逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
二度目の模擬戦。
しかし前世を含めれば何度目かは分からない戦いの度に思うことがある。
──────なんだコイツら?
目の前に迫り来る7色の極光を前に、凡人はそんなことしか思うことが出来なかった。
「あれ? 意外だね。生きてるんだ」
「死んでたら問題だろ……。いきなりバカスカ撃ちやがって。頭の悪い戦法だ」
「凡人にはこういう策も何も無い力押しが、効くだろう?」
土煙の晴れた向こうで、余裕綽々で周囲に光球を侍らせているリィビアは相変わらず獣のような笑みを浮かべていた。
俺の周りの女、笑うと獣みたいなやつばっかりだな。
俺の『
それでも、捌き切るのにマジで心臓が縮んだ。
訓練の時は3人が個別に撃ってたのに、リィビアの場合1人でその処理速度を上回っている。二重属性の魔術は単純な砲撃でも組み合わせるのに集中して、一般的には10秒程度かかる。エアは1秒もかからずにやるし、アーリスもそのくらいでやるが、リィビアはレベルが違った。
複数の二重属性の砲撃をタイムラグなしで合成していた。器用さとか並列処理の分野が尋常じゃない。加えて精度も威力も十分。偶然火、風と水、雷というわかりやすい相克し合いそうな砲撃があったからそれを引っ掴んでぶつけてどうにか初撃はいなしたけど……これはまともに受けてたら削り殺される。
剣を握りこんだ左手の掌に痛みが走る。
咄嗟に障壁を手に集中させながら砲撃をぶん殴り、軌道を逸らしてから防御に集中。悪くは無いが捨て身すぎるなコレ。
「……なるほど。君は意外と魔力操作が得意みたいだね。魔力障壁や身体強化。特別優れたものは感じないが、とにかく繊細で緻密だ。瞬間的に出力を上げたり、局所的に使ったりが得意なんだねぇ」
しかも俺の得意技が一つバレた。
俺を凡人って呼ぶなら慢心してくれよと心から思うぜまったく。俺は真正面から戦えば天才に勝てない。だからこそ、小手先の奇策、騙し討ち、初見殺しでしか張り合えない。
「どうだ? 俺に倒される心の準備は出来てきたか?」
「ちっとも。ギアを上げさせてもらうよ。次はこう行こうか」
ちょちょいと動かされるリィビアの指先。その動作で3つの光球がタイムラグなしに一つの光球に合体する。
嘘だろおい。3属性複合もそんなあっさり出来るのかよ。
これが才能ってやつか。それにしたって次元が違い過ぎる。こんなことを生まれつき直感でできてたのだとしたら、そりゃあ自分を人間と思えなくなるのもしかたがないのかもしれない。
「火、雷、光。この3属性の組み合わせは私は好きだ。魅力はなんと言っても純粋な破壊力だからね」
「俺は嫌いだよ! というか複合属性の魔術はみんな嫌いだチクショー!」
高熱の光線が景気よく飛び交う、飛び交うと言うか一方的に飛んできている。一撃でもまともに当たれば防御の暇もなく上から叩き潰される!
かと言って、逃げ回ってるだけでは本当に何も始まらない。
「近づけば勝てると思ってるんだろう? それは机上の空論、それが出来ないから君はこれから一方的に、嬲られるように負けるんだよ」
「近づかれたら負けるもんなお前。引きこもりじゃぁろくに鍛えて無さそうだし」
「近づかれたら負けるんじゃない。近づかれないから負けないんだよ」
「同じだろ!」
しっかしこれどうしようか。
近づこうにも避ける為に走りまくってる現状から、少しでも接近を試みたら確実に包囲射撃で殺されるんだよな。訓練のおかげでイメージはギリギリできるんだが、それよりもなおリィビアが速いのはさすがにインチキだ。
けれど、勝ち筋はある。
リィビア・ビリブロードには弱点が幾つかある。卑怯と言われようが、俺はそこにしか勝ち筋を見出していない。
「さて、なんか希望を見てそうだしそれを握り潰してあげようか」
そう言ってリィビアは砲撃を続けながら、違う色の光球を合わせ始めた。複数同時に3属性複合も出来るのかよ。
「水、風、土。今度はこっちを使わせてもらおうかな」
