逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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26.黄金世代 4

 

 

 

 

 

 

「ハハハッ! これが噂の『断魔(プレアデス)』! 僕でなければ見惚れて手も足も出なかったな!」

「凡人、さっきから邪魔。エア・グラシアスは私が倒すって言ってるだろう?」

「レディーファースト、といきたい所だが。こればっかりは早い者勝ちというものだろう」

「なんなのこの人達……僕と関係ないところで争ってよ!」

 

 3陣営のトップの戦いは、周囲の者から見ればもはや別次元のモノだった。

 何が起きているか理解ができない。瞬きの度に大魔術が展開され、それが切り裂かれ消えたと思えば彗星のような剣戟が始まるその戦闘についていけているのは、せいぜいが様子を遠くから俯瞰するように眺めていた狙撃手のロジェーナくらいだっただろう。

 後の者は、何が起きているか理解できないまま自分の組のリーダーが倒されないことを祈ることしか出来なかった。

 

「……けほっ」

 

 小さく漏らした咳が、他の2人に聞こえていないことをエアは祈っていた。

 胸が苦しい。自分の肺の動きが鈍っているのが分かる。その気になれば踏み込んで、片方を落とすことは出来るがその隙にもう1人から攻撃を受ける。

 

 いや、そんなもの自分なら対処出来るともどこかで思っている。思えているのに同時に、失敗するんじゃないかと恐れている自分がいる。

 

 期待してもらってる、信じてもらってる、期待されてる。

 そう考えれば考えるほど剣が重くなって動きが鈍くなっていく。それは嬉しいことのはずなのに、それだけがエア・グラシアスの望みのはずなのに、どうしてなのだろうか。

 

「……考える必要は、無いよね」

 

 目を見開き、魔力の流れを読み取る。

 エアの視界は人間のモノとは違う。魔力を可視光以外の『ナニカ』で捉えている。流れ、淀み、その動きを見れば限定的であるが相手がどう動くかを読み取ることだってできる。

 

 

 リィビア・ビリブロード。

 魔術特化の、魔術特化でも前線で戦える程の逸材。前に見た『月虹(メイガス)』は幾ら自分でも展開されれば簡単に破ることは難しい。

 

 アウル・ノムト。

 こちらはバランスの良い教科書のような魔術騎士スタイル。だが、単純な剣の腕だけならば自分でも敵わない。

 更に、彼には1度不意打ちを喰らっている。未来を見えるはずの自分が、何故か全く予測出来なかった攻撃をされた。

 

 

 どちらも踏み込むのは危険、負けるかもしれない。

 いや、そんなことを考えること自体が『デウス』ならしなかったはずだ。勝てる、絶対に勝てると思い込んで、勇気のある1歩を踏み出す。

 

 こんなの全然エア・グラシアスらしくない。

 こんな様子では誰も憧れない、誰も目指さない。臆病な自分を引っぱたいて、足腰に力を込める。

 狙うならアウルから。彼の方が防御面ではリィビアより劣るから。そして魔術主体であるリィビアの方がタイマンになった時にやりやすいとどこか他人視点でそう判断し、視線を動かした瞬間。

 

 

 目が合った。

 アウルとリィビア。2人が同時に自分を見ている。当然であるが、この三つ巴は単純なモノでは無い。エア・グラシアスは自分がどういう存在か理解している。自分でそう振舞っているのだから、誰よりも知っている。

 

 2人ともずっと狙っていたんだ、僕が攻勢に出る瞬間を。

 そう思って、素早く懐に飛び込むのをやめようとしたエアの足が誰かに掴まれる。

 

 

「ナイスだ、ティード。そのまま死んでも離すな」

「無茶なことを。まぁ、アンタの命令なら死ぬ以外では離しませんよ」

 

 

 どこからともなく現れた男が、自分の足首を掴んでいる。

 周囲の状況、相手の顔、それらの情報からエアは刹那の間に相手の情報をデウスの記憶と自身の情報から叩き出した。

 

 ティード・ギオデスタン。

 固有魔術『影縫(ハウンド)』を使う幻覚の使い手。魔術的、視覚的において潜伏という分野に限れば現役の潜入任務などを任される騎士達に並ぶ程の『天才』の1人。

 

 考えるより先に、掴まれていない方の足が動き彼の顔面を3度殴打する。普通ならばそれで意識が刈り取られ、今回の戦闘のルール上意識が無くなったものは強制的に脱落となるはず。

 

「っぅ……聞こえなかったか? 死なねぇ限りは、離さねぇよ」

 

