逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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37.斬月毒牙

 

 

 

 

 

 

 朝起きたら、ジョイさん達は居なくなってしまっていた。

 

 なんでも、急に学校の偉い人に呼ばれたらしく朝早くに起きて去っていってしまったらしい。あれほど夜まで騒いでいたのに、私が起きた頃には跡形もなく去ってしまうとは腐っても騎士の卵ということか。

 

 心残りはリィビア師匠にちゃんとお礼をいえなかったことくらいだが、多分また来ると去り際に言っていたらしい。

 

 

 だからもう気にすることではない。

 静かになった家の、大好きな静寂が落ち着かずに私は何となく外に出ていた。

 太陽は隠れていて、天気も私の大好きな曇り。こんな日は部屋か木陰で読書するに限るのに何故だかそんな気持ちが湧いてこない。寂しいとか、そういうものでは無い。モヤモヤするのだ。

 

 君は君でいい、と言われて大抵の人は嬉しいだろう。存在を認めてもらえることは、人間の根源的な欲求だと本に書いてあったし私もそうだと思う。

 でもそれは自分のことが好きな人間、或いはその人に認められれば自分を好きになれる人間だ。私は違う。自分のことは好きじゃないし、好きな人に認めて貰えたからって、自分に価値を見いだせない。

 

 根本的に、誰かの為に戦えない臆病者なんだ。痛いのとか、辛いのとか、嫌だし。

 できるできないじゃなくて、やりたくない。それの何が悪いのかもよく分からない。

 

 

 もう帰ってくるなー! 

 

 

 ……なんて、思ってもないことは言うだけ無駄だ。

 だってあの人、悪い人じゃないもん。たまに会って、程々の距離感で、この人は私と違うんだなって嫌な気持ちとなんだかんだいい人だなって言うふわふわした気持ちを味わう、そんな仲。きっとこれから何度あってもそんな関係のままだろう。

 

 私は怠惰な人間だ。

 楽しいことしかしたくないし、楽しくないことはしたくない。そうやって妥協して、諦めて、中途半端に生きていきたい。

 夜空には星が沢山あるけれど、どれも手が届かないからちょうど良いのだ。手が届いてしまうと、自分もそうなれるかもと勘違いしてしまう。

 

 酷く惨めな気分になる。

 やっぱり兄も姉も私にはいらない。全部が遠い、夢の絵本のお話であるくらいが私にはちょうど良いのだ。

 

 長い夢から覚めるように、私は帰路に着く。何のための外出だったのか意味も見いだせず、ただただやることが無いという消極的な理由で、いつも通りの帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、あー……おい、アイツがハピ・ヴィータでいいのか?」

 

 出迎えたのはよく知る声ではなく、知らない男だった。

 大柄で、目付きが悪くて、見ただけで怖くて憎くて腹立たしくなるような、男。

 

 足蹴にされているのは、よく知っている誰か。2人揃って血の海に沈んでいて呼吸も弱々しく不規則。けれど、何も口にしようとはせずただ私の目を見て、いつもの日々と何も変わらない笑顔を向けてくれた。

 何も心配しなくていいって、言ってるようなそんな笑顔。

 

 恐怖、憎悪、憤怒。

 本で知った、教えてもらった感情を表す言葉が一気に実体験を伴い理解した。目の前の怨敵を殺したい、消えて欲しい、という殺意。肉体の全性能を発揮して人間1人をすり潰して殺せと私の『原理』が叫んでいる。

 

 既存の在り方を否定しろ。

 非常識を認めぬ常識という檻を壊せ。

 我々だけに、『原理』だけにはその資格があると。

 

 魔女がそうしろと。

 お前達はその為に生まれたのだと、出来ないのなら死ねと。

 

 

 

『ほーら、はやく原理を使わないと『英雄』が君達を殺しちゃうよ?』

 

 

 

 

「……ひっ」

 

 足が震えた。

 それを皮切りに、何もかもが崩れた。怖い怖い怖い怖い! 目の前の敵が、殺意が、死ぬかもしれない予測が怖くてたまらない。戦闘を行う、なんて思考が頭から抜け落ちてその場に座り込んでしまう。

 

「少なくとも貴族のガキじゃなさそうだしな。……なんかちょっと顔が違う気がするがまぁ、よし。殺しておくか」

 

