あるトレーナーとウマ娘の日常   作:天寝子

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読んでいただきありがとうございます。
お気に入り追加嬉しいです。
結構長いものになってしまいました。


セイウンスカイ

 川の流れる音。済んだ空気。葉の擦れる風の音。木の葉の隙間から差し込む暖かな日差し。

 木々に囲まれた空間は心を落ち着けるのにはうってつけであった。

 暖かな夏の木漏れ日の中、気を抜けば眠ってしまいそうなほど心地のいい風に吹かれ、セイウンスカイの持ってきた釣り竿を落とさないように握る。

 隣では、起きているのか寝ているのかわからないほど静かなスカイが、先ほどから動くことなく釣り竿を構えている。

 

 

「スカイ? 起きてんのか、それ」

 

 

 わざとらしい寝息が聞こえてくる。

 あまりにタイミングのいいそれに、吹き出しそうになりながらも、左手をのばし、彼女の肩を揺さぶった。

 

 

「乙女の柔肌に勝手に触れるなんて、トレーナーさんってば大胆」

「やかましい。 寝てたら魚取り逃がすぞ」

「舐めないでくださいよ〜。 セイちゃんはこれでも釣りは上手なんですから」

 

 

 冗談っぽく、片目を閉じてそう言うスカイの竿が大きく揺れる。

「おっ」と声を上げ、立ち上がると、一気に竿を引いた。

 

 

「さすがだな」

「トレーナーさんが下手すぎるだけですよ」

 

 

 未だ、一匹も連れていない俺を笑いながら、スカイはもう一度糸を垂らす。

 どうしてこんなところに来ているのか、それは珍しくスカイに遊びに誘われたことに起因する。

 

 

『トレーナーさん、セイちゃんと一緒にキャンプなんてしたくありません?』

 

 

 ソファで横になりながら、足をパタパタと動かし、スカイがそう提案した。

 スカイの提案はこれまでにも何度かあったが、大半がレースに関してのもので、こうしてどこかに誘われるというのは珍しかった。

 そんな彼女の意向を組み、こうして二人でキャンプ場までやってきたのだ。

 シーズンということもあり、家族連れが多い。中にはプライベートで来ている俺たちのような連中もいるようだが、今日は遭遇していない。

 

 スカイのお情けで一匹だけ入ったバケツを運び、テントへと戻ってきた。

 二人きり、というのは変な問題を呼びそうな気もしたので、誰かを呼ぼうとも提案したのだが、スカイがそれを嫌がった。

 なので、テントは二つ。設営が少々面倒ではあったが、こればかりは仕方がない。ちなみに、スカイはその間どこかに消えていた。

 

 

「トレーナーさ〜ん」

 

 

 間延びしたスカイの声が聞こえる。

 キャンプ用の椅子に深く腰掛け、手をこまねいている。

 

 

「セイちゃん、お腹が空きました。 何か食べる物はありませんか」

「ねぇよ……っていつもなら言うが、ほら」

 

 

 そう言ってきて持ってきた荷物の中からいくつかお菓子を取り出す。無論、それだけで腹を膨らませる訳にいかないので量は少なめだ。

 駐車場に停めた車に積んでおいたバーベキューグリルをセットし、炭を入れていく。あまりこうした経験はないので、見よう見まねだが、案外なんとかなるものだ。

 徐々に熱がつたわり、暖かな熱気を放つ。

「おぉ〜」と正面で感嘆の声を漏らすスカイに視線を向けると、呑気に椅子の上であぐらをかいていた。

 

 

「お前なぁ、女の子なんだからそんなふうに座るんじゃねーよ」

「今どきそんなこと言うなんて、トレーナーさんってば年寄りさんですね」

「グラスに言っておくからな」

「そ、それだけはちょっと嫌かな〜って」

 

 

 そう言ってスカイは足を崩す。

 夏場とは言え、キャンプ地にショートパンツというのは如何なものなのか。虫刺されもあるし、何より草などでかぶれたりしないのだろうか。

 

 

「おや? トレーナーさんってば、そんなに生足見つめちゃって、どうしたんです?」

「どうもしねぇよ。 虫刺されとか大丈夫なのかなって思ってさ」

「んー、虫刺されはともかく、このくらいでしたら慣れてますからね。 意外とアウトドアなんですよ?」

「そういうもんなのか」

「そういうもんです〜」

 

 

 おもむろに立ち上がり、スカイはクーラーボックスの中身を物色し始めた。

 気分のままに行動するのはスカイらしい。何をしでかすのか読めないのは怖いところではあるが。目の届く範囲にいてくれればそれで大丈夫だ。

 

