逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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12.信じた道

 

 

 

 

 

 

 リィビアは孤児だった。

 親の名前は知らない。生まれた日は知らない。自分で物事を考えて行動する頃には1人で他者から盗むことで生を維持していた。

 

 どのようにすれば誰にも怒られずパンを食べられるのか知らない。どのようにすれば誰にも追われず暖かな寝床を確保出来るかは知らない。

 

 リィビアが知っていたのは自分にある力だけだった。

 

 魔術という言葉も知らない、スラム生まれの汚いガキであるその少女は小さな世界で全能を振るっていた。

 

 火があれば寒さは凌げた。

 水があれば喉を潤せた。

 風があれば、雷があれば、土があれば、身を守るには十分だった。

 光も闇も、生きることには要らない力だった。

 

 

 そもそも生きることとは何なのか。

 そんなことを考える程の心の余裕も、リィビアには最初から存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「それでドブネズミ焼いて食ったりするのが日課。今の生活から考えたら本当に地獄だったよ。当時はなんとも思ってなかったけれど。……何か言ったらどうだい?」

「いや、すげぇ……真っ当に反応に困る。いきなり、結構重い過去をそんな気軽に」

「そーそー。こういう反応してくれるから悪いものじゃなかったかもって思えるんだぜ? ありがとう凡人くん」

 

 軽い調子のおちょくりも腹立っていいのか分からないくらいに、普通に重い話だ。

 俺は才能には恵まれてないけれど、自分が恵まれてないとは決して思わない。それに対してリィビアの生まれは才能以外ほぼ何も持っていないに等しい。

 幸せや生まれに価値基準がないとしても、笑って話せる内容ではないのは確かだろう。

 

「まぁ別にもう昔の話だしね。今ではこうして良い布使ってる制服を着て、体も清潔に保って学校にも通える。6年前までは想像も出来なかった環境、世界だ」

「それで。その普通なら思い出したくもないって言いそうな過去とエアがなんの関係があるんだよ」

「無いけど」

「は?」

「君が私の嫌がることをしたから私は君が嫌がることをしただけだけど? それが何か?」

 

 どんな育ち方をすればここまで性格がひねくれるのか、なんて言葉ももう気軽に言うことも出来ない。本当に、ひねくれてもおかしくない環境でこの女は育っているのだ。

 

「君みたいな凡人はわかりやすいからね。こう言えば、私が何言ったって『仕方ない』とも思ってしまう、だろ?」

「……なるほど。天性の下衆ってわけか」

「失礼だなぁ。可哀想な環境で歪んでしまった子、と言ってくれよ。泣いちゃうぞ」

 

 オレンジジュースが注がれたグラスの結露を指で拭い、わざとらしく目元に塗りつけてリィビアは嗤う。翡翠と琥珀の宝石のような瞳には湿り気はなく本当に岩石のようだった。

 唾でも吐きつけてやりたくなる気持ちを喉の奥にと、俺は水を流し込む。

 

「そんなところで暮らしてたけど、いくら私が天才でも一人で生きてはいけない。保護者っていえばいいのかな? 1人のおっさんが私を守ってくれてたんだよね」

「おっさん」

「汚いおっさんかな?」

「命の恩人にあんまりな言い方だろ」

「仕方ないだろう。名前覚えてないんだから」

 

 命の恩人なら名前くらい覚えといてやれよ。

 

「おっさんがなんで私を守ってくれてたのかは知らない。血縁では無いのは間違いなかったし、私は自分の力でおっさんを一度として守ろうとしなかった。おっさんが複数人にボコられてるのを見ても何も思わなかったしね」

「助けてやろうとか、思わないのかよ……」

「思わなかったねぇ。その気になれば倒せる相手でも、なんで私がこんなおっさんの為に頑張る必要があるのかとしか思わなかった。あとあのおっさん臭かったし」

 

