あるトレーナーとウマ娘の日常   作:天寝子

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エアグルーヴ

「いい加減、起きたらどうだ!」

「エ、エアグルーヴ。 毎朝起こしに来なくてもいいって、言わなかったっけ……」

「たわけ、貴様は少し目を離すとすぐに怠けるではないか!」

「いや、今日は休みの日だよ? 少しくらい……」

「そう言って何度寝だ! もう正午になるぞ!」

 

 

 こうしてエアグルーヴに起こされること、実に三度目。ようやく重い腰を上げ、ベッドから起き上がることを決意する。

 トレーニングが休みであると言うにも関わらず、エアグルーヴは律儀に自分を起こしに来てくれる。というか、休みの日など関係なしにこうして毎朝エアグルーヴの顔を拝んでいるのだが。

 

 

「全く、貴様は私がいないと起きることさえできないのか」

「ごめんごめん。 いつもありがとう、エアグルーヴ」

「そう言うのならたまには早く起きてくれ」

 

 

 ストレス解消として部屋の掃除をしてもらいたい、とシンボリルドルフに言われてから、何度かエアグルーヴが部屋に上がることが増えた。

 あまり一人で掃除をする方でも、整理整頓が得意な方ではない自分にとってはありがたい話ではあった。彼女の好きなときに掃除ができるように、と合鍵も渡した。それからと言うもの、彼女はこうして毎朝起こしに来てくれるようになった。

 それだけに収まらず──

 

 

「少し冷めてしまっただろう」

「いいよ、作ってくれるだけでありがたい」

 

 

 朝食まで用意してくれる。

 洗濯や家事炊事は基本、エアグルーヴが全てやってくれている。洗濯だけは自分でやる、と言ったのだが、山のように積み上がっているものを見られ、半強制的に役割を奪われた。

 自分が唯一、彼女のために出来ることはトレーニングメニューを考えたり、記者会見時におけるフラッシュの使用の確認、あとはたまに言われる尻尾の手入れくらいだろう。

 

『完全に尻に敷かれているな』

 

 ルドルフのトレーナーに言われた言葉だ。

 仕方がないことだ。敷かれ心地のいいものなら敷かれたままで構わない。

 それでエアグルーヴが満足するのなら。

 

 ──と、少し前までなら思っていた。

 

 

「明日からは自分でやってみようかな」

「できるのか?」

「甘く見るなよ? これでも一人暮らししてた時はしっかりやってたんだからな」

「では、お手並み拝見だな」

 

 

 さすがにトレセンの生徒会副会長としての仕事や生徒たちからの相談事に加え、自分の世話までしていると本人も知らぬ間に疲労が溜まっているのだろう。このところ、エアグルーヴのため息の回数が増えてきている。

 そんな小さな変化でしかないが、そんな些細なことが大事に繋がる。

 甘え切りになるのはよそう。どちらか一方が負担を背負う、というのは割に合わない。まして、それがトリプルティアラを期待されるウマ娘ともなれば、尚更だ。

 

 そんなことに今更ながら気が回る。

 決して今まで彼女の負担を考えなかった訳では無い。

 負担とストレスを天秤にかけ、ストレスの方に重きがあったと言うだけだ。甘えすぎていたきらいがあるのは事実。それを否定したりはしないが、彼女の負担の方が大きくなるようであれば止めよう、というのは前もって決めていた。

 トレーナーとして、当たり前のことだ。

 

 

「舐めるなよ、君のトレーナーは意外とやるんだからな」

 

 

 そう言って、エアグルーヴに頼らない生活が始まった。

 

 

 ◆

 

 

「おはよう、エアグルーヴ」

「──ああ、おはよう。 しかし、三日坊主にならなかったとは、案外貴様もやれば出来るのだな」

「言ったろ? 元々しっかり者なんだよ、俺は」

「自分で言うことではないだろう」

 

 

 あれから三日。エアグルーヴの手を借りずに起きる、という以前の生活を身体が思い出し、少し余裕を持って朝を迎えられるようになっていた。そのため、前までできなかった部屋の掃除や洗濯なども自分でやるようになった。

 成長、というよりかは戻っただけなのだが、エアグルーヴから見れば立派な成長なのだろう。

 