 

「あれ、トレーナーさんってばお酒飲まないんですか?」

「飲むが、さすがに今日は持ってきてないな」

「かわいいセイちゃんと二人きりですもんね」

 

 

 からかうように笑い、年寄りのような仕草で手を招く。のらりくらりと川を流れる葉のように、なんともスカイらしいが、やはりどこか浮き足立っているのだろう、普段よりも活発に動く。

 

 

「おいこら! スカイ!」

 

 

 活発に動き回るのはいい事なのだが、勝手に俺の方のテントに入られるのは少しばかり困る。

 

 

「なんかトレーナーさんの方が広くないですか? これ」

「んなわけあるか。 どっちも同じだ」

「え〜……。 あ!」

 

 

 何かを見つけたように大声を出し、静かになる。

 何を見つけたのか。まるで子供の相手をしているようだ。

 スカイが何も言わないのが気になるが、さすがに火から目を離す訳にもいかないので、その場からは動かない。

 

 

「トレーナーさんってば、意外と人気者ですね〜」

「こら、人のスマホ勝手に見るなっての。 てか、暗唱番号──」

「簡単に分かっちゃうようなものにしてる方が悪いですよ」

「知ってたんかよ」

「当然ですよ。 トレーナーさんもセイちゃんの誕生日くらいすぐ答えられますよね?」

 

 

 片手に俺のスマホを持ち、椅子に座る。まるで自分のものであるかのようにいじり始める。見られて困るようなものは無いはずなので、多分大丈夫だろうが、なぜか恥ずかしさがある。

 それにしても、スカイの誕生日。聞いたことがあるような、ないような──

 

 

「えっ、まさか知らないんですか」

「……すまん」

「え〜」

「言ってたか? 誕生日なんて」

「言ってますよ。 きっと。 たぶん。 おそらく……」

「確証ねぇじゃねえかよ」

 

 

 徐々に自信を失い、声を小さくしていく。

 スカイの誕生日は後でキング辺りにでも聞いておくとして、未だにスマホから手を離さないスカイから取り上げようと、立ち上がり、手を伸ばす。が、余裕な態度でそれを躱される。

 

 

「トレーナーさんって、ちゃんとお友達いたんですね」

「バ鹿にしてんのか」

「いやいや、だってこんなにずっと私に構ってるような人ですよ? 普段何してるのかなって思うじゃないですか。 友達いなさそうだし」

「やっぱバ鹿にしてんだろ」

 

 

 視界の端に捉えた俺のスマホの画面はメッセージアプリが開いてあった。

 スカイの言葉通り、俺の人間関係を気にしてのことだろうが、余計なお世話だ。

 

 

「ぷぷっ、セイちゃん含めて二十人。 それも仕事関係者を抜いたら……セイちゃんとキングと、スペちゃん、グラスちゃんにエル……あれっ、意外といますね」

「言ったろ」

「いや、言ってないですよ」

 

 

 まあ、実際に連絡を取り合うような連中はスカイを含めて三人くらいいればいい方だろう。グラスたちに関しては、スカイがトレーニングをサボったりする時に協力してもらうために連絡先を交換した。

 実際、そのおかげで何度も助かっている。

 

 

「ていうか、女の子の知り合い多いんですね。 隅に置けないなぁ〜」

「やかましいわ。 全部仕事関係だっつーの。 変なメッセージ送んなよ」

「さすがのセイちゃんでもそんなことはしませんよ〜」

 

 

 怪しい。

 どことなくいたずらっ子気質でもあるスカイならやらかしそうではあるが、相手がキングとかならともかく、知らない大人相手にはしないだろう。

 

 

「──おい、今のは仕事関係者以外ならやっていいってことじゃねえぞ」

「知ってますよ。 ちょっと見てみたかっただけです〜」

「なんでまた急に」

「さあ? なんとなくですかね」

 

 

 気分で行動しているスカイに動機を聞いた俺が悪い。

 理由などない。単にスマホがテントにあり、簡単にロック解除できてしまったからこうなったのだろう。今度暗証番号変えようか。……やめよ、わかんなくなる。

 

 その後、スカイは俺のスマホを持ったまま色々な場所へ歩き回って行った。さすがに俺の目の着く範囲にいてくれたが、何をしているのかまではわからなかった。

 帰ってきたのと同時、スマホも返された。ロック画面が変えられている。

 

 