 多分その頃はお前だってそれなりに臭いだろうに。

 驚く程に他人を馬鹿にして、見下す言葉しか吐いてこないリィビアと話していると逆になんだか気分が良くなってくる。

 コイツは多分、どんな人間にもこうして最悪最低な態度で話すのだろう。国王であろうと浮浪者であろうと、聖人であろうと悪人であろうと、全身全霊で見下すゴミみたいな性格。ある意味裏表がなくてやりやすい。良い奴とは微塵も思わないが。

 

「いつくらいだったかなぁ。私がね、もっと色々書かれてる魔術の本が欲しいなぁって言ったら。おっさんが本を買ってきてくれたの。高い本、くしゃくしゃになってない紙、綺麗な装丁、ワクワクして開いた中身は……子供騙しの絵本だった。どう思う?」

「どうって……色々聞きたいけど、まずなんで?」

「そうだね。まずなんでって聞いたらね、おっさんってば『誕生日くらいどんな子供でもプレゼントを貰う権利はある』って言ってね」

 

 誕生日なんて私も知らないのにね、とリィビアは笑いながら話した。

 

「あ」

「ん、どうした?」

「いや……なんでもない」

「おいおいおいおい。凡人の癖に一丁前に隠し事かい? どうせバレるんだから失礼なこと考えたなら早く答えな?」

 

 初めてリィビアが誰かを見下す意図もなく笑ったな、と思ったということを指摘したら、多分こいつはキレるので言わないでおく事にした。

 

「ふーん。まぁいいか。そもそも私その時は文字すら読めなかったから絵本というセンスは悪くはなかった。おかげで多少ながら文字は覚えたけど」

「は!? 文字覚えてなかったの? それで魔術を!?」

「最初に言っただろ全部独学って。さすがに発展系は文字を覚えて基礎知識を得てからだが、私は生まれた時から魔術の基礎部分は全て扱えた。どうだい凡人。これが天才というものだ」

 

 悔しいが、文字も覚えてないのに魔術を扱えるという時点でもうリィビアは天才と言うより化け物に近い。そこは認めなければいけない。

 ホントなんなんだよコイツ。まるで御伽噺でも聞いてるかのような神童っぷりだ。

 

 

「それからしばらくしておっさんはリンチにあって殺された。おっさんを殺したのは、おっさんと何も変わらない浮浪者だった」

「え?」

 

 

 突然ガツンと頭を横から殴られたみたいな衝撃を孕んだ言葉に、思わず素で聞き返してしまった。

 

「とりあえず適当な1人捕まえて理由を聞いたら、これが面白いことに『あんないい紙の本を買う余裕があって妬ましかった』って、笑ってしまうような理由だったよ。おっさんは絵本を買うためにしばらく飲まず食わずで金を稼いで、もうヘロヘロだったからろくに抵抗も出来なかったときた」

「それで、お前はどうしたんだよ」

「──────()()()。私は、怒りすらしなかった。悲しみも憎しみも、何も感情が動かなかったよ」

 

 今度は一体誰を見下しているのか。

 矛先の分からない、唸るような笑みでリィビアは嗤っていた。

 

「絵本という対外的な人間観を得て、ようやく私は自分が他の人間とは違うことを理解した。私は他者への感情がまるっきりない。誰をどう見ても、何も感じない」

 

 ギョロリと、生気のない石のような瞳が俺を見る。

 

「まず私は人間の顔を認識できていなかった。今こうして君をジョイ・ヴィータとして認識しているのは君の魔力を知っているからだ。俗に言う相貌失認と言うやつかな?」

「相貌失認?」

「人の顔を見ても、それを顔と認識できない。記号の組み合わせにしか見えない。人の顔を、人間のモノとして脳が認めていないんだよ」

 

 壊れた玩具でも叩くように銀の髪を纏った頭をコンコンとリィビアは叩いた。その手にはかなりの力が籠っていて、聞き分けのない子供を殴りつけるみたいだと何となく思ってしまった。

 

 

