逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
「という訳でエアを殺す為に情報収集だよヴィー太郎」
「俺の呼び方他にないのか?」
そういうわけで、と連れてこられたのは近くの書店だった。
騎士学校の近くは治安が良いし、そもそも国内最高峰の教育機関の一つなので俺の村とかと違ってめちゃくちゃ色々ある。まぁ初見なら興奮しただろうが、さすがに二度目ともなると別に興奮したりしないもの。
都会ってこういうものだよね。一度来た時は興奮するけど、二度目だったりいざ住んでみたりするとなんか違うな……ってなるアレ。
「うぉ……刀身から炎が出る剣売ってる……欲しい……」
「騎士学校じゃ刀身から炎出すやついっぱいいるだろ。君、アーリス・イグニアニマと戦ってただろ?」
そういう問題じゃないんだよこれは。炎が出る剣っていえば一番有名な御伽噺の勇者の武器だから男の子はみんな憧れてるんだよ仕方ないだろ。かっこいいじゃんファイアーソード。しかも俺は火に適正ないからあんまり使えないし。
だいたいアーリスは炎の翼で敵を蹴散らすのであって、剣に纏わせるのは大抵岩だからな。あいつ、綺麗な顔してパワーで相手を叩き潰す戦法なの改めて考えると結構怖いな。
「男児ってこういうの好きだよな? やっぱ聖剣とか好きなのかい?」
「そりゃあ俺だって『聖剣』を使いこなす勇者に憧れないわけないだろ」
「まぁ君は自前の才能が頭打ちになって自分以外の力に選ばれれば、とか考えそうだもんね」
「おいおいお前やめろ、本当にやめろ。子供の頃の憧れを大人になってからの邪な気持ちで汚さないでくれ」
「言われて傷つくような邪な気持ちを持ってる方が悪い」
剣の形をした固有魔術、選ばれし者にしか扱えない剣、『聖剣』。
現存するのはたった4本であり、それに選ばれればそれだけで大いなる力を得られる代物。男の子は誰だって憧れたに決まってるだろ。
もちろん、デウスは前はこれに選ばれてた。ホントあいつなんなんだろな。元から才能持ってるやつが選ばれちゃいけないものだろう。
「そもそもこんな街中にエアをどうにかするヒントあるのか?」
「あるわけないだろ。アイツを既存文明の技術でどうにかできると思ってるのか? 今日は私の趣味の時間だ」
「は?」
何かおかしいかな、と言いたげな顔で言ってるけど何もかもおかしいだろ。
「君は私の気分を害した。ならまずは害した分私を楽しませるのが当然だと思うけど?」
「なら俺も気分を害したのでおあいこにならないか?」
「なんで私が君を楽しませなきゃならないのさ。なんで?」
……ヨシっ!
会話はやめておこう。
デウスとかとは違う方向の天才だ。思考回路とか何から何まで俺達とは違う。会話をするだけ疲れるタイプだ。せめてアーリスくらい話が通じる感じが良いな。
同じ性格が悪いやつでも、リエンみたいなタイプのありがたさが今になってわかってきた。アイツは普通に痛い目を見た方がいいと思うが。
「だいたいお前、今更そこら辺に売ってる本から学ぶことなんてあるのかよ」
「ないよ。趣味と言ってるだろう。そこらに売ってる本から間違ってる箇所を見つけて徹底的に解説して作者と出版社に送り付けるのが私の趣味なんだよ」
コイツホント人格終わってるな。
そう思いながらリィビアを見てると、彼女は適当な書店で何冊か魔導書を物色して、そのうちの一冊を自分の鞄の中へ……
「いやちょっと待て」
「何?」
「万引きは良くないよな?」
「万引き? 何? なんで?」
何言ってんだコイツ。
コイツ文明人だよな?
