呪術師 七海建人の怪奇録   作:アラタナナナシ

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異界への扉③

 突如、高さ十二メートル以上の空中に放り出された七海は、迫りくる地表目掛けて落下していた。

 

 何故、自分は落下しているのか。まったく理解が追い付かないが、このまま地面に叩きつけられれば大けが間違いなしだ。

 空中で姿勢を変え、足に呪力を込めて着地した。ズシンという重い音を立てて降り立った七海の額を冷や汗がつたった。

 呪力で体を強化したお陰で怪我がなくて済んだが、もし対応が遅れていたら怪我は免れなかっただろう。

 

 傍の建物を見上げると、そこは先ほど調べていたマンションとは別の建物であった。

 ビジネスホテルのようで、上層階を見ると、一室の窓が開け放たれていた。あそこから落ちたのか。

 マンションの非常階段を開けたところまでは覚えているが、このビジネスホテルに入った記憶はないし、窓から飛び降りた記憶もない。

 

 時計を見ると、十時を回っており、マンションを訪れた時間から空白の時間なさそうであった。

 では、何が起きたというのだ。スマートフォンを取り出し、猪野に電話を掛けた。

 

「七海さん!? 一体、どこに行っちゃたんっすか? 非常階段に行ったと思ったら、急にいなくなって」

 

「猪野君、信じられないかもしれませんが、私はワープをしてしまったかもしれません」

 

「ワープ? 何を言ってんすか?」

 

「詳しくは合流してお話しましょう。猪野君は、そのマンションにいてください」

 

 通話を切り上げると、スマートフォンの地図機能を使って現在地を調べる。

 調べていたマンションから1kmは離れている場所にいるようだ。

 一体、自分の身に何が起きたのか。理解できないまま、猪野のいるマンションへと向かった。

 

 

 猪野と合流した七海は、事の次第を伝える。

 

「非常階段のドアなら、俺も開けたっすけど、なんもなかったっすよ?」

 

 そういうと、非常階段のドアを開けた。そこには当たり前ではあるが、階段が存在していた。

 猪野がドアを閉じたので、七海も注意しながらドアを開けた。少し身構えたが、視界に映ったのは非常階段であった。

 腑に落ちない七海は何度かドアを開け閉めするが、先ほどのような現象は起きない。

 

 夢でも見ていたのかと思うが、普通の人間であれば死亡事故に繋がることが起きたのだ。思い違いな訳がない。

 

「猪野君、防犯カメラの映像を確認しましょう。何か映っているかもしれません」

 

 伊地知に連絡をし、管理人にと交渉をしてもらい防犯カメラの映像を確認するが出入りしていたのは、住人と清掃員くらいであった。

 

「特に怪しいやつっていないっすね」

 

 猪野の言うとおり、これと言って気になる人物は映っていない。

 腕組みして思案していると、管理人が、あっ、と声を上げた。

 

「今日って、清掃の日だっけかな?」

 

「清掃の日は決まっているのですか?」

 

「ああ、先週も来てたよ。うちは二週間に一回頼んでいるんだけどねぇ」

 

「では、今日は来ない日だった、と?」

 

「ああ、そうだよ。間違ったのかねぇ」

 

 先週という言葉に七海は思い当たる節があり、警察の資料に目を通した。

 資料をめくる手が止まる。

 

「管理人さん、先週、清掃に来たのは何日か分かりますか?」

 

「ん? 確か、七日じゃなかったかな。あれ? 七日って言えば」

 

 このマンションの住人で行方が分からなくなった日と一致していた。

 偶然か、それとも。七海は伊地知に連絡をする。

 

「伊地知君、行方不明者が出たマンションに出入りしている清掃業者を調べてください。行方が分からなくなった当日の清掃員の情報も一緒にお願いします」

 

「承知しました。すぐ連絡致します」

 

 通話を終えた七海に、理解の追い付いていない猪野が問いかける。

 

「七海さん、どうしたんすか? 何か分かったんすか?」

 

「猪野君、車でお話します。行きましょう」

 

 管理人室を後にした七海は駐車場に止めてある伊地知の車の後部座席のドアを開けた。

 その時、開けたドアの中に体がぐっと引き込まれる感触を覚えた。堪えることのできない力で引っ張られると、次の瞬間、目の前に自動車が迫ってきていた。

 衝突は免れない。七海は体に呪力を込めると、後方に飛び上がる。

 

 車のブレーキ音が響き渡り、急減速する車が七海に衝突する。

 フロントガラスに叩きつけられた七海は、そのまま回転して車の屋根を転がって道路へと叩きつけられた。

 思った以上の衝撃であったが、七海に深い傷はなかった。

 

 一つは呪力で体を強化したこと。そして、もう一つは後方に飛んだことで、衝突の勢いを緩和することができたことだ。

 とはいえ、車に撥ねられたのだ。痛みは当然ある。痛みを堪えながら立ち上がり、道路の脇に座り込んだ。

 七海を轢いたドライバーが慌てて駆け寄ってきているのだ見えた。

 

 今は自分のことより、この現象を考えるべきだ。

 七海は自分が撥ねられた現場を見ると、路肩に駐車してあった車のドアが開いているのが見えた。

 今度は、あのドアから出たということで間違いはなさそうだ。

 

 非常階段のドアから、ビジネスホテルの窓。自動車のドアから、自動車のドア。

 開くことができるもの繋がりなのか分からないが、開けたら引っ張り込まれ、違う場所に移動してしまうというもので間違いなさそうだ。

 この行方不明事件は人間にできることではない。呪霊、もしくは呪術師が関わっている。

 

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