あるトレーナーとウマ娘の日常   作:天寝子

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読んでいただきありがとうございます。

記念すべき10個目です。



オグリキャップ

「む、トレーナー」

「おはよう、オグリ」

 

 

 力強く扉が開く。ムッとした表情でこちらを見るのは芦毛の怪物と評される俺の担当ウマ娘、オグリキャップだ。

 トレーナー室には先ほど運ばれてきたばかりのオグリのグッズが大量に置かれている。一面オグリ一色の光景は少しゾッとする。主に、財布が。

 と、まあ、オグリのグッズを机に並べて遊んでいたところをオグリに目撃されたのだ。

 

 

「また私のグッズで遊んでいるのか。 私では遊び相手にもなれないのか?」

「そういう訳じゃないけど、外でそれ言うのはやめてね」

「? そうか、そういう訳ではないんだな」

「そ。 開発元さんから送られてきたんだよ。 いらないって言ったんだけどね」

 

 

 そう言いつつ、机の上にオグリのグッズを綺麗に並べていく。

 小さなぬいぐるみから、大きなぬいぐるみ。果てはマグカップなどとバリエーションは豊かだ。

 

 

「おお、これはすごいな。 もちもちだ。 美味そうだな」

「食べれないから。 お菓子ならいつものところに置いてあるはずだからそれ食べて」

 

 

 オグリが来た時ように、お菓子は常に常備してある。当然、お菓子だけでオグリが満足するはずもないのだが、ここはこれで我慢してもらう。

 自身のグッズに囲まれるというのはどう言った感情なのか……。

 まあ、それを気にするようなオグリではなかった。

 当たり前のように自身の膝にぬいぐるみを抱き、お菓子を食べ始めた。

 

 

「オグリんトレーナーおるか……って、なんやこれ! きも!」

「タマ、さすがの私も傷つく……」

「や、ちゃうねん。 なんやこれ、トレーナー……」

 

 

 突如現れたタマモクロスは白い眼差しでこちらを見つめてくる。何か誤解をしているようだ。

 さすがの俺でもここまでのグッズを自力で集めようとはしない。せいぜいぬいぐるみくらいだ。

 

 タマモに事情を説明し、好きなものを持ってくように言った。

 絶妙にいらなそうな顔を浮かべたが、タダで貰えることもあり、断らずに物色し始めた。

 

 

「おっ、トレーナーこれなんか可愛いんちゃうか?」

「なにそれ」

「目覚まし時計やな」

「え?」

「ほら、オグリの声で喋るでこれ」

 

 

 そう言ってタマモは時計をいじると、数秒後にオグリの声が聞こえてきた。

 目覚まし時計にする気があるのか、と言うくらい小さいが、ボリューム調整はできるのだろうか。というか、起こそうとしている文言が──

 

 

「なんで俺向けなの?」

「それか。 トレーナーを起こすつもりで、と言われたからな」

 

 

『トレーナー、起きてくれ』と繰り返すオグリの声が虚しく響く。

 これ需要あるのだろうか。少なくとも、今のところ俺宛にしか使えなそうなものなのだが。

 

 

「ちゅーわけで、これはトレーナーにやるわ」

「い、いや、別に」

「む、目覚まし時計にでなくても、私が直接起こせばいいだろう」

「それもそうやな。 んじゃ、オグリ、トレーナーのこと頼むな」

「なんで勝手に──」

「トレーナーはそっちの方がいいのか?」

 

 

 その聞き方は反則だろう。

 そう聞かれれば当然、本物の方がいいに決まってる。

 

 

「オグリに起こしてもらう方がいいに決まってるが、起こしてもらう必要はない」

「そうか? そうなのか」

 

 

 犬のようなオグリの落ち込んだ表情には弱い。

 ため息混じりに、今度頼むよ、と言うとオグリは嬉しそうに笑った。

 そうか、と繰り返し呟き、タマモは面倒くさそうな瞳でこちらを見ていた。

 

 

「ウチ置いてきぼりで何してんねん、アンタら」

「む、すまない。 タマも今度起こそう」

「そういうことちゃうて」

「? そうなのか……」

「ああああああ! 今度だけやで!」

「タマ!」

 

