逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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13.凡人くんの殺神講座 煉獄編

 

 

 

 

 

 

 生まれて初めて、他人の顔というものを見た。

 人間ってこんな姿をしているのかと思ったし、同時にそれがあんまりに綺麗で驚いた。大きな瞳、天使の輪のような光沢を持った金の髪、現実感の無いアンバランスで、肉感的で、引き締まった不思議な体。

 

 

 鼓動が狂った。

 呼吸が狂った。

 汗腺が狂った。

 

 何か、知らない言葉を口が紡ごうとした。知らない気持ちを心が伝えようとした。きっとそれは、昔読んだ絵本のお姫様が持っていた、自分には遠すぎた何か。

 

 

 そして、人間の剣は魔術を切り裂いた。

 リィビア・ビリブロードが信じた全てを、存在の全てをたった鉄の剣の一振で無に帰してみせた。

 

 ムカつく。

 否定したい、殺したい、そんなはずはない。あれが人間のはずがない。もしもそうなら、リィビア・ビリブロードは天秤足りえない。誰よりも強くないと、全ての上でないと、全てを見下ろす絶対の一がなければ人は平等になれない。

 

 

「……殺してやる」

 

 

 それをどう名付けるかは、人によって違っただろう。

 だがリィビア・ビリブロードにはその言葉以外がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リィビアを倒したいかー!」

「おぉー!」

「というわけで訓練相手を連れて来たで。お馴染み、エア・グラシアスや」

「僕だよ〜!」

「うわぁー!!!」

 

 とりあえずリエンをぶん殴ってやろうとしたけれど、相変わらずひょいひょいっとゴキブリみたいな動きで避けやがる。コイツに人の心はない。間違いなく虫畜生、いやそれ以下のゴミだ。ドブだ。とりあえず一発死ね。

 

「というかお前ら2人何? そんなに仲良い感じなの? 何? ゔー!」

「感情が行方不明になっとるね。最近ジョイもアーリスも忙しそうやからね。2人でイチャついてるんぎっ」

「勘違いしないでね。仲良くしてるけど、友達としてね?」

 

 えげつない勢いのパンチでリエンが吹っ飛ばされた。アレ、普通に内臓がイカれてる気がするけど大丈夫なんだろうか。

 それはそれとしてよかった。もしもエアが男と付き合い始めたらマジで狂ってた。別にエアが誰を好きになろうがいいんだけど、どうしても頭にデウスが掠めちゃう。

 

「俺らは友達やからね。ジョイがあのリィビアと戦うってなれば幾らでも力を貸すよ」

「ならせめて人選をな? もうちょっと考えてくれよ」

「安心せぇ、もう一人連れてきとる。カモン、アーリス!」

「い、いぇい……アーリスだよ……」

「こっちはもう帰してやれよ……」

 

 訓練場に続いて入ってきたのは全身包帯で産まれたての子鹿みたいな足取りのアーリスだった。1秒でも早く眠りたいという疲労が顔に書いてあるレベルなので、どうか帰してあげて欲しい。

 

「気にしないで……明日は友達と練習があるって言ったらなら明日会えない分扱くって……うぅ……怖かったよぉ……」

 

 ガチ泣きじゃんこれ。一体ギガトさんはアーリスにどんな修行内容を叩きつけたのか。

 

「まぁアーリスちゃんが泣いてるのは割といつもだから置いておいて」

 

 置いておくな。可哀想だろ。これだからナチュラルに人の心がない天才は。

 

「リィビア・ビリブロード。この前一緒にいた子だよね。……戦うの? 僕とは戦ってくれないのに?」

 

 上目遣いで頬を膨らませてくるエアちゃんってば本当に、うん。これがコイツじゃなければ俺はきっと恋に落ちていたであろう。いやぁ、デウスのことを覚えておいてよかった。いや、覚えてなければ楽になれたかもしれない。

 