 焦った、攻撃が浅い。

 その程度では意識を刈り取ることもできない。仕方なく剣を振るい、首を切り落とすつもりで攻撃して、刃が首を半分ほど切り裂きかけたところで彼の姿が消える。間違いなく今の消え方は脱落したということだ。

 

 だがそれは決定的な隙を見せたことになる。

 

 エア・グラシアスの1秒。まさに値千金の隙。見逃すほど甘い者はここには誰もいない。

 

「あ」

 

 未来が見えるからこそ、エア・グラシアスはすぐにそれを悟り、体から力を抜いた。

 これはどうやら、自分が2人はいないと捌ききれなさそうだ。天才であるが故に、この場の誰よりも早く自分の敗北を察知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それ、俺の負担大きすぎん?』

『だから死ねって言ってんだよ』

『まぁ私達全員、死ぬほど負担がありますから、変わって欲しいなら役割変わりますよ?』

『だいたいいつもお前が言ってるだろ。──────俺達、親友だろ?』

『それ言ったら否定してくるやんジョイ』

 

 

 

 本当に困ったものだと思いながら、走る。

 これが半分がクラキアにかかっている。残り半分は2人で担当すればいいのだから気楽なものだ。そうは言っても乳酸の溜まった手足は限界を訴えてきてる。

 

 それでも、自分の役割をこなすしかない。

 

 

「…………見つけたっすよ。逃げ足が速いとは聞いていたっすけど、まさかあの状況からここまで逃げるとは」

 

 

 振り向いた先にいたのは、頭から血を流し荒い呼吸を繰り返すカウム・グッタカヴトだった。

 この乱戦だ。彼女も彼女でここまで何人もの相手と戦い、疲弊しているのだろう。条件が同じとまでは言わないが、有利不利が発生するような余地はない。誰も彼もが全力で、己の力を振り絞って、勝つ為に120%の底力で立っている。

 

「アンタも大概しつこいな。なんでそこまで俺を追うんだよ」

「んー、アタシ自分があんまり賢い人間だと思えないんすよ。だから、賢いリィビアの言った通りにやってるってのもあるっすけど」

 

 カウムは軽く体を伸ばしてから拳を構える。

 それだけの動作で、彼女の体から重さが消えたように感じられる。最高の状態だと、構えが吠えている。

 

「リィビア、気難しいところあるんすよ。いっつも誰かを見下してないといけないって、肩に力入れて。だけど、ジョイくんのことを話す時だけっす。見下してないんすよ。頭のおかしい奴だって、可笑しそうに笑う姿を見て思ったんす」

 

 

 

 

 

「あぁ、リィビアをこんなに楽しませられる相手と殴りあったらどんなに楽しいんだろうって」

「つまり戦闘狂ってことでいいんだな?」

「そっすね。ぶっちゃけお互いの骨を砕いて砕かれて、そういう関係になりたいっす」

「どういう関係か全く想像つかないな。仇敵とかそういう?」

「友達以上恋人未満っすかね」

「結構踏み込むな」

「殴りあってくれる人は、好きっすからね。この学校のみんな、私は好きっすよ」

 

 カウムの周囲、全てを取り囲むように水で出来た蜘蛛の巣のような紋様か宙に浮かぶ。

 2度目の『滴穿(セイレーン)』。彼女の魔力量では現在一日に2回が限度のそれを見せたということは、ここで勝負を確実に決めるという覚悟の表れ。

 

 ……だからこそ、申し訳ないと思う。

 

「申し訳ないんだが、うん。このしゃべり方はやっぱ疲れる。()()()()()()()

「…………え!?」

 

 ジョイ・ヴィータの姿がぶれる。

 灰色の髪色が、立ち姿が、顔の形が変わっていく。

 

「初歩の初歩の幻術やから、バレんかホンマに不安やったんやけど……悪いなカウム・グッタカヴト」

「っぅ……いや、いいよ。見抜けなかった私のミスだ。それに、君も面白そう!」

「あの大バカ程楽しませられる自信はあらへんけど、期待には答えられるよう頑張るとするかな」

 

 投擲用のナイフを構えて、カウム・グッタカヴト相手にリエンは真正面から立ち塞がる。

 今の自分では絶対に勝てない相手を前にして、リエンはそれでもなお楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リエンもクラキアもきっと上手くやってくれてる。

 そう信じる以外に道はない。結局上手くやらなければ負けるだけだから、考える必要も無い。

 

 あー、もう寝っ転がりたい。

 クラキアにやられた左半身、カウムにボコられた腹、何から何まで痛い。魔力にはまだ余裕はあるが、元から俺の魔力量は決して多く無い。こんな俺が本当に、1番になることが出来るのだろうか。