「トレーナーさんの大好きなセイちゃん仕様にしておきました」

 

 

 フォルダの中には数々の自撮り写真。

 恐らくは他のキャンプ客が連れてきたであろう犬とのツーショットまで。好き勝手されたが、嫌な気はしなかった。

 

 

「ありがとう、しばらくはこのままで使うわ」

「ありゃ? やけに素直ですね。 いつもなら『こんなもん使えるかー!』って言ってすぐ変えそうですけど」

「まあ、変なのに変えられたらそりゃなるけど、スカイの写真なら別にいいだろ」

「わ、意外とセイちゃんにゾッコンだったりします? もしかして」

 

 

 バ鹿にするように口元に手を当て、「そんなわけないだろ」という言葉を待っているのだろう。

 いつもいつも、スカイの思う通りに動くと思うなよ。俺だってスカイの考えはある程度わかっている。

 だから──

 

 

「当然だ。 俺はスカイ一筋だからな」

 

 

 言い返す。

 胸を張り、堂々と。

 

 実際、嘘ではない。本当のことだから、嘘っぽい部分など感じられもしないだろう。

 

 

「……スカイ?」

「やめて、見ないでください」

 

 

 視界を両手で塞がれ、手のひらしか見えない。

 意外と何も反応がない。冷たいような気もするが、スカイらしいような気もする。なんだか気持ちは晴れないが、仕方がない。攻め方が違ったのだろうか。

 

 後ろを向いたままのスカイに声をかけられず、なんとなく、そばにあった野菜を手に取り、グリルの上に並べていく。

 肉を焼くのもいいが、やはり最初は野菜だろう。

 何かが焼かれる音と匂いにつられ、調子を取り戻したスカイが近くに寄ってくる。

 

 

「トレーナーさん、セイちゃんの手作りのお魚さんは食べたくありませんか?」

「お、捌けるのか! なら是非食べたいぞ」

「ま、ほんの少しですけどね」

 

 

 そう言うとスカイは器用に俺のポケットから車の鍵を取り出すと持ち込んだ調理器具一式を取りに行った。

 ほんの少し、と言ってはいたが、やはり釣りを嗜んでいるだけあってその手つきは慣れたものだった。

 

 

「おじいちゃんが色々教えてくれたおかげで、こうして簡単な調理なら出来るんですよ」

「あの豪快なおじいさんがこんな繊細なことやってんのか……」

 

 

 想像して少し笑う。

 腸を抜き終え、串を刺し、器用に野菜を避けてグリルの上に並べていく。

 なかなかに美味しそうだ。スカイは焼けていく魚の様子を写真に撮っていく。

 どうやら仲のいい四人にはキャンプに来ていることを言っているらしく、気づいたら写真を撮っては送ってを繰り返しているらしい。

 

 

「みんなからはなんて?」

「スペちゃんが『美味しそう!』だって〜」

「想像に易い」

「でしょでしょ〜。 ん、グラスから個人で何か来た」

 

 

 そう言うとしばらく無言になり、どこかへと駆け出していく。

 恐らくは通話だろう。何を話しているのかは知らないが、あまり首は突っ込まないよう心掛ける。

 帰ってきたスカイは謎に顔を上気させる。

 

 

「トレーナーさん、セイちゃんは少し川の方に遊びに行ってきますね」

「おー、いいけど、川ん中には入るなよ。 危ねぇからな」

「わかってますよ。 ちょっと足だけつけて遊んできま〜す」

 

 

 そう言ってスカイは早足にこの場を去っていく。

 左右に忙しなく揺れるしっぽと、意味深に立った耳が可愛らしい後ろ姿だった。

 

 

 ◆

 

 

 少しずつ太陽の位置が下がり始めてきた午後の四時。

 生暖かな風が頬を撫でる。硬い石の感触を味わいながら、大きな岩に腰掛ける。

 

 

『何か進展はありましたか?』

 

 

 優しく問いかけるグラスワンダーの声に、スカイは小さな声で頷いた。

 自信のなさや、恥ずかしさをすぐに感じ取ったのだろう、グラスがため息を吐くと、スカイは伸ばしていた足を腕で抱えた。

 

 

「どうしたらいいんだろ。 トレーナーさん、全然いつもと変わんないや」

『そんなことないと思いますよ。 トレーナーさんだって二人きりって言うのを意識してるからこそ、テントを分けているのですから』

「そうかな〜」

『そうですよ。 いつもと違う環境なんですから、少しくらい距離を縮めましょう? ただでさえ、いつも逃げてるのですから』

「レースでも逃げてるもんね」

『セイちゃん……?』

 

