逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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18.魔女の軛:エア・グラシアス

 

 

 

 

 

 

 その記憶を自覚したのは、だいたい6歳になったくらいの時だっただろうか。高熱に魘される中で見たのは、自分と同じ瞳を持つとある男の生涯だった。

 

 最初の方の感想は、なんとなく嬉しかった。

 自分が父親や母親と違う世界を見ていることは幼いながら何となく理解していて、もしかしたら世界に自分だけしかこの目を持つ人間はいないとすら思っていたから、デウス・グラディウスという男の存在はエア・グラディウスにとって救いだった。

 

 デウスは天才だった、英雄だった。

 幼い時から優れた身体能力を発揮し、御伽噺の英雄のように本当に活躍してしまう彼の物語。

 

 

 病弱で、ちょっと動くだけで熱が出てしまうような僕とは大違いだと思った。

 デウスの真似をして剣を振ったこともあったが、すぐに咳が止まらなくなったし、しばらく食器も持てないくらい手が痛かったし、何より体が全然動かなかった。

 だからこそ余計に、自分と同じ目を持ち、同じ孤独を抱えながら戦い続けた彼の記憶はエアにとっては一番最初の憧れ。

 

 ──────言い換えれば、初恋だったのかもしれない。

 大抵叶わないという点でもよく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ」

 

 目を覚まして最初に見た天井は、見慣れないものだった。でも見覚えはある。学校の保健室、この学校は保健室が沢山あるから何処のかは分からないけれど、少なくともそのどれかだろう。

 

「っぅ……」

 

 頭が痛い、胸が痛い、息が苦しい。

 少し寝ていた間に魔力操作を怠った反動か。すぐに呼吸を整えて、魔力を流して呼吸器の動きを補わせる。

 

「よう、お目覚めかエア・グラシアス」

「学園長……僕、何が……」

 

 小さな女の子のようで、巨人のような魔力のうねりを体内に宿した学園長は苛立ちを少しも隠さない様子で僕の寝ているベッドの隣にあった椅子に飛び乗るように腰をかけて何やら紙を取りだした。

 

「お前は倒れたんだよ。アーリス・イグニアニマとの試合中に」

「倒れ、……そう、ですか」

「さすがにこれは怒るぞ。診断結果、お前健康状態偽装してただろ。アルムの野郎はムカつくが人体の治療に関しては優秀だからな。洗いざらい全部出してくれたぜ?」

 

 渡された書類は、僕がこの学校に入学するためにお義父さんに偽装してもらった健康診断書と、アルム先生がその偽装書類との差を的確に書き上げたであろう書類。

 

「先天性の呼吸器系の病か。そもそも体質として騎士なんかになれるわけがねぇよこれは。本当なら一生を、なるだけ外に出ず、穏やかに陽の光でも浴びて本でも読みながら過ごすべき人間の体だ。殺し合いになんざ、向いてない」

「向いてないから、諦めろって言うんですか?」

「当たり前だ。お前の場合はな、弱いやつが強くなりてぇってのとはわけが違う。……今までどうやって訓練してたんだ?」

 

 確かに、僕は人よりも体が弱かった。すぐに寝込んでしまうし、特に呼吸器が弱くて長い運動が出来ない。肌も筋肉も弱いし、長時間の負荷をかけられないから訓練の効率も悪い。

 

「……僕の目は、世界の魔力を濃く映します。だから、魔力操作は得意なんです。雷や風、便利なこれを使えば臓器の動きの補佐なんて幾らでも出来ます」

「常にか? そんな馬鹿な真似をずっとやってたっていうのか!?」

「ずっとなんかじゃないですよ。たった4年間です」

 

 確かに最初は苦しかった。常に体内という繊細な世界に、局所的に魔力で干渉しなければならないから脳は焼けるような痛みを発し続けるし、補助という名目で無理やり動かされる臓器達が悲鳴をあげているのもわかる。

 

 でも、()()()()()

 

「……お前がやってる事は感覚的にも痛覚的にも命を搾り取る行為だ。この学校に入学してから、お前は訓練も挑まれる勝負も何一つ休まずに続けていた。今までの無理が一気に吹き出したのが今回だ」

「そうですね。次回からこんなことが起きないように、もっと鍛えないと」

「やめろって言ってんだよ。エア・グラシアス。学園長として、お前のこれ以上の騎士学校での活動を禁じることも俺は出来んだよ」

「断固抗議します。嫌ですもん」

「首席は言うことが違うな。俺を前に、笑顔でそんなこと言えるとは」

 

