逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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25.魔女の軛:クラキア・ソナタ

 

 

 

 幸福というものがどういうものなのかは分からない。

 どんな色でどんな形なのか、想像すらつかないけれど一つだけ言えること。

 

 自分はきっと幸福というもので満たされている。

 

 それが、クラキア・ソナタという人間が幼いながらも強く感じていたことだった。

 自分は幸福に包まれていて、でも世界は優しいばかりじゃない。だから守るための力がある。この力は、誰かを守る為に使えと。顎獣様がそうやって力を授けてくれたんだと。

 

 その前提を全て失う日まで、盲目的に信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どこから話しましょうか。私が幼い頃からスーパーパワーの天才つよつよガールだってことは聞きたいですか?」

「やっぱ戦いに戻るか」

「冗談です。まぁ、前提の部分なので軽く聞き流してください」

 

 相変わらず感情が読み取れない表情だが、何となく楽しそうなクラキアを見てどんな感情で聞いていればいいのか分からず、自然と感覚が麻痺している左腕に手が伸びてしまいそうになり、思わずクラキアの顔を見てしまう。

 

「ソナタ家は普通の……平民の君からすれば普通の貴族ってなんだって話かもしれませんが、私の価値観からすれば普通の貴族です。小さな田舎を治めていて、私は草原で走り回ったり、たまに木とかを植えなおしたり、建築を手伝ったりして暮らしてました」

「ごめん、なんて?」

 

 草原で走り回ったり、っての後に続いたのが明らかに子供がすることじゃなかった気がするんだけど。

 

「私は顎獣様の巫女ですからね。生まれつき力が強いんです。人間の頭とか握り潰せます」

「俺の頭を触りながら言うのはなんだ、脅しか?」

「君は私を年下の女の子か何かだと思ってそうなので、これでも誕生日は早い方なので、少し威厳を出そうと思いまして」

 

 威厳の出し方までマウントを取ろうとするの本当に悲しきマウント生命って感じだな。

 でも、そういう人間性も仕方ないところがあるんだろうか。例えばリィビアは生まれとその天才性故にどうしようもないほど性格が歪んでいたし、結局人間を作るのは過去なのだ。

 その点でいえば、俺は人生2週目なので実年齢は今のクラキアの倍以上ある、経験豊かなナイスガイということになる。ちょっと冗談っぽく考えたが事実として豊富な人生経験というのは俺の数少ない強みだったりする。

 

「残念ながら、俺に大人の魅力を見せつけたいならあと10年は歳取ってからにするんだな」

「私は遺伝的に間違いなく背丈はともかく胸はこれくらいのサイズで成長終了ですよ」

「その俺が巨乳好きみたいな風潮、どこから流れてるの?」

「さぁ? 有名ですよ、君はおっぱいの大きな母性と無邪気さを兼ね備えた女の子が好きって」

 

 なんで俺の性癖が有名な話になってるんだよ。一体前世で俺が何をしたと聞きたくなるレベルだ。強いていえば何も成せてないだろうけどそれが罪なら人生は人には厳し過ぎる。

 

「って、さっきから露骨すぎるんだよ」

「何の話ですか?」

「お前の過去のこと。はぐらかしてるだろ」

「…………まぁ、そうですね。聞いて欲しいけれど、いざとなったらなんか、怖くて」

「お前……ホントめんどくさいな」

「言わないでって言ったじゃないですか。もう、じゃあ言いますよ?」

 

 クラキアは深呼吸をして、やっぱりやめたさそうにチラリと俺の方を見る。別に俺としては強制する訳では無いけれど、多分これは聞かないといけないものだとは思う。

 挫折は、1人で抱え込むには重すぎるから挫折なのだから。

 

「ソナタ家の当代当主、つまり私の父ですね。彼には子供が2人居ました。双子の兄妹です。ロゼア・ソナタとクラキア・ソナタです」

 

 兄、か。

 クラキアに兄弟がいるという話は今世でも前世でも聞いたことは無い。つまり、そういうことなんだろう。

 

