逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
幕間です。
16.楽しい休日
「ファイヤーソードええなぁ。俺も欲しいわぁ」
「
「ジョイも思う? ええよな、
「…………」
「…………」
さすがに街中で殴り合いはダメだということで、お互いに握手して渾身の握力で互いの手を痛めつける男の約定をリエンと結ぶ。せっかくの休日なのにコイツの手汗を手に染み込ませたの最悪だよもう。
リィビアとの模擬戦から数日。体も治ってきたし包帯とか薬とか買おうと思って買い物しに来たら、何故かリエンと出くわしてなんやかんやで2人でブラブラしてしまっていた。
「それにしてもリィビアとの戦い凄かったなぁ。引き分けまでもってくなんて」
「実質負けだろ。てか見てんのかよお前」
「当たり前や〜。俺はジョイの試合は全部いるものと思ってくれてもええで?」
「今度はお前の予定を確認して見に来れない時に入れておくよ」
「俺が見に行けないのは俺が試合の時……つまり、俺とジョイの試合の時だけやで」
ヘラヘラ笑っているが、今のところリエンの成績はかなりいいらしい。コイツ、前世の限りでは全然記憶にないのだが、果たして何者なのだろうか?
それはそれとして今のところ男友達がコイツしかいないのも考えものだな。俺までこの胡散臭さが染み付いて来てしまいそうだ。悪いやつじゃないんだろうけど。
「ジョイそういえば魔術使えたんやな。あの雷の投擲。個人的にそこが一番驚いたわ」
「そりゃ魔術の才能なしにこの学校来る愚か者はいねぇだろ」
「なら投げナイフ使わへん? 俺、結構そっち方面の戦い方詳しいから教えられるけど」
「んー……悪くは無いけどなぁ」
俺の戦闘スタイルは基本的には身体強化による接近戦。だからと言って魔術が使えないということはなく、むしろ人並み以上には使える自信がある。なんて言ったって普通の学生より2倍以上の人生経験があるのだから。
ただ、単純に俺は雷と『
それに、魔術に頼る戦い方ではエアに絶対に勝てない。
「リエン、お前投擲でどう戦ってるんだ?」
「俺は風適正あるから、それで操作やね。やっぱ実体あるモノを操るのは出力上げなあかん代わりに難易度下がるし、一方的にアウトレンジから削られる危険性も減る」
「けどなぁ。俺は雷と闇だからバカ正直な高速投擲しか出来ねぇんだよ」
リィビア相手に『
さすがに今は新戦法の開拓よりも基礎部分の鍛錬に時間を回した方がいいだろうか? だが、実際勝率の良いリエンから投擲について学ぶのは、リエンの人格面に目を瞑ればなしでは無い。
「やっぱ武器も剣だけ愚直に振るよりは幅持たせた方がいいよなぁ」
「リィビアもあの杖剣、多分手作りやで」
「武器も作れんのかよアイツ……。まぁ俺は魔術効果を全部刀身強化につぎ込んだ武器の方が相性いいんだろうけど……うーむ」
いかんな、考えれば考えるほど良くない方向にいってる気がする。この辺りは師匠……いや、接近戦ならラクシャ先生に聞いてみるべきか? せっかく騎士学校にいるんだから、もっと先生に色々聞いておくべきだったと学校出てから何度も後悔したしなぁ。
「ジョイくん。ジョイくーん」
「ん、誰……」
振り返ると同時に、頬を指で突かれた。
「えへへー。引っかかった」
満面の笑みでしてやったり、としてるその女の子はどこからどう見ても、金髪碧眼のロリ巨乳ことエア・グラシアスさんでございますね。
「すまない今俺は友人と休日を過ごしていて忙しいからそれじゃ」
「友人……? 周りに誰もいないけど」
「は? え、リエンあいつ、は!?」
周囲を見渡すがリエンの影も形もない。アイツ何時だ、いつの間に消えやがった!? 絶対エアが近づいてきてたの気付いてたくせにあの野郎〜。やっぱいつか一発くらいぶっ飛ばしておくべきだな。
「それにしても奇遇だねー。また街で会うなんて。ジョイくん意外とヒマ?」
「俺は用がある時しか来ねぇよ。お前こそ、何しに来たんだ?」
「僕は薬の調達かな。ちょくちょく来てるんだよね」
「クスリ……薬?」
え、必要なの? 使う機会とかあるの?
