呪術師 七海建人の怪奇録   作:アラタナナナシ

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流言具象①

 放課後の教室に残った生徒達。その中に麻矢はいた。

 

 時折こうして生徒達で集まっては、噂話や怪談をしている。

 ここで麻矢が語ってきたことの多くが麻矢の創作であった。

 それらの話に恐怖し、植え付けられたイメージが流れ出る呪力によって形成され、形をなしていく。

 

 それが麻矢の術式『流言具象(りゅうごんぐしょう)』。

 非術者に話を信じ込ませることで、その内容を実在するものへと昇華させる力である。

 子供というのは信じ込みやすい。だからこそ、麻矢はこうして生徒達の前で怖い話をするようになったのだ。

 

「ねぇ、麻矢ちゃん。また何か怖い話ある?」

 

 子供は未知なるへの好奇心が強いのも助かる。

 こうして乞われることは、最初から話を受け入れようとしているということだからだ。

 麻矢は薄っすらと笑って、生徒達を見回した。

 

 これでこのつまらない集まりも終わりにできる。

 目的達成のために必要な力を生徒達からいただく。心の内で、舌なめずりをした。

 

「そうねぇ。じゃあ、今までの続きのお話をしようかしら。不思議なお話を――」

 

 

 落ち着いた音楽の流れるカフェに、男が二人いた。

 

 七海と五条だ。七海は千堂から聞いた話を全て、五条に伝えた。

 今、二人の間には沈黙が流れている。

 

 五条がどのような判断を下すか。それ次第で今の生活が変わるかもしれない。

 そのときは何と言えば良いのか。七海の頭の中で色々な言葉がぐるぐると回っている。

 

「静観かな」

 

「え?」

 

「しばらくは、今のままでいよう。その千堂って人の裏も取れていないし、簡単に信じられない。だから、静観」

 

「良いのですか?」

 

「親の涙は信じたいところだけどね。悪いけど、雨野 伊月君の件、引き続きよろしくね」

 

 そう言われて、七海はホッと胸を撫でおろした。

 もっと物騒な言葉が出てきてもおかしくないと思っていたからだ。

 

「あれぇ? 七海、ホッとしてない?」

 

「正直しています。あなたのことですから、とんでもない話がでてくるかと身構えていました」

 

「酷いなぁ。僕を何だと思っているわけぇ?」

 

 からからと笑う五条。一安心した七海がコーヒーを飲んでいると、五条のスマートフォンが鳴った。

 電話に出た五条の会話のトーンが少しずつ落ちているのが分かった。

 どうやら厄介な話をしているに違いない。

 

「今、ちょうど七海といるから、一緒に高専に向かうよ。んじゃ」

 

 そういって通話を切り上げた五条が七海に言う。

 

「御柱様が見つかったんだってさ。しかも三体。別々の場所で」

 

「三体も同時に? 何か裏があるのではないでしょうか?」

 

「そう考えるのが筋だろうけどね。一体は僕が対応するとして、残りの二体だよね。こりゃ、高専の人間全部駆り出さなきゃダメかもなぁ」

 

 五条の言う通りだ。御柱様が一つ見つかっただけで、あれだけの大人数を動員したのだ。

 二体ともなれば、高専は空っぽになるかもしれない。

 

「とにかく見つかったからにはやるしかない。時間との勝負だ。行こう、七海」

 

 

 御柱様発見の報告で慌ただしくなった高専の奥深く。

 

 呪物の保管庫に安置されていた中年男性の御柱様に怪しい光が宿る。

 それと同時に御柱様の体に変化が起きた。体の表面がボコボコと隆起している。

 すると、顔立ちと体つきが女性に変わった。皮膚の色も健康的は色に戻り、死体には見えなかった。

 

 御柱様の目がスッと開いた。

 美しい女へと変貌した御柱様は、安置された台座から降りると、保管庫の中をひとしきり見て回った。

 その中で一枚の銅鏡を手に取った御柱様は、微かに笑みを浮かべた。

 

 麻矢の流言具象によって仮想の魂を宿した御柱様は、目的のものを得ると保管庫の内側から鍵を開け、外へと出て行った。

 

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