 

「たしかに」

 

 

 そう言って笑って見せたが、エアグルーヴの表情はどこか浮かない。

 彼女のストレス解消法が無くなることを危惧しているのだろうか。それなら心配いらない。掃除と言っても本当に簡単なものだし、エアグルーヴのように隅々までやるような事はしていない。部屋の中を見られればすぐに説教の時間になるだろう。

 そもそも、ストレスと言っても多大な負荷がかからなければそこまで心配する必要も無い。

 

 

「──私は先に行っている」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 

 そう言って見送ったエアグルーヴの背中は、どこか小さく見えた。

 

 

「……気のせいだろ」

「いや、まだ気のせいという事にするには早いと思うがね、私は」

 

 

 突然、隣から聞こえてきた声に肩が跳ねる。

 横を見るといつの間に現れたのかそこにはルドルフが立っていた。いつもなら生徒会室にいる時間帯のはず。それだと言うのにここにいるのはどう言った風の吹き回しなのか。

 ルドルフは片目を閉じ、視線を向けてくる。

 

 

「最近、エアグルーヴの調子が悪いようでな。 何か原因はないか、と探っていたのだよ」

「調子が? そんな様子はあまり……」

 

 

 感じられなかった、と本当に言いきれるだろうか。

 彼女は人に心配をかけさせまい、と気を張りつめる傾向がある。そうだ、自分が甘え切りになっていた時にしていたため息だって、それ以外には見つけられなかった。

 つまり、彼女がそういうのを隠すのが得意なのか、自分が見抜けていないだけなのか、だ。

 前者にしろ後者にしろ、トレーナーとして見抜けなかった時点で手痛い。かつ、そこをルドルフにフォローされる始末だ。

 

 

「すまん、俺がしっかり見てないから」

「君はしっかりやってるさ。 けれど、そう思うのなら──いや、難しいな」

「どうした?」

 

 

 何かを言いかけたルドルフだったが、その続きを言うことはなく、「任せたよ」と言ってルドルフは隣の部屋に入っていった。

 中からはルドルフとそのトレーナーの驚くような声が聞こえてきたけれど、それは無視した。

 

 もうすぐ夏祭りが始まる。

 その影響か、浮き足立つような生徒たちの雰囲気に充てられ、こちらもなんだか楽しげな心持ちになっていく。

 夏のはじまりを告げるようなセミの声が今だけは心地よく、ベンチに座って見上げる空はまさに雲ひとつない青空だった。

 しかし、自分の心にはどこか雲がかかったように、エアグルーヴの事が引っかかっていた。

 夏休みにも関わらず、この学園は行き交う生徒が多い。つまり、エアグルーヴのトレーナーとして顔が知れている自分に声をかけてくれる生徒も多いのだ。

 皆一様に「どうかしましたか」と声をかけてくれるあたり、その優しさが垣間見える。

 

 

「貴様、こんなところで何をしている」

「エアグルーヴ、どうしてここに?」

「どうしても何も、生徒たちにお前がここにいると言われてな。 悩み事か?」

 

 

 こうして見て見てもエアグルーヴに変わった様子は見受けられない。

 ルドルフの杞憂であればそれでいいのだが、杞憂ではなかった場合、見過ごしてしまったことを後悔するだろう。心配しすぎるくらいがちょうどいいのだ。それに、最初にストレスが溜まっていることに気がついたのもルドルフだ。

 

 

「君こそ、何か悩んでたりしない? 俺でよければ話くらい聞いてあげれるけど」

「そんなものは無い。 そんなことより貴様だ、そんな浮かない顔で呆けられると生徒たちに要らぬ心配をかけるだろう」

「そんな顔してた?」

「ああ。 早起きが身体に響いてきたか?」

「あー、案外そうかも」

 

 

 慣れないことはするものでは無いのかもしれない。

 苦笑いを浮かべ、エアグルーヴにそう言い返すとため息混じりに彼女は隣に座った。

 珍しいこともあるものだ。こうして自分に付き合うなど日頃生徒会の仕事や、後輩たちの相談などと忙しないエアグルーヴにはあまりない行動だった。

 

