負傷した七海は呪術高専で、
大きな目の下にあるくまが特徴的な美人の家入は、七海の治療を終えると一息ついた。
「七海君が深手を負うなんて、九門もなかなかの術師ね」
「はい。負ける気はないですが、勝つイメージも難しいですね」
「あまり関わり合いになりたくないわね」
家入の言葉に七海は静かに頷いた。
ギリギリの勝負であった。あのままであれば、どちらが倒れるか分からなかった。
もし、血を飲まれて強化されてしまえば、更に不利になっていただろう。九門 衛司、恐ろしい男だ。
「あ、そういえば」
そういった家入が、隣の部屋へと向かうと、七海を手招きした。
「ちょっと知らせておきたいことがあるの。こっちに来て」
言われるまま、七海は家入が入った部屋へと向かった。
そこは死体の安置所であった。死体安置所には、四つの袋が並べられていた。
どれもジッパーが降ろされており、中が見えるように開けられている。
そのうちの一つを家入が指さした。
「これが今回発見された御柱様よ」
そこには死体袋に入れられた一人の中年男性の姿があった。
それを見た七海は、ほう、と声を上げた。
「男性の、しかも中年とは珍しいですね」
「そうね。でも、問題はそこじゃない。この人の顔、見覚えないかしら?」
そう言われて、じっと男の顔を覗き込んだ七海の目が大きく開いた。
「この人は……。いや、まさか……」
「そう。七海君が調査していた連続行方不明事件の被害者の一人よ」
七海は驚愕して言葉を失った。御柱様の出自を知っている七海が、そうなるのも頷けるものであった。
御柱様とは、呪力を持った人物が人柱として捧げられ、行き場のない呪いの念がワインのように熟成されることで、呪力の結晶となった物をいう。
人柱にされた人の死体が御柱様なのだ。そのため、人柱の文化が廃れた今日では作られることはないし、御柱様といえる程の呪力の固まりになるのは長い年月を要する。
たとえ、誘拐した者を人柱として埋めたとしても、御柱様となるのは最低でも百年は掛かる。
それをつい数か月前まで生きていた人間が、御柱様になるなど聞いたことがない。
「家入さん、本当にこの男性は御柱様なのですか?」
「本物よ。腐敗もなく、メスを通さない呪力で強化された硬い皮膚。発せられる呪力も、今まで発見された御柱様と変わりはないわ」
「誰かの作り物という可能性は?」
「どうかしら。これだけ精巧な御柱様を作れるなら、とんでもない術師よ。私が用意したダミーがかすんでしまうわ」
家入は横に並べてある、死体袋の一つを広げた。
それはのっぺらぼうで、骨と皮だけのような人であった。これは御柱様のダミーとして作られたものである。
御柱様は呪力の結晶体であるため、呪霊からしたら、自分を強化するための餌。術師からすると、特殊な霊媒に使用できる呪物となる。
その力ゆえ、漏れ出る呪力も大きく、呪霊を呼び寄せてしまうのだ。そこで、御柱様の輸送をする際にはダミーを用意して、呪霊の襲撃を分散させる必要がある。
警察署の周りに降りていた帳にもダミーが置いて、呪霊を呼び寄せ、御柱様に呪霊が集まらないような工夫をしていた。
それだけ御柱様が見つかると、人手と手間が掛かってしまうのだ。
「この御柱様は、どうされるのですか?」
「とりあえず保管よね。遺族には悪いけど、解呪するのも難しいから」
「そうですか。残念な話ですね」
「今日はもう帰ったら? 疲れたでしょう?」
「ええ、そうさせていただきます。では、お先に失礼します」
死体安置所を後にした七海は思う。
連続行方不明事件と御柱様が繋がっていた。普通ではありえないことが立て続けに起きている。
深い闇の存在を感じずにはいられなかった。