 そんなマイナスなこと、考えてる余裕はない。信じてもらった、託してもらった、ならば俺は示すだけだ。

 

 そうでなければ、楽しくない。

 

 痛む体を引き摺るように、この戦場で最も激しい戦闘へと足を進めていく。

 

 

「……見つけた。やっぱり、君は脱落してないと思ったよ」

「おいおい、俺はお前は脱落したと思ってたよ」

 

 

 立ち塞がるように現れた男を、今度は忘れていなかった。

 自身の周囲に5体のゴーレムを侍らせ、その内1体の肩を借りるようにして立っているその男の名前は、ファルセルダ・イミテシオ。

 

「カウムは騙せたのに、お前の方は騙せないとはな」

「騙すも何も、僕は偶然ここに居た。もうボロボロだったからね。うちのリーダーのアウルが耐えきると信じて、身を隠していた方が残り人数でのタイムアウト勝ちが一番現実的だから」

「じゃあなんで出てきたんだよ」

「タイムアウト勝ちなら、敵は1人でも減らした方がいいだろう?」

 

 本気で言ってるのか、とは口に出さないしそれを一瞬でも思った自分を恥じた。目の前にいる敵は、間違いなく強敵だ。ここまでの乱戦を戦い抜いて、こうして俺の前に現れているその事実だけでそう評価できる。

 

「僕はエア・グラシアスに負けた。そして、君にも負けた。それでようやく、自分の弱さを知ったんだ。自分が、井の中の蛙だと理解した」

「俺も、この学校に来て改めて思い知ったよ」

 

 二度目の人生、死ぬほど努力してもまだ追いつける気のしない背中が幾つもある。追い抜いたつもりだった姿が幾つもある。

 多分、前世の俺はファルセルダにも負けたことがあるんだろう。悲しいことに負けすぎて印象的な敗北でもないと覚えていないけれど、もしかしたらそういうこともあったかもしれない。

 

「僕は弱い、今は弱い。それは認める、認めるしかないさ。それでも、僕は肯定したい」

 

 ほんの少しの苛立ちと、そのすぐあとにそんな自分への自己嫌悪。そしてそれら全てを覆して押し流してしまう、脳内麻薬の分泌。

 

 

「お前にリベンジして、チームでエアに勝って、誰かに、自分に認めさせたい! 僕だって黄金だと証明したいんだ!」

「じゃあ、俺はどうすればいい?」

「どうもないさ。戦って、僕が勝つ」

「ふざけんな。俺は負けねぇぞ」

 

 

 鏡ということすら烏滸がましい。ファルセルダ・イミテシオは数多の天才と比べれば、天才の中での平均かそれ以下の男だろう。だが、彼は努力をすることを選択した。辛い道を選択した。その勇気だけでも、彼は黄金足り得ている。

 

 そして、目の前にいる騎士を見て改めて思う。

 本当に、この学校は化物の巣窟だ。平均的だと思ってたやつが、少し皮剥ければこんなにも恐ろしいなんて。

 

「……イミテシオ家次男、ファルセルダ・イミテシオ。ジョイ・ヴィータ、君に再戦を申し込む」

「アルム・コルニクスの弟子、ジョイ・ヴィータだ。その再戦、受けて立つ」

 

 

 余計な言葉はそれ以上なかった。

 勝ちたい、負けたくない、勝って強さを証明したい、輝きたい。色んな思いがあれど、結局最後に行き着くのは勝つことで示すことだけだ。

 

 

 ファルセルダのゴーレムは5体。周囲に隠せるような場所は見当たらず、足元から異常な魔力の反応もない。だから、お互い見えているものが手札の全て。

 まず向かってきたのは2体のゴーレム。残り3体のうち2体はいつでも動けるように構え、1体はファルセルダを支えつつ明らかに俺の投擲を警戒している。同じ負け方はしないと言わんばかりだ。

 

 もちろん、勝つことだけを考えるなら『黒耀(バロール)』を使えば多分一瞬で勝てる。けれど、今ここで使えば結果としては相討ちになる。だから使えない。

 

 それがこの状況に俺を追い込んで、勝負を仕掛けたファルセルダの強さだ。決して、『黒耀(バロール)』が使えたら勝てた、なんて甘い思考じゃない。油断するな、目の前にいるのはお前が焦がれた天才の1人に他ない。

 常に自分が負けることだけを考えろ。あまりに情けなく、あまりに拙い勝利の道筋。だけどこれだけがジョイ・ヴィータにあるものだから。

 

「教えてくれ、『鍍金(アルデバラン)』。俺は、どうしたら負ける?」

 