放たれた光線は変わらず俺に向けて一直線に放たれた、かと思ったらその軌道の途中で突然何本もの細い光線に枝分かれして、空中で急に曲がる奇妙な軌道を描きながら背後以外の全方向を覆うように俺に迫ってきた。
「複合しておいた土属性をあとから反応させて結晶化し、光線を分割、軌道変更させる高等技術さ」
俺を舐めてもらっちゃあ困るぜ。確かにそれはかなりの高等技術だが、リィビア以外誰も使えないわけではない。対処出来るとは言わないが。
いやでもこの複雑な軌道と枝分かれの数は狂ってるな。これはリィビア以外出来ないと言うかやらないだろう。そもそも3属性複合を複数同時使用も出来るやつならこの世にそれなりにいるだろうが、難しすぎて効率が悪いからやらないだけだ。
それを平然と、実戦に耐えうる速度で使っているからこそこの女は頭がおかしいんだよ。
とにかく光線が迫ってきてない背後に跳ぼうとしたが、横目で後ろを見てみれば先程の砲撃の合間に火、雷、光の方の高火力の光球を一つ俺の後ろに配置してあったようだ。
低威力高密度の散弾で逃げ道を封じ、唯一の逃げ道に高威力の攻撃。まるで教科書に載ってるようなお手本のような追い詰め方。戦いじゃなくてボードゲームにでも付き合ってるみたいだ。
だからこそ、穴だらけなんだ。
コイツにとって人間ってのは等しく自分より下、自分より下で全員平等と。そんな風に思うことでしか無感情な自分を許せないこの女はだからこその、隙。
一応名誉の為にかっこよく言ってやったが、本心はもしかしたらめんどくさいからさっさと勝負を決めにきたのかもしれないけどそこはどうでもいい。重要なのはリィビアが悪手を取ったことだ。
「──────行くぞ」
「ッ、
体の前面に防御を集中させ、鳥籠のように迫る幾つもの光線に真正面から突っ込む。幾ら枝分かれさせたとはいえ3属性の複合砲撃。俺の防御では防ぎきれず肩、脇腹、足が貫かれるし防ぐことに魔力の殆どが持ってかれる。
「その傷、走ることはもう無理だろ! なんで走ってんのキモ!?」
うるせぇな痛いけど頑張ってんだよこっちは!
とにかく、これで距離は僅かに縮まった。ついでにキモがってくれたおかげで精神的動揺も誘えたのか、反応が一手遅れている。
「もう防御用の魔力は少ないだろう! 君、魔力量も大したことないからね!」
リィビアは5属性の複合光球を敢えて不安定な形で放った。あれならば多少の衝撃で無理やり合わせられていた複数属性の魔力が反発して爆発を引き起こす。
2属性とかならまだしも、5属性とか今の俺が至近距離で受けたら塵になるぞ。ホント加減ってものを知らないのかこの女は。
……いや、本当に知らないんだろう。
リィビアは戦いを知らない。最低限の力で相手を追いつめ、最大限の力量を叩き込むことを知らない。リィビアにとって人間の相手をすることは蹂躙することと何も変わらない。リィビア・ビリブロードは『勝負』というモノを知らない。魔術論理に関して言えば間違いなく天才であろうが、戦いという場においてはあまりに思考が幼い。
「そんなもん周囲に集めて、火遊びはガキのすることじゃねぇぞ」
拾った石ころを握りしめる。もちろん、石を全力で投げた程度では起爆しないだろうが、だから
お前だって知ってるだろリィビア。こう見えて俺は、雷属性に関してはちゃんと適正があるんだよ。
「雷よ、穿て!」
「──────しまっ」
雷光を纏った投石が光球を貫いた。
威力もそうだが、無理矢理外部から大量の魔力属性を流し込んだことにより不安定な光球の魔力バランスが崩れ、爆発が連鎖的に引き起こされる。
至近距離では無いとはいえ、俺もこの派手な爆発にはもちろん巻き込まれる。飛び散る砂利が皮膚をすりおろして、一番感じたくないヒリヒリした痛みが全身を覆う。だが今はこの痛みより、防御に使う魔力が惜しい。
煙の向こう、リィビアはもちろん自前の高出力の防御で無事だろうが今が一番余裕が無い。
残り2m。一息で踏み込んで、一撃で倒す! 残りの力を振り絞り剣を振り下ろして終わり。リィビアが俺を凡人だと侮っている間に、この女が俺に対して全力を出して来る前に。
「──────『
間に、合わなかった。
瞬間、俺の剣が止まった。振り下ろしているはずなのに、いつまで経ってもリィビアに剣が届かない。
