逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
1.二度目
「ジョイ……嘘だろ、目を開けてくれジョイ!」
うるせぇな。
目は開いてんだろよく見ろよ。
なんて言葉を吐こうとしたが血の塊と掠れた二酸化炭素しか吐けずに思わず笑ってしまう。こんなはずじゃなかったのになと、腹の傷に触れようとしたら腹が無くなってることに気がついた。どうやら腹を抉られたのではなく、下半身ごと吹っ飛ばされてしまったらしい。なるほど、これはもう助からないだろう。
ジョイ・ヴィータという人間は天才だった。何よりも本人がそう思っていた。
彼は御伽噺の英雄に憧れ、辺境の農家に生まれた境遇すらまぁ主人公とは突然変異で産まれてくるものだと前向きに捉えて鍛錬を積み重ね、実際に才能に恵まれていたのか辺境の農家の息子でありながら国で一番の騎士学校の入学試験に受かっちゃったりもした。
彼は何より楽しいことが好きだった。
何かで一番になるのは楽しいし、気持ちよくなれるようなことをするのは楽しい。
だから平民にして初の騎士学校首席入学、首席卒業という偉業を成して歴史に名を残したらさぞや楽しいだろう。さぁ輝かしい未来に進もうと意気揚々と都会に出て……。
もうびっくりするくらいボコボコにされた。
まず首席入学じゃなかったし、それならまぁ在学中に真の力を見せて首席卒業してやろうと思って適当な奴に決闘挑んだらボコボコを通り越してボコボコボコボコとしかいいようがないくらいに負けた。具体的に言うと2秒で意識を奪われた。
騎士学校は端的に言って、化け物の巣窟だった。俺は初めて剣を握るよ〜とか抜かしてたやつに負け、同じような田舎出身だと言っていたやつに負け、明らかに世の中舐め腐ってる典型的なダメな貴族の子供みたいなやつにも負け、もう負けまくってプライドが完全に死んだ。
そんな二度と思い出したくない学生時代を何とか生き延びて、特にパッとするような成績も取れずに卒業し、流れるように騎士になってそのまま俺達は現代に目覚めた『魔王現象』と戦うことになった。
俺達の世代は黄金世代と呼ばれていたらしく、なんだかんだその末席に加わっていた俺も今代の『魔王現象』……確かなんとかの魔女とかって名乗ってたソイツの軍勢と最前線で戦い、何とかその魔女様の首元まで俺達は迫ったのだ。
結果はこのザマだ。何とか勝って視界の端には魔女がもう俺以上の死に体で転がってやがるが、残念ながら俺の方も確実に死ぬ。魔女を倒した栄光は受け取れそうにない。
「ジョイ、君が、君が死んでいいはずがない! 君がいたから魔女を倒せたのに! 僕は……」
そう言いながら俺の事を抱き締める金髪碧眼の男。声がでけぇし顔も近いし距離も近いが、まぁ目の前で死にそうになってる仲間に対しての態度だと思えばギリギリ許せる。そうでなければ、こんなやつ視界にも入れたくはない。
デウス・グラディウス。
俺と同じくド田舎に農家の息子として生まれ、にもかかわらず騎士学校に主席で入学しそのまま圧倒的才能で首席卒業。卒業後はそのまま直接この国に4人だけしかいない騎士団長の位に登りつめ、今まさに魔女殺しの英雄の名も手に入れた男だ。
この男は俺の輝かしい人生に突如として現れ、天才であった俺をただの下位互換に引きずり下ろした憎き男だ。まぁ一方的に俺が嫌ってただけなんだけど。だって悔しいじゃん、俺がやりたかったこと全部やってのけて。きっとこいつの名前は永遠に歴史に刻まれる。羨ましいと思わない方がおかしいってもんだ。
「ジョイ……君が生きるべきだったんだ! 僕なんかを庇って、なんで……」
そんなことを言いながらデウスは涙を流していますが、全然そんなことは無い。
なんか俺はたまたまみんなが魔女の配下達を足止めしてる中で、ちょっと手が余ってしまいとりあえずデウスについて行ったら気が付けば魔女の元に辿り着いてしまい、なんやかんやで戦闘になったけどほぼ巻き込まれる感じで特に役に立てるようなことも出来ず、最後にデウスが魔女を倒した瞬間に魔女の最後の一撃と思われるビームが飛んできたけど、普通に疲労で避けきれずに食らってその時転んだ感じがたまたまデウスを守ったようになっただけだ。
