逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
ここまで面倒な三つ巴と言うのもそうそうないだろう。
ファルセルダの『
こうなってくると誰も下手に動けないと言うのが定石。じゃんけんでも全員違う手ならば仕切り直しになるというもの。
だがそれは、あくまでじゃんけんならばの話。残念ながら現実ではそううまくは行かない。具体的には、感情やら何やらの理由で一人が集中的に狙われる時があったりするからだ。
今回でいえば俺がね。
何故か2人に対して因縁作っちゃってるんだよね。
「お前、邪魔するんじゃないぞ! ヴィータにリベンジするのは僕だ!」
「なんなんすか〜! 先に見つけたのはアタシっすよ!?」
「そんなもの戦場なら関係ないだろ!」
だが、ファルセルダとカウムは協力して俺を倒す、と言った様子ではなくあくまで自分が倒したいのに相手が邪魔、と言った感じだ。俺はこれを上手く利用してとにかく誰でもいいから味方と合流。最高の未来はクラキアと合流できることだろう。
アイツはアレでも未来では6席に名を連ねるような天才であり、俺とアイツが合流出来ればアイツが言ってた作戦の成功確率も上がる。
遠くに見えた爆発と閃光。
ほぼ間違いなくリィビアがエアを捉えた。そしてそうなってくると間違いなく多勢に無勢の状況をエアは強いられてるはずだ。
……だが、エアならば心配する必要は無いだろう。
防御に回られたら攻めきれないまでも、負けるようなことは無いはずだ。デウスが同じような状況になったらそうだろうからな。ならばやはりエアの事は一旦置いて、今はクラキアとの合流が先だ。
「……よーしわかったす。全員ぶん殴って終わり! わかりやすいっすね!」
「僕も決めたよ。邪魔をするならば蹴散らすのみ! 僕の絶技をとくと身に刻め!」
「頼むから2人で仲良く殴りあっていてくれ!」
善は急げ。
先程までは体の正面を敵に向けながら後退していたが、決めたのならばもう一直線。背を向けて走り出す。
「あ! 逃げたっすよ!」
「そうだな。ほら、先に追っかけたらどうだ? 僕も後から追っかけてやるよ」
「むー、後ろから刺される気しかしねぇっすねぇ」
「この戦いはそういうものだろう。ほら、行った行った」
「うん、じゃあ不安要素は排除してから行くっすね」
「え?」
次の瞬間、土砂崩れのような岩が崩れる音とファルセルダのものであろう悲鳴が俺の耳に届く。そしてそれから間も無く誰かが俺の後を追って走ってくる音。
何が起きたかは振り返ってはいないので推測の域でしかないが、とりあえずファルセルダは、うん、ドンマイ。多分エアに続いてカウムのこともトラウマになったことだろう。
「なんで逃げるんすかー! もう邪魔者は倒したからタイマンするっすよ〜!」
誰があの岩山みたいなゴーレムを拳で砕いたであろう女とタイマンするものか。あんな拳をまともに受けたら体が抉れること間違いなし。幾ら治療担当に師匠が控えているからといって進んでミンチになるほど馬鹿ではない。
ミンチになるとね、治癒してもらう時も筋繊維が絡まるような感じになってめちゃくちゃ痛いんだよ。
そうこう逃げていると、遠くで爆発が起きる。
遠い戦場で光を纏った剣士と真っ黒な輝きの月が目に入る。アウルとリィビアだろう。という事は、近くでエアが戦っているはずだ。
「そういえばこういうの鬼ごっこって言うんすかね? アタシ、あんまりこう言う遊びしたことないから楽しいっす!」
「俺は全然楽しくないけどなァ! 背後から殺人パンチが迫ってきてるんだよ!」
「失礼な。まだ殺したことは無いっすよ」
まだってなんだよまだって。殺す予定あるのか?