彼女の周りの空間が濡れるように黒く染まっていき、7属性混合魔力球──────黒色の光球の照準が俺を四方八方から取り囲む。
「クソッ! 失敗した!」
堪らず飛び退いて、あれ程近づきたかったリィビアに俺から距離を取る。今まではリィビアに近づけさえすれば勝てたが、今は違う。
リィビアの周囲の黒色の空間こそ、この世で最も危険な領域に変貌した。その黒の中でただ一人、虹の輝きを湛える銀の女こそその名の由縁。
「想定外、想定外だよ凡人。これを使わされるとは、私が甘かった。君は、君のような私に小手先の手品で勝てると思い上がっていた凡人は、しっかりと完全な実力差を見せて黙らせて上げないとね」
──────正式名称は、『空間魔力飽和現象』。
7属性の集合光球で周囲の空間の魔力濃度を異常な値まで無理矢理引き上げ、小規模な空間の情報量を狂わせる。
結果として起きるのは、観測できない領域の生成。この空間は見た目の数百倍の情報量を持つ。
難しい話は分からないが、端的に言ってしまえば。
リィビアの周囲5m程の黒の空間。そこを駆け抜けてリィビアに俺が干渉するには、最低でもその数百倍の距離を一瞬で駆け抜け、リィビアの防御を数百回破壊する攻撃を与えなければならなくなる。
自分でも何言ってるか分からないけど、俺はとりあえずリィビアの周りの『距離』が数百倍に引き伸ばされてると認識した。常人にはそれくらい簡潔に言ってようやく理解できる現象だ。
しかし本気のリィビアだぞ?
あの空間に飛び込んだら、リィビアの元に届くまで俺の方は近づく為に強制的に数百分の一の速度でしか進めなくなる。その間に砲撃されておしまいだ。
この札を切られた時点でどうしようもない。もちろん、リィビアと言えどこれを長時間展開は出来ないだろうが、7属性複合攻撃を始めたリィビアを相手に今の疲弊した体では勝ち目はない。
誰がどう見たって俺の負け。
「……なんで、笑ってるんだよ」
「そりゃ笑いたくなるさ。ここまで
これはリィビアの切り札。
そして、切り札ってのは切った時点で勝負を決めなきゃいけない奥の手だ。もしも互いに切り札を持つのならば、『使わされた』形ではなく『使った』方が有利なのは至極当然。
「師匠、すいません! 今使います! 負けたくないので!」
闘技場の結界は観客席からの声が聞こえない。
だから、口パクで何となく、観客席から立ち上がった眼帯の女の口元を見て言いたいことを予測する。
『ふざけんな、馬鹿弟子ィィィィィィィィィィィ!!!』
ホントごめんなさい師匠!
でも、ここで負けたくない。リィビアは、こんなことを言ったら怒るだろうけど昔の俺なんだ。
才能があって、未来があって、なのに諦めてしまった、折れてしまったコイツが俺は許せない!
俺には二回目の人生という、リィビアには持って生まれた才能という奇跡があるのだから。こんなにも輝ける女が、こんなところで諦めてしまうのを見るのはもう全く楽しくない!
「終わりにしてやる凡人! 消し飛べェ!」
闘技場の全てを包み込むような黒の光。
誰もが目を背けるグロテスクな極光を前に、俺は左目を見開いた。
「耀け、『
切り替わる視界、負担で内臓が裏返るような気持ち悪さと生命力が直接搾り取られるかのような忌避感。
それら全てを無視しながら、俺は愚直に、鍛え続けた剣を振るう。
「……は? その、力は。いや、なんだそれは! なんでお前が! それは、エア・グラシアスの!」
黒色の砲撃は、俺が剣を振るうと同時に切り裂かれて霧散した。
確かに、それは傍から見ればエア・グラシアスの『
これはアルム・コルニクスが引き継いだ魔術媒体。彼女の左目そのものを、俺の左目として移植することで発動する術式。
効果は解析。
発動した瞬間、この目はあらゆる魔力を極小単位まで解析し、世界の全てを顕にする。極小単位の観測により魔力制御の質が上昇し、身体強化も今までの比にならない精度になる、が。
「づぅ、おぇっ……ぁが、ぁぁ!」
処理しきれない情報量に脳が悲鳴をあげている。使える時間は本当に短いからこそ、速攻で決めるしかない!
「そんなはずはない、あんなものが、あんなものが溢れてたまるか!