「私はあまり頭はよくありませんけど、ロゼアは優秀な子でした。真面目で、思慮深くて、優しい人でした。きっとソナタ家の、その周りの人を良い方向に導いてくれる。いつでも私を笑顔にしてくれる、そんな優しい兄でした」

 

 クラキアの手が、無意識に先程引っ掻いた自身の頬の傷に伸びた。

 カリカリカリと、逃げ場を求める袋のネズミのように藻掻くその指が傷口を抉る。ぐちゃぐちゃと、残酷な水音が響くのに反してクラキアの呼吸は落ち着いていった。

 

「痕になるぞ」

「こうでもしてないと、罪悪感で頭がおかしくなりそうなんです」

「そうか」

「止めないんですか?」

「止めて欲しいのか?」

「……優しい人ですね」

「そこは厳しい、だろ」

 

 コイツはほかの天才の例に漏れず、感性が独特なんだろう。俺が何をしても、優しいという言葉で括ってしまう。それほど普段から優しくされ慣れてなくて、なんでも優しさだと思ってしまうのか。

 でもあのマウント魔は普通に親以外優しくしてくれないだろうしなぁ。自業自得かもしれない。

 

「あの日は、雨が強い日でした。私は、外で遊びたいと駄々を捏ねて、ロゼアがさすがに風邪をひくよと止めて、2人で部屋で本を読んでました。そんな私達2人の部屋に、アイツはあらゆる警備をすり抜けて、まるで自分の部屋に戻ってきたみたいに、入ってきたんです」

「アイツって、魔女か?」

「はい。綺麗な女の人だと、最初は思いました。私は、腹立だしいことに最初彼女を妖精か何かだと思ってしまったんです」

 

 確かに、魔女は見た目だけならば絶世の美女と言っても過言ではない。

 本当に美しく、だからこそ恐ろしいのだ。あんなに美しく見えるものの内側が、あそこまで醜く汚らしく歪み果てているという事が。

 

「それで、私はホントに美人だと思ったので、挨拶しようとしたんですね。今思えば、本当に間抜けですね」

「でも仕方ないのもあると思うぞ。魔女は見た目だけなら本当に美しいと思う」

「どうでしょう。結局、私の判断力の低さが原因だったんでしょう。だって、ロゼアはすぐに何かおかしいと気がついたのか、引き寄せられるように魔女に近づいた私の手を引いて、立ち位置を入れ替えるように、庇って」

 

 クラキアの口が止まり、頬を大粒の汗が伝う。

 頬の傷に染みたのか、ほんの少しだけ彼女の瞼がぴくりと動いた。殆ど無表情である彼女の表情の中だと、その仕草はまるで眉を顰めているようにも見えた。

 

「……意識を失って、目を覚ましたら私の目の前にはロゼアの服を着た、虫の頭のバケモノがいました」

 

 舌打ちしそうになった。

 あの野郎、幾らなんでも性格が悪すぎる。もしも俺の前世と同じことをしていたとしたら、そんなことをした上で、その上でクラキアをあんな殺し方をしたのだ。

 ……どれだけ他者を踏み躙ることに快感を覚えられれば、そこまでのことを出来るのか。俺の頭では理解できないし、したいとも思えない。

 

「魔女は笑顔で、君のお兄ちゃんは頭まで虫になっちゃったから、3時間で元に戻るから我慢してねと言いました。虫になったロゼアは、魔女の言う通り目の前の餌に何も考えず食いつくみたいに、私を襲ってきました」

「俺が言うのもなんだけど、大丈夫か?」

「過去の事です。事実を語るだけなんて、誰にだってできることなんですよ」

 

 当たり前、という言葉はきっと彼女に対しては意味を成していない。

 だって、生まれつき特別な力を持っていて、その時点でも普通とは違う『当たり前』を持っていた彼女が、更に自分の肉親を化け物に変えられて、それに襲われるなんて経験をすれば、きっと大切な何かが歪んでしまう。

 

「言われた通り私は耐えました。必死に押さえつけて、ずっと呼びかけて。ロゼアの頭が裂けて、中から飛び出してきた触腕が私の腹を貫いて、信じられないくらい臭い液体が肉を溶かしてジュースみたいに吸い上げて、我慢して、我慢すればどうにかなると信じて。幸い体が丈夫なのが取り柄だったので、頑張って引っこ抜いては抑えてを繰り返して……もうすぐ3時間ってところで魔女は言いました」

