逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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 戦場は炎に包まれていた。

 相手の強襲を見越しての焦土作戦。かつて自分が学び、育てて貰った母校。今では対魔女用の要塞となっている。学生の時からただの学校とは思っていなかったけれど、あの学園長は一体どれ程のことを想定していたのだろうか。

 

「……予想外だ。まさか、君が私を倒すなんて」

「倒したのは私じゃない。この世界を生きる善なる人、平和を願った全ての人、それを踏み躙ったお前への怒りが、今お前を襲っている」

「心外だね。何人か君たち騎士団に怒っている人もいるだろう。ねぇ、守るべき人たちを囮にしたこの作戦で勝って誇らしいかい? 騎士団長、アーリス・イグニアニマ様」

 

 剣の柄をへし折ってしまうのでないかと思うくらいに、強く握り込む。既に相手は致命傷。勝敗はほとんど決している。あとは、確実にトドメを刺せば『魔女』であろうとも終わりだ。

 だから焦るな、決して相手のペースに乗るな。学生の時よりも伸ばした赤色の髪の毛が風を受けて靡く。もしもまた魔女と戦うことがあったら、今度は邪魔だから短めにしようと彼女は心の隅で思った。

 

「答えなさい。何故こんなことをしたの?」

「魔王現象だからだよ。そういうものだからさ」

「そうね。貴方と話しても時間の無駄なんでしょう。……でも」

 

 最後の魔力を込めて、騎士は己の背に紅い翼を練り上げる。

 イグニアニマ家が代々継承し、彼女が母から受け継いだ固有魔術『猛炎(フレア)』。誰かを守る為の炎の翼。

 

「もしも理由があるのならば教えて欲しい。解決策があるのならば、貴方と話がしたい」

「今更かい? ここまで執拗に私の命を狙っておいて、都合がいいなぁ」

「それは貴方が逃げるからでしょう。話をしようにも逃げるなら、貴方が会話の席につくように強引に半殺しにするしかないかなって」

「優しくて強くて厳しい。あぁ嫌だ。嫉妬するくらいに英雄(ヒーロー)だね、君は」

 

 魔女以外の人達にも何度も自分はそう呼ばれた。

 でも、彼女はその言葉を受け取る気にはなれなかった。誰かを守っているのは、誰かに認められたいから。そうでもしてないと、常に自分を満たしていないと苦しくて苦しくて仕方がない。誰かが不幸になるのも、自分が不幸になるのも認めることが出来ない潔癖症。

 

 ……それが騎士団長の1人にまで上り詰めた女の本性。しかし彼女本人はそれを特に悪い事だとは思っていない。

 

「出来るなら、私は貴方も救うよ。これは私のエゴ。私がしたいからやること。だから、遠慮せず言って。なんでこんなことをしたの?」

「知るかよ。全員死んでくれれば私が嬉し」

 

 

 炎の翼が魔女の左半身を抉り飛ばし、それ以降魔女の口から音が漏れることはなかった。それっきりその戦場で呼吸をするものはアーリス・イグニアニマただ1人となった。

 

「……終わった」

 

 魔女の息の根が完全に止まり、空を覆う結界が解けていくのを見てようやく彼女は肩の力を抜いてその場に崩れ落ちた。

 既に傷は限界、魔力もとうの昔に尽きている。侵食する魔女の呪いがゆっくりと呼吸する力すら奪っている。多分、味方の治療は間に合わないだろう。この戦場にはもう生きている命は自分以外に存在しないのだから。

 

「ここで終わりかぁ、終わりなのかぁ……結構、頑張ったと思うんだけどなぁ」

 

 ふと、燃えているかつての学び舎の姿が目に入って思い返す。学生時代はあまり楽しいと感じるようなことは無かった。恵まれた家庭に生まれて、何一つ不自由なく育って、満たされているからそう感じないだけだと思っていた。

 

 けれど違う。

 人生の残り時間が数秒にまで迫ってようやく気がついた本音。

 

 私はこの幸せに何ひとつとして満足していなかった。

 騎士として弱きを助け強きをくじくことも、父と母や兄に愛されることも、誰かに尊敬されることも。それだけでは決してアーリス・イグニアニマの強欲は満たされていなかった。

