逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
ずっと狡いと思っていた。
あんなに夜空の星みたいに、キラキラと笑えることが羨ましかった。
アーリス・イグニアニマは自分に自信がなく、ついでに言えば自分が嫌いだった。それはここまでの人生で彼女を形作る要素が組上げた結果であり、幾ら人生を変えるような肯定に出会おうとも簡単に変わるものでは無い。
『せっかくこうして一緒に訓練したんだ。僕のことはエアくんか、エアちゃん、もしくは呼び捨てでいいよ』
彼女にこう言われた時、心の底でこう思ってしまった。
何言ってんだこの脳みそまで能天気を詰めたみたいなアホ面女は?
命を救ってくれた恩人だと頭では理解している。でも、嫌いなんだ。
自分に自信があって、いつでも笑えて、前に出ることに躊躇いがなくて、誰かと話すことを当たり前のことみたいにやってのけて、自分にないものを持っていて。
嫌いで嫌いで仕方がない。目に入るだけで虫唾が走る。正直、死んで欲しいとすら思ってしまう。
だから、と言うべきか。
なのに、と言うべきか。
まるで全てを受け入れるように目を閉じた彼女を見て──────
「あ、あれ……?」
衝撃も痛みも、本来来るべきものが何も訪れないことにエアは驚き、そして目を見開いた。
「アーリスちゃん……?」
「…………ハァッ、ァ! しんどい!」
衣服も破け全身血だらけの彼女を見て失礼にも最初に思ったことは、どうやって今の一撃を防いだか、だった。
エアの瞳には捌ききれないと映ったその攻撃を、お世辞にも自分より能力が高くないと思う人間がどうやって。
「……グラシアスさん。貴方、未来が見えるんだよね」
「そんな便利なものじゃないけど、断片的には」
「じゃあ、私がどう動くか見て」
いつもより一段声を低くしてそう告げたアーリスに言われるがまま、彼女の体の魔力の流れを見て、彼女がどう動こうとするかを予測する。
一歩踏み出して、腕を上げて、それを一気に振る。その動きは何かを叩くようで、位置や動きから逆算すれば何を叩こうとしたかわかる。彼女がどう動くか予測できる。
アーリスが自分の頬を引っぱたく未来が、エアの瞳には映し出された。
「えぇ……なんで?」
「嫌いな相手の顔、引っぱたきたいと思ったから」
「嫌いって、僕のこと?」
「……もっと落ち込むかと思った」
エアとて自分が万人に好かれるような質ではないことはわかっている。大きな力は、それだけ反感を買うことがある。だからこそそれ以外では好かれようとできるだけ笑顔を浮かべていた。それはデウスも同じだったから。
「落ち込んでるよ。アーリスちゃんは、友達になれたと思ってたから」
「私は、貴方のことが嫌いだったよ。これから先も好きになれない。ねぇ、なんで諦めたの?」
「なんでって、そりゃあ……」
目で見て、ダメだと思ったから。
解決方法が思いつかなかったから。
「はぁ? それだけで諦めたの? だらしなっ!」
「それだけって……だって……」
「私なら諦めない。ここにいる誰も、同じ状況になっても諦めない。そんな臆病者、貴方だけだよ」
「……さっきから聞いてれば、好き勝手言って!」
臆病者という言葉がきっかけだったのか、それとも他の何かか。本人すら分からないままエアは遂に怒りを顕にして小さな手を伸ばしてアーリスの胸ぐらを掴んだ。
「同じ状況になっても諦めない? それならなってみてよ、僕と同じものを見て、僕と同じ孤独を感じて、僕みたいに苦しんでよ!」
「苦しんでるよ!」
負けじと言わんばかりに、アーリスもエアの胸ぐらを掴み、突き放すようにしてエアの手を自分の胸ぐらから離させる。
「誰だって違う孤独を感じてて、誰だって苦しんでる。同じものなんて見れない。それに、貴方の背負ったものは自分で背負ったものでしょ。自分で、追いかけられることを選んだんでしょ」
そうだ、その通りだ。自分は自分でこの道を選んだ。
でも果たしてそれは本当に自分で選んだのか。そう言われると、声が詰まる。
「みんな貴方を信じてる。私だって信じてた。だからこそ、あそこで諦めるのは赤組全員への裏切りだよ」
「でも、無理だった。僕では、どうしようもないって、未来が見えた」
「じゃあ、諦めるの?」
「無駄なことだとわかっていて、諦めるのはそんなに悪いことなの?」
無理だとわかった時、エアはどこか他人事のように体から力を抜いていた。どこまでも合理的で、非人間的な思考を弾き出す頭は本能的に無駄を嫌う。
意味が無いことはやってもやらなくても同じなんだから。それを悪だと言うならば、きっと自分は生きることそのものが間違いになってしまう。
「悪いことだよ。だって、まだ貴方は自分の全力から目を背けてる」