 

 なるほど、こういう気持ちで眺めていたのか。

 案外微笑ましいとは思うが、除け者感は拭えないな。

 

 タマモは結局、オグリ柄のマフラーを手に取り、ソファに座り込んだ。

 遠慮することもなく、二人でお菓子を平らげる。半分以上はオグリの胃の中だが。

 

 

「なあ、トレーナー。 アンタ、オグリとはどんくらい仲ええんや?」

「は?」

「いやな、ウチのトレーナーはな、なーんか距離を感じるいうか。 ウチの実家に呼んでから──」

「実家に呼んだの?」

 

 

 何を当たり前な、というような仕草でタマモは肩を竦めると、黙々と冷蔵庫から取り出したショートケーキを口に入れるオグリへと視線をずらす。

 常に何かしら口にしているオグリだが、そろそろ止めるべきだろうか。キョトンとした顔で見つめられても困る。

 

 

「オグリ、お前実家に呼んだことないんか?」

「! トレーナー、私の家に──」

「行かないよ」

「そう、か……」

「それくらい行ったれや」

「こ、怖いだろ?!」

「なんやねんそれ」

 

 

 オグリの実家に関わらず、そもそも担当の実家に行くことなど滅多にあるようなことでは無いだろう。

 オグリに必要なことであるのなら行くが、今のところその必要は感じられない。

 

 今までにないほど落ち込んだようなオグリの頭に手を置き、タマモに状況を聞くことにした。

 忙しなく頭を動かし、自ら撫でられるようにしている様は本当に犬のような愛らしさを覚える。が、その可愛らしさに虜になる訳にもいかず、一度手を離し、タマモの対面に座った。

 

 実家に呼んだ日以来、どこか距離を感じる。という話だが、タマモのトレーナーからはそんな話一切聞いたことは無い。

 というより、この前までタマモの手作り弁当とか言って自慢して回っていたようなやつだ。タマモと距離を置くとは考えにくい。

 

 

「考えすぎじゃないのか? 実家呼んだくらいで、そんな変わるか?」

「現に変わっとるんやて」

「トレーナー、ならば私の家にも──」

「うん、いつかね」

「アンタらの惚気はもうええわ。 てか、トレーナーもそう思うよな、ふつう」

「実家の方で何をしたかは知らないけど、特にないなら変わらないと思うんだけどなぁ」

「ま、トレーナーの方からも探りを入れて欲しいっちゅう話や」

「なるほどね。 そういうことなら任せてもらっていいよ」

「ほんまか! 頼むで!」

 

 

 タマモは尻尾を振り乱し、テーブルを叩いて前のめりになる。大袈裟に俺の手を掴み、上へ下へと振り回した後、嵐のような勢いで部屋から去っていった。

 

 

「タマ、行ってしまった……」

「なんか話すことでも?」

「そういう訳では無いが、急にいなくなられると、寂しい」

「ま、そうだな。 でも俺がいるからいいだろ?」

「! ああ、トレーナーがいれば寂しくない」

 

 

 我ながら寒いセリフ。しかし、オグリにはその言葉がよかったみたいで、「トレーナー」と口にすると、お日様のような微笑みを向けてくれた。

 出来ることなら、その笑顔をずっと傍で見ていたいと、そう思った。

 

 

 ◆

 

 

「トレーナー、起きてくれ」

 

 

 ──そう思った次の日。

 朝一で目の前に太陽があるというのは実に眩しいものだった。

 

 

「オグ……リ? なんで、俺の部屋に……」

「ああ、部屋の前で立ってたんだが、通りすがりの『まっどさいえんてぃすと』が鍵の開け方を教えてくれたんだ」

「し、知らない人の言うことを信じちゃいけません」

 

 

 言いずらそうな言葉──マッドサイエンティストには心当たりがある。いつも白衣を着て、発光するトレーナーと一緒にいる彼女のことだろう。

 というかなんだ、部屋の鍵の開け方って。なんでそんなもの知ってるんだ。

 

