逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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23.黄金世代 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況は概ね良好。

 自分が天才であることを、リィビアは再確認した。

 

 空にふわふわと浮かんで、本物の月のように下を見下ろす。見晴らしの良くなった地上ではところどころで激しい戦闘が繰り広げられており、その中には無謀にも月を撃ち落とそうと魔術による射撃を試みる者もいたが、自分の意識内に入るということがどう言うことか、一撃で葬ることでリィビアは敵の身に刻み込んだ。

 

 ……つもりであったが。

 

 

「やはり一筋縄ではいかないか、な?」

 

 

 一方的にはやらせてくれない。特に緑組に割り振られた生徒。

 こちらに攻撃するにあたって、何人かと連携している。防御と攻撃。更に通じないと分かればすぐに身を隠して索敵から逃れている。

 

「アウル・ノムトか。所詮は凡人だけど、かなり厄介な凡人だな。それより今は……」

 

 忘れるはずのない魔力を戦場の中に探る。

 星のような煌めきを持つ魔力の持ち主。エア・グラシアス。リィビアの目標は初めから彼女一人。

 

「……いや、いないな」

 

 相手は魔力を瞳で捉え、捉えられるなら触れられる、触れられるなら壊せるの理論で魔術をぶち壊してくる異常生命体。

 見えるものならば見えないものよりも扱いやすいだろう。魔力を隠すのもお手の物。あの速度に合わせて隠密性も高いとは清々しいほど完璧だ。

 

「だからこそ、落とし甲斐のある星だ」

 

 ローブの下に仕込んだ対エア用魔術礼装達が、今か今かと起動を待っているような気さえしてくる。

 視界の端ではジョイ・ヴィータがカウムと、なんかデカいゴーレムと戦っている。リィビアの予想では彼ではカウムに勝てないが、彼の前で自分の予想程当てにならないものは無い。

 

 頬に汗が伝った。

 今は自分の掌の上。だが、盤面がいつ崩れるか分からない。誰が、どんな風に自分の予想を上回ってくるか。当然だけれど予想が付かない。地上では幾つもの魔術の煌めきが空の星よりも輝いている。

 

 一秒後には撃ち落とされているかもしれない空で、リィビアは確かに笑っていた。

 さぁ来い、エア・グラシアス。私はここに居るぞ。逃げも隠れもしない。お前相手には逃げる方が正しくても、餌を見つけて行儀正しく待てをしている飼い犬なんてクソ喰らえだ。

 

 どうせならば、生きた肉に喰らいつく腹を空かせた猟犬くらいの方が人生は楽しい。頬を紅潮させ、胸を高鳴らせながら空で月は勇士の到来を待ち続ける。

 

 

 まるで、待ち合わせの時間に早めに駆けつけた乙女の様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なにこれなにこれなにこれなにこれ!)

 

 エア・グラシアスは動転していた。

 開始早々、地形が大規模に変化するような攻撃がぶっぱなされた。もちろん、それでどうにかされるほどヤワな鍛え方はしてないけれど、改めて敵を見せられて、あんなもの見せられて動揺しないなんて人間をやめている。

 

 リィビア・ビリブロード。

 前にジョイと話をしていたし、デウスの記憶にも彼女は登場している。なんだかデウスを見つめる目が怖くて、自分に向ける視線も怖くて一方的に苦手意識のある子。見た目はすごく美人さんだと言うのも、なんかちょっと苦手。

 

 

 かと言って負けるつもりは無い。

 実際、デウスは負けてないしなら自分も負けられないと思っていたけれど、これは()()()()

 

 デウスの記憶の中でも、最後に見たリィビア・ビリブロードよりも今の彼女は強い。何がどうなったらそうなるのか。騎士学校の3年を吹っ飛ばして成長してる。

 

 それでも負けるはずがない。負けるわけがない、負けていい理由がない。

 だけど、頭の片隅にある負けるかもしれないと、粘つくような思考が手足を萎縮させるみたいだった。

 そもそもこんな訓練も、デウスの記憶にはなかったし、この時期に魔女が来るなんてこともデウスの記憶にはない。

 

 まるで誰かに、お前はデウス()では無いと宣告されてるみたいで嫌な気分だ。

 

 

「いいや、なってやるさ。神だろうと、超えてみせる」

 

 

 元々、感情を操るのは得意である。

 臓器を魔力で補助するくらいできるのだ。心拍もどうにか出来るし、脳内の電気信号を弄れば、焦りや不安も落ち着けられる。

 

