逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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3.輝くロリ巨乳

 

 

 第二闘技場には結構な数の人が観客として集まっていた。

 そりゃあ注目もするだろう。なんて言ったって戦場に立つのは入学式で不遜な態度でとんでもない発言をしでかした現在騎士学校で最も注目されている女、エア・グラシアスなのだから。

 

「あんなちっこい子が本当に首席入学なんて、俺は信じられんなぁ」

「じゃあお前ちょっと挑んでこいよ」

「まさか! あんな可愛い子に俺みたいな紳士が全力を出せるわけないやろ!」

「でも、確かにそうだよね。見た目は全然、なんと言うか……ちんまくて可愛らしいよね。あんな妹欲しいかも」

 

 俺は絶対にいらないな。あんな兄の心を容赦なく折ってくるような妹。

 闘技場の真ん中で屈伸したり、腕を伸ばしたりして最後には大きな欠伸すらしてしまってる緊張感のない少女。動く度に制服の胸の辺りの生地が悲鳴をあげてるので早く採寸し直してあげて欲しい。

 

「ちなみに相手は結構有名どころやな。イミテシオ家の次男坊のファルセ……」

「別に相手のことなんてどうだっていいだろ」

「おや、その心は?」

「じゃあ逆に聞くが……お前らはエアが負けると思うか?」

 

 リエンもアーリスも、その言葉に対しては否定の意味の籠ったジェスチャーを見せた。

 そりゃそうだ。よっぽど才能がないか、現実が見えていない大馬鹿者でもない限りはデウス……ではなく今はエアか。彼女に挑むだなんてことはしないだろう。

 一目見れば誰だって、アイツとの格の違いを思い知らされる。アレはそういう存在だ。

 

 

 この学校は生徒同士の模擬戦を奨励していて、登録して行ったそれの結果は成績にも反映される。だからこそ、学生時代から切磋琢磨した修羅が騎士団に入るというものだ。

 しかもこの模擬戦は、基本的に相手を殺すつもりでやる。よっぽど肉体が消し飛ぶような致命傷でもなければ、優秀な救護班がどうにかしてしまうからだ。ちなみに俺の師匠ことアルム・コルニクスも救護班の一人だ。弟子だからわかるが、あの女が近くにいてしかも設備が整ってる場所ならば死ぬほうが難しいってものだ。

 

「あ、始まるで!」

「うぅ……大丈夫かなぁ? 負けるとは思わないけどさ、あの子あんなに小さいのに」

 

 身の半分以上はありそうな、かと言ってサイズ的には大剣と言うほどでは無い剣を杖代わりにして待機するエアの元に、対戦相手と思わしき男が現れた。

 なるほど。対戦相手も相当な強者だろう。見ただけでもよく鍛えられているのが分かるし、その表情は自信に満ち溢れている。

 

「心配するだけ無駄だよ。この戦いは大した怪我人も出ずに終わるだろうからな」

 

 

 ああ、思い出したくもない。

 かつて、俺も似たような感じでここに立った。

 

 自分と同じ、平民の男が俺が目指していた史上初の平民での首席入学を掠めとった。当時の視野の狭い馬鹿な俺はそうとしか考えられずに、決闘を挑んだのだ。

 だって楽しくない。自分が一番だと思っていた世界で、他人から『お前は一番ではない』と言い渡されたようで、俺の全てが否定されたようでどうしてもそれを覆してやりたかった。

 

 

「では、始めっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幼い頃から、英雄に憧れがあった。

 己の極めた剣と魔術で騎士が『魔王現象』に立ち向かう御伽噺。俺は本気でそれに憧れていた。剣の一振で天地を分け、悪を払う大魔術を扱うそんな騎士。

 そして自分にはそうなれる才能があると信じていた。大人にだって負けない力が実際にあった。

 

 誰かを特別にするのは背景なのか? 

 そんなことあるわけが無い。あったとしたならば俺がそんな常識壊してやる。

 

 英雄の血を引く武人だから? 

 生まれた時から何か特別な固有魔術を受け継ぐ素養があったから? 

 聖剣に選ばれたから? 

 誰かに期待されたから? 

 

 

 違う違う! 