 けれど、この幸福を満たされていないと否定してしまえば自分はどこかへと堕ちてしまう。そんな予感がずっと本能を蓋していた。

 

「いやだ、死にたくない……こんなところで、死にたくないよ」

 

 呼吸が苦しい、痛みで思考が纏まらない。

 学生時代、魔術に優れた同級生がいた。卒業して直ぐに行方不明になってしまったけれど、もしも彼女がいたらこの魔女の呪いも解呪できたのだろうか。

 もしもこの戦場に駆けつけたのが私ではなく、彼だったなら。最強の騎士である■■■だったなら、私も死なずにもっと上手くやれてたんだろうか。

 

 もしも、やり直せるなら。

 もう我慢はしない。痛いも苦しいもやりたくないも、弱気な言葉を全部吐き出してやる。だから、どうか、誰か助けて欲しい。

 

 

 

 

 

『──────それじゃあ、契約しましょう?』

 

 

 

 命の炎が消える間際、聞こえてきた甘い囁きにどう答えたか。

 それを考える程の時間はアーリス・イグニアニマに残されておらず、脳の動きは止まり猛炎の騎士も積み重なった死骸の1つに成り果てた。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりにその匂いを嗅いだ。

 懐かしく忌まわしい血肉の香り。死に満ちた場所でしか嗅ぐことの無いその香りが、何故扉の向こうからするのか理解できないし、したくもない。それでも彼女はその扉を開けるしかなかった。そこが彼女の全てであり、帰るべき場所だったのだから。

 

「ぁ……な、なんで……?」

「久しぶりだねアルム。まずは挨拶じゃないのかな?」

 

 彼女とその弟子の2人だけの小さな小屋は、元々の内装が分からないほど真っ赤になってしまっていた。一歩進む度にぴちゃり、ねちゃりと知りたくもない粘付きと熱が足の裏に伝わって、もう取り返しのつかないことが起きてしまったのだと自覚させられる。

 

「あの子は、あの子をどこにやった! 『魔女』!」

「……酷いなぁ。昔みたいに名前で呼んでよ。なんなら、お姉ちゃんでもいいんだぜ?」

「質問に答えろ!」

「なんだよ。自分は私から大切なものを奪っておいて、のこのこ幸せになろうとしてそれを()()()()()このザマって。──────都合が良すぎるんじゃないか、屍肉漁りしか脳のない鴉が」

 

 奪われた。

 その言葉で思い出したのは、もう随分前の最後に目の前の『魔女』と会った時のこと。

 

 

 そしてその記憶に浸るよりも早く、脊髄が言葉の意味を理解する。

 奪われた。奪った。血肉のカーペットの中に、魔女と同じ色の、アルム・コルニクスが心を許した『彼』の灰色の髪の毛が混じっているのを見つけて、目を背けていた事実に嫌でも目を向けさせられた。

 

「この子は、関係なかった……」

「関係あるだろ。君の弟子だよ」

「お前とこの子になんの関係があったんだ!」

「私から大切なものを全部奪ったお前が幸せそうなツラしてるとムカつくからに決まってんだろ! 死体の食いすぎで頭まで腐ったか?」

 

 目の前の相手が憎い。生まれて初めての激情が魔力の形になって暴れ、ドス黒い奔流となって体から溢れだしている。

 この女を、魔女を殺してしまいたい。悔しい、腹立つ、ムカつく、穢したい、苦しませたい。それだけの激情を向けられた魔女は、アルムに視線を合わせて心底楽しそうに口を歪ませた。

 

「それだよ。その顔、その顔が見たかった。全てを奪われて、相手が憎くて憎くて仕方なくて、絶望するその顔! そうだよ、みんなその顔になっちゃえばいいんだ! あースッキリした! やっぱりアルムはいつまで経っても弱虫で泣き虫で意気地無し! ここまでされてまだ私を殺すために行動出来ないなんて、弱さもここまでくると可愛そうになってきちゃう!」

 