 勝てばいい。

 自分だって努力したんだから、それを発揮すればいい。それに今回は彼のチームメイトなんだから、かっこ悪いところは見せられない。

 ひとまずは空に浮かんでいるリィビア・ビリブロード。まるで自分を誘っているかのようだと、エアは思った。

 

 エアだって、空を飛行するのは簡単ではない。そんなことより魔力で足場を作って跳ぶ方が理論的にも楽なのに、敢えて空を飛ぶのは、リィビアの趣味であることをエアは知らない。

 

 だがそれを知る必要も無い。理由なんてどうだっていい。とにかく、まずは彼女を地面に叩き落とそう。

 魔力の流れを目で捉えられるエアだからこそ、戦況は理解している。最初の一撃で赤組の生徒は運悪く一番多く巻き込まれた。まだ戦闘不能にはされてなくてもダメージを負った生徒も多く、戦況的には一番不利だ。だからこそ、自分が頑張らなければいけない。

 

 

「そこのお嬢さん。なにやら思い詰めた顔をしていますね。ですが、何かに悩み考えることが出来るその思慮深さと真剣な顔は実に魅力的だ。良ければ、僕と婚姻を前提としたお付き合いをしてくれないか?」

「ふえ?」

 

 

 間の抜けた声が思わず出る。

 そんな自分より間の抜けたセリフを吐いた相手が、目の前にいる。

 

 いや、なんで人が居るんだろう。

 物陰に隠れて、今は魔力も切っていた。探索魔術からすれば今のエアは透明人間。あらゆる魔力的な観測では発見できないはずなのに。

 

「女性がいたならば口説く。これが僕のモットー故に、こんな戦場の真ん中というロマンのない場所での言葉を失礼」

「いや待って! なんで僕の場所がわかったの!?」

「はっはっはっ。君ほどの美人、世界のどこに隠れていようと見つけてしまうに決まっているだろう? ……ねぇ、エア・グラシアス?」

 

 目の前の敵が剣を抜こうとする。瞬間、エアには彼の体に張り巡らされる身体強化の魔術が視覚的に捉えられる。そして、体内を流れる魔力の動きが彼の次の動きを予測する。

 

 剣を抜いて、魔力を纏わせた振り下ろし。対応するように剣を構えて魔力で強化をする。

 

 

「ぎっ!?」

「ここは戦場だ。女性への蛮行、許したまえ。話の続きはお茶でも混じえながらだ」

 

 

 エアの予測した未来とは全く別。

 剣すら抜かず、男の蹴りがエアの無防備な腹に突き刺さりその華奢な体をゴム毬みたく、瓦礫と共に吹き飛ばした。

 

「けほっ、なん、で?」

 

 内臓を叩かれるのはまずい。すぐさまいつものように全身に魔力を巡らせるが、それが意味することを思い出して瞬時に真上に障壁を張る。

 

「見つけた! エア・グラシアスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……さん、あの、お久しぶりですね、へへ……」

 

 砲撃が浴びせられ、煙が晴れたその向こうには何故か顔を真っ赤にしてちょっと目を逸らしているリィビア・ビリブロードが浮かんでいた。

 すぐに跳んで彼女を切り落とそうとするが、もう一つの視線を感じてエアは跳ばずに、両者に牽制を入れるように軽く炎を放つ。

 

「うわっ、……は? まさか牽制? そんなもの、私達の舞台に必要だと? エアさん?」

「落ち着きたまえリィビア・ビリブロード。何事も初手から踏み込むのは良くない。まずは距離感を探るのは恋愛でも定石だろう」

「出会い頭に告ってくる頭のおかしい凡人のセリフじゃないだろ。アウル・ノムト」

 

 アウル、とリィビアに呼ばれた男を見てエアは思い出す。

 アウル・ノムト。緑組のリーダー。『輝剣(フォトルム)』の名を冠する男。デウスの記憶でも、かなり鮮明に映っていた強者。騎士団長の一人であるレジェ・ノムトの息子。

 

「何を言ってるんだいリィビア。女性に対して口説かないのは無礼だろう」

「清々しくカスなこと言ってんじゃあないよ。これ以上汚ぇ口でエアさんの前でお喋りになさるようならばお消し炭にして差し上げますぞクソが」

「ははっ、エア・グラシアスの前だと挙動不審になり、そこに僕がいることで口調がバグり始めてる君も素敵だね」

「バカにしてやがりますだろ!? テメェ!」

 

 ……エアはちょっと引いた。

 知ってる相手の、密かにすごいと思っていた相手の知りたくない一面とショートコントみたいなやり取りを見せられて、ほんの少し、帰りたいなという気持ちが湧いてきた。

 

