逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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36.終日饗宴

 

 

 

 

 

「ジョイくーん? 私ですよ? 私、クラキア・ヴィータですよぉ。えへへ〜」

 

 とりあえずドアを閉めて、リエンを掘り起こして状況を聞いてみることにした。

 

「おい何があった雑草」

「聞く時はちゃんと賢いイケメンリエンくんって言うんやで」

「図太い雑草野郎、良いから何があったか言え」

「見ての通りしか言いようがない」

 

 扉をもう一度開けてみると顔を真っ赤にしたクラキアが床に向かってなにか言っている。呂律が回ってなくていまいち聞き取れないが、多分「私の方が強いですよ」って言っているのだろう。

 

「見ての通り酔っ払ってるんやな」

「あぁ、あれ酔っ払ってるんだ」

「顔真っ赤にして床に話しかけてて酔っ払ってる以外なんかあるんか?」

 

 顔真っ赤はともかく、クラキアは床であろうとマウントを取ろうとするのは既に一度見てるので、床に話しかけるくらいならギリギリ正常な可能性があった。

 

「おいジョイ。見てないで助けてくれ。お前の将来のお嫁さんがとんでもない痴態を晒す前に」

「親父、まず言うが酒飲ませるな。それとも何? 酔っ払わせて悪いことしようとしたの?」

「母さんがいるのにそんなことするか。居なくてもしないけど。いや、俺が飲む様の酒だったんだけど、あの子がスープ飲んだ瞬間熱って急に酒の入ったコップ奪って一息に……」

 

 そう言えばクラキア、お茶を出した時もずっと息を吹きかけてたしもしかしてめちゃくちゃ猫舌なんだろうか。

 

「ハピ、起きろ〜お家着いたぞ」

「ん……え、あ! おはようございます。……ジョイさん」

「お前達いつの間にそんなに仲良くなったんだな」

 

 まだ呼び方は他人行儀だが、少しだけ距離が縮まった俺たち兄妹を見て父さんは嬉しそうに頬を緩ませていた。というわけで俺は野宿場所を探そうかなっと。

 

「おい待てジョイ、なに逃げようとしてるんだ」

「離してくれ親父。俺は、酔っ払ったクラキアとか正直近づきたくない」

「ではジョイ。お前の父親は今何を考えてるかわかるか?」

「酔っ払った息子の友人とか、何かあったら怖いので近づきたくない。だろ?」

「さすが我が息子だというわけで逃げるな、逃げるなぁ!」

 

 だってクラキアだぞ? アイツ、アトラスの巫女だのなんだで常人とはパワーが違うので、下手に触れ合うと手足が飛ぶ。腕相撲とかしたら腕がちぎれ飛ぶそういう出力してる女なのに加えて、色々すっ飛ばして両親に挨拶に来る行動力の女だぞ。

 良くて貞操、最悪命を失うことになる。

 

「大丈夫だよジョイくん。命は失う前に僕が助けてあげるから!」

 

 なんかナチュラルに思考盗聴してくるエアもいるし、真面目にこの晩餐に参加したら最後の晩餐になる気しかしないんだよな。

 

「悪いけど、みんなで楽しんでくれ。俺はまだ生きていたい」

「えー! ジョイくんのお母さん、張り切ってジョイくんの好物作ってたよ? アーリスも僕も張り切って手伝ったのに……」

 

 そう言ってエアはらしくなく、瞳に涙を貯めながら訴えてきやがる。クソ、こいつめちゃくちゃ顔がいいな。見た目が好みどストライク過ぎて反射的にOKしそうになるが、今はそういう欲求より命だ。

 

「……僕、友達と一緒に大勢で食卓を囲むってやってみたかったんだよね。お父さんもお母さんも死んじゃって、村には同世代の友達なんか居なかったし」

「わかった! 参加するからそういう過去話やめろ!」

「やったー!」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「ジョイくん見てください星が飛んでますよ〜。まぁ私の方が綺麗ですけど」