 オグリは俺の身体を揺さぶりながら、何かを見つけたように声を上げる。

 顔に落ちていた影が消え、閉じた瞼の奥に光が突き刺し、耐えきれずに目を開くと、ベッドの下に半身を入れたオグリが見えた。

 尻尾を立て、何かを必死に取ろうとしている。左右に揺れる尻尾を見てて、少し魔が差した。

 

 

「────っ! トレーナー!」

 

 

 ベッドの下、鈍い音と共にオグリの声が聞こえた。

 

 

「あ、ああ、ごめん。 強く握りすぎた?」

 

 

 ごそごそと音を立て、ベッドの下から這い出てくる。不貞腐れたように頬を膨らませ、珍しく目を細めてこちらを睨む。驚いた衝撃で頭をぶつけたせいか、後頭部を擦りながら、照れたように頬を赤らめるオグリが持っているものを見て、目が覚めた。

 雑誌。

 ベッドの下に、入れていたのは別に下心があったからではない。なんとなく、来客があったときに見つかったら恥ずかしいと思ったから、そこに置いただけだ。

 

「トレーナー」とオグリはその雑誌を突きつけてくる。

 それは──

 

 

「私の写真が欲しいのなら言ってくれ。 トレーナーなら何枚でも大丈夫だ」

「ああああああ! 違うわ! 写真が欲しかった訳じゃなくて!」

「いらないのか?」

「い……るけどさ」

「なら幾らでも撮ってくれ。 雑誌の写真よりも、もっと綺麗に撮れる……はずだ」

 

 

 ベッドの下に入れておいたのは、オグリの特集が組まれた記事や雑誌。そして写真。

 集めた自分でも引くほどの量がそこにしまわれている。

 トレーナーとして担当を応援するのは当然だし、それを恥ずかしいとは思わない。けれど、一番近くの俺が誰よりも何よりもオグリのファンであり、こうして雑誌まで集めていることを知られてしまうのはなんだか気恥ずかしかったのだ。

 クールで通っているはずの自分のイメージ的にも、何か変な矜恃があったのだ。

 あのウマドルトレーナーには叱られてしまうだろうが、こればかりは仕方がないことなのだ。許して欲しい。現にこうして、本人に見つかって恥ずかしさが頂点に達した。

 

 

「オグリ……、こんな朝早くから何をしに来たんだ」

「ああ。 トレーナー、私と一緒に出かけよう。 そしてこれは今思いついた予定だが、思う存分、私を堪能するといい!」

「うん、外でそれ言うのはやめてね」

「それにしてもトレーナーは私が好きなのか?」

 

 

 唐突なその言葉に我慢できずに吹き出してしまう。

 不思議と顔が熱くなる。ベッドから飛び出し、すぐに洗面所へと駆けた。冷たい水が、高まった熱を冷ましてくれる。

 ありがたい、なんて思っていると、自分の背後にオグリが立っていることが鏡でわかった。

 

 

「トレーナー、どうして逃げるんだ。 私はトレーナーのこと好きだぞ」

「ああああああ!」

 

 

 さっきよりも水の温度が高くなったような気がする。

 言ってやったぞ、みたいな表情のオグリが胸を張る。どうして俺はこんなにも追い詰められたような気持ちにならないといけないんだ。

 

 狭い部屋の中では、俺の後を着いて回るオグリから当然、逃げることはできなかった。

 深呼吸の後、ベッドに座り、ようやくオグリと向き合った。

 よく見れば制服ではなく、私服。それに、爪もよく手入れされている。

 

 

「気づいてくれたか。 クリークが早起きしてやってくれたんだ」

「オグリはいつも爪綺麗だもんな。 クリークに手入れしてもらってるのか?」

「普段は自分でしているのだが、こういうのはどうも苦手なんだ」

「そうか、うん、よく似合ってるぞ」

「! トレーナーはやはり私が──」

「違わないけど違うから」

「そ、そうか……」

 

 

 落ち込むオグリを一度部屋の外へ追い出し、すぐさま着替えることにする。

 一緒に出かけよう、とオグリは言った。どこか行きたいところがあるのだろう。

 俺も私服に袖を通し、支度を済ませて部屋を出た。

 珍しいオグリを見た。手鑑で自身の髪型を確認し、気合を入れるように拳を握った。

 なんというか、微笑ましい。実家の犬のようだ。

 