「僕は逃げも隠れもしないのに。ずっと、誰からの挑戦でも待ってるのに」

「俺はメインディッシュは最後まで取っておく派なんだよ。心配しなくても倒してやるから、まずはその前に肩慣らしだ。それにまず、お前の相手はアーリスだろ」

 

 基本エアは上級生くらいにしか自分から模擬戦は申し込まず、同級生相手には来る者拒まず、な感じであるため意外なことにまだ予定が埋まっていて、俺とリィビアの戦いよりあとの話であるが。アーリスとエアの模擬戦の予定も既に決まっていた。

 

「でも僕負けないから」

「本人の前で言うのやめてやれよホントさ」

「? でも僕負けないよ?」

「……あはは。まぁ、そうだよね。そう思うよねうん。……うぅ」

「ちょっと天才ー! アーリスちゃん泣いちゃったじゃん!」

「えぇ!? えーっと、強くてごめんね?」

 

 ナチュラルボーン煽りストをアーリスから引き離す。コイツは人間の、特にアーリスのような繊細な生き物と絡ませてはいけない。

 

「この人の心がない女はほっといて、なんでエアとアーリス呼び出したんだよリエン」

「俺はジョイの親友やで? 意味の無いことなんてせぇへんし、お前が嫌がることもせぇへん」

「いきなり矛盾が発生してるが?」

「リィビア・ビリブロード。筆記1位で入試通過。入学以降1回だけ模擬戦もやっとるけど、圧勝やね。タイムは1秒。速さだけならエアを超えとる。戦法は魔術メインの典型的な遠距離スタイル。……ほらな、嬉しい情報やろ?」

 

 大半は知っている情報であったが、入学後の模擬戦については知らなかったな。

 1秒かぁ。相手も全力で頑張ってるのにタイムアタックするのはやめて欲しいなほんと。

 

「む。僕なら0.5秒でもいけるよ」

 

 やめろって言ってんだろ。

 

「俺はその場面見てたけど、開始と同時に砲撃でドカン。複合属性砲を3つ同時。防御しようにも1つ防御すればそれと反対の属性で叩き割ってくる。……まともにやれば勝ち目ないでこれ」

「まともにやるつもりは無いからな」

「最後まで聞きぃ。複合属性の同時射撃なんて使えるやつはそうそういない。やから、再現するためには最低3人必要やと思ってな?」

 

 うん。

 うん? 

 え、待って? なんでアーリスもエアも、ついでにリエンもなんか構えてるの? 

 

「私は炎と風と土、とりあえず撃てばいいんだよね?」

「俺はこう見えて水と雷、あと風も使えるからなぁ」

「あとは僕が他を全部担当すればいいんだね! 闇以外は全部使えるから任せて!」

 

 おいおいおいおい! 

 待て、心の準備とかそう言うの、それ以前にシャレにならねぇぞこれ。訓練のくせして、これ気を抜いたら死──────

 

「あ、なんかさっき外でアルム先生が何が起きても治してやるから好きにしていいって言ってたで」

「あんのクソババアァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 俺の叫びは七色の光の中に掻き消された。

 なんかこのメンバーでは俺以外使えない闇属性の砲撃も混ざってた気がしたけど、多分気の所為だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その……お疲れな? ホンマに」

 

 リエンが飲み物を差し出してきたので無言で受け取り一気に飲み干す。別に拗ねているとかではなく、単純に疲れて声も出せない。トラウマになるくらいの攻撃を喰らい続けたのだ。叫びすぎて声が枯れた。

 

 俺の訓練が一段落したからと、貸切の訓練場ではアーリスとエアが剣で打ち合っている。いや、どちらかと言うとエアがアーリスに指導してやってると言った感じだろう。

 

「どや、なんか掴めたか?」

「少なくとも、初撃でやられるってことは避けられそうだよ助かった」

「礼は楽しい試合で返してくれや。俺はジョイのファン1号なんやからな?」

 

 なんでリエンがこんなに俺にベタベタしてくるのか分からないが、多分コイツのことをわかるやつなんていなさそうだし考えるのは無駄そうだ。

 