全く、これだから天才というものは本当に困る。いつだって、どんな時も楽しそうに戦いやがる。俺が負けないように必死に知恵を搾って戦ってる時も、コイツらは負けるかもしれないギリギリの焦燥と、勝機を捉えた快感で本当に楽しそうに戦ってくる。
「……羨ましいよ、本当に楽しそうで」
「そりゃ楽しいっすからね。こんなにワクワクするイベント、初めてっすよ」
カウムはつり上がっている口角を、抑え込むように、はたまたさらにつり上げるように指で弄りながら呟く。
「みんなが本気で、自分の強さを証明しようとする。自分を自分で示そうとしている。こんなに誰かを近くで感じられる場所は、きっとこの学校にしかない! こんなに自分が自分でいられる場所は、きっとこの戦いの中にしかない!」
だから、と言いたいのか。
カウムは俺を指さして、この学校の人間であることを示すかのように獰猛に笑ってみせた。
「そんなに楽しそうに笑って。こっちの方が羨ましくなるくらいっすよ」
あぁ、そりゃそうだ。
俺にとって、カウム・グッタカヴトは手の届かない星、目指すべきで、越えられなかった壁の1つ。そんな相手が俺を見て、そんな相手と同じ土俵で戦ってる。
俺は戦うのは決して好きじゃない。でも、強くなることで自分を満足させる道を選んだ人間だ。
そうである以上、結局のところ俺も獣だ。
こんな悪夢のような戦い、嫌で嫌で仕方ないと同時に、楽しくて仕方がない!
全身の細胞がお前は負けると叫んでいて、それでもなお負けない為に叫びを飲み込んで全力を搾り出す。
「お前みたいな戦闘狂と一緒にするな。俺は、楽しくなりたいから戦って勝つんだよ。あくまで手段だ!」
「つれないっすねぇ。どうせ笑うなら、2人で楽しく笑い合いましょうっす! ──────そっちの方が、ずっと楽しいから」
満面の笑顔でカウムが踏み込む。
対して俺は逃げるのをやめて、体の正面からカウムに向かい合う。想像より速い、動きも鋭い。ただの拳なのに、当たれば肉体がひしゃげる嫌なイメージが頭を過る。まだ間合いの外なのにそこまで思わせる何かを彼女の拳は秘めている。
けれど、それがわかっているのならば問題ない。
負けるかもしれない、そんなイメージこそ俺の『
剣と拳が交わるまで、あと1秒未満。
そんな瞬間に、大地が揺れた。
「ッ!」
「この揺れ……まさか!」
俺よりもカウムの方が一瞬早く反応した。
その場から飛び退いて、俺から大きく距離を取る。この揺れは間違いない。と言うか、単身で遠距離からでもわかる揺れを引き起こせるやつなんて向こうで戦ってるトップ3人以外でそうそういてたまるか……と思いたいが、カウムも踏み込みで似たようなことできるんだよな。
まぁ、それはそれとしてだ。この揺れ方は俺が体で覚えている。なんせ、前世で一度蹴散らされた揺れだからだ。
「『
瓦礫の山を粉微塵にしながら、揺れの主が現れる。
小さな身の丈の二倍近くはあろうかという大槌を振り回しながら暴れ狂う粉砕騎士、クラキアの登場だ。
「うわぁ!? なんすかあの槌、食らったら死ぬ死ぬ!」
先程まで人が死ぬタイプの拳を振り回していたカウムも、さすがに焦る程の威容の大槌。実際、単純な破壊力で言えばリィビアの砲撃すら上回るであろうクラキアの大槌の見た目は対人というよりもはや対城塞。小さな家ならそのまま叩き潰せるような代物だ。
とにかく、今ここでクラキアと合流できたのは大きい。まずは協力してカウムを倒して、それから……。
「──────あ?」
何かがおかしい、と遅れて気がついた。
クラキアの視界に俺が入っているならば、彼女はまず最初に声をかけてくるはずだろう。そもそも、合流は彼女の方にメリットが大きい。この後、クラキアの言っていた『作戦』を実行するなら、俺は近くにいてくれた方が助かるだろう。
クラキアは味方だから。
そう考えていたからこそ、カウムのように対処することが出来なかった。
表情一つ変えず、何人かの生徒を跳ね飛ばしながら突っ込んできたクラキアの視界に。
俺が
「クラキ──────」
「あれ、今の声……あ」
大槌が振るわれて、全身を衝撃が貫く。
巨大な魔獣にでも轢かれたかのような衝撃と共に、ぼんやりと左半身が動かねぇなと俺は考えていた。
「……え、ちょっと待って、あれ死」
「死んでませんので安心してください。一応、まだ戦闘継続は出来そうですけど……痛そうですね。でも、ビリブロードさんとの戦闘の時の方がボロボロでした大丈夫じゃないですか?」
