逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
魔術には幾つか系統がある。
色々と細かいのだが、分かりやすく大雑把に分ければ火、水、風、雷、土。そして光と闇の7つだろう。前半5つはそのままだし、後半2つは専門用語が多すぎて俺には理解できない領域だ。
そして魔術というのは得意系統がある程度人によって決まっている。
だいたい多くても2つ、後天的に1つくらいなら鍛え続ければ開花すると言ったところか。それでも『
その点でいえばアーリスはめちゃくちゃ優秀だ。火と風、さらに後天的に土も極めている。
エアは知らないが、デウスは基本5属性に加えて光を後天的に使えるようになっている。
ではリィビア・ビリブロードは?
少なくとも彼女の証言が正しいならば、ではあるが。
彼女は生まれつき7つの属性の魔術を全て扱えたと言う。
簡単に例えれば生まれてすぐに剣を振るって達人を倒すとか、難解な計算式を解いてみせるとかそういうレベルの存在。
リィビアは天才と言うよりは、人の理から外れた存在。奇特な見た目も相まって彼女は異形、異能として恐れられている。
実際俺も怖い。
実は前世でボコボコにされているのだが、アレはデウスより酷かった。どうせ魔術頼りのやつは接近すればいいと思ったら接近する前に属性飽和掃射を喰らい、乱入してきた先生が守ってくれてなければ多分そこで死んでいた。あれからしばらく、激しい光を見るとその時のことがフラッシュバックして変な悲鳴をあげるくらいにはトラウマになったものだ。
一体これから俺は何をされるのだろうか。
今なら恐怖で普通に師匠にすら泣きつける自信があるくらい、内心震えながら俺の肌をぺたぺたと触り何かを確かめるリィビアの動きに、全神経が集中する。
「うっわつまんね……。計測してもなんも特別な値出ないんだけど。よし、帰っていいよじゃあね。うん、じゃ」
それだけ言うとリィビアは俺を放って机に向き合い、なにかの計算に戻ってしまった。
……………………そう。
別にね? 隠された才能とか気がついてなかったとか期待してないけどさ。
幾らなんでもこの扱いはあんまりだろ。
「あの、リィビアさん?」
「うるさい。早く出てって」
「まずなんで俺を呼んだのかと、何故部屋から出ないのかを教えてくれると、嬉しいなって」
「説明? 説明しないとダメ? しかも一から? 私が?」
あまりに不思議そうに見つめてくるのだから一瞬俺がおかしいことを言ったような気がしてきたが、間違いなく俺は普通のことを言っているはずだ。
「いや、ごめんね? ほら私は一を聞いて十を知る天才だからさ。説明とかそういうものを他人にして貰った試しがなくて」
「はいはいそうですか。そういう自慢はいいから、さっさと部屋から出てきてくれ。ラクシャ先生、なんだかんだ多分心配してるぞ」
「ウケる」
このままでいいんじゃないかなぁ。
コイツ、確実に人間社会で生きていけない感じの性格だよ。できることなら、一生部屋から出ないで貰っていた方が世の中の為だ。
「いやぁでも、せっかくラクシャが玩具を持ってきてくれたんだ。ちょっとくらい遊ぶとしよう」
「俺はアンタみたいなのと話してると本当に、心の底から疲れるから嫌なんだよ……。出る気がないなら俺も帰って……」
「ジョイ・ヴィータ。適正は雷、後天的に闇も鍛えてる。特筆した能力は見当たらないが、強いていえば特殊な暗示にかかってるね。あとは……その眼。君の師匠は最低だな! そんなもの人間に仕込むとか何考え」
反射だった。
何も考えず、リィビア・ビリブロードの口を手で封じた。俺はコイツに自分のことを何も教えていない。そのはずなのに、コイツは俺の個人情報、『
これ以上喋られたら、何を話されるか分からない。そんな未知の領域への恐怖から冷や汗を垂らしながら体を動かしていた。
「……なんだよ。人の個人情報喋って。なんの真似だ?」
「いやー、
魔術による人工的な光が照らす。
生命を否定する砂漠。そんな光の在り方とリィビアの笑顔が重なる。この女はきっと、人間じゃない。今の表情は人間が人間に向けるものじゃない。
同じ人間を弄り回して楽しむくそ野郎共が身近にいるからよくわかる。リィビアのそれは、昆虫の四肢をもいで楽しむかのよな無邪気な好奇心と、ただ純粋な侮蔑。
相手を自分と同じ人間として見てないからこそできる顔だった。
「ほーら、これ以上自分も知りたくなかった自分の秘密を私に言われたくなければ帰った帰った。凡人と絡んでる時間は私には無いのだよ」
自分から呼んでおいてこの態度。どこまでも自分勝手で自由な女だ。
そんな態度にめちゃくちゃ腹立つが、無理やり引きずり出そうとしても多分俺が死ぬんだよね。