「何を与えてもらっても無感動。伽藍堂。私は自分が人間ではないと知ったよ。……人間であるならば、あのおっさんの顔を覚えていたはずだ。名前を呼んでいたはずだ。涙くらい流してやれたはずだ。それを思いつきすらしなかったのは、私が人間でないからだ」

 

 悲しむでもなく、後悔するでもなく。

 淡々とリィビアは事実だけを語った。すっかり温くなったオレンジジュースに手を翳して温度を下げてから一口だけ口に含み、本当になんとも思っていないように続きを話す。

 

「それからも酷いもんだったよ。今までおっさんがやってたことを自分でやらなくちゃあならないから、ますます自分の非人間性を知る羽目になった。聖人も罪人も、老若男女、誰であろうと私は同じ記号の集合体のゴミとしか認識出来なかった。……誰であろうと同じだったんだよ」

 

 自分を殺そうとした相手と、自分を拾ってくれた相手と、自分を助けようとしてくれた相手と、自分を拒んだ相手。

 誰も彼もリィビアの目には同じに映り、リィビアの心には響かない。

 

「なんでだろうって考えて、私なりに出した結論は私が人でないから。そして、私が人でないならば、人で無い意味はなんなんだろう。生まれた意味はなんなのか」

 

 それは絵本の言葉のようだった。

 子供を慰めるようなでまかせで、真実味を帯びた柔らかい、けれど深く突き刺さって抜けなくなってしまう言葉。それを大真面目にリィビアは語った。

 

 

「私が人でないならば。私は私以外の全てを人として認める秤になる。私以下の全てを、生まれも才覚も強さも何も関係なく、無条件に人にする。それがリィビアという女の使命だと、定義した」

 

 

 馬鹿じゃねぇのか、と言ってやりたかった。

 けれど言葉が出てこない。あんまりに真面目にリィビアがそう言うのだから、否定する勇気が出なかった。

 

 どうしてこう、才能のあるやつというのは変な方向に拗らせるのだろうか。

 生まれた時から優れているからって、役目なんてあるわけが無い。自分の好きにしていいと、神様からハンコを貰えてるようなものなのに、なんで勝手に何かを背負おうとするのか。

 

 

 

「なのに……なのに! あのエアと言うやつ! 私より強い! 私より強かった! 悔しいけどアイツを見て、生まれて初めて目を逸らした。勝てないと、心の底で理解した! ……そして、美しいと思ってしまったんだ」

「……へ? 美しい、え、それって」

「私は人を人として認識出来ない。なのに、アイツだけは顔も形もよく覚えている。認識出来てしまった。誰かを、アイツを人間だと思ってしまったんだ」

 

 物語のお姫様ならそれを運命と呼んで喜ぶはずなのに、この女はそれを許せなかったのか。

 

「私は、全ての人間を平等に扱う。誰であろうと例外があってはいけないんだ。全てを下に見て初めてリィビアは存在が許される。だから、エア・グラシアスは私の世界にいてはいけないんだ」

 

 

 それは愛と呼ぶべきか、憎しみと呼ぶべきか。

 少なくとも、かける言葉というものは見つからず、ぐちゃぐちゃの感情を湛えるその女を眺めることしか俺には出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、どうすればいいと思う?」

「なんやその人間性ミキサーにかけたみたいな女。救いようがないんちゃう?」

 

 全くもってその通りなのだ! 

 その通りだからこそ、困ってるんだよ。

 確かにリィビアは性格はドブのカス煮込みって感じの女ではある。だけどそれはアイツがそうとしか他人との関わり方を知らないから、それ以外の人間の扱い方を知らないからそうなってしまったものとも言える。

 かと言って思い込んだ天才ほど厄介なものは無い。元々、何か言って聞くような性質ならアイツはあんな拗れていないだろうし、なるべくしてなったとも言える。

 

「お、おはようジョイくん、リエンくん……」

「アーリス、なんでボロボロになっとるん?」

「ちょっと学園長……じゃなくて、新しい師匠にボコボコに……」

 