「ほし!? おほしさまどこー? みえないー!」

「ちょ、アーリス!? 待って待ってそれ僕の目だから! 星じゃない!」

「…………」

 

 食卓は混沌としていた。

 クラキアに加えて、何故か酔っ払って幼児退行を起こしてるアーリスが暴れ回り、あのマイペースの極地であるエアすら押されていて、エアの向かいに配置されてしまったリィビアは無言のポンコツになってしまった。

 

「ジョイさんジョイさん、なんか皆さん人が変わってません?」

「いいか妹よ。人間ってのは大人になると余所行きでは基本猫を被るんだ。全員騎士学校でいつもこんなもんだよ」

「……大人って、なりたくないですね」

 

 多分ハピから見ればコイツらは都会の大人のお姉さんくらいに映ってたのだろう。特にクラキアは数日前から居て村の農作業手伝ってたらしいし。

 

「おいリエン、なんでアーリスまで酔っ払ってんだよ」

「知らん。俺は割と早くに酔っ払ったクラキアからかって今の今まで埋められてたんよ」

「お前よく生きてるな……」

「ジョイくん! いまわたしのことよんだよね! なになに? ひみつのおはなし?」

 

 ちょっと名前を出しただけなのに、興奮したご様子の子供アーリスが席を立ち上がって机を飛び越えてこっちへと突っ込んできた。完全に中身が子供になってるが、見た目はいつものアーリスなので距離感がバグってるのかめちゃくちゃ近い。ほんのりと酒気を帯びた彼女の吐息が肌で感じられる程の距離だ。

 

「そうだ秘密のお話だ。だから子供はちょーっと向こうで遊んでてくれな?」

「ジョイくん、私16歳で同い年だよ?」

「お前もしかして素面?」

「よってるよ〜」

 

 確かに、素面のアーリスならこんな猫撫で声で抱きつこうとしてきたら己の行動の恥ずかしさで自害とかしそうだし、これは酔っているのだろう。そして近い、とにかく近い。

 

「…………僕も喉乾いた」

「あ、俺の酒……」

「あ、じゃねぇよ止めろ!」

「俺にそんなこと出来ると思うのか!? お前の父親だぞ!?」

「クソッ! 自分を使って俺を貶めるな父親として最悪だぞ!」

 

 なんとも情けないことに自分の息子と同い年の女の子に酒を奪われて無抵抗の親父。いやまぁ、抵抗しても絶対敵わないってわかってるんだろうから賢いし、同じ立場なら俺も同じことするけどそれはそれとしてもうちょっと粘って欲しい。

 

「……なにこれ、アルコールじゃん美味しくない」

「そりゃあ酒はアルコールだろ……」

「……あー、酔うってそういう感じなのかぁ。やっぱり僕じゃダメか」

 

 酒を一息に飲み干して、エアはつまらなそうに唇を尖らせて口直しにと水を口に運ぶ。恐らくそんなに沢山飲んでないだろうに我を忘れるほど酔っ払ってるクラキアとアーリスがおかしいのだが、エアの反応も少しおかしなものだ。

 

「多分、彼女の体は特別なんだろうね。魔力を可視化する瞳とその影響で魔力に触れられる肉体だ。現代の薬学と魔力の概念は密接な関わりがある以上、毒や薬といった代物は彼女に対して効果が薄いとしても不思議なことは無い」

「うん、お前は誰に向かって話してるんだ?」

 

 エアと向かい合っていることに耐えられなくなったのか、壁に話しかけているリィビアが解説を挟んでくれた。

 そう言えばデウスも酒を飲んでいるところは見たことあるが、あまり美味しそうにはしてなかったし酔っている姿も見た事ない。

 

「あー、そういや前に薬の調達とかしてたよな」

「前に街で偶然あった時ね。僕、何をするにも薬は自分で色々試さないといけないから大変でさ」

「でも私の方が強いですよ」

「いや僕の方が強いよ」

「何と戦ってんのお前ら?」

 