「楽しい試合になるかはわからねぇけど、まず礼は言っておくよ。ありがとなリエン」

「…………お礼とか言えたんやなジョイ。礼節という言葉を知らんものかと」

「お前は自分の株を下げなきゃ気が済まないのか?」

 

 一発引っぱたいてやろうと思ったが、避けるのだけは一流でまともに当たらない。付き合うのも疲れるだけだし、寝っ転がってアーリスとエアの訓練に目を向ける。

 

 ……なんか、これすげぇ青春してる感あるな。

 前世でも共同訓練とかはやったけど、事務的なもんだったしこんなワチャワチャした付き合いとかしてる心の余裕もなかったし、俺自身そういうのを避けていた節がある。

 

 一番になれなかった自分に価値が見いだせなくて、それを誰かに見られるのを酷く恐れていた。

 

 ギガトさんも師匠も言っていたが、学生らしく楽しむことは意外と大事なことなのかもしれない。10年後や20年後、もう一度魔女に殺されてなければあるかもしれない未来で、あの人達を良き大人だと思うことが……………………。

 

 それはそれとして前科が多すぎるんだよなあの大人達は。

 

「はぁ……はぁ……。今日はここまで! ここまでにしよう! 僕もう疲れた!」

「もうちょっとお願いします! あと少しで、何か見えてきそうなんで」

「無理無理! 待って、僕もう限界!」

 

 一方、アーリスとエアの訓練は意外な結果になっていた。

 終始勝負自体はエアが圧倒しているのだが、先に音を上げたのは何とエアだった。大きな胸をさらに大きく上下させ、精一杯全身に酸素を回そうとしているところは演技には見えない。

 

「なんやアーリス。まだ動けるんか? 俺なんかジョイとの訓練だけでヘトヘトやのに」

「うん……。疲れてはいるけど、これくらいじゃへこたれてられないからね。空は、随分と遠いから。私の折れた翼じゃまだ届かない」

「んー? なんかポエミーなこと言っとるなぁ」

 

 まだまだ頑張れる、といった様子のアーリスであるが、残念ながら俺は既にグロッキー。エアもリエンも疲れ切っていてまともに相手出来そうにもない。

 

「今日は、解散だなさすがに。アーリスは久しぶりに体でも休めた方がいいんじゃないか? 明日からまた……お前の師匠にボコボコにされるだろうし」

「……そうだったね。はぁ、悪くは無いんだけど、優しいんだけど、せめてもう少し優しく殴ってくれないかな」

 

 いそいそと片付けや訓練場の整備を始める俺達。明らかに度を越していたが、時間が経ったおかげで程よいレベルにまで収まった疲労感のおかげで今はかなり眠い。さっさと飯食って風呂入ったら一切待たずに眠ることが出来そうだ。

 

「……そうだ。アーリス、前から思ってたんだけど、グラシアスさんって呼び方ちょっと固くない?」

「そうかなぁ?」

「せっかくこうして一緒に訓練したんだ。僕のことはエアくんか、エアちゃん、もしくは呼び捨てでいいよ」

「えー、じゃあ俺も気恥しいけどエアちゃんって呼ばせてもらうわ」

「リエンくんはエアでいいよ」

「エアちゃん」

「エアでいいよ」

 

 しつこくエアちゃん呼びを続けた結果、リエンは脇腹に蹴りを入れられて吹っ飛ばされたけどまぁ自業自得だろう。

 

「じゃ、じゃあ……エア。うん、改めて今度はよろしくね、エア」

「うん。それと、さっきはごめんね。少し心のないことを言ったかも」

 

 エアはアーリスの手を取って、ぎゅっと握手を交わした。2人の身長差はアーリスが大きくエアを見下ろす形になっているが、何故か俺には2人の視線が同じ高さにあるように見えた。

 

「君が空を目指すならば、僕は正々堂々、真っ向から君を叩き落とす」

「記念勝負のつもりは無い。私だって教えてあげる。星は1つじゃないんだよ」

 