しかしここまで徹底的に舐められ、弄ばれるのも楽しくない。一発くらい鼻を明かしてやりたいし、そもそも多分リィビアをちゃんと部屋から出さないと学園長にできるまで同じことやらされ続ける気もする。
「あーあ、これならアーリスとかを呼ぶべきだった。もうほとんど消えてるだろうけど、魔女についてもちっと知れたかもしれないのに」
「アーリスって……アンタ魔女のことまで知ってるのかよ」
「そりゃ一瞬変な反応あったからなんだろって見に行ったら魔女の結界があったから解析してたし、中も覗いてたよ。いやぁその点に関しては良いデータが取れて良かった良かった」
サラッとこの世界で最高硬度の結界である魔女の結界に干渉してたり、その上で俺達を全く助けようともしてなかった事実を知ってしまいさらに嫌になる。本当に俺達のことなんてどうでもいいのだろう。そういう相手と話しているとあまりに疲れる。
だから、うっかりとこんなことを呟いてしまった。
「それなら俺達じゃなくて最初からエアを呼べよ」
「──────は?」
空間が、濡れた。
そうとしか表現出来ない現象。目の前の何もかもが、水でも吸ったかのように膨らみ、ぼやけ、重さを増して溶けていく。崩れる世界で唯一形を保つリィビアの周囲が、徐々に色も形も失い黒一色に落ちていく。
「え、な、何だ急に!?」
「凡人、今なんて言った?」
「はぁ!?」
「私の前で、誰の名前を口にしたかってことだ!」
急に感情を剥き出しにして俺の胸倉を掴んでくるリィビアの豹変っぷりに、気圧されてしまい言葉が出てこなかった。
先程までの人の形をした
「なんだ? お前、エアの知り合いか?」
「知り合いのわけあるかあんなバケモノ。アレは世界の異常だ。魔術の全てを否定する、存在してはいけないものだ」
全くもってその意見には賛成ではある。
アレはどう考えてもこの世界の法則を歪める生まれる世界を間違えた人間だ。
「あんなモノ認めない。あんなモノ、この世界にあってはいけない。私より優れたものなんて、この世界に存在してはならない……」
大きく目を見開き、ブツブツと俺ではない相手に話しかけるリィビアは拳を血が出るほど強く握り締めながらしばらくそうしていて、落ち着いてから感情の見えない笑顔で改めて俺に顔を向けた。
「ふぅ。ありがとう。こんな気分を害されたのは久しぶりだ。殺す」
「おいおい、そんなに殺気立つなよ天才様。……泣くぞ? 土下座とかすれば許してくれるか?」
あまりに理不尽で天才と言うより天災。本気でどう生き延びるかだけを考えて既に床に膝をつけて土下座をする体勢を整えた俺を見て、リィビアは膝を付いてここに来て初めて視線を合わせて、俺の目を見て言葉を吐いた。
「殺してやるのはエア・グラシアスに決まってるだろ。あの女は私が否定する。あんなイレギュラーは、私の世界にいらない。だから、ジョイ・ヴィータ。協力しろ。──────神殺しの一端を君のような凡人に背負わせてやると、この私が言ってるんだぜ?」
「そんなことがあって、俺しばらくリィビアの奴隷になることになりました」
「寝盗られた〜〜〜!!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫して床に倒れ込んだ師匠をとりあえず起こしてやる。そしてまずそれは寝てから言え。そもそも俺はリィビアと寝てない。
「ジョイを面白おかしく弄っていいのは私だけなのに、ジョイは、ジョイは誰でもいいの!? 私の技術だけが目当てだったのかい!? 顔と能力さえ良ければ誰でもよかったんだね!?」
「師匠、顔と能力以外良いところがないって自覚あったんですぬげぶっ!?」
背中を地面に着けた状態から跳ね飛んだ師匠の蹴りを食らって俺も床に倒れ込む。さすがに今の動きは言い逃れできないくらい人間離れしてるぞ。
「っぅ……だってしょうがないじゃないですか。Noと言えば確実に殺されていましたよ俺」
「だとしても他にあるだろ〜。私と言う師匠がいながら、酷いよ……。うぅ……」
普通に学生生活してると同級生に殺される確率があるのそこそこクソみてぇな状況だが、天才の牧場みたいな場所で考えるだけ無駄なことなのかもしれない。
それにしても、エアの名前を出した瞬間のリィビアの反応。アレは異常だった。俺でもあそこまでの反応はしない。
親の仇とか、友の仇とか、祖国の仇とか。そういうものを抱えた人間の目は何度か見てきたがその類の中では最も重い何かを見る目。世界の仇と言わんばかりのあの瞳。
俺の知る限りではリィビアは別にデウスのことを嫌っていたとかそんなことは思い当たらないが、だからといってエアだから、同性になったからって急に殺意の対象になるとかそういうこともあるものか?