 ギガト学園長の中で渦巻いていた巨大な魔力が、瞬間的に倍になる。増加が止まらない。まるで自然のエネルギーを見ているかのように、際限の無い増殖に視界の全てが彼女の魔力で埋まってしまってもはや小さな彼女の体が見えないほどに。

 

「……ビビらねぇんだな。やりづれぇ」

「もっと怖いものを、見てきましたから」

 

 ギガト学園長は怖いけれど、優しい人だ。

 デウスの記憶の中にはもっと怖い相手が沢山いた。人を人とも思わなかったり、全てが自分を中心だったり、戦闘狂だったり、他人の不幸だけでしか喜びを得られなかったり、そういう人が沢山いた。

 

 特に魔女のことなんて考えるだけでも吐いてしまいたくなる。

 単体で国を相手取る狂嵐。世界を滅ぼせる災厄そのもの。デウス・グラディウスは本当にすごい人だ。アレを相手に一歩も引かず戦い続けた。最後まで、隣で戦ってくれた彼の為に剣を振るった。

 

「……俺は教育者である前に魔女の対策もしなくちゃならねぇ立場だ。お前がアーリスの時、魔女に対抗できるって自薦したのは忘れてねぇ。そして実際に対抗出来る力がある以上、お前が魔女と関係ないところでくたばる可能性があるなら、この学校からつまみ出して一切の権利を無視して魔女専用の兵器として運用する、ってこともできる」

「脅しですか?」

「逆だ。それをしねぇのは、俺がしたくねぇからだ。かと言って、俺は権力があるが独裁者じゃねぇ。……結果を出せ。俺が上の連中を黙らせられるくらいの結果を無理をせず、命を賭けず、明日を生きることを考えて出せ」

 

 言いたいことはそれだけと、学園長は保健室から去っていった。

 

 明日を生きろ。

 それは正しいことなんだろうけれど、そんな生き方では僕には無理だった。デウスはとても強くて、魔女もとても強い。エア・グラシアスという女がデウスのように戦って、魔女に勝つには死ぬほど訓練し続けるしかないんだから。

 

 

「……負け、ちゃったのかなそう言えば」

 

 

 デウス・グラディウスなら負けなかった。

 彼の記憶の全てを思い出せるわけでわはない。重要な部分、魔女との戦いの肝心な部分や最後の記憶が抜け落ちているが、少なくとも彼は学生時代の模擬戦では一度も負けてなかったはずなのに。

 

 負けてしまった。エア・グラシアスとデウス・グラディウスにまた一つ大きな差が生まれてしまったと、嘔吐してしまいそうな自己嫌悪を胸の奥に飲み込んでベッドから立ち上がる。

 

 終わってしまったのならば仕方ない。もとよりデウスのようにはなれないと知っているのだから、この悔しさと焦燥感はいつも感じているものより少し辛い程度でしかない。

 

 超えるんだ、何があっても。

 デウスを超えなければ、エアはこの世に在ることができない。デウスを超えることだけが、彼の記憶を持ってしまった非力な女の使命。そう自分に言い聞かせて、また彼の顔を思い出す。

 

 デウスにとって人から外れた自分を見つめ続けてくれた只人の彼。彼の記憶を知る僕にとっても、彼の事は忘れることは出来ない。

 

 

 

 

 

 でも、これだけはデウスのものでは無いエアの想い。

 

 

 

 

 4年前、流行病に罹り両親が死に、僕も死にかけた。

 苦しくて苦しくて、死んでしまうんじゃないかってずっと魘されて、不安で不安で子供のように泣きじゃくってしまっていた。

 

 そんな折、僕を治療施設に運ぶ荷車が魔女の眷属に襲われた。デウスの記憶にもあった、巨大な黒色の獣。

 動きは遅い、力も弱い、この獣を瞬殺したことがデウスが騎士になる道の始まりの一つだった。

 

 けれどエアにはその力はなかった。

 病に魘されていることもあったが、そもそもその年までエアはまともに剣を握ったことは無かった。握ったとしても、次の日には腕は動かず何も続かない。どれだけ鍛えようとしても呼吸が追いつかない。

 

 

 僕はデウスじゃない。だから何も出来ず、殺されるはずだった。

 

 

 

 

 

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! バケモンが止まれクソがァ!』

 

 

 

 

 

 現れたのは、同い年くらいの灰色の少年だった。

 荷馬車が大腕に叩き潰される直前に横から飛び込んできて、蹴っ飛ばした。救いの手の登場にみんな目を輝かせて、ボロボロにされた姿を見て

 すぐにその輝きは失われた。

 