 ごちゃごちゃ考えているとアーリスが登校してきた。ギガトさんが一対一で稽古をつけていると聞いていたが、全身ほぼ全てを包帯で覆っていて逆にどんなことしたらこんな怪我をするか分からない。やっぱりあの人、師匠と同じタイプなんだろうなぁ。

 

「治癒とか受けてきた方がええんやないそれ?」

「治癒は体力使うし、頼りっきりになると痛みを覚えないからやめとけって……。でも本当はいい師匠なの。私の事、愛してくれてるから……」

「発言が大丈夫そうに聞こえねぇんだけど。お前本当に騙されてないよな?」

「師匠のことを悪く言わないで……ちょっと私を殴る時に嬉しそうにするだけで、本当はいい人なの……」

 

 将来ダメ男に引っかかりそうな雰囲気がすごいけれど、少なくともギガトさんは見た目が殺人ロリなだけで多分、恐らく良い人だろう。本当に最低な方ならばわざわざアーリスの死刑を覆すなんてこともしなかっただろうし。

 

「しかし、なんで急にそんなハードメニュー組んどるん? なんか目標でも出来たん?」

「うん、実は今度グラシアスさんと戦うことにして、それに向けてね」

「え」

 

 さすがに声が出た。

 言っちゃあ悪いけど勝ち目ないだろそれ。

 

「その……頑張りぃや?」

「わかっていたけど、そんなに勝ち目ないように見えるかな?」

「そりゃあまぁ……少なくとも賭けがあったら全員エアに賭けるだろうな。でも急にどうしてアイツに?」

「何となく、負けたくないなって思ったの。ジョイくんだっていつかは勝ちたいと思ってるでしょ?」

「それはそうだけど、急すぎないか?」

 

 こういうのもあれだが、アーリスがエアと戦うのはあまり気が進まない。

 今まさに、アイツの才能を見て色々と狂ってしまっているリィビアという女と関わってるのもあるが、やっぱりアイツは特別なんだ。下手にアイツと同じ場所を目指そうとすれば、御伽噺の太陽に近づきすぎてその熱に焼かれ死んだ愚かな男のようになるだろう。

 

 特に、これは前は知らなかったけどアーリスは意外と精神面が強くない。魔女に打ち勝ってる点で言えば強いだろうが、だからと言って気軽にアイツに挑んではいけない。アイツがどれだけ俺達のような人間をボコボコにできるかは身をもって知っている。

 

 うん……。

 やめた方がいいと思う。本当に、アレは心が折れる。絶対にやめておいた方がいい。

 

「正直私もそう思うけどさ。それでも──────挑みたいと思ったの。壁にぶち当たって、それでも手を伸ばすことがどんなことなのか、自分で確かめてみようと思って」

「おー、おう? まぁ止めないけど、本当に心折れないように気をつけろよ?」

「…………別に期待はしてないけど、うん。もうちょっと自分を客観的に見れたりしないのかな? 応援は受け取っておくけどさぁ、ね?」

 

 なんかアーリスは不機嫌になってしまったけど、あの様子なら何となく大丈夫な気はする。なら俺が今考えるべきはやはりリィビアの事だろう。

 

 壁にぶち当たって、手を伸ばすか。

 そういうのは本当に疲れるから好きでは無いのだが、そうすることでしか見えないものがあるだろう。世界を壊すってなれば、それくらい頑張らなければ。

 

 

「うん。壊すか、世界」

「頭おかしくなったん?」

「正気だよ。それくらい出来なきゃ、あの星には追いつけねぇだろうしな」

 

 

 かつてデウスが、エアがやったこと。

 それを俺も出来なければ追いつけるはずもない。それに、非常に個人的な話として。

 

 リィビア・ビリブロードを他人のように感じない。アイツにこんなこといえば凡人と一緒にするなと言われるだろうし、俺自身も天才と比べるなって言うだろうがそれはそれとしてだ。

 

 

 

 

 

 最初の宣言通り、ぶっ飛ばしてやるとしよう。

 普通にアイツ、ムカつくし。

 

 

 

 

 

 

 

 

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