 

「なんか、君と二人だけって言うの久しぶりな気がする」

 

 

 そう言うとエアグルーヴは鼻で笑うように声を出した。

 

 

「私も貴様も互いに忙しい身だからな」

「たしかに。 俺も一応仕事あるんだよなあ」

「まさか、貴様、サボるためにここにいるのでは無いだろうな」

 

 

 図星をつかれ、答えるのに間が空くと、それを察したのか、エアグルーヴは大きく息を吐く。額に手をやり、呆れたような表情を浮かべるのは、これまでに何度も見てきたものだ。

 

 ──なんだ、特に変わらないじゃないか。

 

 エアグルーヴの調子が悪い日がこれまでなかった訳では無い。勿論、エアグルーヴだって一人の少女だ。何かしら悩みを抱えたり、調子の良くない日くらいあるだろう。

 横で自分の怠け癖を笑うエアグルーヴに、そんな悩みを抱えたような様子は一切感じられなかった。

 

 

「……じゃあ、俺はそろそろ戻るよ。 さすがにこれ以上サボると後が面倒だ」

「殊勝な心掛けだな。 少し息抜きするくらいは大目に見てやるが、こんな堂々とサボるなよ。 次に見つけた時は、そうだな、縛り付けてでも椅子に座らせてやる」

「肝に銘じておくよ」

 

 

 容易に想像出来てしまうその構図にできるだけならないように気をつけなければならない。

 立ち上がり、トレーナー室に戻ろうと背を向けた時、エアグルーヴが何かを言っていたような気がした。

 けれど、それは風に溶け消え、耳に届くことはなかった。

 

 

 ◇

 

 

 自分の口からあんな言葉が出てくるなど、誰が想像しただろうか。

 たかが三日、それに、自分のことを自分でやるのはごく自然のことで、それを進んでやるようになったのはいいことでは無いか。

 そう自分に言い聞かせる。しかし、俯いたその顔は納得したという表情では無かった。

 理解しているが納得はしていない。まさに、その通りだった。

 

 

「くそっ、調子が出ん」

 

 

 始め、トレーナーの口から自分でやる、と言われた時は嬉しく思ったはずだ。驚きつつも、彼の成長を喜んでいた。

 けれど、心のどこかできっとすぐに泣きついてくる、とも思っていた。

 何せあのトレーナーだ。彼のことはエアグルーヴが一番よく理解しているつもりだった。

 

 しばらくベンチで動けなくなっていると、近寄ってくる足音が聞こえた。

 すぐに気持ちを切り替え、顔を上げる。そこにいたのは──

 

 

「君のトレーナーじゃなくてすまない」

「い、いえ、そんなことは。 どうしてこちらに?」

「何、君のことが心配でね。 おおよそ、あのトレーナーの事で悩んでいるのだろう?」

「そんなことは!」

「本当かい?」

 

 

 言い切れなかった。

 彼のことで頭を悩ませているのは事実だ。

 

 

「近々夏祭りがあるだろう」

「はい。 ですが、我々は見回りが主な役目です。 ハメを外しすぎないよう生徒たちを監視しておかねばなりません」

「たしかにそれも大事な仕事だが、君は、そうだな花火大会の方を見回るといい。 トレーナーも一緒にな」

 

 

 夏祭りの見回りは生徒会の仕事でもあるが、ルドルフなどのトレーナーも当然、見回りに参加することになっている。いかに生徒会と言えど、さすがに大勢の中を一人で歩かせるという訳にはいかなかった。

 そのため、自身のトレーナーと組になって各箇所の見回りにあたることになっている。

 

 

「は、花火ですか」

「ああ、ちょうどいいだろう? 二人でゆっくり話すといい」

「な、何を言ってるのですか」

「気づいてないとでも思ってたのかい? 君、いつも彼の話ばっかりじゃないか」

 

 

 顔が熱くなるのを感じ、すぐにその場を立ち去ろうと足早に歩き出す。

 

 

「エアグルーヴ! 一応聞いておく必要がある」

 

 そう言ってルドルフが引き止める。

 足を止め、振り返ると、そこにはこれまでに無いドヤ顔で腕を組むルドルフがいた。

 