 俺は、()()()()()()()()()()()()()()()、心の底から英雄になりたいと思ったのだ。歴史に名を刻み、何もかも一番に成れれば楽しいのだろうと、絵本を開いて目を輝かせた。

 

 もちろん俺は己の才能の上にあぐらをかいていたわけではない。

 毎日毎日、腕が動かなくなるまで剣を振ってたし両親に頼み込んで色んな本も買って貰って勉強だってした。人並み以上、その倍は努力だってした。

 

 

 

 だから認められなかった。

 俺と同じ農民で、特別な背景なんて何も無い、その男。俺が目指していた場所に何食わぬ顔で立っている金の髪と蒼の瞳を持った、世界の中心のような存在感のあるその男を。

 

 

『俺と勝負しろ! お前の不正を暴いてやる!』

 

 

 子供の癇癪であった。けれど、子供の俺にとってそれは世界全てから否定されたも同じようなショックだったんだ。だからそんなことを叫んで、デウスに勝負を挑んだ。

 背格好や体格は殆ど同じ。コイツにはあって俺には無いものなんて無いはずだ。絶対に、戦ってみれば俺が勝つ。そうじゃなければおかしいんだ。これまでの全てを賭けてその場にたった俺に対して、デウスはと言うと。

 

『えっと、ジョイくんだったかな? よろしく。周りは貴族だらけで、正直緊張していたんだよ。声をかけてくれてありがとう』

 

 俺のドロドロとした汚い感情なんて全く知らないような、輝くような笑顔でそう言って軽く体を動かし始めた。

 よし、絶対に倒してやる。こんな何も抱えてないやつに、俺が、俺の夢が負けていいはずがない。

 

 

 そう思いながら、試合開始の合図が鳴った。

 一定の距離を保って、まず剣を抜こうとした時に目の前のデウスと目が合った。

 

 

 思い出すともうなにかおかしくて笑ってしまう。

 俺が剣を抜いた時、デウスは既に間合いを詰めて剣を振り下ろそうとしていたんだから。そんなアイツと目が合って、おかげで何とか反応ができたくらいだ。アイツが俺を()()()()()()()()()きっとそれで終わってた。

 でも、アイツが俺を見ていたおかげで本当に咄嗟に、脳で考えるよりも先に脊髄が体に指令を出してデウスが剣を振り下ろす前に頭上に剣を構えて受け止め、流そうとした。

 

 ここまでで1秒。

 

 そして、デウスは俺の動きを見てから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()剣から手を離した。

 それを見ることが出来ただけでも当時の俺からすれば上出来だ。そこから先は何が起きたか分からないまま意識を刈り取られて俺は負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………瞬殺、やな」

「え、え、なに……あの速さ。なんであんな動きが、できるの?」

 

 リエンが目を見開き、アーリスが泣きそうな声を絞り出した。

 

 その試合を見て確信できた。

 エア・グラシアスという少女は間違いなくデウス・グラディウスと同じ何かを持つ存在だ。

 

 二振りの剣が地面に落ちる。

 1本はエアが振り下ろす寸前に手を離して放った剣。もう1本はその対戦相手が意識を失い、手から離れた剣。

 

 静寂があった。

 何が起きたか分からないものの意識が、2秒前に置いてかれたまま。

 目の前の光景に圧倒されたものが、呼吸すら忘れて。

 頂点を見せられたものが、目指す先を無言で見つめて。

 

 

「ふぅ……改めまして皆さん。僕はエア・グラシアス。今年度入学した中で、現在最強の騎士見習いです」

 

 

 音も光も置き去りにしたその金の輝きは世界の中心で星のような笑顔を浮かべ、小さな手で大きくVサインを見せつけながら。

 

 

「どうか皆さん。僕に並んでみせてください」

 

 

 大言壮語、分不相応。どんな人間が口にしてもそうとしか取られないような言葉を、少女は当然のように口にする。

 そして、今まさにその言葉を許されるほどの土台を作って見せた彼女のその言葉に文句を言う者は誰もいなかった。

 

 ゆっくりと、会場を見渡すエアの蒼色の瞳。

 目を合わせるのが怖いのか、それとも内心に秘める闘志を見透かされるのを躊躇ったか。誰もその瞳と目を合わそうとはしない。

 そりゃそうだろう。今の戦いを、戦いとも言えないような一方的な蹂躙を見せつけられれば誰だってエアという少女の怪物性を理解する。理解できない馬鹿者は、()()()()()()という恐怖故に目を逸らす。

 

 並んでみせて、という言葉への無言の応え。

 お前に並べる者なぞこの世に居ない。お前が頂点だと。

 

 

 

(認めるわけ、ねぇだろうが!)