アーリス・イグニアニマは自分を優れた人間だとは思わない。
何故今自分がエア・グラシアスが諦めるような攻撃を防いでギリギリであるが立っていられるのかも、正直よく分からないし、自分がダメで性格の悪い人間だとも思う。
「まだ、誰も頼ってない。辛くて苦しいなら助けてって言わなきゃ、そうしなきゃ誰も気が付かないよ」
でも、憧れた人はいる。
助けてくれた人はこんな自分を肯定してくれた。だから、好かれる自分じゃなくて好きになれる自分を目指したいと。
思ってしまったんだ。
堂々と笑顔で、悩みなんてないみたいに誰かの前に立てるあの子はすごくかっこいいって。
だからここがスタート地点。好きになれない自分も、嫌いな自分も飲み込んでアーリス・イグニアニマは燃え盛る。
「勝負はまだ終わってない。私も貴方も負けてない。そうでしょう、エア!」
伸ばされた手を掴むことに抵抗があった。
それを取ってしまえば、自分はまた
「……負けたくないなら、僕を守って」
「言い方、偉そうじゃない?」
「僕はこの組のリーダーなんだ。偉いもん」
でも、今は目の前の瑠璃の少女に言いたい放題させたままにしておく方が我慢ならない。僕ってこんなに子供っぽい性格をしていただろうか?
「作戦会議は終わったか?」
「律儀に待っててくれてありがとう、アウルくん、リィビアちゃん」
「べ、別に待ってなんかいませんが? 私は今のうちにアウルを叩き落とそうとしただけですがー?」
「これは勝負だが、勝負だからこそ公正でなけらばならないし、全力で無ければならない。それに、女性2人の友情の間に割り込むのはマナー違反だからな」
「違うよ」
「ん?」
アーリスは否定した。
「私とエアは友達じゃない。私、きっとこの子のこと好きになれない」
「奇遇だね。僕も、そんな風に突き放されたらさすがに友達になれないや」
そんなことを言いながら笑いあって、互いに背を合わせて剣を構える動作はまるで相手のことを全て知ってるかのように息が合っていた。
「では、友人じゃないなら2人の関係は?」
「「仲間」」
同じ黒耀を目指す2人の少女は、お互いを奮い立たせるように小突き合いながらそう口にした。
それが、終盤戦の開始の合図だった。
リィビアのローブの内側から、節足動物のような器具が飛び出して彼女の腕に絡み付き、アウルの握る剣が太陽のような輝きを纏う。
それを見てエアは一際大きく息を吸い込み、アーリスは青の炎を燻らせる。
「あ」
緊張走るその戦場で、声を漏らしたのは遥か遠くからそれを俯瞰していた緑組の狙撃手、ロジェーナだった。
隠密が得意な彼女は、自分の息すら殺してひたすらに狙撃に徹し、撃ったあとはすぐに行方を眩ませるように師匠であるマグノに叩き込まれた。それなのに、声を漏らしてしまったのは何となく予感があったから。
あの黒い輝きは、何もかもを壊してしまうそんな予感が。
「耀け、『
王者の戦場に極大のジョーカーは、叫び声と共に登場した。
「遅いんよ、ホンマにあのアホ!」
顔の形が変わるほど殴られ、失神寸前の状態でもリエンはその声を聞いた瞬間に嬉しそうに左手を掲げた。
「今の声、ジョイくんっすか。何をするつもりっすかね」
「それはお楽しみやな。少なくともアンタは、俺を退場させられんかったことを後悔すると思うで」
「だって、逃げに徹されたら厳しいっすよ。まぁもう脚折ったっすから大丈夫っすけど」
「そうやなぁ、もう逃げられへん。だから、俺はここで退場や」
リエン・テンプリァスという生徒についての情報は非常に少ない。
投擲が得意で、本人もそれを公言していて、風属性の魔術を多用すること。それ以外はよくわかっていない。
相対したカウムですら、リエンの使う魔術は『投擲した物体の補助』以上の詳細は終ぞ掴めなかった。そしてカウムは分からないなら殴って倒すがモットーで、実際にそれをやってのけてしまうタイプだった。
「答え合わせはな、俺の術式は投げたもんの軌道調整を手伝ってくれるもんでまぁ便利やけど強いかは微妙やな。しかも、一度に補助できるのは手1つにつき1つ。つまり最大でも2つしか投擲物を効果の対象に出来へん」
「確かに便利っすけど強くはないっすね」
「あぁ、しかも今回は
リエンは空を指さした。
何かが空中を駆け上がる。巨槌を持ったその影がまるで空に向かって
「……あれは、まさか!?」
「跳ぶくらいは自分で出来るって言ってたけど、念の為や。なんて言ったって、高いところから落ちた方が強いってのはガキでも分かるこの世の真理やからな」
俺の『
あのリィビアと相打ちになった俺の切り札。使えば俺自身も長くは活動できなくなる代わりに、全身の感覚が研ぎ澄まされ、魔術を切り裂く力を得る。
叫びながら登場した瞬間、リィビアは自らの周囲に『