「犯罪だよ」
「そうなんだ。知らなかった」
「え、お前、え、え?」
「何せ書店というものに今日初めて訪れた。犯罪者は嫌だからやめておこう」
ちょっと待て、コイツ、あんなに尊大な態度をしておいて、まさかだけど。
「リィビア……。お前、街とかに出たことって……」
「ないけど?」
「無いって、はぁ!?」
コイツの家、ビリブロード家はアーリスの実家であるイグニアニマ家に並ぶ名家、早い話コイツはこれでもお嬢様だ。しかも一人娘。そんな人間が街に出てきたことがないって、そんなこと普通あるはずがない。
「私はそもそもあの家の娘じゃないぞ。養子だ養子」
「養子って、本当の娘じゃないってことか?」
「聞けばわかるだろなんでそんなこと聞く。バカか? ……私は自分の苗字も誕生日も知らない、スラム生まれの女だよ」
つまりコイツの才能は突然変異、血筋によるものではなく個人で生まれた突然変異ということか。
頭に浮かぶのは、平民出身にして騎士学校に首席入学したどこかのデカ乳。アイツも突然変異の天才だ。
そして目の前にいるのもスラム出身の天才次席。
なんなんだよもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
俺の周りこんなんばっか! 俺の平民出身という唯一に近いアイデンティティがワンツーフィニッシュで消し飛ぶのやめてもらえるか!? 俺に残されてるセールスポイント完全になくなっちゃうじゃん。
そもそもそれじゃあ前世での騎士学校ワンツーが平民出身だとか、人類の未来は本当に明るいな。俺の未来はすごく真っ暗だけど。
「しかしへぇ……こんな間違いだらけの本に対価が必要だとは。厚かましい人間もいたもんだ」
「誰だって知らない状態からは何も出来ないだろ。お前だって最初はその間違いだらけの本で基礎知識を得ただろ?」
「私は全部独学だから、そこら辺の感覚は分からない。凡人は大変だね」
段々、このままコイツと一緒にいると劣等感でおかしくなってくる気がしてきた。エアとかもたまに訳の分からないことを言うけれど本当の天才というのはこういうものなのだろう。
俺達とは見えている世界、感じるもの、常識な倫理、何もかもが違う。会話が成立しないというか、会話をするために最低限必要な共通の認識がないのだ。そりゃあ会話なんてできるわけが無い。
コイツらの見てる世界はどんなものなのだろう。
「しかしどうしよう。お金……金銭か。君持ってない?」
「俺が持ってるわけないでしょう。あったらお前に使わずあのファイアーソード買ってる」
「どう考えても私のために使った方が人類全体の益になるのに」
「俺は人類のこととか考えてないんだよ。自分が楽しい方がいい」
じーっと俺を見下ろしてくるリィビアの視線に耐えながら、俺は財布をひた隠しにする。俺だって実家からの仕送りとか支援金とかでちまちまやりくりしてる身なのだ。決して金持ちとは言えず、リィビアが適当に手に取ったお高い魔術の参考書を買えるようなお金は持ってはいない。
「……買って♡」
「嫌だけど」
「なんだ君。背が小さくて金髪碧眼で胸が大きい相手じゃないと興奮できないのか?」
「ハァ〜!? 俺は包容力があって煌めく髪と瞳を持つ母性溢れるけど少し子供っぽいところがある女性がタイプだが? よく見たらお前タイプだな〜! 買ってやる買ってやる!」
「チョロッ」
おっと危ない危ない、危うく初歩的な煽りに引っかかるところだった。しかし俺はこんな背がでかいだけのガキには負けない精神力と精神年齢を持つため、何とか一冊買って財布の中身がほぼ消し飛ぶだけで済んだ。前世の俺だったら間違いなく2冊買ってたので成長だなこれは。
「ん……アレ? ジョイくん!? おーい! ジョイくーん! こんなところで何してるのー?」
そんなことをしていると、遠くからよく通る鈴の音のような声が聞こえてきた。同時に、俺は呼吸が止まるような感覚を覚えた。
だって、今の声は間違いなくエアの声だ。そして俺の隣にいるのはエアの名前を出した瞬間にとんでもない殺意を見せた女、しかもとんでもない大天才のだ。
「ん……あの魔力、あの声……」