 何か言い返してやりたかった。出来ることなら殺してやりたかった。

 どんな最後を迎えたかも分からない、染みになってしまった彼が受けたであろう苦痛を何百倍にしてこの女に叩き込んでやりたいと心の底から思っていた。

 それでも勝ったのは恐怖だった。

 アルム・コルニクスという女は目の前の『魔女』の強さを知っていた。ただそれだけで怖くて動けなかった。

 

 

 しばらくして、魔女はひとしきり考えられる限りの罵詈雑言をアルムに浴びせてから、壊れた玩具が遂に寿命を迎えて動かなくなるように止まった。

 

「安心しなよ泣き虫アルム。私はアルムを殺そうだなんて思ってないよ。お前は私に大切なものを奪われて、何も出来ずにここで永遠にビビって震えながら無力を噛み締めてろ。お前は、この世界で最も苦しむべき罪人なんだから」

 

 

 それだけ言って、魔女は堂々と小屋から出ていった。

 アルムはただそれを見送り、その気配が完全に消えてからようやくその場に崩れ落ちて、もう体温の無い散らばった肉塊を手で集め始めた。

 そこにもう彼の面影は、特徴的な灰色の髪の毛しか残っておらずそれが本当に彼のものなのかアルムにすら判断がつかない。それでも、そうせずにはいられない。下を向いて、涙を零さなければどうにかなってしまいそうだった。

 

「ころしてやる……ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる!」

 

 それは正しく、負け犬の遠吠え。

 泣き虫で弱虫な臆病者はそうすることしか出来ずに肩を震わせ、自らの弱さを嘆いた。

 そして同時に、生まれて初めて自分の中の『原理』というものを理解した。『魔女』が全てを憎むように、自分にも進むべき道があるのだと悟った。

 

 

「必ず殺してやる。待ってろレヴィ。私の全てを賭けて、お前を殺してやる」

 

 

 その日、黒耀(ひかり)を失いようやく『白鴉(スカベンジャー)』は覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……眠っ」

 

 

 そう呟かなければ眠ってしまいそうなくらい眠かった。睡眠は大切と理解していても、昨日はろくに眠ることも出来ないくらい目が冴えていた。

 

「告白……あれ告白だよなぁ。うん」

 

 女の子に告白されてしまった。

 思い返すとそれだけでなんか気恥ずかしくて死にそうになる。何か返答するべきなのだろうが、困ったことにどう答えればいいか何も浮かんでこない。

 分からないことは考えるべきではないと、今は目先のやることを優先するため師匠の元に足を運んでいるが、これは絶対に放っておいていいことじゃない。

 

「責任……責任ってそりゃあわかってるよ」

 

 アーリス・イグニアニマを救ったのは紛れもなく自分だ。彼女を苦しむことになる茨の道に引きずり込んだのも自分だ。だからこそ、どのような返事であれ彼女が俺を光にして進んでくれたなら、導くことは救った者としての責任だ。

 頭ではわかっていても、色恋というのはそう単純なものでは無い。そもそも俺は女の子に告白されるなんて初めてなんだよチクショウ。

 

 しかもそのせいか、アーリスの出てくる夢を見た気がする。

 赤色の髪をした彼女が、誰かと戦って……どうなるかまではよく覚えていない。だが確実に彼女の夢を見た気がしたのだ。

 アレは一体なんなんだろうか。ただの夢のはずなのに、妙に気になる。耳の脇で羽虫が飛んでいるかのような、むず痒い感覚だけが残っている。

 

 

 結局、まともに思考が出来る気がしなくてすぐに保健室に辿り着いてしまった。

 

 

「失礼しまーす。ししょ、アルム先生いますかー?」

 

 ノックして返答を待つが返事はない。扉に触れると鍵が空いているし、中から師匠の魔力を感じられることから不在では無いのだろう。さてはあの人、またサボって寝ているな。

 

「アルム先生、サボってんならまた学園長にチクリます……よ?」

「あ、……ジョイか。ごめん、少し寝ていた。うん、どうしたのかな?」

 

 師匠の病的に白い右の目元は少しだけ赤くなり、頬には液体が伝ったかのような痕が残っている。

 