 浮かぶのは、ゴーレムに真正面から殴られてすっ転ぶ自分。1体目を避けたところを2体目に足を引っ掛けられて転ぶ自分。それを避けたところで避けたと思った1体目に体を捕まれ体勢を崩される自分。

 呆れるほどに敗北の選択肢は多い。ならばその選択肢全てから逃げ切って見せれば。

 

 

「「勝つのは()だ」」

 

 

 1体目が迫ってくる。

 コイツは動きが素早いが力が弱い。そういう風にできていると、予測を付けて一か八かで拳が振り下ろされる前に胴体をぶん殴って粉々にする。

 すかさず迫ってきた2体目は力比べするだけ無駄。身を低くして振りかぶった左手を見てから、左半身側に滑り込むようにして抜ける。

 

「まだ、2体だけ!」

 。

 ファルセルダの『十使(メンブルム)』は最大10体のゴーレムの同時操作。5体しかいないのは恐らくは本人の限界が近いのだろう。

 そして、この操作は自動(オート)ならともかく、意識的(マニュアル)で動かすにはかなりの集中力が必要だ。だから、この間ファルセルダ自身は無防備になる。

 

「本人より動けるんじゃねぇのかコイツら!?」

「もちろん僕より強いさ。なんてったって、僕がそういう風に操作している!」

 

 3、4体目もこちらへと向かってくる。

 左から来る方の魔力の流れがおかしい。多分、自爆してくるつもりだ。右から来た方の腕を掴み、逆の手で顔を殴りつけられながらも足を止めずに勢いのまま左から来る方へぶん投げて叩きつける。

 

 一拍遅れて、背後から爆音と爆風。煽られて転びそうになるのと少しの熱を耐えながら、改めてファルセルダとの位置関係を確認する。

 

 殴られた時少し皮が切れたのか血が流れ、左眼が開かない。距離を詰めることだけが勝機の戦いで距離感が掴めないのはまずいが、残るゴーレムは1体。押し切れる。

 

「僕の『十使(メンブルム)』は自分と感覚を共有することで操作精度を上げる。最大でも10体が限界。それ以上は僕の処理能力が追いつかない。1度壊されればもう一度生み出すにはそれなりの時間と集中力が必要だ」

 

 ──────悪寒がした。

 立っているのもやっとという様子のファルセルダが、自らを支えていたゴーレムを俺に向かわせる。追い詰められているのは向こうで、追い詰めているのは俺。

 その事実を丸ごと覆す、大蛇のような悪寒が俺を丸呑みにしようと迫ってきている。

 

「10体出さないのはそれほどの力が残ってないからじゃない。こうした方が、お前を倒せると思ったからだ」

 

 走り出したゴーレムを一目見てわかった。

 動きが違う。速度から何から何まで、さっきまでの4体とはレベルが違う。思わず足を止めて迫る拳を受けた瞬間、反撃のことが頭から吹き飛んで少しでも衝撃を減らす為に後ろへと飛び退いた。

 

「配分を変えた、のか」

「前にみせた巨大なゴーレムと仕組みは一緒さ。ちょっと、僕への負荷が大きいだけだ」

 

 本来ならあと5体を操作出来るだけの余裕を全て1体のゴーレムの操作に注ぎ込むことで能力を底上げしたのだろう。それが5体のゴーレムを出さないことに見合うかどうかは判断しかねるが、この状況において、俺の不意を付くという目的なら間違いなく最善手だ。

 痺れる左半身、荒い呼吸。この状態で強力な1体を倒すのは物理的にも骨が織れる。

 

 繰り出される拳は先程までのゴーレム達と比較にならない。剣で何とか受け止めながら隙を伺うが、ジリジリとファルセルダとの距離を離されるだけだ。

 土人形の拳は単純な重さが人間より重い。加えて関節技やちょっとの損傷は無視して俺を倒しに来る。コイツを無視して術者、つまりファルセルダを倒すのは良くて相討ちだろう。

 向こうも全力だ。なんだかんだで近接特化で訓練してきた俺を止めるほどの速度でのゴーレム操作だ。ファルセルダも鼻血を流し、目が飛び出すんじゃないかってくらい大きく開いて操作に集中している。

 

「ぐっ、そっ!」

 

 左半身に力が入らないのがかなりここに来て響いている。防御は出来ても攻撃に移れない。相手もそれを理解して攻撃の手を緩めない。時間を稼がれる。

 こうなったら、相討ち覚悟で『黒耀(バロール)』を使うのも視野に入ってくる。ここで延々と時間を稼がれたり、負けるよりはずっとそちらの方がいいだろう。

 

