逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
「おはようクソボケ灰色燃え尽きガキ。言い訳することある?」
目が覚めて最初に見た師匠はキレてた。
まぁそうだよな。2回の模擬戦、両方終わったら気絶してんだから怒るよな。
「すいません師匠。強くなるって約束したのに、心配ばっかりかけて」
「ぅぇ……? …………あっ、違う! そこじゃない。『
なんかあたふたしてるけど、師匠の言ってることがよく分からない。まだ頭がぼーっとしている。えっと、女たらし……? なんだっけそれ、どういう意味だ?
「そこじゃない忘れろ馬鹿! 『
「ヒュウ、そうでしたね。目覚めてすぐにとんでもない美人が目に入ったから忘れちまってましたよ」
「………………おかしいよな。うん、いやこれはこれで……いやいや。まだ頭がイカれてるようだから少し電気流すよ。はい我慢」
比喩なしに視界が点滅して肉の焦げる良い匂いととんでもない衝撃で意識がある程度覚醒した。代わりに手足の痙攣が止まらなくなったが。
ついでに全て思い出した。
「結果は」
「同時ノックアウト。試合結果上は引き分けだけど……結果は一番君がよくわかってるだろう?」
「えぇ、わかってますとも。完敗でしたね」
最後の最後、『
相手の甘さ故の引き分け。しかもこっちは対エア用の奥の手まで切ってだ。
「加えて取っておきの『
「痛いこといいますね」
「今の君の肉体よりよっぽど痛くないと思うけど、ねぇ?」
師匠が俺の脇腹を強めに押してくると、もう一回電気が走り抜けたみたいな感覚がして視界が点滅した。
なるほど。ここまで負担がすごいものなのか。
「『
「いやでも、ホントすごいですねアレ」
「私の研究成果の1つだ。そりゃあすごいとも。……そして今その性能は重要じゃない。アレの切り時は大事にしろと教えたよね?」
「でも師匠使ってもいいって言ってましたよね」
「冗談に決まってるだろバカ! だいたい君の方も『使うまでもありませんよ』とかキメ顔で言ってただろうアホのヴィータ!」
言ったか俺そんなこと?
言ったな俺そんなこと。
でも仕方ないだろう。リィビア・ビリブロード程の相手をするのには、今の俺の全身全霊のさらにその先を出してようやく並べるギリギリだったのだ。使わない、なんて選択肢を取る余裕はあの場では一切なかった。
「私だって遊びや享楽で君に付き合ってるんじゃない。──────地獄へ片道切符の泥船に、笑顔で乗り込んでやってるんだ。ジョイ・ヴィータと言う凡人を1番にするためにアルム・コルニクスが付き合ってやってることを忘れるなよ」
師匠は俺の瞼を指で止め、左目をじっくりと見つめてくる。
「君が私を裏切るってなら、私はその眼を起爆して君の首から上をいつだって吹き飛ばすことが出来ることをしっかりと覚えておいてくれよ。ジョイ」
「わかってますよ。師匠と俺は、共犯者だ」
だけど。
それを理解した上で。
俺が一番になるために、この勝負もこの切り札の使い方も、何もかも必要なかったとしてもだ。
リィビア・ビリブロードの世界をぶち壊してやらないのは、俺が楽しくないと思った。この先もしもエアを倒して俺が1番になれたとしても、俺はそれを心の底から喜べない。ずっと後悔して生き続けることになっただろう。
「モヤモヤしながら、後悔ばっかりで生き続けるのは辛いんですよ。俺は、師匠にそんな俺の1番を見せたくないし、アイツほどの天才がそんなところで燻ってるのも見たくない。楽しくないのは嫌いだって、知ってますよね?」
師匠は、何も言わず俺から手を離して髪の毛を掻き上げた。長い黒髪の奥で、同じ黒色の眼帯がほんの少しだけ動いたような気がする。
「女たらし」
「俺、そんなにモテませんよ?」
「いいよ。うん、いい。そこまで言うなら、やって見せろよ。この泥船に賭けた私に、最高の1番をプレゼントしてくれよ。──────愛弟子」
そう言って師匠は部屋から出て行ってしまった。結局、機嫌が良くなったか悪くなったかは分からないけれど、嘘は言っていないからこれ以上怒る人ではないだろう。理不尽だけど、子供っぽくて分かりやすく、それでいて大人な人だ。
人間性は最悪だしクズなところあるし、信頼できないけれど。アルム・コルニクスという師匠のことを俺は信頼している。
だからこそ、次に示すのは結果だ。一度裏切ってしまった期待を覆せるのはそれしかない。
……などと考えていると、どうやら来客が来たようだ。
誰かはわかっている。まぁワンチャンからかいに来たリエンとかの可能性もあるが、多分アイツで間違いない。