子供が駄々をこねるような乱雑な砲撃。戦略も智略も何も感じない馬鹿正直な砲撃であるが、それでも逃げ場もなければ防ぐ手段も普通ならないさいこうにあたまのいいこうげき、であろう。
だが今なら見える。
あらゆる魔術は魔力を人間の脳という変換器で術式に変換して放つ技。つまりは魔力という糸を編んで作った一つの芸術だ。
そんな人の努力をたった一振で掻き消すのだから『
「うぉらァ!」
一番近くにあった砲撃を力の限り切り裂く。『
今ので指がちょっとすり減った。精度を上げた身体強化の術式が、『
それでも。
「……来るな」
「孤独の空から堕ちるときだぜ、天才様。お前のいる場所は、俺なんかでも手が届くんだ」
「私を、見下ろすなァァァァ!!!」
最後の一歩。
足が折れる勢いで跳んで、リィビアが次の術式を使う前にその間合いに入る。もちろんそれは、『
だがもちろん、『
「ぶった斬れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺の剣が空間を切り裂く。
黒色に世界を染めるリィビアの魔術そのものが、解けて効果を霧散させる。
「何やってんだ……お前」
そう言えば忘れてたけど、この術式って空間が歪むほどの魔力量を持つ7属性複合空間だったな。つまり、そのエネルギーの全てが行き場を失って、不安定な状態になり、発散する。
「やべっ──────」
飛び退こうとしたけれど間に合わなかった。
闘技場の結界が叩き割られて、瞬時に師匠の魔力を感じたところからあの人が上から結界を張り直したのだろう。
俺は為すすべもなく残った魔力全てを叩き込んだ防御が割られて、一個くらい内臓が飛び出したんじゃないかって勢いで壁に叩きつけられた。
手足が動かない、全身が痛い、肌の色が内出血を起こしすぎて変な色になってるし、骨も歪んでる。
視界は『
やったか? やったよな? やれたよな!?
煙の向こう、リィビアがいるはずの場所を凝視し続けて、俺は言葉を失った。
「……クソバカ凡人が。前言撤回だ。こんな中途半端なモノが、あのバケモノと同じのわけがあるか。クソが。馬鹿だろ。私が防御してやってなかったら、下手したら死んでたぞ、ボケ」
信じられねぇ。
服がほとんど吹き飛んで、頭から血を流して半身が焼けているが立っている。普通に立って、俺を見下ろしている。
「……次は、勝つからな」
それだけ言って。
リィビアは白目を剥いて鼻血を出しながら仰向けに倒れた。多分、アイツも防御と魔力制御に瞬間的に脳を酷使し過ぎたんだろう。舌を出してみると俺もすげぇ量の鼻血を流してたし。
まぁ、ともかく。
リィビアが倒れたなら、あとは俺が立ち上がれば俺の勝ちだな。
そう思いながら、俺は足に力を入れて息を吸って、吐いて。
ん、おかしいな?
まず立ち上がるために息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。ダメだこりゃ。呼吸以外出来ねぇ。思考が最低限の生命維持以外に働かない。
何も出来ることはないと諦めて、仕方なく俺は目を閉じた。
・『
リィビア・ビリブロードが1代で生み出した大魔術。空間そのものを高密度の7属性混合魔力で埋めて、周囲一体の空間の情報量を爆発的に増大。歪ませることで自身の支配下に置く。
彼女すらその効果の全てを発揮出来ておらず、現状ではリィビアを中心に半径5m程度の空間が、彼女に近づくにつれて実際の距離より数百倍の距離を持つようになるのが主な効果。彼女と彼女の魔力のみは通常通りに動く為、この空間内においてはエアですらも月虹を破壊しなければリィビアには押し負けることになる。
・『
全容不明。アルム・コルニクスがジョイ・ヴィータの左目に刻んだ呪いに近い魔術。魔力解析の精度を飛躍的に上昇させ、魔術の効果を増大させる。ジョイは主に全身の強化魔術の効果を上げて使用中のみ人体の限界を超えた速度を実現する。
アルムは魔術の生死というものの研究を重ね、辿り着いたのがこの『術式のほつれを突くことによる魔術の強制終了』。あらゆる魔術を発動する前の魔力の集合体に戻すことにより魔術効果を削ぎ落とす、遠い星に及ばぬ不完全な力。それでも魔術文明に対する『切り札』なり得る可能性を秘めている。
使用者への肉体的負担は凄まじく、リィビアの見立てではジョイですら『考えられる限り最高に近いレベルで相性が良い』人間。