 

「なんか欲しいものあったのか? 蹄鉄とかならまだ……」

「いや、単に私がトレーナーと出かけたかっただけだ」

「お……そっか。 珍しいな、そういうの」

「そう、かもしれないな。 タマに言われたんだ、『実家に呼べるくらい仲良うなりゃいいだけの話や』と」

 

 

 オグリと共に過ごす時間は、まったりとしたもののように感じる。暑い夏であることに変わりはないものの、なんだかいつもより過ごしやすいように思える。

 突き刺すような日差しの中、歩幅を揃えて歩いていく。楽しげに口元を綻ばせ、隣を歩くオグリに視線を下ろし、釣られるように口角が上がる。

 

 

 ──なんでそんなに実家に拘る……? 

 

 

 空を見上げ、オグリに変な拘りを与えて行ったタマモを恨めしく思う。

 

 

「どうしたんだ?」

「……いや、なんでもない」

 

 

 ◇

 

 

 ショッピングモール。

 休日の家族連れで賑わうこの中で、俺たちは当たり前のように──

 

 

「財布に優しい戦術で頼みます」

「任せてくれ。 今日はトレーナーと一緒に食べる!」

 

 

 フードコートに来ていた。

 いつもなら遠慮なく歩き回るオグリだが、今日は珍しく俺の隣にいた。どうやらその発言に嘘はないらしく、財布に優しいオグリになるつもりのようだった。

 

 

「トレーナーは何が好きなんだ?」

「うーん、特に好きな食べ物は思いつかないな」

「なんでもいいのか? なら……」

「だからといってデカ盛りは食えん」

「そうか」

 

 

 結局、オグリが持ってきたのはラーメンだった。ハンバーガーも欲しそうにしていたが、恐らく爪が汚れることを嫌ってこちらにしたのだろう。仕切りに自分の指を見つめていた。

 普段よりは控えめだが、普通の人から見れば量が異常だろう。

 好きに取ってくれ、との事だったので手前にあったものにする。オグリは幸せそうな笑みを浮かべて食べていく。

 

 

「そうだ、トレーナー、忘れないうちに」

 

 

 そう言ってオグリは手のひらをこちらに向けてきた。

 何かが置かれている訳では無い。どちらかと言えばこちらに何かを要求しているようだ。

 当然だが、贈り物を毎回しているようなことでは無い。誕生日だってまだまだ先だ。というか、オグリの方から何かを催促することは珍しい。

 

 

「鍵だ」

「鍵?」

「ああ、トレーナーの部屋の鍵だ。 あの開け方では鍵穴がダメになってしまうかもしれない、と言われたからな」

「どんな開け方なんだ……」

 

 

 今度、部屋の鍵をしっかり確認しておかねばならない。

 

 オグリの要求は合鍵が欲しい、との事だった。

 合鍵というか、スペアは当然持っているが、それを持ち歩いているはずもない。それを言うと、帰りも部屋に来るとの事だ。

 いや、それより──

 

 

「これからも起こしに来るつもりか……?」

「? 当然だ。 言ってただろう、『今度頼む』と。 トレーナーが言ったんだぞ?」

「あれは、だな……。 というか、別に朝弱い訳じゃないから」

「そうなのか?」

「そうだ。 さすがに休日はゆっくり休むが、普段はちゃんと起きてるよ。 ほら、朝のトレーニングの時にもいるだろ?」

「たしかに、そうだな」

「でも、まぁ──」

 

 

 朝、起こしてもらう以外にも何か使い道はあるかもしれない。

 あまりそんな状況は思い浮かばないが、オグリに合鍵を持たせておいてもいい、とは思える。

 それに、オグリは俺と仲良くなることを望んでいるようだ。それは俺も望むものであることに間違いはない。なら、オグリの望むものに近づくための、その一歩として渡すのはありなのでは無いだろうか。

 

 

「合鍵くらいなら、渡してもいいかもしれない、な……」

 

 