「人違い人違い! もう帰らないかリィビア! ほら、本買ってあげたし! な!?」
まずいなこれは。
リィビアをエアに合わせたら、間違いなくめんどくさい事になる。具体的に言うと、街が一つ消し飛ぶくらいの面倒くさいこと。本当にそうなるかは分からないが、リィビアにはやるかもしれないという『常識のなさ』がありやがる。
「あれー? 気づいてない? おーい僕だよー! エアー! エア・グラシアスだよー?」
くっそあの野郎乳をブルンブルン震わせてぴょんぴょん跳ねながら叫びやがって。おかげで無視しようにも視線がどうしてもアイツの方に引き寄せられてしまう。
「……エア・グラシアス? エア・グラシアスだよなアレ」
「ヒュエッ」
あまりに怒りと殺意に満ちた声を出すリィビアを見て、前世のトラウマが甦って変な声が出てしまった。どうする、どうすればいいんだコレ? とりあえず俺はどうすればいい? これが子供の喧嘩とかならまだしも、
「……ジョイくん。そっちの女性、誰?」
しかも、俺の隣にいるリィビアを見てエアの方も何故か煌めく碧の瞳から光が少し消えて、獣の唸り声みたいな聞いた事ない低い声を出してきた。
もしかしてこの2人、前にどこかで会ってそこでとんでもない因縁があったとかなのだろうか? そうなるともうおしまいだ。今すぐここから逃げたいのだが、何故かリィビアがものすごい力で俺の腕を掴んできて逃げられないし、それを見てエアもものすごい圧を放ちながらリィビアを睨みつけている。
どうやら俺の2度目の人生の終焉はここのようだと、終わりを悟り始めた頃になってようやく、リィビアはエアに向けて口を開いた。
「あ、あの……初めましてエアしゃん……、あ。私は、同じ学園のリィビア、リィビア・ビリブロード、です。ここであったのもなにかの縁なので、良かったら、お、お茶……いや、握手、あ、サインとか……へへ……」
近くの喫茶店。
何の変哲もないこのお店なのに、中の空気は空が落ちてきたかのような圧で呼吸することにすら注意したくなる世界になっていた。
「……それで、リィビアさんはジョイくんとどんな関係なのかなぁ? かな?」
騎士学校首席入学、『
「ふひ、その……私達は、どれ、ん、なんなんでしょうねへへ……知り合いとか、ですかねへへへ」
騎士学校生徒、『
「友達というか……アレだな。荷物持ち。うん、荷物持ちだよ! 知り合ったの昨日だし!」
そしてその隣に座る俺は状況が飲み込めなくてとりあえずエアの機嫌を取ろうと必死な俺。どうしてこうなってしまったのだろうか。
リィビアはあれだけ殺意を持っていたのに、いざ話し出した瞬間俺よりデカイ背丈を仔犬みたいに縮こまらせてモジモジしちゃってるし、エアの方はめちゃくちゃキレてる。何にキレてるかは分からない。
「ふーん。まぁいいけど。ところでリィビアさんは僕に何か用?」
「そんな用だなんて……お茶を、ご馳走しようなと、ついでにお話出来ればと……」
コイツ本当にリィビアか?
周囲を見合わしていつの間にか偽物と入れ替わってないかと確認してみるが、いなさそうだし本物のリィビアで良いのだろう。
「あ、あの私……エアさんのことが、す、すごく……大きいなと」
「…………えっと、セクハラ?」
エアが確認するように俺に視線を向けてくる。うん、セクハラだね。視線が間違いなく胸に向いてるもん。
「あ、いや、違うんです! 私は胸のことが大きいって言いたいんじゃなくて、……胸も大きいけど、ほんと大きいですね!? すごいです!」
「いやうん、ありがとう。……ありがとう?」
「ほら! ヴィー太郎もそう思うでしょ!?」
「なんで俺に振るんだよ。別になんとも思ってねぇ」
「あ?」
「めちゃくちゃ大きいのだ!」
「ジョ、ジョイくん!?」
あくまで客観的事実を述べただけだ。別に机の下で魔術の掃射の構えをされたから言った訳では無い。
「しかも強くて可愛くて、まず顔のパーツが全部美しくてですね! プロポーションもみんな胸ばかりみますけど腰細いですよね!? 筋肉とかどうなってるんですか! 足はいつも晒していて分かりますけど……太腿とかすごくムキムキで固くて! ヴィー太郎もそう思いますよね!?」