「失礼なこと考えてるでしょ……。僕だって訓練とかすれば怪我はするよ。剣は振らなきゃ強くならない。当然でしょ?」
ばっ、とエアは小さな掌を広げて俺に見せつけてくる。
遠くからではまるで白亜の彫刻のようにしか見えないその手も、近くで見てみると印象が変わってくる。よく見れば、何度も皮が剥けてか、皮が分厚くなり幾つもの古傷が垣間見える。
紛れもない努力の跡。
そりゃあそうだ。天才だって、努力しないで勝てるほど甘い世の中じゃない。俺が天才達に勝てなかったのは、天才達に勝てるだけの努力が足りなかったから。俺が3日かけて覚えることを1日で熟すヤツらに追いつく程の何かを怠っていたからだ。
そんな当たり前の事実を見せつけられて、少し複雑な気分になる。
「それはそうとジョイくん。ちょっとお話したいことがあるんだよね」
「俺は無いが?」
「この前の試合。『
「違うからな!? 断じて違うからな!? 別にお前とか意識してないし!」
確かに色々と似ているのは自分でもわかっている。でも本当にこれは偶然なんだ。
俺の『
そもそも、エアの『
「そりゃそっか〜。そもそも、僕達知り合ったのだってつい最近だもんね。その眼、少なくとも入学してから急造で仕込めるようなものでもないだろうし」
「そ、そうに決まってるだろ……。俺とお前はつい最近会ったばっかなんだから、な?」
「……僕はそんな気がしないんだよね」
怖い怖い怖い!
エアというかデウスもそうだったが、コイツらの目は何から何まで見通してしまってそうだと思わせるだけの何かがある。まさか俺の前世の事を知ってるのかと、思ってしまうくらいには何か疑いの眼差しを感じる。
「ジョイくん。なんで騎士学校に来たの?」
「なんだよ藪から棒に」
「僕はね、体が小さいし、農家の一人娘だった。特に騎士になりたいとか思ってなかったんだ」
……確かに、エアは小さい。女性の平均身長と比べても小さいし、騎士学校にいる女性はちびっこ教師で有名なマグノ先生や、同級生にいる怪力チビを除けばみんな平均以上の背丈だ。
体格というのは、近接戦においては大きく影響する要素だ。たとえエア・グラシアスがデウス・グラディウス並の才覚を秘めていても、体格差を考えればもし勝負すれば厳しい戦いになるだろう。
そもそも、確かデウスは偶然名のある貴族を助けてそのツテで騎士学校に入ったとかだった気がするし。
「けれど僕がまだ小さい……今でも小さいとかはなしで、小さかった頃にね。すっごく強い人に助けてもらったの」
「お前ほどのヤツが……助けてもらった?」
「僕だって小さい頃はただの女の子だったってことだよ。とにかく、その人は僕を助けてくれた。それが僕の憧れなのさ」
エアを助けるって一体どんな化け物なのか。出来ることなら会ってみたい……いや、会ったら心が折れそうだから会いたくないな。コイツを助けてやれるとか、一体どう育ったらそんな風になれるのか。
「ジョイくんはどうなの? 僕が答えたんだから言ってよ」
「勝手に言っただけだろ。俺に答える義理はない」
「えー、教えてよー!」
強請るように身を寄せてきたエアの胸元が俺に当たる。
わかった教えます、教えますのでどうかそれをやめてください。そういう事されると、ホント性欲と理性となんかその他諸々が混ざって血涙が出そうになる!