 男は短刀を持ち、何も躊躇することなく私の方へと向かってくる。

 奪うことに慣れた目だ。誰かから奪うことを、なんとも思っていない。忌避されるべきその行為を当然の理として日常にしてしまえている目だ。

 文字通りに住む世界も常識も違う、別世界の怪物のような男の凶刃が私の頭を貫こうとした、まさにその時。

 

 

 

「悪いがその子を殺したいなら、まずは師匠であるこの私の許可を取ってもらおうか、盗賊」

「お、リィビア・ビリブロードじゃねぇか。俺はツイてるな」

 

 

 空間が歪み、その内側から現れたリィビア師匠の杖剣と男の短刀がぶつかり、耐え難い金属音が響いた。

 

「し、ししょー……」

「ハピ! すぐに両親を連れて外に出ろ! この男は、私が止める!」

「止めるだなんて優しいこと言いやがって、騎士の卵なら殺すくらいの言葉使えよ。柔らかい言葉ばっか使ってるといざって時罵倒の語彙が死ぬぜ?」

「私は君と違って天才なんでね。使わない語彙も必要となれば直ぐに引き出せる優秀な頭脳があるんだよ」

「そうかい、優秀な頭脳はおっかねぇからじゃあ無力化させてもらうぜ」

「おいおい、そういう時は悪党らしく『殺してやる』くらい言えよ、下衆」

 

 短剣と杖剣が再び交差する。

 リィビア師匠と目の前の男。どちらが強いかなんて明白だ。

 

 誰がどう見ても、リィビア師匠の方が強い。

 近接戦闘では男に分があるかもしれないが、魔術のポテンシャルがそんなものは簡単に覆せる程度には次元が違う。それなのに、何故か、リィビア師匠は目の前の敵を瞬殺出来ない。

 

「……っぅ、慣れないな、こう言うのは」

「お優しいねぇ、騎士の卵様はよ」

 

 光線を撃ち出そうとした光の玉を、リィビア師匠は引っ込めて光を帯びた剣で男に対抗する。けれど、剣術ではやはり男に分があるのか師匠は守ってばかりだ。

 

「ハピ! 今すぐ君の両親を抱えて家から出ろ! 早く!」

「ご、ごめんなさい! 今すぐ……」

 

 わかってる、リィビア師匠が追い詰められてるのは私を守りながら戦ってるからだ。さっきから男の視線がチラチラと私や両親に移り、その度にリィビア師匠の集中がブレる。

 大規模な砲撃や魔術を伴った破壊は家の崩壊を招いて最悪私の両親は身動きが取れず圧死。だから、今すぐ私は両親を抱えて逃げなきゃいけないのに。

 

「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい! 腰が、足が、動かないんです!」

 

 足腰に力が入らない。感じられるのは股の周りの嫌な湿り気と意識とは無関係の痙攣だけ。鼻につく異臭と自らの情けなさに涙がポロポロと溢れ出る。

 

「あーあ、可哀想になぁ。辛い思いさせてよぉ。希望を与えちまってよ」

「ッ、お前が居なければ、あの子はそんな思いしなくて済んだろ」

「そういうことじゃねぇ。どうせこの世は虚しく無意味なんだからよ。希望なんて与えちゃ可哀想だろ。夢を見るってのは代価がいる。疲れるんだよ。天才様でもそれは知らなかったか?」

 

 まくし立てるような男の短刀による連撃が師匠を壁際へと追い詰める。もうその様子は剣戟ではなく狩りのようだった。逃げる師匠を、男が追う。しかし師匠は逃げられない。

 私という、あまりに大きすぎる足枷がそれを邪魔している。

 

 リィビア師匠ならば一瞬でも男の気をそらせばこの状況を解決できる。両親と私を外に出すなり、男を一瞬で無力化するなり、何か出来るとわかっている。だから、一瞬でも私が男の予想外の動きを出来れば何かを変えられる。

 

 足腰にどうにか力を込めて立ち上がる。

 恐怖に震える全てを意志の力で無理やり縛り上げて、一歩を踏み出す。まずはやってみる、やってみせれば、何かが変わるかもしれない。リィビア師匠が教えてくれたことだ。

 

 

 

 

