呪術師 七海建人の怪奇録   作:アラタナナナシ

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ブラブラさん①

 放課後、小学校の教室に集まる数人の生徒たちがいた。

 

「ねーねー。また怖い話をして?」

 

 一人の女生徒が言う。

 

「そうねぇ。じゃあ、ブラブラさん、って知ってる?」

 

 答えた女生徒は、薄っすらと笑みを浮かべて周りの生徒達に問う。

 その顔はとても大人びており、小学生には思えない色香を醸し出している。

 

「知らな~い。どんな話なの? 教えて?」

 

 女生徒のお願いに、大人びた少女がにっこりとほほ笑む。

 

「じゃあ、話しましょうか。ブラブラさんって言うのは――」

 

 

 七海と伊月が共同生活を始めて、早二週間が過ぎようとしていた。

 

 その間に災禍転身が発動したような様子はなく、廃工場に探検に行ったことを除けば事件らしい事件もなかった。

 伊月のことで今分かっているのは、呪霊が見えることと、周りの人を不幸にすることを自覚していることだ。

 伊地知から新しい情報がないため、伊月に対して追加される情報はもっぱら学校生活についてのものであり、それも朝食時や夕飯時に交わす少ない会話からなので、災禍転身に繋がるようなものはなかった。

 

 七海の用意した朝食を伊月は食べ終えると、学校に行く準備を始めた。

 未だ打ち解けたという雰囲気はなく、伊月からもまだ距離を置かれている空気が伝わってきている。

 

「行ってきます」

 

 伊月は言うと、学校へと向かった。学校生活での監視は別の者が担当しており、ここからは自分の時間となる。

 とはいっても、高専からの仕事の依頼が度々入るので、そんなにゆっくりした時間を送れる訳ではない。

 朝食の片づけを行っていると、スマートフォンの呼び出し音が鳴った。ディスプレイには伊地知の名前が表示されていた。

 

「おはようございます。七海です」

 

「伊地知です。おはようございます。朝から申し訳ないのですが、調査の依頼が入りました。お迎えにあがりますので、準備をしていただけますか?」

 

「分かりました。すぐに支度をします」

 

「よろしくお願いします」

 

 伊地知との会話を終えた七海は、手早く片づけを済ませると身支度を始めた。

 

 

 伊地知の運転する車で向かったのは、千葉県にある小高い山の中であった。

 

 山のハイキングコースを歩いていくと、うっそうと茂る木々の間に警察の鑑識が数名いた。

 一本の大きな木の周りを調べている鑑識の中の一人が、七海と伊地知の存在に気づいた。

 中年の男は二人に近づくと、訝し気な表情を浮かべる。

 

「あんたらが例の?」

 

「はい。調査依頼を受けましたので、参りました」

 

 答えたのは伊地知である。

 

「自殺だろうな。長年鑑識をやっているが、それ以外には思いつかん」

 

「それ以外を調べるのが私達です。現場を見てもいいですか?」

 

 七海が言うと、中年の鑑識は渋々頷いた。

 大きな木の周りの地面にはいくつかの番号札が置かれており、その木の枝にはくくり着けられたロープが二本あった。

 

「あの木で自殺を?」

 

 七海の問いかけに、中年の鑑識が答える。

 

「ああ」

 

「二本ロープがくくりつけてありますが、発見時はどうだったのですか?」

 

「一本のロープは切断されていた状態で発見された、首をくくるための輪っかも地面に落ちていた。もう一本は被害者の首に巻き付いた状態で発見された」

 

「どちらも同じロープなのですか?」

 

「どうかな? 調べてみらんと分からんが。なんでそんなことを聞くんだ?」

 

 中年の鑑識の問いかけに、七海は木にくくりつけられたロープを見ながら答える。

 

「同様の事件が全国で数件起きています。切断されたロープと死亡したロープが違うものだということでした」

 

「予備に持ってきた物ならおかしくないんじゃないか?」

 

「そうですね。では、何故、同じように切断されたロープがあるのか? おかしいとは思いませんか?」

 

 七海が言うと、中年の鑑識はうなり声を上げて首を傾げた。

 

「それは確かになぁ……。だが、足跡を調べたが、被害者のもの以外見つからなかった。他殺って言うなら、容疑者は宙に浮いていたことになるぞ?」

 

 宙に浮いていた。ただの人間ならば不可能だが、呪霊ならば可能だ。

 残されたロープを集中して見つめると、薄っすら呪力が漂っていることが分かった。

 これは自殺ではない。他殺だ。それも呪霊が関係していると思われる。

 

 ここからの領分は呪術師のものとなる。警察はこれ以上、追うことはできない。

 

「遺書は見つかっていないのですね?」

 

「ああ。今のところはな」

 

「十分です。ありがとうございました」

 

 そういうと七海は一礼して現場を去った。

 慌てて後を着いてきた伊地知が言う。

 

「七海さん、もうよいのですか?」

 

「ええ。呪力の残滓がありました。呪霊が関わっている可能性が高いです。被害者の周辺に聞き込みした情報を集めましょう。何か分かるかも」

 

「はい。すぐにまとめます」

 

 ハイキングコースを下り、車に乗り込んだ七海は手元にある資料に再度、目を通した。

 今回の自殺と同様の事件が、全国で五件発生していた。首吊りによる自殺で、現場には木の枝にくくりつけられたロープが二本。

 そのうちの一本は首を掛ける輪っかの手前で切断されており、残りの一本で首を吊っていた。

 

 現場には被害者の足跡しかなく、ロープのほかに脚立とロープを切断した刃物を持っていたことが共通している。

 普通の自殺と違うところは、自殺をするロープ以外にわざわざロープをくくって、切断していること。その意図が分からない。

 このことから、ただの自殺の線と、儀式的な自殺の線で警察は調べを進めているようだ。

 

「厄介な事件になりそうですね」

 

 七海は一人ごちると、静かに目を閉じた。

 

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