 

 はぐらかすように答えたスカイにグラスの鋭い声が刺さる。

 声を小さくして謝り、スカイはすぐにグラスへと助けを求めた。

 

 今回、スカイがキャンプに誘った理由。それはグラスたち四人が大きく関わっていた。

 日頃からトレーナーにべったりなスカイではあるが、どうにもトレーナーの気を向かせられない事にほんの少し、頭を抱えていた。

 見かねたグラスたちが助け舟として、今回のキャンプを提案したのだ。

 

 

『あら、エルが帰ってきました』

『ハーイ! セイちゃん、そっちはどうデスか?』

 

 

 通話越しでも聞こえてくるエルコンドルパサーの声に、スマホを遠ざけながらも「やほやほ」と声を上げた。

 同期思いの二人に、自然と口元が緩くなる。

 

 

『セイちゃん、せっかく二人きりなんですから、何かしら成果を上げなければこの先厳しいですよ』

「わ、わかってますよーだ」

『本当にわかってるのかしら』

 

 

 大丈夫、と口にはするが、何が大丈夫なのかはわからない。

 案外、今のままでも関係的には心地が良い。それ以上を望んでいるのかと言われれば、少しだけ首を傾げる。かと言って、自分以外の誰かのものになってしまうのは、考えたくはなかった。

 

 子供のわがまま。

 可愛らしい独占欲。

 それとも、単なる所有欲。

 

 被りを振った。

 考えたくない。

 知らなくていい。

 

 

『セイちゃん?』

「んにゃ、なんでもないですよ〜」

 

 

 実際、どう思っているのかは気になるところだ。

 まだ自分の本心がわかったような気がしない。

 これが、気分によるもので、すぐに何か違うものに入れ替わるような、そんな気もして、だから、素直に話せない。もし、今の気持ちも気分で変わってしまうのなら、それはすごく、嫌だった。

 

 抱えていた足を伸ばし、川の水へ触れる。

 思っていたよりも冷たくて、一瞬、足が反射的に動く。何かを察知したように、スマホの向こうでグラスが声を出した。

 なんでもない、と言って川の水を蹴りあげるようにして遊んだ。

 跳ねる水しぶきが、服に着くことも気にせず、一心不乱に足を動かした。気は紛れただろうか。

 

 

「そろそろ、トレーナーさんのとこ戻るかな」

『そうですか。 色々と、頑張ってくださいね』

「うん、ありがと」

 

 

 そう言って通話を切る。

 ゆっくり立ち上がり、欠伸混じりに伸びをする。

 なんとなく、足元の石を蹴りながら帰る。草の上を不規則に転がる石を追い、時間をかけてトレーナーのもとへと向かう。

 

 行き道よりも倍の時間をかけて帰った。

 椅子を揺らしながら、誰かと電話をしている様子のトレーナーが目に入った。

 まだ距離は遠くて、その声は聞こえない。

 誰と話しているのだろう。

 何を話しているのだろう。

 聞き耳を立てようにも、さすがに周囲の音が邪魔で聞こえない。

 笑っている横顔。自分に見せる、呆れたように笑う顔ではなかった。

 

 

「……トレーナーさん」

「おっ、帰ってきたか」

 

 

 スマホから耳を離し、こちらに向けたトレーナーの顔はどこか晴れやかで、何故かそれが気に食わない。

 スマホの画面は見えなくて、誰と話しをしていたのかを知ることは叶わない。トレーナーのスマホを見つめていたことがバレたのか、苦笑しながら答えを教えてくれた。

 

 

「同期のトレーナーだよ。 今日のこと言ってたからな、気になってかけてきたんだろ」

「あれ、今日のこと他の人にも伝えてたんですね」

「まあな」

「もしかして、楽しみすぎて〜みたいな、そんな子供っぽい理由ですか〜?」

 

 

 いつもの調子が戻ってきた。

 同期の人であることがわかったのが、そんなに嬉しかったのだろうか。それは自分でもわからない。けれど、安心したのは確かなことだった。

 

 日も暮れて、夜の虫たちが合唱を始めた頃。

 ランプの光が二人を照らす。

 寒くはないのに、風邪を引かないようにとトレーナーが用意した毛布に身を包まれながら、視線の先にいる彼を何も言わずに見つめていた。

 心地の良い無音が支配する。

 時間は何時だろう。画面の明るさに目を瞑り、そんな所をトレーナーに笑われる。

 

 