「おっと、油断」

「したね?」

 

 そう思って僅かに筋肉に籠っていた力が抜けた瞬間、空からの砲撃と魔力の斬撃がエアへと飛んでくる。だがそれは攻撃の一瞬前に魔力の流れで読めていた。

 淡々と、単純作業を繰り返すような手並みでエアは砲撃を切り捨て霧散させ、斬撃を反対の手の指で止める。

 

「ロジェーナ、今だ」

『了解』

 

 その攻撃に合わせるように、両手を動かして隙の生まれたエアの頭部へと遠方からの狙撃が着弾する。

 防げないタイミング。それを指示したアウルは若干口角を上げ、すぐにそれを下げる。

 

「は、はふらいらぁ……」

 

 魔力によって形成された弾丸を、顎の力だけで噛み砕きエアは何事も無かったかのようにその場に立っていた。角度的に首が折れる勢いで回ったはずだが、そんなものは関係ないとばかりに無事な彼女という現実が立ち塞がる。

 

『ちょっとちょっと。今のベストタイミングのショット防がれるのは話が違うんだけど。首、気持ち悪いくらい回ったんだけど』

「悪いねロジェーナ。僕のミスだ。今度一日、僕持ちでデートをするから許してくれ」

『それはいいね。アウルが居なければ最高の一日になりそうだよ。次の地点に移動しまーす』

「照れ隠しも教養が感じられて素敵だ。それじゃ、言った通りに頼むよ」

 

 アウルは狙撃手と思われる相手と通信を終わらせ、改めてエアとリィビアを視界に入れて臨戦態勢になる。

 

「さて、リーダー全員が顔を合わせることになるとは。僕達の誰かが落ちればその時点でその組は敗北だから緊張するね」

「仕組んだのはそっちだろうに。よくもまぁ偶然みたいなツラできるものだね。誰が来ようとやることは変わらない。エア・グラシアスを倒して、()()が勝つ」

 

 続くようにリィビアも周囲に侍らせていた魔力球の照準をエアとアウルへと向けて、いつでも発射できるように構える。

 

 威圧感が凄い。

 エアからすれば、それはデウスの記憶と言う物語の英雄そのものの姿だった。第2席と第3席。月の魔術と輝きを纏った訓練用剣を構えるその姿は記憶の中の彼女と彼と全く同じ。

 だからこそ、怖かった。本当に自分がこんな天才達を超える唯一無二の頂点になることが出来るのか。

 

 

 無論、ならなければならない。

 エア・グラシアスが自分である為には、(デウス)を超える必要があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルム・コルニクスは不満があった。

 そもそも、彼女は仕事というものが嫌いだった。社会というものが嫌いだった。

 自分が他者より優れている自覚はあるし、自分がいなければ回らない社会の為に歯車になるのはナンセンス。昔の昔の大昔、嫌な記憶のあの日から自分の為に、復讐の為に生きることを決めていた。

 

「わー! 逃げて逃げてロジェーナ! グラシアスさんに見つかってますよー!」

「幾ら弟子のことだからって慌て過ぎだマグノ先生。幾らグラシアスでもリィビア達に囲まれては簡単に逃げられまい。しかも赤組は最初のリィビアの砲撃でかなりダメージを貰ってる。これは厳しいだろう」

「あ〜どうでもいい。オレは早くリィビアの仕込みが見てぇぜ。アイツが持ち込んだ器具、オレも製作に協力したからよォ〜。オレの息子みてぇなもんなんだよ」

 

 合同訓練は大規模なイベントだ。

 負傷者だって沢山出るから、それに備えて治療系統の責任者であるアルムは開始早々、主にいきなり地形を変える勢いの攻撃をぶちかました天才のせいで忙しなく治療に動いている。

 

「所詮学生のお遊びだと思ってたけど、こりゃ面白くなりそうだな。酒持ってくりゃあ良かったな」

「いいですね〜。私もオベリ先生とはお酒でも交しながら教育方針についてお話したいです。ラクシャ先生も今度どうです?」

「ん、マグノ先生……一応勤務中」

「一応どころか君たちの後ろでめちゃくちゃ忙しく働いてる人がいるんだけど!」

 

 休日みたいな雰囲気を出している3人の先生を見て、さすがのアルムも文句を漏らした。何故自分がこんなに働いてるのに、コイツらは寛いでいるんだろう。

 