「……醜い姿だな、凡人」
「そっちは随分と元気そうだな、リィビア」
「当たり前だ。瞬間的な魔術使用による脳や回路へのダメージが大きかっただけで、君よりよっぽど軽傷だからね」
カツカツとヒールの音を鳴らして歩いてくるリィビア。あのロングブーツ、ヒール入ってるのかよ。ただでさえ身長が高い上に俺はベッドに寝かされた状態から動けない為に見下されている感が凄まじい。事実見下しているのだろうが。
「それで、私に言うことない?」
「ありがとな。お前が防御してなかったら、俺死んでたか──────」
リィビアは、ゆっくりと俺の首に手をかけた。
今の状態なら抵抗しても勝てないだろう。このまま彼女が少し力を込めれば、気道が絞まる。ただそれだけで、俺は死ぬ。
「……私自身の油断だ。甘さだ、恥だ。凡人に並ばれた。どんな事情があろうと、私はお前に追いつかれた。同じ目線で語られた。屈辱だ」
「…………」
「私を引きずり下ろしやがって。しかもお前みたいな凡人がだ。エア・グラシアスくらいのバケモノならまだしもだ。お前に追いつかれたということを考えると、憎くて憎くて堪らない。殺してやりたい」
「殺人罪は重いから、やめておいた方がいいぜ」
「やるかバカ。殺すにしてもなんでお前みたいな凡人の為に私が社会的地位を投げ出さなければならない」
冗談だ、と言うように手をプラプラさせて無害さをアピールしてくる。
……冗談か。よかった〜。本当に逆鱗に触れちゃったかと内心心臓が弾け飛ぶかと思ってたんだよね。
「というかなんだアレ? 魔力観測器だとは思ってたけど、あんな無理やりじゃなくてやりようあるだろう? 似たようなことは私も出来なくないが……人体への負担が馬鹿すぎる。あんなもん模擬戦なんて言う遊びに使うか普通!?」
「その遊びにマジになってるのは、俺みたいなアホとそれを心配してるお前みたいなバカ。この学園に沢山いる大バカ野郎たちくらいさ」
「〜〜〜ッ! ああ言えばこう言って! この天才様が! お前みたいな凡人に教授してやってるんだぞ!? 少しはありがたいと思え!」
見るからにリィビアにはいつもの余裕が無い。顔を真っ赤にして、血液が沸騰するんじゃないかってくらいキレて、呂律が追いつかない勢いでまくし立ててどうにか論破しようとしてるけど、その道が浮かんでこなくなってる。
これまで散々言い負かされてきたから、それをこうしてベッドの上から眺めるのはそれなりに気分がいい。ざまぁみろだ。
「はぁ……あー! 屈辱だよ! こんな凡人に、並ばれた! 自分の未熟を思い知らされた。君が憎い、嫌いだ、ぶっ飛ばしてやりたい! あんなバカげた方法でエア・グラシアスに追いつこうなんて! 言っておくけど、引き分けだから試合前の話はノーカンだからな!?」
ぷいっと、そっぽ向いてリィビアは舌打ちをしながら貧乏ゆすりまではじめて、多分爪も噛んでいるという育ちの悪さ全開の機嫌の悪さを見せていた。
そうして、しばらくしてぽつりと一言呟いた。
「……凡人。君は、努力したのかい?」
「したさ。それしか俺には無いからな」
努力は裏切らない、とは言わない。
どれだけ積み重ねても届かない場所がある。俺だって、師匠と出会えなければきっとどれだけ努力しても足りなかった。才能と、運と、努力と、環境と。何から何まで揃ってようやくこの舞台に辿り着いた。
でもここにいるヤツらはみんなそれに恵まれている。ここに辿り着いたならば、皆が皆同じ結果を出す可能性があった。
だって、俺が知るリィビア・ビリブロードもまた、今の彼女とは比べ物にならないくらい強かったのだから。
「そうか。……おかしい話だ。努力したって、人に翼は生えないのに。君の剣は私に届いた」
一歩、彼女は踏み出した。
部屋から出る。その行為が不思議と俺にはものすごく勇気が必要な一歩に感じられた。世界を壊す覚悟を持った、はじめの一歩に。
「次は負けない。誰にも負けない。ジョイ、君が私に届いたように、私も星を追うとする。君と私は今日から共犯者では無い。ライバルだ」
「……負けねぇよ。リィビア・ビリブロード」
「勝ってもないのに偉そうな口を。まぁ、楽しみにしてるさ。ジョイ」
窓の外はいつの間にか夜になっていた。
今日は快晴。
月は沢山の星に囲まれて、なんとも賑やかな空模様だった。
制服を着た自分を鏡で見る。
窮屈、似合ってない。あんまり人に見せたいとは思わない。今まで誰かの視線なんて気にならなかったのに、いざ気持ちを切り替えるとどうも調子が狂う。
髪もこれでいいのか?