「そろそろ眠いか? スカイ」

「いえいえ別に。 トレーナーさんこそ、運転だったり何だったり、とお疲れじゃないです?」

「疲れてんのは確かだけど、半分はお前の相手してたからだな」

「あーあ、可愛いセイちゃんにそんなこと言います? 普通」

 

 

 不貞腐れたように口を尖らせて見せても、トレーナーは笑うだけ。

 まるで子供をあやすようなそんな態度に、少し黒い感情が生まれる。やっぱり、子供扱いなのだろうか。

 

 

「……トレーナーさんにとって、私はなんなんですか」

 

 

 消えてしまいそうな声で呟いたその言葉は、夜の静寂を切り裂くには充分だった。

 目を丸くし、トレーナーがこちらを見ていた。

 靴を脱ぎ、膝を抱える。恥ずかしくて、毛布で顔を隠した。

 聞こえていたのだろうか。それとも、聞こえていなくて、もう一度言うのを待っているのだろうか。次に何を言うのだろうか。なんで、声に出てしまったのだろうか。

 まとまらない。

 いつもと違う場所、雰囲気に呑まれ、調子を見失う。

 少し前までちゃんとできていたはずなのに、たった一度、変に考えてしまっただけなのに。

 テントの中に入ろうと、顔を上げた時、椅子を持ってこちらに歩いてくるトレーナーと目が合った。

 

 

「何してるんですか」

「んや、スカイの隣に座ろうかと思って」

 

 

 そう言って椅子を置くと、深く座り込んだ。

 星を堪能するように空を見上げる。済んだ空気を取り込もうと息を吸う。

 

 

「俺にとって、スカイはどんな存在なんだろうな」

「────それ、セイちゃんに聞きますか?」

「だよな」

 

 

 困ったように笑うと、また空を見上げて少し沈黙したあとに口を開く。

 

 

「お前は困ったやつだよ。 トレーニングはサボるし、目離すとどっか行ってるし」

 

 

 言葉を探すようにゆっくりと、繋いでいく。

 

 

「色々振り回されっぱなしだ」

「もー、そんなことばっか」

「すまんすまん」

 

 

 そう言って笑う。

 けど、とトレーナーが言う。

 

 

「スカイのおかげで楽しいよ。 お前と一緒にいられて良かったって思うし、これからもいたいって思う」

 

 

 ストレートなその言葉に撃ち抜かれてしまわぬよう、下を向いた。再び毛布で顔を隠す。

 熱い顔に、夜の風が冷たく吹き抜けていく。

 冷めないだろうか。冷めてないのだろうか。

 

 

 ──どうか、この熱は冷めないで。

 

 

 頭に感じる、暖かな感触。

 

 

「──な、なんですか、急に」

「なんとなく」

「ふ、ふーん。 まあ、いいですけど……」

 

 

 初めて撫でられた。

 鼓動が怖いくらいに早い。

 

 けれど、安堵する。

 この熱は冷めることはない。そう、確信する。

 

 

「もう寝ます! 眠いので!」

 

 

 立ちくらみのような感覚に襲われながら、急ぎ足でテントの中へ飛び込んだ。

 驚くトレーナーの声が聞こえたが、もう気にしない。気にしていられない。

 

 

「スカイ、おやすみ」

 

 

 その声に言葉は返さず、いつもの寝息で誤魔化した。

 熱が引いていくまで、眠れなかった。

 

 

 ◇

 

 

「また逃げたんですか?」

「に、逃げてない……です、よ?」

「怪しいです、何かありましたね! セイちゃん、詳しく聞かせてください!」

 

 

 机を取り囲まれ、休日に起きたことの顛末を聞き出そうとしてくる四人にスカイは逃げ道を失い、動けない。

 助けを求めようにも、頼みのトレーナーはここには来ない。

 

 

「だっ、てぇ……」

 

 

 珍しく弱々しい言葉のスカイに驚きつつ、紅くなったその表情を見て四人は笑った。

 

 

「スカイさんにしてはよくがんばった方ですわね」

「次は逃げないでくださいデース!」

 

 

 顔を隠すように机に伏し、呻き声をあげる。

 

 

「つ、次は頑張るから……」

 

 

 本当に行動できるのか、それはわからない。

 けれど、もう少しだけ頑張りたいと、そう思ったことは事実だった。




文章力と構成力、そして発想力が欲しい。

1周年、いいですね。シービーとシリウス来るまではガチャ引かないと心に決めましたが、気づいたら石無くなってました。どこにありますか、私の石
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