「忠告はしたぜ? 夢を見るのは代価がいる。特にお前みたいな夢見がちなガキは、ちと代価は高くつくぜ?」

「え?」

 

 

 バシュン、と何かが放たれる音がした。

 

 

 

 

 

 

「し、ししょー……?」

 

 

 何処かから放たれたクロスボウの弓矢。

 鏃の消し飛んだそれが、部屋の端に転がっていて。

 

 

「お前も、あのガキも夢を見すぎた。自分さえ頑張れば世界がいい方向になるなんて、絵本の中の夢物語はオシメが取れるまでには卒業しておけ」

 

 代わりにリィビア師匠のお腹に、深深と短刀が突き刺さっていた。

 

「しかし……まさか3()()()()防ぐたぁ、さすがに思ってなかったぜ。ちゃんと有利な状況で戦闘を始めて正解だったな」

 

 男の発言でようやく、私は自分以外のことに意識が向いた。

 父さんと母さんの方を見ると、私に向けられたのと同じく鏃を失った矢が傍に転がっている。

 

「暴発、誤射にビビらずあの一瞬で3発。正確に矢だけ叩き落とすとかバケモノかよ。入念に準備してたこっちの身にもなって欲しい、なっ!」

 

 男は丸太のように太い腕でリィビア師匠の顔をまるで人形を壊すかのように乱雑に殴り付けた。

 腰の入った大振りの一撃。リィビア師匠の体は平均的な女性よりもかなり背が高いとはいえまだ少女の体。木の葉のように吹き飛ばされるはずなのに、彼女の体は微動だにしなかった。

 

「さてと。解除だ」

「──────ッ!?」

 

 男の声と共に、身動き一つ取らなかった師匠がなんの前触れもなく吹き飛んだ。

 何が起きたか分からない、という顔を浮かべながら壁に叩きつけられた師匠は、それでもすぐに何かを理解して魔術を展開しようとしたけれど。

 

 

「天才っても所詮はガキだな。思考が遅い、判断が遅い、命のやり取りに慣れていない。自分より弱い相手ならと少しも油断しなかったって言えるか? リィビア・ビリブロード」

 

 

 何故か、師匠の指先から魔術は顕れなかった。

 だから当然の結果として師匠の腹にはもう一度短剣が突き刺されて、瞬きの間に切り裂かれた師匠の右の手首から先が地面に落ちて、潰れた果実のような音を立て、また現実に起きたことと一拍遅れてリィビア師匠の悲鳴が漏れた。

 

「実際お前は天才なんだろうな。でも、賢くはなかったな。求めすぎてるお前が、捨ててる俺に身軽さで勝てるわけねぇだろ?」

 

 内臓を磨りつぶすような重い蹴りが傷を抉るように腹に叩き込まれた。リィビア師匠は胃液を吐きながら地面に転がり、立ち上がることも出来ずに呻き声を上げている。

 

「こ、これは……」

「あぁ。毒だよ。ナイフに塗っておいたんだ。まぁお前ならすぐに解析して分解できるだろうけどよ。その前に手首の止血して、あのガキと親助けてってやってたら間に合うもんも間に合わないぜ?」

「……っぅ」

 

 師匠は何も言わず、私に視線を向ける。早く逃げろ、立ち上がれと訴えかけているのがすぐにわかるけれど、恐怖に支配された体はまだ動いてくれなかった。

 

「賢くなかった。諦めきれなかった。何事も妥協が肝心ってことだよガキ共。……だから守りたいものも守れねぇ。安心しろリィビア・ビリブロード。お前は殺しなしねぇよ。ただ……」

 

 再び男がリィビア師匠の足にナイフを突き立て、それと同時に師匠の体の動きが停止した。

 

「ハピ・ヴィータ。お前は殺せとのご依頼だ。恨むんならどうぞご自由に。悪いけどどんだけ恨もうが意味はねぇからな。意味のねぇことは好きだぜ俺は。可哀想で面白いからな」

 

 両親は強くて、師匠も強い。

 でも目の前の男は悪辣だ。私達には無いものを確かに持っていて、苦境の中で生き抜く知恵と覚悟を持っている。

 戦場を整える暇を男に与えなければ、私がちゃんと逃げることが出来れば、戦場が閉所でなければ。そんなもしもがひとつでも起きていれば負けていた賭けを男が通しただけの事。

 