「えっと、泣いてたんですか……?」

「は、はぁ!? 私が泣いていた訳ないだろう! これは、欠伸したら出た生理現象だ!」

 

 返答にもいつものようなキレはなく、慌てて机の上に散らばっていた書類を整理しようとする動きもどこかぎこちない。

 

「だいたい、私が泣いてるところなんて見たことあるかい? 勝手な憶測で物事を語るな。私みたいな大人になると泣いてるだけで風評が悪くなるんだから気をつけてくれよまったく」

「俺の風評に関してめちゃくちゃ酷いことにしてるアンタが言います? あれ、そもそも……」

 

 師匠が泣いているところは、確かに見たことは無い。……そのはずなのに、何故か俺は師匠の泣いている顔をよく覚えている。ぐしゃぐしゃに顔を歪めてみっともなく鼻水を流してすぐに泣く『アルム・コルニクス』を、何故か記憶している。

 

「師匠、俺に泣いてるところ見せたことありますよね?」

「はぁ〜!? 仮に泣いたとして私がそんな弱みを握らせるわけないだろ〜?」

「自信満々に言える要素あります?」

 

 しかしその通り、師匠は俺にそうそう弱みを握らせる人間では無いのは確かなので納得していいのか分からないけど納得してしまう。

 

「うっさいうっさい。それで、なんの用なんだい? 私は見ての通り忙しい先生なんだが?」

「寝てませんでした?」

「寝てないが?」

「まぁいいですよ。今度の長期休暇の外出申請、師匠に渡してもいいんですよね?」

「あぁ……それか」

 

 魔女のアレコレやこれから先のイベントの関係で少し例年とはずれているらしいが、騎士学校にはこの時期に長期休暇が存在する。

 本当ならその時期も学園に残って鍛錬を重ねることは出来るが、さすがに俺にもやらなくちゃならないことがある。

 

「実家に帰るのかい?」

「そりゃあ、両親は向こうから会いに来てくれたりでちょくちょく顔を合わせてるとはいえもう10年戻ってませんからね」

 

 実家に戻ったら気が緩んでしまうかもしれないと、合意の上で俺は師匠との鍛錬を始めてから一度も戻っていなかった。冷静に考えたらとんでもないことのはずなんだけど、俺の両親は中々個性的な人だから、山奥の師匠の家の方にちょくちょく会いに来てくれるという中々にぶっ飛んだ妥協案でOKしてくれるような人だったからな。

 さすがに入学して生活も落ち着いてきたなら、一度ちゃんと自分から会いに行かなければさすがに親不孝者だ。

 

「もちろん、師匠も着いてきてくれますよね?」

「んー……あー……ごめん。ちょっと用事があって一緒には行けないかもしれない。行けたら行く」

「それ絶対来ないやつじゃないですか」

「行けたら行くし。行けたら」

 

 言い方こそ絶対来る気のない人の言い方ではあるが、本当に師匠は最近魔女関係のことで忙しそうだし多分本心から行けたら行くを使っているのだろう。問題は日頃の行いのせいで信頼がない事だ。

 

「それじゃ、申請書渡しましたからね? ちゃんと提出してくださいよ?」

「するよ。ったく、師匠のことを信頼してないのかい?」

「してますよ。してるからこそ、寝ぼけてコーヒーぶっかけないか心配なだけです」

「お前私の事舐めてるだろ。おぉん?」

 

 そろそろキレた師匠が暴力に訴えかけてきそうなので退出することにしよう。

 そうして扉に手をかけると、師匠が声色を変えて一つ問いを投げかけてきた。

 

 

「もしも、私がろくでもない怪物だったとしたら。君は私の元を離れるかい?」

「え、なんですか急に」

「心理テストだよ。ちなみに10秒以内に答えられない人間の10秒後の生存率は0%らしい」

「なんで心理テストでそんな恐ろしい未来がわかるんですか、あ、待って答える答える!」

 

 テストというか脅迫に近い内容であったけれど、幸いにも悩まずにすぐ答えられる内容で助かった。

 