 

 

『意外と大丈夫そうだし、あと1時間追加ね』

 

 

 拳が血が出るんじゃないかってくらい強く握りこまれていた。

 感情の無い瞳が、燃え上がるように揺らめいて。それを告げられた時の幼いクラキアの絶望と、楽しそうな魔女の姿が目に浮かんでしまう。

 

「耐えました、耐えてやりました。そしたらまた1時間って、なんで誰も助けに来てくれないのかとか、なんで私がこんな目にあってるかとか、だんだん何を考えても苛立ちと恐怖で脳が締め付けられるみたいに痛くなって、何も考えられなくなって、チクタクチクタク時計の音が頭を割るみたいで」

 

 遂にプツリと、何かが切れる音がして一筋の雫が地面に落ちて、地を赤く染める。

 

 

「私は、耐えられずにロゼアを殴り殺しました。思いっきり頭を殴り付けて、風船みたいに中身が弾け飛びました。それを見て、もう大丈夫だって、あの時の焼け付くような安堵を今でも覚えています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやースッキリしました。聞いてくれてありがとうございます」

「お前どういう情緒してるの?」

 

 なんかスッキリしたような雰囲気を出してるクラキアに対して、俺はと言うと普通に重い過去を話されてどういう反応をすればいいかわからなくなっていた。

 

「まぁそれからは、魔女は私を散々煽り散らした後に帰って、私はその時のショックで物理的に表情筋が上手く動かせなくなってこの無表情になったってことです」

「ねぇ待って、ほんと待って。どういうテンションで俺聞けばいいの?」

「さぁ、笑ったりしたらどうですかね? 私はちなみに今笑顔です」

「分からないし今の話聞いた後だと更に重いんだよ」

 

 うわぁ……、俺結構酷いことコイツに言ってきてなかったか? 

 無表情なことも触れちゃいけないことだったかもしれないし、過去の自分を殴るまではしなくともこのこと教えておきたい。

 

「本当に気にしないでください。所詮は過去のことです。……ただ、そんな過去のことにいつまでも囚われているのが私なんです。負けたくないのは、あの時自分の弱さが原因で大切な人を失ってしまったから。あんな思いをしたくなくて、怖くて怖くて、逃げ続けているんです。私は、臆病者です」

「それは、なんか違うだろ」

「違くないです。私は弱いんです。弱いから、負けないことしか考えられない。嫌なことから逃げる腰抜け。あぁ、魔女も言ってましたね。『何かあったら駄々を捏ねて現実から目を逸らす──────」

「あぁもう! 魔女のこととか、一旦考えるのやめろ! お前ホントにめんどくせぇ!」

「あ、言わないって約束したのに」

 

 だってコイツ本当に面倒くさいもん。

 ネガティブのくせに自分を認めようとして。

 自分を認めようとしてるのに、その為の手段が自分を否定することで。

 

「そりゃあ、自分を許せないのは分かるけど。悪いのは魔女であってお前じゃないだろ」

「そうかも、しれません。でも私は魔女に負けた自分がダメだと思うんですよ。勝てれば、何も失わなかった」

「無理だよ。ガキの頃のお前じゃ魔女には絶対勝てなかった」

「だから忘れろって、言うんですか? そんなもの忘れてしまえと、あの後悔も何も無かったことにしろって言うんですか?」

 

 そうじゃない、そうじゃないんだ。

 絶対に勝てない相手ってのは、確かにいる。今の俺がエアに勝てないみたいに、魔女に勝てないみたいに、あらゆる可能性が上手くいったとしても越えられないものは確かにある。

 

「……でもわかんねぇよ」

「え?」

「いや、悪い。わかんない。お前がどうすればいいのか、俺がどうすればいいのか、分からないんだ」

「は、はぁ」

「ほんとごめん……」

 

 何か、クラキアの為になることをしてやりたいとは思った。でも聞いてみるとやっぱり俺がどうこうできるほど単純な話でもなくて。

 自分には前世の記憶があり、精神年齢が周りよりも上だから悩み事の相談とかなら何か力になれると思ったけれど、本当の意味で『大人』になることが出来てないんだと自覚する。