 まずいな、この空間予想よりもずっと疲れる。

 飯もそっちのけで俺ずっとツッコミしかしてない気がするし、消去法で一番頼りになりそうだったリィビアはエアと向かい合いすぎた結果バグって壁に話しかけてるし。

 

「それよりジョイくん。そろそろ決心してくれました?」

 

 アーリスと入れ替わるように、テーブルの下からひょっこりとクラキアが顔を出してきて椅子から転げ落ちそうになった。現れ方が妖怪じみてるし普通に気配がなかったんだよな。

 

「決心? ……あ、待て」

「婚約ですよ。こーんーやーく。イエスかノーか、聞きたいなーって」

 

 

 

 すぐさま周囲に視線を向ける。

 両親は話を聞いてるだろうから特に変わりはない。リエンもニヤついてるし、リィビアは興味が無いと言わんばかりに壁と口論を始めている。

 エアは……何その顔。見たことない顔をしていて感情が全く読めない。一言で表すなら『無』だ。とりあえずいいだろう。

 ハピは「なんでこの人がモテるの?」みたいな顔で俺を見ている。さすがに失礼じゃないか? 

 

 そして、一番肝心なのはアーリス・イグニアニマ。

 

 

 

「クラキアちゃんもジョイくんのことすきなのー! わたしもー!」

「え〜、アーリスちゃんも好きなんですか。なんですかあげませんよ」

「おそろいだねおそろい〜、わたしおともだちいなかったからうれしいな! はんぶんこしよ! 9割わたしでのこりはクラキアちゃんにあげる」

「算数のお勉強してきてくださいねクソガキ〜」

 

 なんだこれは。

 酔っ払ってる影響なのかクラキアもアーリスもギリギリ仲良く、仲良さそうだけど今にも殺し合いしそうなギリギリのところにいる。これはどう判断すべきだ? セーフか? セーフなのか? 

 

「ジョイくんー! ジョイくんはわたしとクラキアちゃんどっちがすきー?」

 

 アウトだ! 一番聞かれたくない質問をダイレクトにぶち込まれたちくしょう! 助けてクラキア! 

 

「モテモテですねジョイくん。……でも私の方が強いですよ?」

「で、でもわたしもけっこうつよいし……」

「でも私の方が強いですし学校の成績もいいですよ?」

「わ、わたしも……しんちょうとかかってるし……」

「ストップクラキア、アーリスそろそろガチで泣くぞ」

「でも強さなら僕が一番だと思うよ」

「お前は入ってくんな」

 

 チラリ、とリエンに視線で助けを求めるが何故か俺の母さんと楽しく談笑してやがる。リィビアはちょっと壁にめり込み始めてる。事態は何一つとして収束することなく、誰も彼もが勝手に騒ぎ始めてもう何がなんだか分からなくなって頭が痛くなってくる。

 

 

「はぁ……なんなんですか、これ」

 

 

 大きな溜め息を、ハピが吐いていた。

 呆れ、失望し、嫌がっている。そんな感情が伝わってきそうなうんざりとした表情に対して、その口元は不思議と笑っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもうホント疲れた。ハピも手伝ってくれてありがとな」

「一応、兄のお客さんですからね。当然のことをしただけです」

 

 あの後しばらくしてアーリスとクラキアは完全に酔いつぶれて寝てしまったので、何とか適当な部屋に寝かせてきたがクラキアの体重が想像よりも重くてハピにまで手伝ってもらってしまった。アイツ、あの小さい体の中身に何詰めたらあんなに重くなるんだろう。

 

「今日、楽しかったか?」

「まぁまぁ楽しかったですよ。貴方に気を遣われなくても、パーティーを楽しむことくらいできるのでご心配なく」

 

 少し距離が縮まったと思ったがやはりまだトゲがある。

 