「……かっこいいじゃん。英雄」
「英雄……?」
「御伽噺のだよ! 悪いかよ、あんな風に1番になりたいって思った! 以上! 解散!」
「えぇ!? ちょ、待ってよ〜!」
早足にその場を抜け出すが、本気で追ってこない辺りエアも人の心が分からない訳では無いらしい。
多分今の俺顔真っ赤なんだろうな。あ〜、めちゃくちゃ恥ずかしい〜。
だって、英雄と言って確かに最初に憧れた御伽噺の英雄のことを思い浮かべた。
けれど、もっと強くデウスのことを思い浮かべた。
そして、今はそれよりも強くエアのことを思い浮かべた。
あんなにボロボロの掌が、アイツにあんなにマジになって夢を見るような覚悟があったなんて知りもしなかった。
なんだかそれはすごく悔しくて、すごく自分が情けなく感じたのだ。アイツはすごいやつなんだ。すごくかっこよくて、キラキラしてて、手を伸ばしたくなる魅力がある。
アイツはデウス。何故かこの世界では女であるアイツ。そう思ってないと何かを間違えてしまうような、吐き出してしまいたい胸の中で渦巻く何か。
「負けねぇ、負けねぇ負けねぇ負けねぇ! 絶対に負けねぇぞ。絶対に!」
『デウス・グラディウス』という人間の記憶を持った、別人の少女。
それが自分なんだと思う。
彼の記憶の一部があり、それは未来の記憶でもあった。けれど、他人の記憶だった。
だって、デウス・グラディウスには自分はなれないと。彼の優秀な知識が答えを出してしまっていたから。
肉体の素養が違いすぎる。
そうやって、最初は諦めた。けれど、不思議なことに、僕の目の前にはもう一度
ボロボロになりながら、潰れた左目で未来を見据えて勝利宣言するその姿。
デウス・グラディウスすら知らない、エアという少女だけが知る灰色の髪の少年の勇気。本の向こう側の知識だけの憧れが、恋に変わったあの日のことを、僕は絶対忘れない。
だから僕は負けたくなかった。
記憶の中のデウス・グラディウスにだけは、自分にだけは負けられない。ジョイ・ヴィータのあの想いを、あの眼差しを、あの羨望を。彼に人間として認めてもらうのは僕だ、彼に追いかけてもらうのは僕だ。
なんて卑怯、だとも思わなくもない。
僕はデウス・グラディウスという孤独な天才をずっと追いかけてくれた、つなぎ止めてくれた凡人の物語を見て、勝手にデウスに感情移入して、勝手にその凡人と知り合いになった気で目を輝かせていて。向けられる思いを知り、何もかもを盗んだ最低な盗人なのかもしれない。
でも、でもでも! 仕方ないじゃないか!
お前は知らないだろう。
黒の瞳で僕を追いかけてくれる、エア・グラシアスだけのジョイ・ヴィータを。
お前は知らない。なら、僕の方がこの思いは上だ。
「待ってるよ。ジョイ。
そう言えば。
これは誰かの遠い記憶。
『そんなに望んでいたのなら、私は優しいから叶えてあげる。愚かで傲慢な魔王様』
ズキリと頭が痛む。
思い出した記憶はそれで消えてしまったけれど。思い出せないのならきっとそれは大したことではない。
少なくとも、僕の中では。
「黒耀、か」
自室で一人、ギガト・レムノは愚痴でも呟くように声を漏らした。
先日のリィビア・ビリブロードとジョイ・ヴィータの1戦。それ以降リィビアが授業に出るようになったと報告を受けて彼に任せて正解だったと思うと共に、その記録を見て複雑な気持ちを抱いた。
思い浮かべた顔は、アルム・コルニクスの顔。
アイツは一体、どんな気持ちで自身の瞳を彼に預け、『
「どいつもこいつも、なんで割り切れないんだよ……」
もう何年も前になる、『孔』を倒した時のこと。
横にはビクビク怯えた何もかもダメダメな女、姉さん気取りの気に入らない女、そしてムカつくけどその隣は居心地が悪くない男。
幼い自分はそういう風に思っていたけれど、実際は違う。
怯えていたのは誰かが傷つくことへの恐怖。彼女は誰よりも優しかった。
気取っていたのは覚悟の証。自分を自分で騙す為、彼女は誰より勇気があった。
ムカついたのは知らない気持ちのむず痒さ。きっと自分は、彼のことが好きだった。
でも全部終わったこと。
時計の針は巻戻らず、死者は蘇らない。だからこそギガト・レムノは大人になった。教育機関を作り、来るべき災厄に備えることにした。
「レヴィ。お前のことは、私達が終わらせてやる。青春のロスタイムは、そろそろ終わりにしようぜ」
・エア・グラシアス
英雄の剣を握る少女。
歪な愛は未熟な魂の形を捻じ曲げた。