化粧ってこんなものなのか?
この制服なんか体のラインがやたら出てないか?
悩んで悩んで、気が付けば時間があっという間にギリギリになってしまっている。めんどくさい、関係ない、私は他の人とは違う。そう言った思考が絡みついてくる。
『え? 天才のくせに何? ビビってんの? ……ふっ』
「ビビってねぇよ! このボケヴィー太郎!」
寮中に響く声と共にドアを蹴破る。
偶然近くにいたであろう生徒が、腰を抜かす勢いでビビり散らしてしまっていたのが目に入った。
何やっているんだ私は。今この場にあのバカは居ないのに、何故かアイツの声が聞こえてきた気がしたのだ。
だって、私が扉の前でモジモジしてたら多分あんなこと言ってきそうだと思ったから。
「あぁ……すまない。立てる?」
「え、あ、はい。とりあえず、ドアは静かに開けた方がいいですよ……?」
「ありがとう凡……いや、君名前は?」
「えっと、カウム・グッタカヴトっすけど……」
「リィビア・ビリブロードだ。よろしくカウム」
それだけ言って彼女とは別れる。
今の彼女、顔はやっぱり覚えられないが良い魔力だ。適正は水と土、加えて火も嗜んでいる。特に水の魔力は練られていて非戦闘状態でも凪の海のような穏やかで力強いものを感じる。
私ほどではないが、優れている。
寮から出てすれ違う生徒は、誰も彼も似たように優れているところがあった。
一人一人違って、一人一人魔力の中に研鑽の跡が見える。
その上で、これだけは言える。
私の方が強い。同じように鍛えて、同じように努力すれば、私は誰にも負けない。負けてやらない。負けてなるものか。
鞄の中に入った一冊のボロボロの絵本。リィビア・ビリブロードの始まり。誰も彼もがその力の前に平伏した悪逆の王。その王の前ではどんな人間も等しく同じだった。
おかしな話だが、それはきっと憧れだったんだろう。
随分時間はかかったが、ようやくそれを理解できた。憧れなんて、するわけが無いと思っていた、していたのに、認めたくなかったのに、何処かの馬鹿に無理やり認めさせられてしまった。
案外星は、手の届くものだ。
それを望んで血反吐を吐いて進み続ければ、いつの日か手に届いてしまう。全て同じとしてきた凡人がそれを示して見せたんだ。
誰だって届くかもしれない。誰だって、星に手をかけることは自由なんだ。
天才である私に出来ないはずがない。空を覆う天蓋なんて、この手で簡単に壊してやろう。
私はリィビア・ビリブロード。
人の秤、人の限界、人の裁定者。そうなりたいと望んで、そうなりたいと憧れて、そうなりたいと再出発する。
「責任は取ってもらうからなライバル。負けたら君は、私のモノだ」
今日から増えていくであろう『トクベツ』を1つ増やして。朝だと言うのに空に浮かぶ月を眺めて学び舎へと向かう。
「ん〜、あ! この前の! あの時は急に飛び出しちゃってごめんね〜! えーっと、名前は確かリィビア……」
「キィヤァァァァァァァァァ!!!??? え、え、エアさささささ!」
それはそれとして、だ。
あの金髪碧眼の彼女を見るとどうして私はこうも変なことになるのだろうか?
この感情は、果たしてジョイに抱くものと同じなのか。まぁこれからじっくり学んでいくとしよう。
2章、リィビア・ビリブロード編終幕です。
・リィビア・ビリブロード
情緒が育ってない天才。少ない情報で自己を完結させてしまっていたが故に未熟な蛹のまま、歪に翼を成形してしまっていたが無理やり殻を壊されて、歪な翼のまま空に羽ばたいた夜の蝶。
ジョイの前世においては、デウス・グラディウスに対して一方的に敗北感を覚え、その後目的意識もなくフラフラと生きて卒業後は失踪。魔女と遭遇し何処ともしれぬ荒野で死亡している。目的意識無しで適当に物事を済ませて騎士学校を2位で卒業している本物の天才の1人。
魔王願望のある乙女。
『均衡』の原理保持者。
魔王現象適性:B+