「あの乳でかお化けと怪しい男以外はまともだと思ったのに、みんな五十歩百歩で変な人で、ししょーもなんかおかしくなってたのは正直割とショックでしたけど」

「普段は変なやつだし肝心な時も変なやつだけど、いいヤツら……な時もあるんだよ。基本ちょっと性格悪いけど」

「それ、あんまりフォローになってなくないですか?」

 

 俺でフォローできるような奴らじゃないし仕方ないだろ。

 

 

「ハピ、お前好きなことは?」

「……読書、裁縫、惰眠です。ちまちま手を動かして集中したりすることが好きです」

「裁縫以外は分かるぞ。体を動かさないことは最高だもんな」

「一緒にしないでください。私は体を動かすのがあまり好きではなくて、ゆっくりとした時間を過ごすのが好きなんです」

 

 

 この会話なんか兄妹っぽかったなと何となく笑顔になったが、ハピはお気に召さなかったようで分かりやすく眉毛が下がる。その癖が、母さんそっくりで誰が育てたのか一目瞭然で何となく面白かった。

 

 

「……じゃあ、なんでこの村を出ていったんですか?」

 

 

 さすがに、子供のものとは思えないくらいに乾いた声でそう聞かれては笑顔が引っ込む。これは真面目に答えなければいけない質問だということはどんなに空気が読めない人間でもわかるだろう。

 

「騎士になんてならなくても、きっと貴方なら父さんにも母さんにも、村のみんなにも、それ以外の人にも、それなりに好かれてそれなりに良い人生を送れたじゃないですか」

「それは……そう」

 

 前世でもわざわざ騎士になる必要はなかったし、今世でもまた騎士になる必要なんて無い。

 正直師匠との授業とか思い出したくもないし、鍛錬はキツいし周りは天才だらけだし、やめたくなる時もある。

 

「でも、楽しいんだよ」

「……矛盾してる」

「そうかもしれないけど、そうとしかいいようがないんだよ」

 

 憧れを曲げて妥協するのは楽しくないし、それ以上に今の毎日は楽しい。この先どうなるかは分からないけれど、少なくとも今こうして友人達と過ごしている時間は間違いなく楽しいのだ。

 理由なんてそんなもので十分だろう。戦う理由なんて高尚である必要は無いと。

 

 

「昔……()()に言われたんだよ。どんなにくだらなくても、どんなに苦しくても笑って進める道を行かなければ、人は人で居られないって」

 

 

 思い出した一人の男は、何故だか昔よりも近しい人に感じた。

 

 

「あの……感傷に浸るのはいいんですけど私これでもまだ10歳いくかいかないかの子供なんです。難しい話にするのやめて貰えますか?」

「なるほど、お前俺の妹だよ」

「両親に似ているという意味でなら褒め言葉。貴方に似ているという意味なら……」

「「罵倒、もしくはセクハラと解釈します」」

 

 続く言葉を言い当てられ、被せられたハピは驚いた顔をしてすぐに喜怒哀楽の混じった複雑な顔のまま俺の脛を軽く蹴ってきた。さすがにからかい過ぎただろうか。ぷいっと分かりやすくそっぽを向いてる様を見るに、機嫌を損ねてしまったようだ。

 

「とにかく、俺が言いたいのはだな……気にするな。ハピはハピだ。うちの両親の娘で、リィビアの弟子で、俺の……いや、とにかくハピなんだよ」

「全然伝わってこないんですけど」

「はい……すいません」

 

 ハピの本当に何を言ってるんだこの人、と言いたげな顔を見て自分の伝心能力の低さに呆れてしまう。どうにかして励まして、あわよくば仲良くなりたかったのだが、簡単なものでは無い。

 ……そりゃあ、ハピから見れば俺は自分の居場所を侵してくる侵略者で、なんだかんだ距離が縮まったとはいえそう簡単に受け入れられる存在では無いだろう。

 