「いやー、私達は前日までほぼ休み無しで働いてましたし……この後地形整備も待ってますし、今くらいはどうか……」

「オレは転送装置系全部組んで提出するってやることはやってんだ。文句言わせねぇぞ」

「ん。私は治癒系統の才能が全くない。手伝えることも無い」

「いーやーだー! 働きたくない〜! 疲れた! おぎゃー! ジョイー! コーヒー出してー!」

 

 労働への抵抗感からか、赤子帰りを起こしたアルムは目の前に同僚がいる中でみっともなく地べたに寝っ転がって駄々を捏ねだした。あまりに憐れなその姿は、弟子が見たらいつものようにとても悲しい目をすることになっていただろうが、同僚達は「いつもの事か」と特に反応をしなかった。つまりいつも通りである。

 

「前から疑問だったんだけどよォ。なんでアルムはそんな働くことが大嫌いな社会不適合者のお手本みてぇなセリフ吐き出すくせに、わざわざこの学校の教師になんてなったんだ?」

 

 アルム・コルニクスは謎が多い。

 名門である騎士学校の教師なんて、なろうと思ってなれるものでは無い。マグノもラクシャもオベリも、3人とも学園長であるギガトによりスカウトされた人物だ。そして元々3人とも前職でそれなりに有名になっている。

 対するアルムは何もかもが不明。前歴、前職、経歴から出自。唯一わかっていることは学園長の古い知り合いであり、ジョイ・ヴィータの師匠であるということ。

 

 そんな怪しさ満点の女ながら、顔を出して教師をさせろと学園長に言うだけで何故か治療系統の責任者に抜擢されている。

 

「私は教師になんてなりたくなかったさ。なんで知りもしない人間の治療なんて面倒なことしなきゃならないんだ。しかも、それをしなきゃ金が得られない。最悪。私は私の為に生きて金とか欲しい」

「えっと……教師、ですよね?」

 

 恐る恐る確認を取るマグノに対して、アルムは静かに首を振った。

 お世辞にも、自分は教師やら何やらに向いているとは思えない。

 嫌いなのだ。何かのために生きるという行為が。誰かに、未来に期待を込めるという行為が。

 

 それが良い方向に動いた試しがない。期待して、償って、謝って、祈って。そういった行為を信じて生き続けた結果として、アルムは人里離れた山小屋で何時かアイツを殺すことだけを考えて暮らすろくでもない復讐者に身を堕とすことになっていた。

 

 ……そんなろくでもない人間でも、光というのはつい見てしまう。

 

 

 こんなろくでもない生き物を師匠と呼んでくれた。

 こんな私を慕って、頼って、共に生きて欲しいと願ってくれた。

 懲りずにこの人の未来を見てみたいと、黒の瞳が願ってしまったのだ。同じ夢を見たいと思ってしまった。

 

 

「期待したいと思ったからかな。だから、見守っていたいと思ったんだよ」

「……なんだ。アルム先生、きっと教師にすごく向いてますよ」

「それはないよ。それより、観戦ばっかしてるならうちの馬鹿弟子はどうなってるか教えてくれる」

「はーい。ラクシャ先生さっき近接戦闘系の子のやつ見てましたよね? そこにそれっぽい影いませんでした?」

「ああ……グッタカヴトのところか。ちょっと待て。ん、居た」

「居ましたよ〜。えーっと…………アルム先生」

「どうした? あの馬鹿弟子、また無様を晒してないだろうな?」

「その、多分もうすぐ戦闘不能で転送されてきますねコレ」

「は?」

 

 訓練開始から約6分。

 まだまだ序盤、これからという時の事だった。

 

 

 

 

 

 









・アウル・ノムト
緑組のリーダーで騎士団長の息子。目に入った美しい女性を口説かないと死ぬ。そしてすべての女性を美しいと思っている。生まれて最初に口説いた女性は母親。
マザコンかファザコンかで言うと圧倒的にファザコン。

・ロジェーナ・ディスカベル
緑組に分けられた生徒でマグノ先生の弟子の狙撃手。アウルとは週二でお茶をしたり、毎日一緒に昼食を摂る程度の仲で付き合ってるつもりはない。平均的な背丈と蜜柑色の三つ編みが逆に目立つくらいこの学校にはデカいか小さいかの二択しかない。

・オベリ・ヒエロミッド
魔導器具の開発担当。比較的最近教師になったので社会性がないが、師匠よりはある。最近は研究室にリィビアがよく出入りするので面倒を見ている。だらしなく髪を伸ばして髭も伸ばしっぱなしだが既婚者。




・アルム・コルニクス
社会性×の師匠。
他には恋愛×とか付いてる。


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