「いやあれ左腕イカれただろ。さすがに終わりだよ。治す準備しといてやれよアルム先生」
この世の終わりのような顔をしてちょっと泣きそうになっているアルムと、それを慰めてるのか追い打ちをかけてるのか分からないマグノとオベリを他所にラクシャだけは中継をずっと眺めていた。
「クラキア・ソナタ。……おかしいな。冷静で、視野の広い生徒という印象。なにか精神系の干渉?」
「いえ、多分違いますね。あの子は……ちょっと事情があるんですよね」
「うちの弟子を危うくミンチにしかけるような事情? さすがに、フレンドリーファイアで弟子が退場は……テンションが……」
「……あの子は7年ほど前、『魔女』の被害にあっています」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私、急がなきゃって、気が動転して、どこに行けばいいのか、分からなくて」
クラキアが周囲をとにかくぶっ壊してできた瓦礫の僅かな隙間に身を隠して俺とクラキアは体を休めていた。相当数の生徒をぶちのめしながら進んでいたのと、カウムもクラキアが突っ込んできたゴタゴタで俺を見失ったのか、辺りは先程までの戦闘の喧騒が嘘のように静かになっていた。
「気にすんな。お前みたいな大規模攻撃持ちは集団戦ではこういうリスクも付き物だ。リィビアを見てみろ。アイツ間違いなく味方を巻き込んでいるのに全く気にしてる様子なかっただろ」
「それはどう考えても彼女に人格的問題があります」
相も変わらず、クラキアの表情は感情が感じられない冷たい無表情のまま。声色にもいまいち焦りや不安は見えない。
ただ、瞳や舌が不安や焦燥でなんとなく震えているように見えて、呼吸も不規則になっている。
「クラキア、大丈夫だ。俺は……まぁ何かに跳ね飛ばされるのには慣れてる。魔獣に師匠に、魔女の眷属。色んなものに跳ね飛ばされてるから余裕だから……」
彼女を落ち着かせる為にそうは言ったが、今のはかなりいい一撃だった。
もう少し反応が遅れてたら意識を狩り飛ばされて退場だっただろう。左腕はどう考えても折れてるし、左足も力が上手く入らない。笑ってしまうくらいの満身創痍だ。
強がっているというか、強がってないともう倒れてしまいそうなくらい体が痛い。
「魔女……魔女、魔女、魔女……!」
「クラキア……? おい、どうした?」
「大丈夫、大丈夫です。潰すのは得意ですから、壊すのも砕くのも、私に任せてください。どんな物も私が砕いて見せます。私はもう負けませんから」
しかも何やらクラキアの様子がおかしい。
瞳がどこを向いているのかも分からないし、これはずっとだが表情も何を考えているか分からない。どこか、俺でもここでもない遠くを見ながらブツブツと呟き続けている。
「心配しないでください。いつも通り、全部叩き潰しますから」
「おい待て、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。
初めて、クラキアの顔に感情が見えた。
血の気が引いた、というのだろうか。表情が変わった訳では無い。けれど、確かに『ロゼア』という名前は今、クラキアにとって口にしてはいけない言葉だったのだろう。
「ロゼア……?」
「あ、違う、違うんですジョイくん。君は、ロゼアじゃない、ロゼアは、だって、あの時……」
ざり、と。
クラキアの爪が彼女の頬を抉った。血がポタポタと垂れて、そんな血の流れを見てクラキアが人間であることの証明だと、誰かがホッと胸をなでおろした気がした。それが俺の内心なのか、クラキアの気持ちなのかは分からない。ただ。その血を見て誰かが確かに安心した。
「……お見苦しい所をお見せしました。まずは、ごめんなさい。焦って、視野が狭まって、味方を、それも私に協力すると言ってくれた君を、殴るなんて、どうかしてますね」
「だから事故だから大丈夫だって言ってんだろ。あんま気にするな」
「これ私が言うのは絶対におかしいんですけど、『
それはそうなんだけど、俺の周りの奴らそういうのを誤爆しても誤爆されてもみんな笑顔で済ませそうな奴らばっかりだから感覚がおかしくなってるのかもしれない。アーリスですら「避けられない方が悪いんじゃないかな?」とか言うタイプだし。
「君は優しいんですね」
「この学校の天才共は常識が無さすぎるだけだ。俺は普通のことしか出来ねぇよ」
「いいえ、責を背負うということはどれだけ優秀な人でも簡単に出来ることじゃないです。他人の咎を自分で背負い、自らのモノにして許す。君は、優しすぎますよ」