「ま、これから家族になるんだ。機会は幾らでもある。お互い、ゆっくり理解していこうぜ」

「……貴方が悪い人じゃないことくらいわかってます。今後とも、よろしくお願いします」

 

 それでも、ほんの少しだけ誰かを理解しようと。

 互いに大きな一歩を踏み出せた、そんな気がしただけでも両親には俺たち兄妹を存分に褒めてもらいたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ジョイくん。お話終わった?」

「なんだ寝てなかったのかエア」

「うーん、騎士学校に入るって決めてから修行してたら、あんまり寝なくても動けるようになったんだよね」

 

 一応寝ないと動けなさそうな発言で心底安心した。これで寝なくても大丈夫とか言い出してたらもう俺はコイツの才能を何かしらもぎ取らなきゃ気がすまなかっただろう。

 

「押しかけてきたとはいえ、客に色々手伝わせて悪かったな」

「どう考えても酔っ払ってるあの二人が悪いし、気にしなくていいよ。僕は楽しかったしね!」

 

 社交辞令とかではなく、エアの笑顔は本当に楽しそうなのでこちらも気にすることでもないだろう。

 

 そう思って、ふと気がついた。

 気がついたから、それを口に出そうとしたが言葉はそれよりも先にエアの言葉で遮られた。

 

「そういえばジョイくん、結局アーリスとクラキアちゃんだったらどっちが好きなの?」

 

 何とか誤魔化した部分をついてきやがったよコイツ。

 

「まーどっちでもいいけどね。でもアーリスはやめた方がいいよ。アイツ性格悪いし」

「そんなに悪いかぁ?」

「うーん、たまになんか背筋がゾワゾワするんだよね。生理的嫌悪?」

 

 いくら何でも同級生に対してあんまりな罵倒だし、エアの口からそんな言葉が飛び出てくるのも驚きだ。ハピに対してもそうだったけれど、基本的に明確に誰かに

 

「ねぇ、ジョイくん。君にとって、一番強い騎士って誰?」

 

 

 そんなの、考えるまでもなかった。

 デウス・グラディウス。あの男より強い騎士なんて俺の知る世界には存在しない、存在していいはずがない。あれは間違いなくこの世界という法則の中での最上位。コップの中に収まる水の量が決まってるように、人間という器に強さを注いだ時に表面張力のギリギリまで注いだ限界点だ。

 

 でも、アイツは今この世界のどこにも存在しない。

 少なくとも、俺はアイツを見つけることは出来なかった。

 

「お前以外、誰がいるんだよ」

「そう言ってもらいたかったから、聞いたんだ」

「なんだ嫌味か?」

「違う違う」

 

 エアは何か言おうとしたがそれをやめて、ただ窓の外の星空に目を向けた。

 彼女の蒼い瞳に、夜の空が映し出されている。それは偽物、本物の夜空ではないはずなのに本物よりも暗く、本物よりも眩く。

 

 本物よりも遠く、綺麗な星空だと思った。

 

 

「……君が目指してくれるなら、きっと僕はもっと頑張れるから。その言葉が欲しかったんだ」

「なんだよ、それ」

 

 

 それってつまり、どういうことだ? 

 言葉の意味を理解しようとして、その前に神経が絶たれたみたいに思考が連続してくれない。

 

「あ、あと学園長と連絡取り合ってジョイくんと一緒にいるって伝えたら、ちょっと気になることがあるからできるだけ早く帰ってきてって言ってたよ」

「えっ、お前そういうことはもっと早く言え!」

「ごめんごめん、今日本当に楽しくてさ。じゃ、おやすみー」

 

 あまりに藪から棒だったので小難しい思考は、去っていくエアと一緒に吹っ飛んでしまった。

 まぁ、久しぶりに両親にも会えたし学園長が呼んでいるならすぐにでも帰った方がいいだろう。ドタバタとした短い帰省であったが、なんだかんだ楽しかったし。

 