 

「俺は、どうしたらいいんだろうな? なにか力になってやりたいんだけど」

「……そんなの、私には分かりませんよ」

「そうだな……お前の言葉を借りるなら、1人はきっと寂しいから」

 

 失うことを恐れて、1人で何もかも頑張るのは強い事だけど。

 それはきっと寂しいから。誰かが1人で居ることを俺はあんまりよく思えないのだろう。孤独が好きとか、1人がいいとか思ってる奴でもない限りは、その背中はあまりにも寂しそうなものだから。

 

「だから、もっと誰かに頼っていいと思う」

「私は最初から自分1人で勝てないから、負けたくないからと君に協力を申し込んだはずですよ」

「そうじゃなくて……なんなんだろうな。もっと頼れって話だよ。歩けないなら杖を付くんじゃなくて、誰かの肩を借りてもいいとかそういう感じ」

「全然何言ってるかわかんないです」

 

 今ちょっと師匠のことを尊敬し直した。

 あの人、褒めたりする時はしっかりと本人に伝わる言葉で伝えてくれたし。誰かを支えたり励ましたりすることが出来るのってすげぇ事なんだな。こんなに難しいって思わなかった。

 

「でも……言いたいことは伝わります。励ましたりしてくれるんだって、分かりますよ。それくらいは伝わりました」

「それだけでも伝わってくれたなら、まぁ及第点ってことでいいか、な?」

「はい。──────100点満点の及第点ですよ、きっと」

 

 これでいいのかは分からないけれど、何となく多分これでいいんだろうと思うことにして立ち上がる。

 そんな俺にクラキアが手を伸ばした。

 

「立ち上がるのが辛いので、手を貸してもらってもいいですか?」

「俺の方が辛いんだよな。お前にやられた傷で」

「じゃあ、立ち上がったあとは私が支えます。だから、今は立ち上がる勇気をください」

「本当にめんどくさいな、お前」

 

 手を取って、立ち上がったクラキアの体は先程までよりも一回り大きく見えた。相も変わらず感情の無い瞳を何処か輝かせて、繋いだ手に少しだけ力を込めて。

 

「私は負けたくありません。だから、臆病な私を助けてください」

「任せろ。助けられるのは慣れてるから、その経験を活かすときが来た」

「なんとも頼りない肩ですね。でも、……はい。少しだけ、歩くのが楽になった気がします」

 

 満身創痍、勝機なし。

 それでも支え合って歩く俺達の足取りはこの戦場の誰よりも軽いものだと信じたい。

 

 

 

「それで、何か作戦とかあります?」

「ある訳ねぇだろ。そっちこそなんかないのか?」

「助けてください。1人で歩くのは、少し疲れました」

 

 ホントいい性格してんなこいつ。

 しかしアレだけカッコつけたこと言っておいて何も出来ないのはいくら何でもダサすぎる。何かこう、一発で状況を好転させられる何かが無いものか。

 

 そんなことを考えていたら、俺達が隠れていた岩の隙間に見知った影が転がり込んできた。

 

「うひゃー死ぬ死ぬ! ……って、何やっとるんお2人。俺が死にそうになりながら駆け回ってる間にイチャコラ仲良しそうに」

 

 それは満身創痍、ボロボロで髪も乱れて限界寸前という様子のリエンだった。

 冷静に考えたら、一応うちの戦力としてはエアに次ぐクラキアが戦場から離れていたのだ。もうここから逆転は難しいくらい追い詰められているはずだろう。

 

 ……いや、待て。

 

 

「リエン、ちょっといいか?」

「なんや? こっから勝つ作戦とか思いついたん?」

「その通りだ。というわけでお前は死んでくれ」

「理不尽〜」

 

 

 

 まだ戦ってる奴がいるんだ。

 諦めるのは、終わってからでも遅くはない。

 

 

 

 

 

 








・クラキア・ソナタ
敗北恐怖症の無表情マウント魔。自己否定で自己肯定をする矛盾系怪力少女。基本的に自分のことを本心では認めていない。




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