逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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20.粉砕騎士

 

 

 

 

 それはいつかの俺の記憶、だったと思う。

 

 鮮烈な思い出、という訳では無いそれは、きっかけがあれば思い出せるけれどきっかけがなければ永遠に記憶の蓋の底。そんな曖昧で、大切な記憶。

 

 あれはどこの戦場だっただろうか。

 どのみち魔女との戦いも終盤。あの女は節操なしに眷属を増やして幾つもの都市があの女の手に堕ちて、そうしてその全てと斬り合えば如何に百戦錬磨の騎士団と言えど疲弊する。

 

 仲間が何人も死んで、仲間だったはずの人間を何人も斬り殺して、そんな毎日。

 

「──────ふぅ、これで終わりだ。ここの敵はみんな倒した。誰か、生きてる人はいる?」

 

 大将首を落として、デウスは戦場のど真ん中とは思えない街中で友人に話しかけるみたいな調子で呟いた。だが彼の後ろにあるのは屍の山だけで、返事をしたのはその中に隠れてやり過ごしていた俺だけだった。

 

「ジョイ、良かった。君は生きてたんだね。他に誰かいる?」

「全滅だよ。元々不意打ちだったんだ。お前が駆けつけてくれなきゃ、俺も死んでた」

「それはそうかもね。それじゃあ僕は君の命の恩人だ。……本当は、皆の命の恩人になりたかったけれどね」

 

 デウスすら肩で息をして、俺も腹が抉られてかなりギリギリの怪我の中でどうにか屍の山に潜ってやり過ごしたそんな戦いだ。

 むしろ、俺が助かって敵を逆に壊滅させてる時点で戦果としては十分。かと言って、これを勝利と呼べるほど俺達の戦いに希望はなかった。

 

 もう騎士団の仲間も数える程しか残っていない。

 優秀だった同期も殆ど殺したか殺された。国の統治すらボロボロであり、言葉一つで人を纏めあげられるような人物はみんな死んだ。魔女に勝ったとして、俺達にまともな未来があるかは正直厳しいところだろう。

 

「それでも僕達は今日の戦いを生き残った。本陣に戻ろう。そろそろ、魔女の方も手札が切れてきたはずだ。支援術式も反応が近いし、近いうちに見つけられるはずだよ」

「はいはい……いつつ、あー、いってぇ……」

「大丈夫? 肩を貸そうか?」

「大丈夫だ。というかお前、なんで立ってられるんだよ……」

「?」

 

 デウスは魔術の一斉掃射を受けて俺よりも深く腹が抉れて零れそうな腸を魔術と筋肉で無理やり抑えてるし、敵の大将との戦いで首にナイフが1本刺さっている。俺よりも多く働いて、俺よりも傷ついている。

 

「心配いらないよ。僕は人より体が丈夫だからね。知ってるだろ? 学生時代から一緒なんだし」

「知ってるけどよ、それはそれとしてだろ。っぅ……あー、もういい肩を貸せ。俺も貸す」

「え、いや僕はいいけど」

「お前に貸しとか作りたくない」

 

 もう既に何度目かの命の恩人な訳だがそれはそれ。

 デウスに貸しを作るのは、なんか嫌だった。ここまでボロボロになって、世界の未来がコイツに頼らなきゃどうにもならないようなこんな状況でも。俺は一つだけずっと変わらずに思ってることがあった。

 

 一番になりたい。

 デウスに勝ちたい。

 

 頭も体も無理だと叫んでいるその思いをずっと抱えて。

 そんな救いようのない魂だからなのか、俺はこんな楽しくない戦いを延々と生き延びてきてしまっている。

 

「……ははっ、ジョイは学生の頃から本当に変わらないね」

「お前に俺の学生時代の何がわかるんだよ」

「わかるさ。だって僕は首席だからね」

 

 コイツが言うと本当に何故かわかってそうだから冗談にならない。いつの間にか読心術くらい習得していてもおかしくない怖さがある。いつの間にか酸素がなくても生きていけるようになってたとか、腕が6本生えてきたとか、そう言うとんでもない何かを習得しそうなんだよコイツ。

 

「失礼だな。僕はこれでも人間だから呼吸はしなきゃ死ぬし、腕は2本だよ」

「読心術は人間の能力の範疇じゃないんだよなぁ」

 