 男の言う通り、仕方ないと諦めて受け入れるのが一番楽な事なんだ。諦めて受けいれなくても結果は残酷に訪れるのだから、それが一番楽な手段だとわかっている。

 

 何も出来なくて、何にも成れない。意気地無しの女がその無力の結果として当然のように死ぬ当たり前の現実。

 

 

 

 でもそれは、きっと楽しくない。

 そんな人生は楽しくない。どんなに苦しくても、どんなに辛くても。

 目の前に振りかかる困難を仕方がないと諦めてしまうのは、楽しくなんかない。

 

 

 

「……助けて、お兄ちゃん!」

「この期に及んで他人頼みか。お前が動けてりゃ何か変わったかもしれねぇってのに、どこまでも救われないガキだな」

 

 

 

 情けないことはわかってる。自分がどれくらいダメかなんてお前に言われなくてもわかってる! 

 妥協して、諦めて、頑張りたくなくて、そんな中途半端な人間が私で。意気地無しで臆病で役立たずで、そんな駄目な人間が私だってわかっていても。

 

 ここで諦めたくはない。

 嫌なものは嫌だと、子供のように叫びたい。我儘で傲慢でも、助けてと叫ぶことくらいは許して欲しい。こんな自分でも好きになれるように、私は私に出来る最大でなくとも、最善を行いたい。

 

 両親も師匠もこれ以上傷つかなくて、私もそこで笑っていられる一番楽しい道を、ただただ望みたい。

 

 

 

 

 

 

「悪い、遅くなったな」

 

 

 

 

 

 

 

 遙か遠くの星はきっと、その願いに応えてくれるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギリギリ僕達も結界の中に閉じ込められたみたいだね」

「今回ばかりは寝坊して忘れ物して靴紐解けて結んでた俺に感謝して欲しいわ」

「あぁ、さすがに今回ばかりは感謝しておくよ」

「……冗談やったんやけど、悪い。さすがに今は返す余裕はあらへんか」

「いや、助かる。お前がへらへらしてくれてなきゃ冷静さを忘れて駆け出してたよ」

 

 エアとリィビアが結界の詳細を確認しているが、ほぼ間違いなく俺の村の周囲を覆うように展開され、内部には何体も魔女の眷属である魔獣が現れているのが感じられる。

 

 これは『攻撃』だ。

 明確に、魔女が何らかの意図。例えば俺の家族を殺すだとかそういうことのために仕掛けてきた攻撃だ。

 リエンが忘れ物をして出発が遅れてなければ、俺達は間違いなく結界の外にいることになったのだから間違いない。

 

「解析終わったよ。アーリスの時とパターンは一緒。魔女と繋がりのある人間を起点にして作り上げられてるタイプだ。だから……」

 

 リィビアの言葉に続くように、エアが結界を剣で斬りつける。

 一瞬、結界が解けて外の景色が見えたがすぐに再び結界が現れる。

 

「僕だけなら外に出たり、小さなものを外に出すくらいなら出来るけれど、僕以外の人間を出入りさせるのは難しいかな」

「私もだ。魔女めパターンを変えてきた。1時間もあれば解析できるが……」

 

 リィビアの視線は村の方に向けられ、更にその先にある森にも向けられる。

 混沌の色の魔力が蠢き、草木が悲鳴をあげながら枯れ始めている。現存する生物の醜点を掻き集めたかのような恐ろしい異形の魔女の眷属、魔獣が何十、下手すれば何百体も蠢いている。

 

「……みんな、お願いが」

「さーて、騎士学校の生徒として人命救助が最優先ですね」

 

 俺の言葉を遮るように、クラキアが槌を出現させ一歩前に出た。

 

「リィビアさんですよね、座学1番成績いいの。暫定指揮官お願いしますよ」

「ハイハイ、んじゃ、無表情凡人(クラキア)とエアさんと凡人(アーリス)は魔獣の殲滅。私、ジョイ、訛り凡人(リエン)で村人の避難と防衛、そして結界の起点の発見ね」

「えー、僕が結界の起点探しした方が良くない?」

「エアがいないとあの数の魔獣の足止めは厳しいでしょ。それに……」

 

 アーリスは俺を見て、何も言わずに自分の髪留めを指で触れた。

 確かあの髪留めは、アーリスが兄から貰った大切なものだと言っていたはずだ。不器用ではあるが、何が言いたいかは伝わってくる。

 