「花火()()に、いき()()()()?」

 

 

 エアグルーヴの調子が下がった。

 

 

 ◆

 

 

「エアグルーヴ、どうかしたのか?」

「……そういう訳では無い」

 

 

 夏祭り三日前、エアグルーヴが突然部屋にやってきた。

 夜、少し暗い顔の彼女は何も言わずに部屋に上がると淡々と掃除を始めた。

 

 

「……貴様、意外としっかり者な一面もあるのだな」

「まぁね。 俺も一応大人だからね」

「すぐに音を上げると思っていたのだがな」

「見くびられすぎだろ、俺……」

 

 

 日頃、どれだけ自分が情けない一面を見せていたのか痛感させられる。几帳面な性格という訳では無いが、それでも生徒たちの手前、エアグルーヴのトレーナーとしてしっかり者としてやってきたつもりなのだが。

 ベッドの片隅をローラーを転がしながらエアグルーヴがため息をついた。

 

 

「少し、休ませろ」

 

 

 そう言ってエアグルーヴがベッドに身体を預ける。うつ伏せのまま、枕に顔を沈め、そのまま眠ってしまうのではないか、と思ってしまうほど静かな吐息が聞こえてくる。

 何をしているのか、と聞こうにも、重い雰囲気がそれを許してはくれない。

 

 

「花火大会、貴様は誰かに誘われたりしたか?」

「……? 誘われるも何も、君と一緒に回るじゃないか」

「誘われたのか、と聞いているんだ」

「い、いや、誘われなかったけど」

「……そうか」

 

 

 どこか様子がおかしい。

 エアグルーヴらしからぬ行動に驚きつつ、傍に座る。頭を撫でてやるべきなのだろうか、しかし、それで怒られてしまっては──

 

 いや、構わないか。

 むしろ怒ってくれた方がいつもの彼女らしくていいじゃないか。

 覚悟を決め、腕を伸ばす。

 恐る恐る、綺麗な髪に触れる。何も言われない。耳が横に折れ、撫でやすくなる。意外なことに、エアグルーヴは怒ることもなかった。ただ無言で撫でられているだけだった。

 

 艶のあるキメ細かな髪質。手のひらに持ち上げると指をすり抜けていくように、流れるように零れていく。癖になりそうな触り心地。甘い香りが鼻をつき、彼女が一人の少女であることを改めて認識させられる。

 耳も人のものと違い、猫のように柔らかく、強く触ると壊れてしまうのでは無いか、と思うほどか弱いように思えてしまう。

 

 

「……触りすぎだ、たわけ」

 

 

 頭を動かし、こちらを向いたエアグルーヴの顔は見たこともないほど紅く染まっていた。

 照れた表情を見せないように、と片手で隠そうとしているが、隠しきれないほど染まりきっている。初めて見るエアグルーヴの表情に少し、鼓動が早くなる。

 

 

「少し、寝てるといいよ」

 

 

 そう言って彼女の頭から手を避ける。

 が、

 

 

「そう言うのなら、私が眠るまで撫でていろ……」

 

 

 その言葉に何も言わず、また頭に手を置いた。

 まるで猫だ。そのうち喉を鳴らし始めるのではないだろうか。

 目を瞑り、黙って撫でられ続けているエアグルーヴ。次第に眠りについたのか、寝息が聞こえ出す。

 手を離し、一度、その場を後にする。

 

 少し、熱を冷ますのにはちょうどいい夜の風。

 夏の暑さがなりを潜め、ほんの少しだけの風と、セミの声が夏を強調する。

 顔の熱が冷めていくのを感じ、部屋に戻ろうと、足を動かす。

 

 

「こんな遅くに出歩くのは感心しないな」

「それは君もだろう? ルドルフ」

 

 

 街灯の向こう、人影がこちらに近づいてくるのがわかった。

 ルドルフだ。なるほど、どうしてこんな時間にエアグルーヴが突然、何も言わずに自分の部屋に来たのか。それは彼女が知っているような気がした。

 

 

「エアグルーヴは君の部屋で眠っているのかな」

「ああ、初めて彼女に甘えられたよ」

「そうかな。 いつも甘えているように見えていたけれどな、私には」

 