全く酷いもんだ。俺にはこれしかないのに、それまでこんなに徹底的に対策されては何が残るって言うんだよ。
「ジョイくん、あれ、え?」
「アーリス、無事だったのか。エアも……まぁ無事だろうけど無事でよかった。それより、聞いてくれ」
「いや待って待って。さっき『
「叫んだな」
叫んだだけだけど。
なんとなーく、『
「あんの……クソバカジョイ・ヴィータァァァァァァ!!! 私をコケにしやがって、ぶっ殺す!」
「そっちが勝手にびびっただけだろ! 引き撃ちの空から落ちてこいよリィビア!」
「消し飛ばす!」
さすがに煽りすぎたのか顔を真っ赤にしたリィビアは腕に巻き付けた節足動物のような物体を蠢かせたと思ったら、それが、腕を巻き込みながら変形して巨大な砲身のような姿になる。
「『
「遠慮せずエアにぶつけてやれ! おい! こっち向けんな!」
「うるせぇ死ね! 『
なんか明らかにヤバそうなエネルギーの収束が、『
リィビアの手元が光る。
俺の力では回避も防御も間に合わないその一撃。
防いだのは、岩と炎の盾……ではなかった。
月の光を防ぐには脆すぎるその盾は、ほんの一瞬だけしか其れを止められなかった。けれど、一瞬あれば十分だった。
「見えた、『
エアの剣が破壊の月の光とぶつかり合う。本来ただの剣で押し止められるはずのない魔力の奔流を真正面から受け止め、触れられないモノを捉え、全力でそれを無条件に叩き斬……
「き、斬れない〜!」
「嘘ォ!?」
予想外のエアの反応に俺も思わず叫びながら、押し負けたエアごと2人仲良く吹き飛ばされる。何とかリィビアの攻撃自体は逸らしたが、エアですらギリギリだったのか掠めた光が彼女の肩を抉り少なくない量の血が流れ出していた。
「いつつ……大丈夫ジョイくん……?」
「な、何とか……」
「通じた……通じた通じた通じた! クソッ! 仕留めきれないなんて屈辱だ! あぁ、ムカつく!」
喜んでるのか苛立ってるのか分からないリィビアは瞳をキラキラさせながら次弾を装填しようとしている。アレをもう一回放たれたらさすがに負けるだろう。
エアがそうはさせまいと切り込もうとしたが、それを俺は止めた。
「え、なんで止めるの?」
「もう時間は稼いだ。アーリス! 今からすごく情けないこと言うけどいいか?」
「ジョイくんの頼みなら、情けなくても聞いてあげるよ」
「わかった。……俺を守ってくれ!!!」
「情けなっ!?」
仕方ないだろ、これから起きるのは『破壊』だ。俺は空を見上げて、遠くで槌を構えた彼女と目を合わせる。
その存在に気がついたリィビアも、アウルも、誰もが「しまった!」と言いたそうな顔をしていた。
「意識を逸らして、時間を稼ぐ。そして戦場のど真ん中でリィビアに防御用の『
戦場を一番上から見下ろしていた。
大きく跳ねて、リエンくんの術式でさらに空高くに投げてもらって、みんなの魔力索敵から逃れた場所でチャージを済ませて。
槌に籠る熱は最高潮。これ以上無いくらいに調子も絶好調。
「やれるよね、私」
答えるまでもない言葉を口にして、リエンくんの術式が途切れるのを感じながら私自身も最低限の高度維持の術式を切る。始まるのは地面への墜落。しくじればやり直しは効かない、1回きりの責任重大な一撃。
けれど不思議と恐怖はなかった。むしろ楽しみですらある。
何かをする時、いつも負けるかもしれないと不安だった。失うかもしれないと不安だった。そんな震えが、腕の力を鈍らせた。
でも今は違う。一緒に背負ってくれる誰かがいる、支えてくれる人がいる、そう思うと震えは止まって力は無限に湧いてきた。
まだ君が戦ってるんだ。
そう思えることが幸せだから。
「全部砕くよ」
槌が火を噴いた。
ソナタ家相伝のこの術式は、特別な術式の刻まれた槌を出現させ、操ることである。それだけ聞けば地味なこの術式。それだけの単純さでこの術式はかつて多くの血を吸ってきた血塗られた術式に成り果てた。
取り込んだ土を内部で火薬に変換し、炸裂させる。さらに使用者の魔力を吸い上げて槌本体も巨大さを増す。生まれつき強大な魔力量を誇り、怪力無双を誇るアトラス様の加護を持つ自分ですら、その負担は思わず手を離してしまいたくなるほどだ。
地上が見える。
灰色の髪の彼が……青い髪の女の子に抱かれながらこっちを見ている。
なんだろう、どうして最後までカッコつけてくれないんだろう。いくら何でもそれはちょっと、アレだろう。
最後までカッコつけきれられない、けれど私の前でカッコつけてくれた彼のそんなダサい姿を見てクスリと笑って、最後の緊張が解れた。
地上に落ちる私の前に、残った生徒達がみんなで防御壁を展開してくる。今更起動変更なんて出来るわけないし、するつもりもない。
目の前にあるもの全てを粉砕する。
それが私のやり方だ。
「──────
衝突!