「……もうちょっと、話したかったけどな」

 

 強いて言えば、ハピのことは気がかりであるが多分アイツは大丈夫だろう。なんて言ったって、俺の父さんと母さんの娘なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この家の中の声は全て把握出来ていた。

 心拍まで聞けば嘘か本当かくらいの区別は容易い。妹との会話は問題なかったが、彼は一つだけ嘘を吐いた。

 

 

「まだ、届いてないのかな」

 

 

 別にジョイくんが誰が好きでも構わない。

 アーリス・イグニアニマだろうがクラキア・ソナタだろうが誰であろうと構わない。

 

 最終的に、全部塗り潰せばいいのだから。

 夜の星なんて優しい輝きではなく、太陽のような極光で。

 

 君が前世よりもずっと輝くなら、僕も相応しくならなくちゃいけない。光が眩む程の光、英雄が霞むほどの英雄。今はたとえ届かなくとも、英雄もまた変われることを君が教えてくれたのだから。

 

 つまり、大事なのは最後なのだ。

 かつて君の最後をあの英雄が独り占めしたみたく、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「似てるわけないじゃん、バカ」

 

 頑張れる人間と、頑張れない人間。

 そこに優劣なんてないと思う。頑張ったから偉い、頑張れないから駄目。頑張ったから愛される、頑張れないから愛されない。

 

 そんなことは一切ない。

 荒野の果ての新天地を目ざして突き進むものと、家族を養う為に荒れた土地を開拓するもの、そのどちらも当たり前に尊く、優しいものなのだから同じように尊敬され、愛されるべきだ。

 

 ハピ・■■■の最初の記憶は『失望』だった。

 それはハピ本人のものではなく『親』と呼ぶべきものがハピに抱いた感情。言葉も理も知らない兄弟達が皆あの『■■』の英雄に切り刻まれ、殺されていく地獄の中で、有能だからではなく無能故に生き延びた。

 

 不必要だから要らないと、不細工だから捨てると、不十分だから廃棄すると。そうやって存在を否定された。

 だから、今の両親に愛されていることを実感した時は本当に嬉しかった。自分は必要とされている、自分は幸せなんだ、満たされているんだ、そう感じることが出来るだけで良かった。

 この人達の一番になれるなら他には何もいらない。そう、心の底から思える人に出会えて。

 

 また、本当の光を知る。

 自分と同じくあまりにその構成は不揃い。星とも呼べないその歪な輝きは、一番星を夢みた鍍金の粗鉄(アルデバラン)

 

 それでも、彼は星を見る。星を見るその瞳は、星よりも美しく輝いて多くの人を魅了する。

 自分には無い彼の魅力がわかる。決して特別ではない、決して凡庸ではない、決して愚鈍ではない。ただ頑張って、我欲があっても善良であろうとする。その様はきっととても尊いものなのだろう。

 だから人は彼に惹かれる。私だって、彼がいい人なのは分かる。何となく、彼の隣にいると笑顔になれるんだ。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、なんでそれは私では無いのだろうか。

 

 

 

 

 

 そんなものに、なりたいなんて思わない。

 それでも思ってしまうのは、なんで自分は『アレ』では無いのだろうという妬みだった。

 

 それがハピ・ヴィータの本質。

 決して最上にはなれず、常に誰かの次かその次。首が痛くなって目が焦げ始めてもソラの光を眺めて羨むことだけを定められた『羨望』の原理保持者。

 

 

「あんなに眩しかったら、そりゃあ憧れちゃうよね」

 

 

 されど、枕を濡らすその涙がハピ・ヴィータという少女の本音。原理として決められていない、彼女が育てた心だった。

 

 

 

 

 

 

 








・ジョイ・ヴィータ
元々前世では騎士になって直ぐに家族を失っているので、家族は大切だし弟や妹に憧れはあった。


・エア・グラシアス
目下成長中の天才。無垢。


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