ちなみに消し飛んだ下半身からわかる通り、それでビームは止まらなかったし、デウスは普通に片手でビームを弾いたので俺がコイツを庇った事実はデウスの中にしか存在しない。
まるっきりの無駄死に、と言うやつだ。本当にこんなの全然楽しくない。一体俺の人生どこで間違えてしまったのか。
「すまない……僕にもっと力があれば……」
お前にもっと力があったら俺の心がとっくに折れてんだよ。あ、待てよ。確かに俺の心が折れてたら騎士を辞めてこうして戦場に出ることも、戦死することもなかったかもしれんしある意味正しいかもしれん。
でもまぁ、それは楽しくないと俺はそうはしなかっただろうし、語っても無意味な話だ。どちらかと言えば俺がもっと強ければ死ななかったとか、そういう話だ。お願いだからデウスはこれ以上人間をやめるな。才能の差を見て俺が死ぬ。もう本当に死ぬけど。
「死なないでくれジョイ、君がいなければ、僕は……」
マジでコイツどんだけ俺の事好きなんだ? 学生時代も一発俺がぶっ飛ばされたくらいしか絡みなかったのに。でも、こんな世紀の大天才様が端正な顔をぐちゃぐちゃにして泣き腫らす顔を最後に見られるなら、俺の人生はそこそこ楽しい人生だったのかもしれない。
なんてったって、デウスのこんな顔を世界で見られるのは俺だけだろうからな。なんとも嬉しくない、世界で唯一だ。
あ、そんな事考えていたら本格的に感覚がなくなってきた。
目も耳も使えなくなって、最後に残ったのは触覚。デウスのゴツイ膝と腕の感覚だ。
どうせ最後だ。本当にこういうの言っちゃあれだけど、欲望として…………
どうせ死ぬならイケメンの腕の中じゃなくて美女のおっぱいの感触とか確かめながら死にたかったなぁ。
「とか思ってたからバチが当たったのかねぇ」
俺は大きな溜息を吐いて、部屋から外の快晴を見渡した。
今日も今日とてうちの親は畑仕事に精を出しているし、世界は平和そのもの。高い建物がろくにないド田舎の光景があるのみだ。
そして俺の体は下半身が消し飛んだりしておらず、ぷるぷる潤いタマゴ肌になっているし、身長もだいぶ低くなっていて……早い話6歳の頃のそれになっている。早い話であれからもう6年経つのだ。
あれからの『あれ』とは、俺が魔女に殺されてからという意味だ。
どういう訳かあのまま死ぬはずだった俺は、何故か目を覚まして気が付けば赤子になっていた。
最初は何が起きたかわからず走馬灯かと思って成されるがまま、本能のままに泣いたり漏らしたりお袋の乳吸ったりしてたが、あまりに体感時間が長すぎて走馬灯ってこんな長いものか? って疑問を持ち始めた1年目くらいに、うっかり屋のお袋が俺を高い高いから見事に地面に叩きつけて二度目の他界他界しかけた時の痛みでようやくこれが現実だと気が付いた。
何の因果か、俺は人生をやり直すことになったらしい。
意味わかんねぇよ。だがどれだけ頭を巡らせてもそれ以外に結論は出ないため今はこれからどうするかを考えていた。
正直、俺にとって楽しくないこと、前の人生のようなことを繰り返すことは拷問に等しい。だからこそもう一度人生を繰り返しても良い、なんて言う神様からのご褒美のような現実すらバチが当たった、と思ってしまうのだ。
嫌だな〜。
また騎士団入って、自分が天才じゃないと思い知って、そっからずっとボコボコにされ続けるだけの楽しくないだけの人生送り続けるの。心を折られる辛さというものは生半可なものでは無い。
自分を構成していた足場が、世界が崩されて奈落の底に叩きつけられるかのような苦痛。あんなものをもう一度味わうだなんて耐えられない。本当に楽しくない。
では、どうするか。
生まれてしまった以上死ぬことは楽しくない。というか普通に苦しい。このままのほほんと生きていては結局魔女が活動始めてなんやかんやで死んでしまうかもしれない。
では、もう一度騎士になるか?
もう一度天才達と出会い、もう一度己の無才を知りもう一度心を殺すか?