衝撃で肩が外れそうになるのを押さえ込みながら、1枚目の防御壁を叩き割る。あとは地上に叩きつけるだけ、というところでさらに巨大な壁が現れる。
「させるわけないだろ! 異常火力の凡人!」
名前はリィビアさんだっただろうか。
銀の髪の彼女が生み出した壁は沢山の生徒のものを合わせた先程の壁よりもずっと手強い。永遠に地面にたどり着けないんじゃないかと錯覚するほど、分厚い。
「──────
だからもう一段階ギアを上げる。槌が更に大きさを増し、力を込め過ぎて腕の血管が引きちぎれそうになるのを感じながら、無限とも思える壁を突き進む。
でも、これはダメかもしれない。
そう思った時、急に壁は掻き消された。
「──────エア・グラシアス!」
「悪いね、リィビアちゃん。君の相手は、
「望むところ、です!」
私はまだまだだなぁ。
みんなに助けて貰ってしまった。全部助けられるようになりたかったのに、これでは逆だ。
だからせめて、この一撃は完璧に決めよう。重力と自由落下と仲間の思いと、私の全力。全てを込めた一撃を大地へと叩きつける。
「──────『
なんの比喩もなしに大地が爆ぜた。
誰も彼も、何もかもが吹き飛ばされていく。地面の全てが爆発して、砂塵が吹き荒れ地表を根こそぎ削ってしまう。近くにいた人は地面に槌が叩きつけられた衝撃で意識を失い、遠くにいた人も爆風に巻き込まれて吹き飛ばされる。何とかそれを防いだ者達も遅れて発生した爆発に巻き込まれてどんどんと姿を消していく。
「全工程完了、です。『
全てが終わったあと、握っているのが馬鹿らしくなるくらい熱を持った『
魔力切れ、内出血、あと鼻血がいっぱい出て出血多量。もうこれ以上は戦闘は不可能だ。
『そこまで! お疲れ様でした! 本訓練は現時刻を持ちまして終了です。残っている方は順次転送、治療になるのでその場で待機していてくださいね〜』
幸いにも、訓練はこれで終わりのようだ。
結果はどうなったとか、味方は私の一撃を凌げたのかとか、凌がれてたらそれはそれでなんか嫌だなとか、色々なことを考えたけど。
「うん。私、負けなかった!」
どんな結果になったとしても、それだけは胸を張って言える。それが堪らなく嬉しくて、ピクリとも動かない口角に反して私の心は晴れ模様だった。
・アーリス・イグニアニマ
誰かのヒーローになれる女の子。性格は悪い。
・リエン・テンプリァス
信じるし信じられる男の子。性格は悪い。
・エア・グラシアス
ヒーローになりたい女の子。性格は良くはない。
・クラキア・ソナタ
1人で振るうには重い槌。でも、みんなとなら。性格は悪い。
・『
リィビアの『
試作段階であり、リィビア本人も出来にはあまり満足していない。
・『
その槌は要塞ごと敵を砕き、土に還す破城の一撃。
大槌を形成し、それを振るう固有魔術。
単純だがシンプルな破壊力が異常であり、かつてはこの魔術を継承した者が単身で城を崩したとも。周囲の土を吸い上げ、内部で爆発に変換し叩きつける攻撃形態があるが、とにかく燃費が悪く、チャージに時間もかかるため基本的には槌で殴ることばかり。単純な最大火力ならばリィビアやアウルすら超える戦略兵器。地面に着弾すれば連鎖的に周囲の土を爆発させて地形そのものを武器にして破壊する。