「いや別に……足とか見たら俺の何かが壊れそうで……」
「思うよね?」
「全くもってその通りなのだ!」
「う、うそ……ジョイくん、心拍とかからして嘘は言ってないし……えぇ!?」
そんな俺は脅されてるだけなんです! 本心からこんなこと思ってるわけじゃないんです信じてください! エアが踏み込む時の足をみてぇ太いなとか思ってません。ムチムチだよまったく。
「あー!? ごめんなさい僕ちょっと急用! 急用思い出したから帰るね! お代ここに置いていくから! ごめんね!!!」
そう言うとエアは顔を真っ赤にして、何も頼んでいないのにお金を置いて喫茶店を飛び出していってしまい、後にはめちゃくちゃ気持ち悪い顔をしているリィビアと虚無を湛えた顔をしてるであろう俺が残された。
大丈夫だよな? 俺、今度会った時にいきなり変態とか言われないよな? アイツに変態って言われたら、多分俺の中で何かが崩れる気がしてならない。
「あの、リィビア。お前……」
「…………ふぅ。いやぁ! 見たかいあのエア・グラシアスの滑稽な姿! あの程度で顔を真っ赤にするなんて生娘みたいでここが外でなければ抱腹絶倒していたところさ!」
「お前の方が滑稽だったと思うよ普通に」
「…………黙れッ!」
リィビアもエアと同じくらい顔を真っ赤にして顔を伏せて叫び始めてしまった。
その、俺はどうすればいいんだろう。なんかとんでもないものを見せられた気がして放心してたけど、なんだったんだコレ?
「とりあえず、なんだあの姿。本当に滑稽過ぎて一周回って面白くないぞ」
「君の肝の太さには驚かされるなヴィー太郎。焼き払ってもいいんだぞ?」
俺は楽しいことしかしたくないからな。
楽しくない気分にさせられた分は弄りまくってせいぜい楽しくさせてもらう。言い返せない相手に言葉プロレスで勝つのはとてつもなく楽しいし、師匠みたいに殴り返してこない相手なら尚更だ。
「最低のゲス男が。モテないぞ君」
「お前にだけは言われたくない。そしてなんだあのザマ。お前、エアを殺したいんじゃなかったのかよ」
リィビアはエアに間違いなく強い殺意を向けている。さすがにそこに嘘は感じられなかったし、殺意ではないにしても敵意、少なくとも好意と呼ぶにはあまりにも粘ついた泥のような気持ちであった。
「お前の機嫌を取ろうにもな、お前が何も喋らなきゃ俺何もわかんねぇんだよ」
「……君程度に言って何がわかる。特に、君のような凡人は分からない。貴族共よりはわかるだろうけど」
「かと言って何も言われなきゃわかんねぇぞ」
二色の瞳が俺を睨みつける。だがそこに激しい感情はなく、面倒くさそうに、諦めるようにため息混じりの声でリィビアは言葉を続けた。
「君はエア・グラシアスを見た時どう思った」
俺の場合は、デウスを初めてみた時のことであるが。
きっと口にすべきなのはその時に感じたこの思いのことだとすぐにわかった。
「絶望したさ。同じ平民。特別じゃないはず、自分が一番だと信じてた世界を全部壊した、容赦のない破壊者だな」
「凡人のくせによくわかってるじゃないか。アレは破壊者だ。何もかもめちゃくちゃにして、滅ぼしてしまう存在」
多分俺はリィビアの事を理解出来ない。
それは最初から変わらないけれど、その顔を見てすぐにわかった。俺達はある一点において、全く同じ部分を共有できるのだと。そして、それは俺達だからこそ、感じ取ってしまう絶望なのだと。
「そんなものを見たら、殺してしまいたいと思うだろう? あんなやついなければって、心の底から、憎んだ」
「同意したくないけど、わかるよ」
「君のような凡人が私のような天才の気持ち、わかるものか」
「わかんねぇから話してくれって言ってんだろ」
「はぁ……もっと他人の気持ちを汲み取ってくれる人間を注文しとけばよかった」
結構その面では優良物件であるラクシャ先生を蹴って、俺なんかを呼び付けたのが運の尽きだろう。残念なことに俺は天才共の気持ちを理解できることは絶対にないだろうからな。
「……あの女は壊したんだよ。私の世界を。だからこそ、絶対に破壊しなくちゃならない。私が、リィビアである為に」
師匠「デートじゃん!デートじゃんこれ!寝盗られた!」