いいや、せっかく人生二週目なのだ。もっと違う方法があるだろう。と言っても、努力の限界と才能の差は身をもって知っている。幾ら限界まで努力しようと、越えられない才能の壁は、認めたくはないが存在する。
というかほんとうにあるんだよ。偉そうな奴がいっちょ前に努力に限界はないとか言うけれど絶対あるからな?
なんだよ生まれつき全属性の魔力扱えるとか、加護で筋力が狂ってるとか、なんか剣が止まって見えるとか。そういう連中がうじゃうじゃいる世界怖すぎだろ。しかも騎士学校に来る奴らはその才能の上で努力も重ねてきた存在だ。
普通にやってたんじゃ勝てない。心が折れて、諦めて前と同じように死ぬだけだ。
しかし俺は人生二週目。前世で引き継いだ剣技は残念ながら役に立つとは言い難いが、スタートダッシュとしては十分だろう。そして何より、俺は挫折を知っている。
本来の俺ならば、今頃の年齢は自分の才能に胡座をかいた上で努力をしていた。だがもう俺は自分を天才だと思えない。これホント認めたくないが思えないのだ。悲しいことに。
……賢い人間は他の生き方を志すのだろう。
魔女を倒す事だって道は一つじゃない。やり方はいくらでもあるだろうが、なんだかんだ俺にだって憧れがある。
目指したら楽しいと思える、遠い遠い憧れが。
「母さん」
「どうしたのジョイ? もう少ししたらご飯出来るからちょっと待っててね」
「大事な話があるんだ。……俺、騎士になりたい」
どれだけ苦しくても、俺は楽しく生きたいんだ。一度死んでも治らないバカは、もう呪いとしかいいようがないだろう。
そんなわけで俺は両親に相談し、土下座までして村の近くに住んでいるという昔騎士をやっていたという謎の人の弟子にしてもらい、そこで幻術と魔術について学ぶことにした。
俺の唯一の武器はモチベと志だ。他の奴らが情操教育と共に得ていくその気持ちを、俺は実質生まれつき持っている。ならもうさっさと体が鍛えられるくらいになったら鍛えるしかないじゃん?
もちろん前だって訓練はしていたが、その程度じゃない。もっと自分を追い詰めて、天才との差を埋めるような地獄のような訓練──────
そう注文したのは俺だけどね?
この師匠がもうとんでもねぇ馬鹿だった。一応尊敬出来る人物なので出来る限りオブラートに、尊敬を込めた表現で言うと白を見て黒と唱えるような大馬鹿野郎だった。
弟子入りをお願いしにいって、俺の「この世界で一番の存在になりたい!」と言ったら笑顔でOKしたまではいい。そのままの足で俺を谷底に突き落としやがった。俺が受身を学んでいなかったら本当に死んでいた。
何とか谷を登ったらそのまま俺を掴んで魔獣ひしめく森の中に投げ込んだ。だから馬鹿じゃねぇの死ぬって。俺が魔獣について前世の知識があって、習性を利用して効率的に狩りとか出来なかったら6歳の子供は死ぬんだよ。
そんな感じで師匠が俺を殺そうとするから、それを潜り抜けてはまた殺されかけ。まともな魔術の勉強をさせて貰えたのは2年後くらいからだった。
確実に強くはなった、なりましたよ。
でも人間性を捨てたかった訳では無い。もうちょっとこう、楽しく強くなりたかった。なんかすごい技を見て、なんかすごい指導を受けて成長するってのが理想だった。魔獣の唸り声に怯えながら息を殺して眠ることすら許されない密林生活や、少しでも魔力の流れを誤ると首ごと爆散して死ぬ首輪を付けられての生活はもう修行を通り越して虐待か拷問なんだよ。
しかし強くなりたいと言ったのはこっちであるし、しかもなんだかんだそれで俺は前世よりも圧倒的に強くなってしまったので何も言えない。
そんなこんなで16歳。いつの間にか俺も騎士学校を受験できる年になり筆記と実技試験を受け、見事合格した。
まぁ受かるのは知っていた。これで受からなかったらもうこの世界のアベレージは狂ってるので俺なんか居なくても何も問題は無いし俺は才能のないゴミムシなので諦めて田舎で畑耕している。それでも師匠は飛び上がって喜んでケーキも作ってくれたので、喜ぶフリはしておいたが。
……俺にとって重要なのは何番で合格かだ。
首席合格。
俺の最初の目標にして、最初に砕け散った夢。これを叶えるためにここまで頑張ったと言っても過言ではない。他に目標があった気がしなくもないが今はそれしか見えない。
だって、ここで首席合格すれば俺は平民で初めて、騎士学校に首席合格した逸材になるのだ。そんなのもうめちゃくちゃ主人公じゃん。なったら楽しいに決まってるじゃん!