 なんか、仲が良さそうな、それでいてどこか剣呑な雰囲気がある2人の間に踏み込むのはよしておこう。

 それに、アーリスが前を向けているのは良い事だ。なんだかんだで意外と心配だったからな。精神的に辛い道を歩ませることになったのは、結果からいえば俺のエゴだったし。かと言って責任が取れるほど今の俺には力はない。

 

 まずはリィビア・ビリブロードだ。

 アイツに勝って教えてやらなきゃならない。どれだけアイツの空が狭くて寂しいものなのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めて思うのは、衆人環視の戦闘というのはあまり慣れない。

 勝利も敗北も、奇策も愚策も、王道も邪道も全て誰かに見られる。気持ちは良くないが、示せるものがあるならばこれ以上の環境はない。

 

「君が私に勝負を挑んできた時は、頭がイカれたのかと思ったよ。まさか君程度の凡人が、私の時間の邪魔をするなんてね」

「俺は楽しくないことはしたくないんでね」

 

 挑んだのも俺、後から出てきたのも俺。

 長身の魔術師、銀の髪のリィビア・ビリブロードは挑戦者を待ちわびたかのように剣型の杖を構えた。武器としての性能よりも、魔術的意味に重きを置いた魔術師型の騎士の武装。

 

「だいたいこの私が来いって言ってもすっぽかして。おかげで結婚できないラクシャを弄り回して泣かせてしまったじゃないか。酷い男だ」

「それは泣かせたお前が悪いだろ。……あの先生、かなりいい人だからやめてやってくれ」

「私に命令するな、凡人。こうして君に時間を割いてやってるのも優しさだと理解しろ」

「別に受けなくても良かっただろ。両者合意でないと、模擬戦は基本は出来ないんだぞ」

 

 そういうとリィビアは、嗤った。

 しっかりと、その背丈と与えられた才能の全てを持って俺を見下して。

 

「君のような雑魚の凡人に挑まれて逃げたと思われても癪だ。徹底的に痛めつけて、示してやるよ。私が人の秤、人の標だということをね!」

「ならせいぜいこっちは教えてやるよ。テメェがどれくらい世間知らずのお嬢様か、どれだけ寂しい空に浮かんでた孤独なお月様かってことをな」

 

 俺も剣を抜いて構えた。試合開始の合図があれば、俺とリィビアの戦いは始まる。リィビア相手に持久戦はまず不利、一撃、一瞬で決めるしかない。

 

 

「そうだ。もしも君が勝ったら、何でも言う事を聞いてやるよ」

「……はい?」

「何でもだ。私の事を、好きにしていい」

 

 空気の読めるんだか読めないんだか、そんな風がリィビアの目に悪い配色のローブを少しだけ翻す。動きやすいようにか、それとも他の理由か。制服は普段のズボンタイプのものではなくスカートになっていてスラリとした彼女の長く、病的に白い太腿がロングブーツとスカートの合間でてらてらと光っている。

 

「なん、でも」

「そう、何でもだ。好きにするといい」

「いやまぁ、普通に授業出ろって言うけどな」

 

 そもそもその為にこんなことまでしてやってるんだ。リィビアをぶっ飛ばしたいし、ついでに学園長からの依頼も果たせて一石二鳥。

 

「ハハッ、無欲、いや愚かだね。じゃあもしも私が勝ったら……君は一生私の奴隷だ。せいぜい神殺しに、その『眼』も使ってやるよ」

 

 ……おっと、そう来るか。

 そう言えばリィビアは見抜いていたんだったな。俺の切り札を。そうなってくると話が変わる。

 

 

 

「覚悟しろよ天才。負けない気持ちと、負けられない意思はこの学園一、ジョイ・ヴィータ。我が師、アルム・コルニクスから受け継いだ誇りに賭けて、この眼は俺と師の神殺しにだけ使わせてもらう」

「一丁前に名乗るか。……リィビア・ビリブロード。人の秤にして、『月虹(メイガス)』の名を冠する唯一人の騎士。我が月の下、万人に平等に敗北を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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