 誤魔化すみたいに笑いながら、結局デウスは俺に半身を預けるように肩を借り、俺も半身をデウスに預けて支え合うようにして屍の道を歩き始める。

 思ったより、デウスが俺に体を預けてくるなと思った。

 

「ありがとう。誰かに肩を貸してもらうなんて初めてだし、こんな時なのに、こんなに穏やかな気持ちは学生時代以来だ」

「そうかよ。俺は少なくとも学生の時から穏やかな気持ちになれたことなんてねぇから羨ましい限りだ」

 

 傍らに感じるデウスの重さ。

 それを感じられることがたまらなく嬉しくて、同時に吐き気がするほど嫌だった。

 

 そんないつかの記憶を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇよやべぇよ……これマジでやべぇよ」

 

 学校敷地内への魔女の侵入という一大事件から数日。俺は部屋の天井を見つめながら危機感を口にし、とりあえず何かやった気になる作業に勤しんでいた。

 

 一時期は合同訓練も中止になるという話があったが、魔女に侵入された今だからこそ、対魔女に備えて更なる戦力強化のため訓練は予定通り行うとの強気の姿勢を見せたものの、ここ数日先生陣はいつもどっかほっつき歩いて俺にちょっかいかけに来る師匠ですら手が離せないらしいほどの激務に追われ、俺やアーリス等の魔女と関わりがあった生徒は万が一に備え一時外出禁止状態になってしまっていた。

 

 大変なことになっていると感じるが、そもそもこの程度のことで収まってること自体が奇跡なのだ。

 

 魔女とは、現在世界を生きる全ての生命を呪う厄災『魔王現象』。魔術世界における、特異点にして最大の異常。何らかの因果により自身以外の存在全てを破壊する為に世界そのものから力を引き出す終局装置。

 それが堂々と姿を現して、日常を続けられるようにしている時点でこの学校の教師陣の優秀さを痛感させられる。

 

 

 だが、今の俺が気にするべきなのは魔女の脅威じゃない。

 あの女が俺のこの人生二週目という現象について何か知っている様子であり、俺個人に狙いをつけて接触してきたのは明らかではあるが、俺からの接触手段もなければ相手の目的も分からない。

 前世でアイツが死ぬところまで見た俺ですらこれなのだ。これ以上魔女の情報を手に入れる為には極秘事項に踏み込むくらいしか手は残されてないだろうから、現状はあまり考えることではない。

 

 言葉を鵜呑みにするのは癪だが、この現象について誰かに口外するのもリスクが大き過ぎる。

 口にする、というのは最も原始的な魔術の一つだ。この秘密を口にすれば、言ってしまった相手が魔女に呪い殺されるなんてリスクも発生するわけだし。

 

 

 それに情けないけど、本当に情けないけど。

 魔女はめちゃくちゃ怖いんだよ。マジで泣き出さなかったのを褒めてやりたいくらい怖い。俺一度アイツに殺されてるし、俺より強い奴らが虫けらみたいに殺されたり、死ぬより酷い目に合わされたりしてる所を何度も見てきたのだ。

 逃げたい、思考したくない、忘れてしまいたい。あんなものがこの世に存在することを認めてしまいたくない。原始的な恐怖がせりあがってきて喉の奥から掠れた悲鳴が漏れてしまう。

 

 

 だから考えないように、間近の問題である合同訓練について考えることにした。

 まずうちの組はリーダーであるエアが現在も体調不良続行中、アーリスと俺は魔女絡みの騒動で外出禁止。組内での作戦会議にはもちろん3人揃って不参加。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 思わずデカいため息が漏れた。

 いやこれ無理じゃん。幾らなんでも、さ? ね? 別に俺達の組の奴らが弱いという訳では無い。むしろ確認した限りはリエンを含め、安定したメンバーだとすら思う。

 

 だが、俺達の世代は『黄金世代』と揶揄されるような天才達の犇めく万魔殿。

 

 青組のリーダーは学生にして月の名を冠する異名、『月虹(メイガス)』を手にした天才、リィビア・ビリブロード。

 緑組のリーダーは四人の騎士団長の1人にして現代最強の騎士団長レジェ・ノムトの息子であり、『輝剣(フォトルム)』と称される剣技を持つ剣鬼、アウル・ノムト。

 他にも滴穿(セイレーン)とか、影縫(ハウンド)とかの有名な人はだいたい他の組。そもそも、このチーム分けは一体どう言う基準で分けられたものなのだろうか。

 