しかもここで朗報がある。
なんと、どうやらこの世界では前世で俺のプライドを粉々に砕いたあのデウス・グラディウスという男は存在しないらしいのだ。
ちょっとなんやかんやでアイツの生まれた村のヤツらと関わる機会があった時に聞いたので間違いない。アイツの出身村では、デウスという男どころか俺と同い年の男の子すらいないそうだ。
いやーもうこれは勝ったわ!
今の俺は師匠のアホみたいな修行のおかげでそれなりに強くなったしな! 筆記は絶対に勝てない相手がいるので2位だとしても、実技は1位だろうから総合では確実に1位。つまり首席入学ということだ!
いやー困っちゃうなぁ! スピーチの内容とか考えなきゃいけないが、そこは人生二週目の圧倒的な語彙力を見せてやるしかないな。もう今から楽しみだ!
『では続いて、新入生代表挨拶──────』
誰もが神妙な顔でその拡音器越しの声を聞く中、俺はお手本のような美しい姿勢と、真っ青な顔で聞いていた。
「──────はい!」
名前を呼ばれ、元気よく応えた凛と響く高い声。
立ち上がってもその背丈は周囲の人間と比べて明らかに小さく、場違いなくらい所作にも無駄が多い。
なんてったって、今年の新入生代表、首席入学者は平民だと言うのだ。優秀な血を継ぎ、幼い時から相応の厳しい世界で生きて鍛錬をしてきた者や、そういう者を『高貴でない』と一括りに見下す頭の固い貴族様からしてみれば気持ちの良いものでは無いだろう。
そんな冷たく鋭い視線を小さな体に受け、それでも少女は式場の中で最も輝いていた。
角度によっては純白のヴェールのようにも見える煌びやかな金髪。陽の光を受け輝く澄んだ海のような蒼い瞳。剣すら握ったことがなさそうなほど細く見える手足の先、丈の合わない制服から僅かに出て見える指先は決して綺麗な指先とは言えず、それだけで見るものが見れば少女がなにかのまぐれでそこに立っているのではないとわかる。
──────そして、その胸元は豊満だった。
何もかもお子様サイズで、制服を着た姿も妹が見栄を張って姉の服を着込んだかのようなアンバランスさだったはずなのに、胸元だけはギチギチに詰められて布とボタンが悲鳴をあげている。
そんなロリ巨乳金髪碧眼美少女は壇上に立ち、マイクに背が届かない事に気がついて慌てて踏み台を用意してもらってその上で改めて俺達を見下ろしながら、スピーチを始めた。
『はじめまして同級生の皆さん! この度、僕はこの誉ある騎士学校に皆さんを飛び越えてイチバンで入学した──────
そのあまりに不遜過ぎる言葉に、会場にざわめきが生まれる。
明らかに不機嫌になるもの、驚愕で反応が遅れているもの、ただじっと、自分たちを見下ろすその女を見つめるもの。ちなみに俺は心臓が止まって三度目の他界他界してた。
だって、そんなことあっていいのか?
俺はその言葉を知っている。だって聞くのは二度目だ。その昔、もう16年と更に前に聞いたことのある言葉。
『──────
頭の中に響いたのは、かつてであった天才の入学スピーチ。名前と声以外、全てが同じであるそのスピーチを聞いて驚かないわけないだろう。
恐る恐る顔を上げる。
デウスは世間知らずから、悪友に騙されてこんなスピーチをしたと言っていたがエアと名乗った少女は自信満々の顔で佇んでいた。そして、偶然にも俺と目が合った少女はニッコリと花が咲いたように笑った。
ここまで来てねと、そう言うように笑う男を俺は知っていた。
なんでお前が女になってんだよ。
しかも、俺好みのロリ巨乳美少女騎士に。というか女になってもお前は俺のずっと前に進んでるのね。
(ふざけんなよ、なんなんだよいるのかよもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
誰にもぶつけられないどうしようもない気持ちを心の中で叫びながら、俺の最悪の二度目の入学式は終わりを告げた。