呪術師 七海建人の怪奇録   作:アラタナナナシ

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異界への扉①

 放課後を告げるチャイムが鳴ってからしばらくしても、小学校には生徒達の声であふれている。

 

 そんな中、ある教室に集まった数人の生徒達。話しているのは怪談であった。

 どこかで聞いたことがあるような怪談を男子がすると、それ知ってる、とちゃちゃを入れる女子。

 ふくれっ面の男子が言う。

 

「じゃあ、誰か、怖い話してくれよ」

 

 生徒達の視線が一人の少女に向く。大人びた顔立ちの少女だ。

 皆、一様に期待した眼差しを大人びた少女に向けている。

 

「そうねぇ。じゃあ、異界への扉っていうのは、どうかしら?」

 

「なにそれ? 教えて、教えて?」

 

「うん。異界への扉っていうのは――」

 

 

 夕飯時を迎えた七海の家のインターホンが鳴った。

 

 七海が玄関を開けると、そこには黒のニット帽に上下スウェット姿の青年が立っていた。

 

「こんばんは。今日はお招きいただき、あざーっす」

 

「待っていましたよ、猪野(いの)君。どうぞ、あがってください」

 

 猪野 琢真(いの たくま)。七海の後輩の呪術師である。

 ぺこりと頭を下げた猪野は玄関をあがると、リビングに向かう。

 

「おっ。君が雨野 伊月君か。俺は猪野 琢真。よろしく!」

 

 ニカッと笑うと、親指を立てた。

 

「初めまして、雨野 伊月です。猪野さん、よろしくお願いします」

 

 こちらはお行儀よく頭を下げて挨拶をした。

 リビングに並ぶイタリア料理の数々を見て、猪野が感嘆の声を上げた。

 

「さっすが、七海さんっすね。めちゃくちゃ美味そうっす」

 

「ありがとう。さあ、冷めない内に食べましょう」

 

 

 夕飯を食べた三人は猪野の持ってきたスゴロクに興じた。

 

「あー! 今の待ったぁ!」

 

「さっきも待ったしたじゃないですか、猪野さん。次はなしですよ」

 

「くそ~、伊月君、何気にスゴロク強いなぁ。あー! 七海さん、ちょっと待った! また俺ですか!?」

 

 所持金がマイナスになって悶絶する猪野。それを見て、伊月は子供らしい笑みを浮かべていた。

 今日の集まりを開催したのは、伊月との親睦を深めるためのものだ。

 普段から我儘を言わない伊月は、ゲームや漫画などをねだることがなく、学校の勉強を真面目にしている少年であった。

 

 学校で遊ぶ友達もいるようではあるが、周りに不幸を及ぼさないように気を遣って深入りは避けているようで、遅くまで遊ぶようなことはしない。

 それではあまりにも子供らしくない。もっと楽しいことをしてほしいとの思いから、猪野に何か方法がないか相談してみたところ、今回の案が出てきたのだ。

 

 ひとしきりスゴロクを楽しみ、夜が深まると、伊月は寝る支度を始めた。

 

「おやすみなさい。七海さん、猪野さん。今日は楽しかったです」

 

 就寝の挨拶をする伊月。

 

「おやすみ、伊月君! また遊ぼうな!」

 

「おやすみなさい」

 

 伊月の部屋のドアがパタンと閉まると、七海は冷蔵庫からワインとチーズを取り出した。

 

「どうです? 一杯?」

 

「あざっす」

 

 深夜の晩酌を楽しむ二人。酔いが回った猪野が七海に語り掛ける。

 

「七海さん、伊月君が本当に災禍転身の術者だって思いますか?」

 

「その確証は得られてません。彼が周りに不幸を及ぼした姿をまだ見ていないですからね」

 

「そうっすかぁ……。なんか、俺、違うと思うなぁ」

 

 猪野の言葉に七海は目を丸くした。

 

「どういうことですか?」

 

「いやぁ、そうだったらいいなぁっていうか。災禍転身って、自分の不幸を他人に押し付けるみたいなもんじゃないっすか。でも、伊月君、不幸を他人に押し付けるようには思えないんすよね」

 

 猪野の言うことはもっともだ。伊月と共同生活を始めて一か月ほどだが、他人のことを気遣いはしても、不幸を願うような子ではなかった。

 誰だって自分が不幸になるのは嫌だが、それを他人に押し付けて自分だけ幸せになりたいと思うようには思えない。

 

「そうですね。私もそうでないと思いたいです」

 

 七海はワイングラスを傾けると、ワインをくるくると回し始めた。

 

「彼は人の幸せを願えても、不幸せを願う子ではない。それは間違いないと思います」

 

「っすよねぇ……」

 

 猪野はワインを一気に飲み干すと、テーブルに突っ伏して寝息をかきはじめた。

 七海は部屋からブランケットを持ってくると、猪野の方にそっと掛ける。

 

「猪野君、今日はありがとうございました。おやすみなさい」

 

 リビングの電気を消し、七海は着替えてベッドに横になった。

 

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