 これくらいすんなりと言えないのか。

 どうしてこう、オグリを前にすると不思議と気持ちが浮いてしまうのか。

 

 珍しく箸を止め、「トレーナー!」と大声を出すオグリの表情を見ればそんなことはどうでもいいことのように思えた。

 

 

「これからよろしく頼む!」

「? あ、ああ、これからも頼むよ」

 

 

 変に気合いの入ったオグリの声が、いつまでも耳の奥で響いていた。

 

 

 ◇

 

 

 結局、総合的に見ればいつも通りの食事量だが、満足度はいつもより高かったらしい。

 

 

「ちょっと待っててくれな」

 

 

 そう言って部屋の前でオグリを待たせる。

 机の引き出しからすぐに合鍵を取り、オグリのもとへと戻った。

 失くしたりしないように、と余っていたキーホルダーをつけた。オグリがオグリのキーホルダーのついた鍵を持っているのは何か不自然な気もしたが、気にした様子は無いので構わないだろう。

 

 

「これで私もトレーナーと家族だな」

「──え?」

「? 違うのか?」

 

 

 違うだろう。

 なんとなく、誰の入れ知恵なのかを察する。またしても恨めしく思う。

 

 

「タマはトレーナーと家族になったらしいんだ。 だから私も──」

「落ち着け。 多分それは『家族のような』っていうニュアンスで、本当に家族になった訳じゃないぞ」

 

 

 衝撃を受けたような表情でオグリは耳を折る。

「そうか、そうなのか」と繰り返し、叱られた犬のようになる。そっと頭に手を置き、優しく微笑むと、オグリは両手を頭に置き、俺の手に触れる。

 まるでわかっていたかのようなその仕草に、一瞬、心が跳ねた。

 腕で隠れてその表情を知ることは叶わないが、少しだけ見えた口元は笑っているような気がした。

 

 

「トレーナーは私の事、好きか?」

 

 

 突然のその質問に答えを見失う。動揺から手を離そうとしても、オグリに掴まれ離れられない。

 顔が熱くなっていくのがわかる。幸運なことに、この顔をオグリに見られずに済むのはありがたいことだった。

 

 

「…………あ、当たり前だ」

 

 

 長い沈黙の後、張り付いていた喉がようやく開く。

 喉が渇く、手汗は出てないだろうか。オグリの綺麗な髪に汗がつくのは嫌だった。

 

 

「ちゃんと言葉にしてくれ」

「それ、は──」

 

 

 出来なかった。

 勿論、オグリのことは好きに決まっている。けれど、ここで求められるのは答えは、そうじゃない事くらいわかる。

 だから、その先は言えない。答えられない。答えてはいけない。

 

 

「──言って、くれないのか?」

 

 

 こればかりは答えられない。

 いつもと同じ声音、けれど、その声の端々に震えを感じる。怖がっているのだろうか。

 

 

「俺は、オグリの走りに惚れた。 だからこうしてトレーナーになった」

「ああ」

「力強く走る姿も、たくさん食べる姿も、こうして俺の前にいる姿も、全部大切なんだ。 ……だから、それで、満足してくれるか?」

 

 

 精一杯の本音。

 ゆっくりと、掴まれていた手が離れていく。ようやく解かれた瞳は前髪に隠れてよく見えない。

 口元も、笑ってはいなかった。

 

 

「トレーナー」

 

 

 その言葉にまた心が跳ねる。

 そして、顔を上げたオグリの表情で、鼓動が高鳴るのがわかった。

 

 

「その言葉で充分だ」

 

 

 きっと、この先何があってもこの笑顔を忘れない。もう一度見たい、とそう思う。

 それほどまでに、オグリは綺麗だった。

 

 

「今は、な。 それじゃあ、トレーナー、また明日だ」

「お、おう……」

 

 

 とびきりの笑顔でオグリは夕焼けを背景に去っていく。

 

 してやられた。

 

 顔が熱いのはきっと、夏のせいだ。

 そう、思うことにした。




ご察しの通り、難産ですね。
オグリみたいにいっぱい食べる系のキャラはとても好きですね。
サブタイトルとかちゃんとした方がいいですかね。
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