 少年の名前はジョイ・ヴィータ。少し幼いけれど、16歳の彼の面影があるから間違いなかった。デウス・グラディウスの記憶を見て最も鮮明に焼き付いた彼の姿を僕が間違えるはずがない。

 

 なんで彼がここにいるのかは知らない。そもそも彼は相変わらずそこまで強くなかった。デウスならば瞬きの間に倒せた獣相手に何度も殴られ、骨が折れ、内臓を潰され、目を潰され、血を吐いて転がされて。

 

 痛くて苦しくて辛い思いを散々させられて、倒れて動けなくなって、興味を無くした獣が僕達の方に視線を直して。

 

 

『……おい、テメェの相手は俺だ。テメェがこの世で最後に見るのは、俺の勝利宣言になるんだからよ』

 

 

 それでも、ジョイ・ヴィータは立ち上がった。

 誰も期待なんてしてない、勝てるわけないと思っていた。僕だって幾ら彼でも今の彼では勝てないと思っていた。それなのに彼は戦い続けて、肉が裂けて骨が飛び出して、肌の色が血の色で覆われるくらいに戦い続けて。

 

 

『けほっ、頑張れ……頑張れッ!』

 

 

 気がつけば人生で一番大きな声だったんじゃないかって勢いで彼を応援していた。

 諦めず、目の前の敵のさらに遠くを見つめるように、記憶の中のデウスの剣を真似するかのような不細工で、世界で一番カッコイイ剣技で、彼は獣と戦い、いつの間にか動かなくなった獣の上に立って、勝利の雄叫びを上げていた。

 

 

『ぁ……クソ、なんも見えねぇ! 見えねぇけど、さっき応援してくれたやつ! ありがとな!』

 

 

 

 

 黒曜のような黒い血の海で、唯一輝く星の光。

 初恋は終わり、僕は星に焦がれる二度目の恋をした。それがエア・グラシアスにかけられた呪いのような始まりの魔法。

 

 

 彼に追いかけられたい。

 デウス・グラディウスを人間として繋ぎ止めて、ずっと見つめてくれた彼。ジョイ・ヴィータに自分もずっと見ていて欲しい。

 僕はデウス()に届かない、そのくせ人にもなれない特別な『眼』を持ったバケモノ。そんな僕が、彼に追いかけてもらって人として追いかけてもらう方法はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……デウスにならなきゃ、追いつかなきゃいけないのに」

 

 

 頭痛は止まず、呼吸も戻らない。それどころか少し熱っぽい。

 アレからずっと努力してきたのに。グラシアスさんに引き取られてからはずっと剣を振っていた。魔術で臓器を無理やり動かして、手の皮が剥けても我慢して剣を振り続けた。体が動かなければ最低限治癒を施してまた剣を振る。

 騎士学校に彼が入学するまで、たった4年。ここまで痛みに脅えて引きこもっていた女はなんて愚かだったんだ。それだけの時間でエア・グラシアスがデウスに追いつくには普通の努力の、更に上の努力の、更に狂った努力を積み重ねるしかない。

 あらゆる肉体の悲鳴や弱音を無視して剣を振るい、ようやく最低限満足できるくらいに、かつてのデウスのように振る舞えるくらいの自信がついたのに。

 

「恥ずかしい……。入学式であんなこと言わなきゃ良かった」

 

 まさか1年生の2ヶ月程度で敗北してしまうなんて。

 ここからやり直すにしてもどうしようか。頭を捻って考えを出そうにも、熱と痛みで思考がぼんやりする。こういう時は外の空気を吸って、剣を振るい続けるのが一番だ。そうすれば、体が本当に死ぬ寸前になった時にはもう気にならなくなる。

 

 そんなことを考えながら、保健室を出ようとして扉を開けた時に。一際激しい頭痛に襲われ、平衡感覚が吹き飛んで前のめりに床に向かって体が落下していくような感覚。

 

 

 …………が、いつまで経っても受け身も取れずに硬い床に叩きつけられる痛みが襲ってこない。

 それなりに硬いけれど、全然冷たくない。随分前に忘れてしまった、母の胸の中のような、それより硬いけれどそれに近い感覚。

 

 

「……アーリス、ちゃん?」

「その、お見舞いに来たんだけど……とりあえず、ベッドに戻った方がいいよ。顔色、死人みたいだし」

 

 目の前にいたのは、今日僕の相手をするはずだった、不戦勝になったであろう相手。色々と言わなきゃいけないこと、言いたいことがあったし、背後に2人くらい男子の影が見えた気がしたけれど。

 

 

 不思議なくらい頭が回らなくて、人の体温に安心して弛緩しきった肉体が意識を強制的に遮断してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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