家に帰った七海は、伊地知が警察から集めた情報を一つずつ注意深く確認していた。
被害者達はいずれも自殺するような理由が見つかっていない。
いじめ、家庭の問題、経済状況、恋愛のいざこざ等、様々な聞き取りをしているが、自殺に繋がるようなものはない。
我々がそう思わないだけで、本人にとっては大きな悩みのものもあるかもしれないが、自殺の方法が共通していることがおかしい。
自殺をする前にロープを切断し、新たにロープをくくりなおして自殺する。
それに何の意味があるのか。警察とは違う視点で聞き取り調査をしなければならないだろう。
七海がそう考えていると、玄関のドアの鍵が開く音が聞こえた。
部屋のドアから顔を覗かせると、玄関に立つ伊月が見えた。
「ただいま。七海さん、帰っていたんですね」
「おかえりなさい。仕事を早めに切り上げましてね。夕飯は何かリクエストはありますか?」
「なんでも大丈夫です。七海さんの料理はどれも美味しいです」
「そうですか。分かりました」
そういうと伊月は自室へと入った。
頭を切り替えよう、そう考えて、夕飯の準備のために冷蔵庫のドアを開いた。
◇
千葉県某所。自殺した少女が通っていた中学校に七海と伊地知は来ていた。
自殺した少女に関してのアンケートを見せてもらうためだ。
生徒達が自殺した少女に対して、いじめなどがなかったかの聞き取りを学校が行っていた。
校長室に通された七海と伊地知は、アンケート一枚一枚に目を通す。誰も少女についていじめが行われていたと書いてはいない。
自殺の理由になるよういざこざや、悩み事を抱えてもいなかったようで、警察の報告書と一致している。
何か見落としがないだろうか。念入りに読んでいくが、これと言った収穫はなかった。
次に七海たちが依頼したのは、少女と仲が良かった者達に対する聞き取りであった。
四人グループで仲が良かったとのことで、三人の女の子を一人ずつ呼び出して、当時の状況を語らせることにした。
一人、二人と話を聞くが、これも警察の報告書にあった内容と変わらなかった。
三人目の女の子も警察に話した内容と変わらず、いつもと変りなかったと話をしたが、一瞬考え込むようなそぶりを見せた。
「何か気になることでも?」
七海の問いかけに少女は、口ごもった。
「どんな話でも構いません。聞かせてはいただけないでしょうか?」
「あの子、好きな人がいたんです。でも、告白する勇気がないって言ってて……。好きな人が自分のことをどう思っているのか知りたいって」
「なるほど。それで? 彼女は何かしたのでしょうか?」
「えっと、ブラブラ……さん、だったかな。に聞いてみるって」
「ブラブラさん?」
少女の言葉に七海は思い当たる節がなく、伊地知を見るが、伊地知も同様のようで、小首を傾げていた。
「ブラブラさんとは?」
「都市伝説らしいんですけど、詳しくは。あの子、占いとか好きだったし、そういう奴だと思います」
「都市伝説……」
七海は呟くと、メモ帳に『ブラブラさん』と書いた。
◇
聞き取りを終えた七海は気になるワードであった『ブラブラさん』について、スマートフォンで検索を掛けた。
画面をスクロールすると、都市伝説のページにヒットした。選択して内容を読み始めると、七海の顔色が変わった。
「伊地知君、これを」
伊地知にスマートフォンを見せる。そこには、ブラブラさんについての詳細が書かれていた。
ブラブラさんは、知りたい質問に答えてくれる幽霊。
ブラブラさんを呼び出すためには、人の目につかない場所で首つりの準備をし、首をくくるロープに背を向けた状態で『ブラブラさん、教えてください』と呼ぶことで呼び出せる。
ブラブラさんはロープに首をくくった状態で現れるため、すぐにロープを切らなければならない。間に合わないと、ブラブラさんは消えてしまい、二度と呼び出せなくなる。
ブラブラさんは助けてくれた人の質問に一つだけ答えてくれる。ただし、それ以上聞いてはならない。ブラブラさんが怒ってしまう。
ブラブラさんを怒らせてはならない。ブラブラさんを怒らせると……。
顔を上げた伊地知が目を大きくして言う。
「七海さん、これって?」
「どうやら、当たりのようですね。これは呪霊の。仮想怨霊の仕業です」