 エア、リィビア、アウルの3人が分けられてそれぞれ別のチームのリーダーなのは、まぁ当然だろうとなる。コイツら3人は少し格が違うし、どこか一つのチームに入れるのはバランスが崩れる。

 かと言ってバランスが良いかと言われると少し首を捻る。単純に優秀な生徒、と言うだけならアウルの緑組が若干多いように感じるし、リィビアの青組はリーダーのリィビア以外は近接戦闘で優秀な奴が多いように感じる。そして、俺達赤組はその辺がよく分からない。

 そもそも俺、リエン、アーリスの時点で速攻近接とよく分からん戦法、中遠距離バランス型と共通点が薄いし、考えれば考えるほど分からないし、エアが不調となると勝てる気がしなくなる。

 

 更にエアの不調は先天性の病から来るものだ。たとえ体調が良かったとしても、長時間の戦闘は彼女の負担になる、らしい。

 敵からすればこの弱点を突かない理由はない。入学式であれだけデカい口を叩いた以上はエアを狙うやつは多いだろう。

 

 

 ……うん! 

 考えれば考えるほどこれは無理だ。

 

 毛布にくるまって、じっと天井を見つめても現実は何も変わってくれやしない。

 

 もしも、もしもエアがデウスだったら俺はこんなことを考えなかったのか? 

 

 そんなことを考え出すとモヤモヤと嫌な不安がまとわりついてくる。エア・グラシアスという少女とデウス・グラディウスという男のこと。あの男なしで、魔女に勝てるのか。あれだけ全能の神のような存在感のあったデウスが、エアが人間見たく血を吐いて、倒れて、弱々しく呼吸をして。

 

 

 

「おーいヴィータくーんや。暇だからボドゲしようぜ」

「帰れ」

 

 

 思考を切り裂くように、ノックを2回の後扉越しでもわかるクソでけぇ声で俺を呼ぶその声は間違いなくリエンだろう。

 

「酷ないか? なんか魔女に出会ったらしくてトラウマ刻まれて部屋で震えとる思うて元気づけに来た友人に対する態度か?」

「だってお前、俺をからかうつもりだろ?」

「以心伝心やね。さすが親友や」

「帰れ」

 

 優しくすると調子に乗るからいつもの調子で冷たくあしらっておくが、コイツのこの間の抜けた会話の雰囲気は正直思考がぐちゃぐちゃになっている時には非常に助かる。今も、少しだけ気が楽になったりした。本人には死んでも言わないが。

 

 そんなわけで、それに免じて部屋に入れて茶くらいは出してやろうと部屋の扉を開いて。

 

 

「……あ、はじめまして。君がジョイ・ヴィータですね?」

 

 

 扉を開くと、何故かそこには俺より頭2つくらい小さく見える、栗色の髪の女の子しかいなかった。

 

「リエンが、美少女になった?」

「あの失礼の擬人化扱いとは酷いですね。私、常識はある方だと思うのですが」

「あ、ごめん。普通に今のは酷い罵倒……だった、ぎゃ!?」

 

 そうして落ち着いてその女の子の顔を見て、俺は潰されたカエルみたいな悲鳴をあげることになった。

 何故かと言われれば、それは目の前にいる女の子が原因だ。エアよりも小さい背丈と綺麗に編み込まれた栗色の髪の毛。エアが『ロリ』と形容される幼さのある少女なら、こちらは背は小さいながら背の低い『女性』と感じる落ち着いた雰囲気のあるこの女の子。

 

 これだけ特徴的ならば見間違うはずもない。

 

 

「気を取り直して。はじめまして、この度君と同じ赤組で頑張ることになった、クラキア・ソナタです。クラキアでもクララでも好きに呼んでください。ソナタと呼ばれるのは、あまり好きじゃないので」

 

 

 卒業時、第7席。

 特殊体質『顎獣アトラスの巫女』を持って生まれた怪力無双、絶対破壊の粉砕騎士。固有魔術『土葬(クラッシュ)』の継承者、クラキア・ソナタ。

 

 綺麗な薔薇には棘どころではない、猛獣だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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