それに比べて、と。クラキアの台詞に段々と自嘲の言葉が増えてくる。先程の失敗が相当堪えているのか、以前見せていた無表情な強気さは影を潜めて心做しかただでさえ小さい体躯がさらに縮んでいるような気がする。
「そんなものじゃないよ。負けた時、誰かのせいにしたくないだけだ」
「それを強さだって言ってるんです」
「違うんだって。俺が嫌な思いをしたくないからそうしてるだけだ」
俺は自分が楽しいと思えることだけをしたい。
誰かが俺に関することで悩んで、苦しんで、そういうことを考えると楽しい気分のどこかで喉の奥に小骨が突っかかったみたいな気分になる。それは、最初から楽しくないのよりもずっと嫌だ。
言語化できないけれど、なんか嫌なのだ。
「結局、嫌なことから逃げてるだけってことだ」
「変に気取らないのも、凄いですよ。私だったらきっと自慢してしまう。私はこんなにすごい人間なんだと、誰かに言ってしまう」
「めんどくせぇなホント」
クラキアが呆気に取られたような顔をしているのに気が付いて、今の言葉が口に出ていたことに気がついた。
いやだって、コイツ何言っても自分を下げることに繋げるんだもん。しかも俺からすれば、クラキア・ソナタという人間は憧れ焦がれた天才の1人だ。腹立ちはしないけど、ここまで自己肯定と自己否定を拗らせてると面倒臭いと思うのは仕方ないだろう。
「ふふ、前も言われましたし、私ってやっぱりめんどくさいんですかね?」
「あ。あぁ、結構面倒だと思うぞ」
「なら直せるようにしたいですね。私は、強く在ることが出来ないのなら、少しくらい他の部分を良くしなきゃ」
「……そうだな。強くなれないならその方がいい」
そこで会話が途切れた。
静かな二人きりの空間では、戦いの音がより近くに聞こえる。実際、先程よりも近くで戦闘が起きている。あんまりゆっくりはしていられなさそうだ。
「えっと、じゃあそろそろ体、動く? これ私が言うのはなんか違う気がしますけど……」
「その前にいいか? 実はな、俺はこう見えて昔は絵本とかが大好きだったんだ」
「なんですかいきなり」
困惑しているクラキアを他所に俺はそのまま話を続ける。
「その中にな、めちゃくちゃカッコイイ英雄がいたんだよ。どんな苦境も、なんでもないように切り裂いて、流星みたいに駆け抜けて、いつだって俺の前に立って……いるみたいに思える、そんな絵本の中の英雄がさ」
「そ、そうなんですか……」
「俺は一度、そいつに絶対に追いつけないと心が折れた。でも、チャンスがもう一回だけ許されたんだ。……どうしたいのかはまだよくわかってない。でも、追いついて、アイツが見ている景色を見てみたいと思ったんだ。そうしたら、きっと楽しいんだろうなって」
「……君は、その英雄さんが大好きなんだね」
「そうじゃねぇよ」
「君はその人を一人したくないんだよ。だって、1人はきっと楽しくないだろうからね」
……そうなんだろうか?
俺はアイツを、デウスを、エアを。そんな風に思ってるんだろうか。困ったな、そんなつもりじゃなかったのになんか変な方向に思考が飛んでいってしまう。このことは考えちゃいけない。
「で、なんですか急に」
「俺は昔の話をした。小っ恥ずかしい昔の話を。お前も言わなきゃ不公平じゃないか?」
「ふふっ、なんですかその気遣い。ちょっと気持ち悪いですよ」
「お前な〜! 人が気を遣ってるのにお前な〜!」
「褒めてるんですよ。君って、結構女の子にモテるでしょう。そうされちゃぁ、喋らないわけにはいきませんね」
クラキアの自己肯定感のブレは、何となく覚えがあった。
多分こいつは、昔大きな挫折をしている。決してシンパシーを覚えたとかそういうのではないが。
何となく、見過ごせなかった。
俺は師匠にその辺りを助けて貰えたからこそ、俺にとっての師匠に巡り会えなかったであろうクラキアを。
「じゃあ、言いますよ。……めんどくさいとか言わないでくださいね。傷つきますから」
クラキアはゆっくりと口を開く。
起伏なく、淡々と、記録書の中身を語るように事実だけを淡々と。
「7年前、私は人を殺しました」
・カウム・グッタカヴト
ナチュラルな戦闘狂。特に過去に何かあった訳では無いが、殴り合って自分の骨が折れたり相手の血管が破れたり、そういうのを感じるのが好き。故郷や家族からの扱いが狂犬なので反動で同級生に対してやたら距離が近い。リィビアと会話が出来る貴重な人材。なんとリィビアと会話が出来る。しかもリィビアと会話が出来る。