 僅かに緩んだ防御の隙間から、左の太腿に蹴りが入れられる。

 振動が全身に伝わり、陸地に上げられた魚みたいに体が跳ねる。体が限界を訴え、覚悟を決めて左目に力を込め──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の先。

 遥か空の戦場で星が瞬いた。

 

 こんな昼間にそんなことがあるわけないとわかっている。でも、そうとしか形容できない赤と金の煌めきが、まだ戦っていた。

 それを見たら、元気が湧いてきた。本当にムカつくくらい眩しくて、輝いていて。それでいて、あんなにも儚く煌めくんだから。

 

 

 

「……悪いな、負けられない理由が増えた」

「気にするな。それは勝敗には関係ない」

 

 

 体勢が崩れた俺に、ゴーレムはトドメの一撃を加えようと大きく振りかぶる。

 ここだ、最後の隙。これを逃せばもう勝利はない。剣を杖にするように全力で地面に突き刺して、それを軸にして体を跳ねさせる。

 

「う、ぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 そして、跳ねた体勢のままにただ剣をぶん投げる。

 攻撃の、防御の要を投げ捨てる。ファルセルダに向けて、投げつける! 

 

「同じ負け方はするかァ!」

 

 当然、警戒していたであろう投擲は防がれる。だがただで防げるほど俺の投擲は安い一撃じゃない。空に浮いた俺の体を捉え、トドメの一撃を加えようとしたゴーレムの動きが、ほんの少しだけ遅くなる。ファルセルダが防御の為に一瞬だけ操縦を自動(オート)に切りかえたであろうその瞬間、俺は全身を使ってその腕に絡みついた。

 

 関節技は人形には意味が薄い。だから、これは攻撃が目的ではない行動だ。ほんの一瞬体から力を抜いて、関節を外し、人間の骨格では信じられない動きで、ゴーレムの体を這い回りその背後へと回る。

 

 トッ、と地面に足が付けば。

 俺とファルセルダの視線を遮るものはもうそこにはなかった。

 

「すごいな、軟体動物かよ」

「縄抜けと締めからの抜けは師匠に死ぬほど仕込まれて、なッ!」

 

 あとは走る。

 背後からゴーレムが追ってきているのを感じながらただ走る。追いつかれてぶん殴られて負けるより早く、ファルセルダをぶん殴って倒し、術式を停止させる。

 

 ファルセルダが逃げるより早く追いついて、ぶん殴る。

 そう思っていた俺の目に映ったのは、拳を構えて駆けてくるファルセルダの姿だった。

 

「案外ノリがいいんだな」

「君には負けたくない。それだけだ」

 

 

 結果として。

 さすがにいくら疲弊していても同じく疲弊しているならば体格、経験、何から何まで俺に分がある。ファルセルダの拳は空を切り、俺の拳は奴の顔面を殴り飛ばした。

 

「……俺の、勝ちだ」

「あぁ、この勝負は僕の負けだ。でも、まだ、()()は負けていない」

 

 最後の最後に、アイツは殴ってくると見せかけてゴーレムの操作に意識を集中させた。

 背中に激しい痛みが走る。ゴーレムの腕が刃になり、俺の背中を刺している。だが、深い所にまでは至らずその体はぼろぼろと崩れ土塊に戻り、ファルセルダも意識を失い転送される。

 

 

「あぁ、クソ。強かった。本当に強かった」

 

 

 限界はとっくに超えていた。そうしなければ勝てない相手だった。

 けれどまだ走るしかない。まだ戦っている仲間がいる。ファルセルダの言う通り、まだ()()の勝負は決していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 









・ティード・ギオデスタン
アウルと同じ緑組に割り振られた生徒。
固有魔術『影縫』を継承するギオデスタン家の長男。口も態度も悪いがアウルとは同じ夢を見る誼で仲が良く、だいたいの命令ならなんでも聞いてやっていいと思ってる。
この学校に通う天才の中で珍しく常識がある人間。人を見下さないし、ナンパもしないし、価値観がズレてないし、戦闘狂でもない。

・ファルセルダ・イミテシオ
アウルと同じ緑組に割り振られた生徒。
前世ではジョイがやってたムーヴをして見事にエアに負け、そのあとジョイにも負けて世界の味方が変わったタイプ。元々平民を見下していたし、自分の非力を理解していてその上で劣等感を隠すためにそのようなことをしていたが、ジョイに負け、アウルに焚き付けられて本気で自分のことを黄金だと、誰でもない自分に言えるようになりたいと立ち上がった。
将来性は十分だが、何かと余計な工夫を組み込もうとするのでまずは良い師が必要。



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