「みんな、ありがとな」

「クラキアちゃんの言う通り、これは騎士学校の生徒として当たり前の行動だからね。それ以上の意図はないよ」

「せやなぁ。あ、ジョイ。一応言っておくけど殺したらあかんで? 非常時やから防衛行為は認められるけど、基本殺しはアウトや」

「わかってるって。そこまで冷静さを失ってるつもりはねぇよ」

 

 不安とか怒りとか、そういう感情は確かに湧いている。

 けれど、こいつらがいれば安心だし何より俺の両親もハピもそう簡単に死ぬようなタチではない。

 

 ここは焦らず、落ち着いて人命救助に勤しむべきだ。

 

 ……いくら頭でそう考えても、チラつくのは前世での凄惨な両親の死体の姿。

 それを思うと、剣を握る手はいつの間にか柄を砕いてしまうのではないかと言うくらいに力が入ってしまっていた。

 

「冷静になれジョイ・ヴィータ。君の両親と妹は私が様子を見てくる」

「……いや、俺が」

「君と私なら、私の方が状況への対応力が高いし手札も多い。それに私はハピにマーキングしてあるから、一方通行で一度だけだが今すぐあの子の元に駆けつけられる。対して君は私よりも人命救助と走り回るのは得意だろう? 何事も適材適所だ」

「…………頼む」

 

 リィビアは大きく溜息を吐いてから、俺の太ももを力一杯に引っぱたいた。騎士学校の生徒にあるまじきその力の弱さに、逆に驚いた。

 

「君の家族には傷一つ付けさせない。これが君の同級生としての約束。そして、君の妹には傷一つ付けさせない。これは師匠としての私の役目だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に本当に、情けない。

 情けなさ過ぎて涙すら出てくる。

 

 自分を納得させた。一時の安心、その時だけの楽になれる思考のために、俺は決して許されないミスをした。

 

 考えてみろ、敵は一つの村を滅ぼすのにこれだけ大掛かりな仕掛けを用意する悪意だ。幾らリィビアが強くても、決して1人では行かせるべきではなかった。

 俺には、俺とその家族が狙われているという確信があったのに。確信があったからこそリィビアに頼った、頼ってしまった。コイツならきっと何とかしてくれるのだから、と。

 

 誰よりも『人間』を平等に扱い庇護する責任感が強い、リィビアという女の子が見せた精一杯の強がりと優しさに頼りきってしまった。

 

『命を懸けた戦い』に、自分ではなく友達を赴かせた。

 まだ騎士の卵で、その先の世界を知らない彼女に。

 その結果としてリィビアを危険に晒し、妹の心に消えない傷まで刻み込んだ。自分の無力で大切なものを奪われるかもしれない恐怖を、ありありと刻み付けた。

 

 

 謝罪、償い、それらはもちろんする。自分に出来ることならなんだってする、首を切れと言われたらもう俺が居なくても問題ないなら喜んで切ってやる。腹を裂けと言うなら喜んで裂いてやる。

 

 だが、それは後の話だ。

 自分の弱さを嘆くのも、償いをするのも全て終わってから。

 俺が弱いのは当然として、かと言って悪いのは俺だけではない。当然の事実から目を背けて自責で自分だけ気持ちよくなっている場合では無いのだから。

 

 

「おい」

 

 

 両親を傷つけ。

 友人を傷つけ。

 妹を泣かせた。

 

 

「テメェ」

 

 

 悪いのはこの男だ。

 俺が何かしたとか、魔女がどうとか、そんなことは関係ない。ただ善良に生きて、良心に従い、何気ない平和を守ろうとした人々を傷つけたこの男を見てると何も()()()()()

 

 怖い思いをしてぐちゃぐちゃに泣き腫らして、何も出来ないことが悔しくて仕方がなくて、子供が誰かに助けを求める当たり前のことにすら自分の無力さを責められるような恐怖を感じて。

 そんな掠れるようなのような助けを求めたハピの泣き顔を見て。

 

 この男の存在が我慢ならない。

 

 

 

「──────ぶっ殺してやるよ」

 

 

 

 魔女との戦争以来、俺は随分と久しぶりに誰かに本気の殺意というものを抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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