を囮にするとはねぇ」

 

「どうやら、そのようですね」

 

「これ以上、続けちゃったら、俺もヤバいかもだから、ここらが引き際かな。おーい、撤収するぞー」

 

 九門は猪野と対峙していた大男に呼びかける。

 

「じゃあねぇ、七海君。今度会ったら、その命いただくよ~」

 

 そういうと、九門は夜の闇に消えていった。

 

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