 

 

 

 精一杯の強がりだった。

 俺はその瞬間、エア・グラシアスから目を逸らさなかった。驚いて、宝石のような瞳をさらに大きくして俺を見つめるその瞳を、その視線を全て受け止めてそれどころか向こうが目を逸らすまで瞬きすらせずに見続けてやった。

 

 

「──────」

 

 

 数秒間、或いは数分の視線の交差を終え、エアは闘技場から最後まで余裕たっぷりのままその姿を消した。

 俺はと言うとなんてことは無い、ただ目を合わせていただけだと言うのに尋常じゃない量の手汗をかいており、腰が抜けてその場に崩れ落ちそうになるのを必死に抑え込んでいた。

 

「ははっ……」

 

 けれど、漏れたのは笑いだった。

 前とは違う。最後までアイツの事を目にしていた。アイツを世界で唯1人にしてやらなかった。その達成感とその程度のことに達成感を覚えている情けなさでぐちゃぐちゃになりながら、先程の試合を思い返す。

 

 

 あの一瞬で距離を詰めた上で、剣はフェイント。

 本命は投げ捨ててからの格闘戦。素早く顔を殴り付け、そのまま顎を蹴りあげてから宙を一回転。放った剣が自分や対戦相手に当たらないように足で掴んで少し遠くに投げ捨てて、向かい合う形で着地する。

 

 なんとも鮮やかな攻撃だった。

 一度同じような技を受けたことがある身として出てくる感想は、喰らったファルなんとか君の心が折れてないことを祈るばかりと言った感じだ。

 

 

「今度は見えたぞ大天才。お望み通り並んで、追い越してやるよ」

 

 

 確かに目で追ったその動きを思い返して俺は高揚からか、それとも恐怖を誤魔化す為か。威嚇するような笑みを天才の背中に送り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ〜! 緊張した緊張した! あんなに見つめられるなんて!」

 

 さすがにもう角度的に見えない場所に来たと、闘技場の選手控え室で鏡に向かって僕は自分の顔を確認した。

 何とか血流を操作してたがそれも限界。耳まで茹でダコみたいに赤くなった女の子の顔がそこには映っていた。

 

「でも、見つめてくれた。前と同じだ。うん」

 

 ジョイ・ヴィータ。

 灰色の髪の毛と同じく灰色の瞳が特徴の、平民出身の同級生。なんだか入学式で漏らしたとか変な噂が流れてきてるけれど、きっと彼の事だ。『この程度の空間は俺にとっては便器と同じ』みたいなそういう心構えを式典会場に発揮して見せたのだろう。僕ではちょっと意味わかんないけど。

 

 

「やっぱなにか声くらいかけるべきだったかな? 少しくらい、想いを伝えるべきだったかな?」

 

 今でも目を閉じれば思い出す。

 入学してすぐ、まだ右も左もわからずに心細かった僕に声をかけてくれた、同じ平民出身の彼の姿。

 2秒で決着が着いてしまい、意識を失った彼と人では無いものを見るかのような観客席からの視線。

 

 そして──────

 

 

 

『あれは何かの間違いだ! 次戦う時こそ、俺がお前に勝つからな!』

 

 

 

 次の日、何も変わらずそうやって口にして、僕をただの人間として見ていた彼の瞳。

 忘れるものか、世界が何度終わって、何度繰り返したって忘れてやらない。あの瞳だけがデウス・グラディウスを人間として繋ぎ止めてくれたのだから。

 

 

「今度は見えたぞ大天才。お望み通り並んで、追い越してやるよ」

 

 

 耳を澄まして、聞こえてきたのはそんな言葉。

 鏡に映る少女の顔は、恋するお姫様みたいですごく気恥しい。

 

 

「ああ、待ってるとも。たとえ君が僕を知らなくとも、僕は君が目指す()()であり続ける」

 

 

 一際輝く地上の星に願いを託す。

 星に願うことくらいはきっと、星にだって許されるのだから。

 

 

 

 




・リエン
取ってつけた訛り。師匠(アルム)と性格が似てる。

・アーリス
震える仔犬。将来は大量虐殺者。

・エア
天才。

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