 

 そうだろうか。

 甘やかされているのはむしろ自分の方だった。

 だからこうして、彼女に頼らない生活を続けてみているのだが、それは間違っているのだろうか。

 近くのベンチに腰を下ろし、夜空を見上げ、ルドルフにそう尋ねてみる。

 彼女は笑って答えてくれた。

 

 

「そうだね、間違っているよ。 エアグルーヴはああ見えて結構繊細なんだ。 繊細で、逞しいんだ」

「ああ、彼女はきっと、どんな事があっても立ち上がれる。 それだけの強かさも持っている」

「いいや、それは君がいてこそさ」

 

 

 真面目なルドルフの横顔。自分よりも歳下であるはずの彼女が、今だけはずっと上にいるかのような、そんな気がした。

 

 

「君がいるからエアグルーヴは立ち上がれるし、立ち向かえる。 君がいなきゃ、きっとダメだった。 君が──いや、ここから先は私の言うことではないな」

 

 

 ため息混じりに笑い、ルドルフは立ち上がる。

 風邪をひかないうちに戻れ、と言って、夜の闇の中に消えていった。

 部屋では変わらず、寝息を立てるエアグルーヴがベッドで横になっていた。頭を撫でてやると、笑顔になったように、顔が緩んだ。

 なんとも愛らしい彼女をずっと撫でていたいが、さすがに自分も眠たい。とは言え、エアグルーヴを起こすのは気が引ける。

 来客用の布団を持ってきて、床に敷く。いつもと少し違うが、問題ない。近くでエアグルーヴの寝息が聞こえてくる夜は、いつもより深く眠れたような気がした。

 

 

 ◇

 

 

「いい加減、起きたらどうだ」

「──おはよう、エアグルーヴ。 なんか、朝に君の顔を見るのは久しぶりだな」

「朝だと? もう正午になるのに何を言っている!」

 

 

 言われ、時計を確認すると針が重なり合う時間帯だった。

 久しぶりに長く眠ったからか、まだ少し瞼が重い。それでも、眠い目を擦りながら、洗面台に向かう。

 

 

「あれ」

 

 

 昨夜まであったはずの洗濯物が無くなっている。

 それに、少し、綺麗に……。

 

 

「貴様、また洗濯物を溜め込んでいただろう」

「い、いや、あれはほら、まとめてやろうと思ってたからさ」

「ほう。 そう言うのか貴様」

 

 

 確かに、少し積み上がっていたことは否定しないが、まとめてやろうと思っていたのは事実だ。その全てが洗濯機に入るかどうかは別問題として。

 どこか満足気なエアグルーヴの表情は以前と変わらない。昨夜見た、暗い表情はどこかに消えていた。

 そうだ、昨夜と言えば。そう思い、腕を伸ばした。

 

 

「ありがとう、エアグルーヴ」

「──なっ! やめ、やめろ!」

 

 

 頭に手を置くと、すぐに振りほどかれる。

 昨日は黙って撫でられていたというのに、どういう心境の変化だろうか。少し寂しいような気もしたが、いつものエアグルーヴが戻ってきてくれたようで、嬉しかった。

 すぐにエアグルーヴが姿を消し、一人残される。

 やはり、エアグルーヴがいる日常が自分には合っている。早起きにも慣れてきて、いいものだとは思うが、それでも、自分には彼女が必要だ。

 

 

「エアグルーヴ」

「なんだ?」

「やっぱりさ、朝起こしに来てくれよ」

 

 

 そう言うとエアグルーヴは呆れたように──どこか嬉しそうに笑う。

 

 

「まったく、だらしが無いな。 私のトレーナーは」

「ごめんごめん。 でも、君がいないと一日が始まらないんだ」

 

 

 いつもの日常が戻ってきた。

 夏祭りに向けて学園全体が浮き足立つような中、何かが少しだけ進展したような、そんな気がした。




めっちゃ難産。当然ですが、続き描きます。
エアグルーヴ、何気初めて星3にしたウマでした。美人な顔に一目惚れして、育成めっちゃしましたね。
まあ、その後ナリタタイシンに流れたんですけど。ごめんなさい。
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