「何度も言ってますけど、師匠がろくでもないのはわかってますよ。それでも俺の師匠なんだから、可能な限り一緒にいる努力はします」

「……そこは何があっても、って嘘でも言えないの?」

「師匠に嘘をつくような弟子にはなりたくないんでね」

「前に私のデザート勝手に食ったの隠したよな?」

「それは……保身の方が大事とその時判断しました」

「そ。じゃあ第二問」

 

 あれ、てっきり普通に殴ってくる流れかと身構えたが師匠は何故かちょっと落ち着いた声色になってそのまま第二問へと移ってしまった。

 

「えーっと……もしもだよ。もしもだからね? もしも私が君の父親と不倫して子供こさえて君の実家では今私の子供が君の両親の世話になってることを私が隠してたら……どう思う?」

「なになになに急にめちゃくちゃ具体的かつ怖い質問! え、怖い! なんでそんなこと聞くんですか!?」

 

 ちょっと考えただけで背筋が氷点下爆発しそうなくらいの発言が飛び出してきて、思わず甲高い悲鳴を上げてしまった。

 

「例えだよ? 例えだから何も言わず答えろ!」

「い、嫌だ! 例えでも考えたくない! 強いて言うなら両者合意の元なら一夫多妻は認められているので合意ならいいと思います! というかそうでないと俺もう実家に気まずくて帰れませんから!」

「私のこと嫌いにならない!? もしそうでも私の弟子やめたりしない!?」

「うーん……やめ、やめ、やめないと思います!」

「OK! 今日は帰って寝な!」

 

 お互い変なテンションのまま、俺は廊下に投げ出されてしまった。

 ……まさか、な。師匠に限って俺の親父のような悪い人ではないけれど甲斐性のあるとは言えない男とそんなまさか、ね? ないよね? だいたい修行中に10ヶ月師匠の姿を見なかったことなんてないのだからそんなこと有り得るはずがない。ないよな? 

 

 そもそもその例えだと師匠のことよりも親父の方がキツイだろ。家に帰ったら父親が二股してたとか、いきなり聞かされる中ではトップクラスにキツイ話題だ。

 

「おや、ジョイくんじゃないですか。何故地面にキスしてるんですか?」

「クラキアか。ちょっと俺たちを支えてくれてる大地に感謝を捧げようと思ってな」

「そうですか。でも校舎の床よりは私の方が強いですよ?」

「そこと張り合うんだ」

 

 相も変わらず天地がひっくりかえっても表情が動かなさそうな無表情のクラキアは、手に何枚かの書類を抱えて立っていた。状況からして、だいたい俺と同じような理由で師匠のところに向かっていたのだろう。

 

「クラキアも実家に帰るのか?」

「いえ、私は長期休暇中にやっておくべき用事を済ませてしまおうと思いまして」

「あー、まぁ貴族の家には色々あるのか?」

「んー、貴族じゃなくてもだいたいみんなやるんじゃないですかね?」

 

 なんのことかと思い、チラリと彼女の持っている書類に目を通す。

 だいたい行先と目的が書いてあるその書類を一度見て、ちょっとよく見えなかったので目を擦ってからもう一回見てみる。それでも何故かそこに書いてある文字を脳が理解しようとしてくれない。

 

「……これ、俺の出身村だよな行先」

「そうですね」

「目的、『挨拶』ってなにこれ?」

「挨拶ですね」

 

 困ったな、どういうことだこれ? 

 

「もう手紙は出してありますよ? いつでも来ていいと君のご両親にも言われました」

「ちょっと待て。俺の両親のこと知ってるの? え、いつ知ったの?」

 

 そう聞くとクラキアの頭にはまるで、はてな、が浮かぶかのような仕草で首を傾げ、おかしなことを聞くものだと言わんばかりにはっきりと告げた。

 

 

「でも、『婚約者』の家に挨拶に行くことってそんなにおかしいことなんですかね?」

「婚約……?」

「え。しないんですか、結婚?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








・アーリス・イグニアニマ
真正面から殴りに行くスタイル。

・クラキア・ソナタ
外堀から埋めていくスタイル。

・師匠
ザコ。


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