「師匠、俺生きて帰れますかね?」
「背中刺されて死ね」
師匠も拗ねちゃったしこれはもう話し合いにもならないか。
とりあえず当分はリィビアを苛立たせないようにしつつ、それでいて情報を引き出して授業に参加させるように誘導。
たったこれだけなのに、魔女の支配下のアーリスを相手するよりも命の危機を感じるのだから、リィビアという存在の規格外さを思い知らされる。
「師匠、真面目にリィビアについて知ってることとかあります?」
「筆記試験で模範解答と全く別の回答して、その横に何故そうなるかを汚ったない字で的確に説いて問題製作担当の教師の心をへし折った女。伝統あるビリブロード家の一人娘、人格面に多大な問題を抱えている。なんだコイツ! こんなの碌なやつじゃないぞ! 今すぐこんな奴とは縁を切れ!」
「師匠ってブーメラン投げるの上手いっすね」
「今ここで君の首から上でブーメランしてやってもいいんだからな?」
それにしても改めて聞くと本当にすごいやつだ。
あー! なんで俺はこんな奴のご機嫌取りをする羽目になってるんだ!? 俺は一番になる為にこの学校に来たのに、自分より強いやつにビクビク怯えながらご機嫌取りなんてする羽目になってるんだ。
こんなの全く楽しくない。
それに、だ。
エアを倒すのはこの俺であり、俺と師匠が全てを捧げたこの『切り札』だ。例え相手が第2位の天才であろうとも、譲ってやるつもりなんて毛頭ない。
「その笑顔……ふふ、いいよジョイ。何かあったら『切り札』の使用を許可する。あのいけ好かないガキにギャフンと言わせな」
「使うまでもありませんよ。あのクソアマ、俺を弄ぼうとしたことを後悔させてやりますよ……」
多分今の俺も師匠もものすごく悪人な顔をしているだろう。
リィビア・ビリブロードというカスを相手にするのだ。こちらだって相手の全てを利用して、絞り尽くしてから捨ててやるくらいの気持ちを持つこと。そうでもしなければ、俺なんかではリィビアは出し抜けないのだから。
ジョイ・ヴィータという青年のことを常に考えている。
命の恩人なのだから、それ自体はきっと特別なことじゃない。特別なことじゃないからこそ、こんなにも苦しんでいる。
アーリス・イグニアニマは自分を強いと思えない。
心の弱さに負けて、大勢の人を、アレだけ私を認めてくれた人を殺そうとした。こうして今もここに居れることは奇跡に近い。
学園長は『結果を出せ』とだけ言って私を徹底的に修行と称して殴り倒すだけでそれ以上は何も言ってくれない。
でも結果って何?
何をすれば私は許してもらえるのか。何をすれば自分を許せるのか。
何をすれば。
彼に私を見てもらえるのか。
最悪、最低、下衆だ。
寝ても覚めても彼の事ばかり。彼に好かれたいと、愛されたいと、その気持ちを独占したいと。そればかりを考えている。あまりに卑しく、あまりに愚か。
それでも求めてしまう自分の醜さを否定しきれない自分が何より嫌だ。せっかく助けて貰えたのに、認めて貰えたのに何も変われていない。
結局、魔女に認められた気になっていたことの『魔女』の部分がすり変わっただけで。
「強くなれば、私も何か変われるのかな?」
思い浮かんだの一人の少女の顔。
学年首席、現在私たちの学年で最も強い女の子。
もしも彼女を倒せたなら、私は──────。
魔女の結界を破れる生き物。
・デウス(エア)
魔力の流れを読んで結界をすりぬける。バグ生命。
・ギガト
数分あれば殴って割れる。
・リィビア
数分あれば解除できる。